皆さんこんにちは。
2週連続でスタンダードのグランプリが世界中で開催され、環境を分析するのに十分なデータも集まりました。今回の連載では各グランプリの入賞デッキを見ていきます。
グランプリ・アトランタ2017
エネルギー系以外のデッキも大活躍!
2017年11月11日-12日
- 1位 Esper Approach
- 2位 Desert Red
- 3位 4C Energy
- 4位 Mardu Vehicles
- 5位 Ramunap Red
- 6位 Temur Energy
- 7位 Temur Energy
- 8位 Temur Energy
Alex Lloyd
トップ8のデッキリストはこちら
同週末に開催されたグランプリと同様に、4C EnergyやTemur Energy、Ramunap Redが上位を支配する環境には変わりないものの、今大会を制したEsper ApproachやMardu Vehicles、Ben Starkが使用していた《宝物の地図》や砂漠を多めに採用したDesert Redなど、異なるアーキタイプも見られました。
特にエネルギー系と赤単の海を渡り切ったEsper Approachは注目に値します。
グランプリ・アトランタ2017 デッキ紹介
「Esper Approach」「Desert Red」
Esper Approach
1 《島》
4 《異臭の池》
4 《灌漑農地》
4 《秘密の中庭》
4 《水没した地下墓地》
4 《氷河の城砦》
2 《霊気拠点》
-土地(26)- 1 《奔流の機械巨人》
-クリーチャー(1)-
2 《スカラベの神》
2 《奔流の機械巨人》
2 《否認》
2 《ヴラスカの侮辱》
1 《ジェイスの敗北》
1 《明日からの引き寄せ》
1 《アズカンタの探索》
-サイドボード(15)-
青白《副陽の接近》コントロールに黒を足したバージョンです。赤をタッチしたバージョンよりも除去の種類が豊富で、環境最高のカードの1枚である《スカラベの神》にアクセスができるため、青白や青白赤よりもコントロールデッキとして振舞いやすくなっています。
フル搭載された《残骸の漂着》に加えて《燻蒸》などの全体除去が多数採用されており、エネルギー系のアグロデッキに強い構成となっています。最近は青黒コントロールなどを抑えて、環境の青いコントロールの代表格としてエネルギー系と赤単の2強に挑みます。
☆注目ポイント
黒を足すメリットの1つとして、除去の性能が挙げられます。青白赤バージョンの除去は《蓄霊稲妻》なのに対し、黒は軽くタフネスに関係なく除去可能な《致命的な一押し》にアクセスできます。色拘束は強いものの《ヴラスカの侮辱》は、《熱烈の神ハゾレト》や《スカラベの神》も含めたコントロールにとって厄介なカードに触れるので便利です。
Esperカラーになったことで《スカラベの神》など、サイド後の《副陽の接近》以外の勝ち手段が充実しています。フィニッシャーを引き当てる助けとなり、中盤以降ミッドレンジに対してアドバンテージを差を広げてくれる《明日からの引き寄せ》もあるため、サイド後はEsper Controlにシフトしていき各種エネルギー系のマッチアップに備えます。
《アズカンタの探索》は《副陽の接近》に辿り着きやすくなり、変身させれば2度目のキャストによる勝利も狙いやすくなります。一時期は青黒コントロールが環境のコントロールとして活躍していましたが、《副陽の接近》デッキは青黒よりも赤単などアグロデッキとの相性が良く、現在の環境の青いコントロールとして定着しつつあります。
Desert Red
4 《ラムナプの遺跡》
3 《死者の砂丘》
3 《陽焼けした砂漠》
2 《屍肉あさりの地》
-土地(25)- 4 《ボーマットの急使》
3 《損魂魔道士》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
3 《暴れ回るフェロキドン》
3 《砂かけ獣》
1 《熱烈の神ハゾレト》
3 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー(19)-
2 《チャンドラの敗北》
2 《マグマのしぶき》
2 《グレムリン解放》
2 《木端+微塵》
1 《損魂魔道士》
1 《暴れ回るフェロキドン》
1 《栄光をもたらすもの》
1 《削剥》
1 《反逆の先導者、チャンドラ》
-サイドボード(15)-
殿堂プレイヤーのBen Starkは、現環境のトップメタの一角である赤単をTemur Energyとのマッチアップ向けにミッドレンジ寄りに調整した特徴的なバージョンを使用し、エネルギー系が多数を占めた今大会で準優勝という好成績を残していました。
ミッドレンジ寄りに調整されたといってもアグロデッキなので、序盤にプレッシャーをかけることは変わらず重要なので、《ボーマットの急使》や《損魂魔道士》といった1マナクリーチャーもしっかり採用されています。
中速寄りの構成ということで土地も多めで、追加の砂漠土地が採用されています。
☆注目ポイント
従来の赤単とは大きく構成が異なっており、《地揺すりのケンラ》や《アン一門の壊し屋》が不採用で《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》の枚数も削られています。3マナ域のクリーチャーは《暴れ回るフェロキドン》のみで、《反逆の先導者、チャンドラ》がメインに3枚と多めに採用されるなど、重めの構成になっており土地も25枚になっています。
《暴れ回るフェロキドン》は威迫持ちなのでTemur Energyとのマッチアップで信頼できるクロックとして活躍します。《反逆の先導者、チャンドラ》はボードコントロールとアドバンテージ獲得手段を兼ねており、ミッドレンジ寄りのこのデッキにフィットしていると言えます。
重い構成にしたことで速い段階から手札を使い切ることが難しくなったため、メインでの《熱烈の神ハゾレト》は1枚まで減らされています。
《死者の砂丘》や《屍肉あさりの地》といった砂漠土地が多めに採用されており、特に《死者の砂丘》は《ラムナプの遺跡》でサクリファイスすることでアドバンテージを得ることができます。
《宝物の地図》は通常の赤単では見られないカードで、序盤は占術でドローの質を高め変身後は中盤以降に《反逆の先導者、チャンドラ》や《栄光をもたらすもの》をキャストするためのマナ加速になり、宝物もドローに変換できます。
アグロデッキとしてのスピードが落ちたので、コントロールに対してはメインでは不利になりましたが、環境のトップメタであるエネルギー系のデッキに有利が付きました。最後の最後で相性の悪いEsper Approachと当たり惜しくも優勝は逃しましたが、デッキ選択としては正しい判断だったと言えます。
グランプリ・上海2017
環境の王者、Temur Energyがアジアのグランプリを制する
2017年11月11日-12日
- 1位 Temur Energy
- 2位 Ramunap Red
- 3位 Ramunap Red
- 4位 Grixis Improvise
- 5位 Ramunap Red
- 6位 4C Energy
- 7位 Ramunap Red
- 8位 Temur Energy
Song Huachao
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グランプリ・上海2017でもエネルギー系のデッキと赤単の2強が活躍していました。
4位入賞のGrixis Improviseはエネルギーを使ったデッキですが、既存のバージョンと全く異なる構成で今大会で入賞したデッキの中でも特徴的なデッキでした。
グランプリ・上海2017 デッキ紹介
「Grixis Improvise」
Grixis Improvise
エネルギー系と赤単がプレイオフの大半を占めるという結果に終わりましたが、その中で特徴的なデッキが1つありました。
エネルギーを活用するデッキですが、他のエネルギー系と異なり飛行機械で空からビートダウンしつつ、「即席」スペルを活用していくシナジー重視のデッキ、Grixis Improviseです。Grixisというカラーの恩恵で《反逆の先導者、チャンドラ》や 《スカラベの神》といったパワーカードにも恵まれています。
☆注目ポイント
《霊気急襲者》は《つむじ風の巨匠》と共にアーティファクト・クリーチャー・トークンを生みだしてくれます。「即席」スペルのコスト軽減に貢献し、早い段階で展開した《発明者のゴーグル》をトークンや工匠自身に装備させてクロックを増加させていきます。《異端の飛行機械職人》の能力で飛行機械トークンが並ぶため、更に「即席」スペルのコストダウンさせることが可能で、シナジーを結成していきます。
「即席」スペルの《解析調査》と《金属の叱責》は、このデッキではそれぞれ2マナ3枚ドロースペルと1マナのソフトカウンターになり、コストパフォーマンスに優れています。
《抽出機構》はクリーチャーが戦場にでる度にエネルギーカウンターが得られるので、各種トークンを生みだす《霊気急襲者》や《つむじ風の巨匠》、《異端の飛行機械職人》とシナジーがあり、マナが余るゲーム中盤以降は、ETB能力を持つクリーチャーをバウンスして再キャストすることでアドバンテージを稼ぐことができます。バウンス能力はクリーチャーを除去から守る手段にもなるのです。
Temur Energyなどがカードパワーを優先したグッドスタッフである一方で、このデッキはエネルギーや「即席」といった『カラデシュ』のメカニックを活用したシナジー重視のデッキとなっています。
グランプリ・ワルシャワ2017
4色エネルギーが他のエネルギー系を圧倒
2017年11月11日-12日
- 1位 4C Energy
- 2位 Temur Energy
- 3位 Sultai Energy
- 4位 Temur Energy
- 5位 Mardu Vehicles
- 6位 God-Pharaoh’s Gift
- 7位 Temur Energy
- 8位 UG Pummeler
Jean-Emmanuel Depraz
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グランプリ・ワルシャワ2017のプレイオフは、アメリカやアジアのグランプリと異なり赤単は見られずエネルギー系が多数入賞していました。
優勝を果たしたのは4C Energyで、環境のエネルギー系デッキの圧倒的な強さが分かる結果となりました。
今大会で結果を残したデッキの中で最も印象に残ったのは、青緑の2色で《知識のカルトーシュ》などのリミテッドで見かけそうなカードを多数採用した、個性的なUG Pummelerでした。
グランプリ・ワルシャワ2017 デッキ紹介
「UG Pummeler」
UG Pummeler
Temur EnergyとRG Pummelerを混ぜたような構成で、火力除去の赤の代わりに回避能力を付けるオーラやカウンターにアクセスできる青を選択しています。
デッキ名にもなっている《静電気式打撃体》を各種オーラによって強化しビートダウンしていくデッキで、《顕在的防御》など保護スペルで相手の除去を無効化していきます。
☆注目ポイント
各種オーラや強化スペルでパンプアップされた《静電気式打撃体》は、それ一体でゲームを決めるほどのインパクトです。青を足したことにより回避能力を付けることが容易になり、各種エネルギー系のデッキとのマッチアップでも空から攻撃を通すことができるようになりました。
《知識のカルトーシュ》は《静電気式打撃体》に飛行とパワータフネスの修正を与え、ドローもおまけでついてくる中々の性能です。他のエネルギー系のクリーチャーに付けても十分に強力で、特にエネルギーを支払うことで呪禁を得る《逆毛ハイドラ》に付ければ、対処されづらい回避能力持ちのクロックのできあがりです。
オーラによる強化戦略の不安要素として「相手の除去によってアドバンテージを失ってしまうこと」が挙げられますが、青を足したことにより《顕在的防御》に加えて《潜水》も使えるようになり、安定してクロックをかけることができるようになりました。
《霊気拠点》や《霊気との調和》の恩恵で色を足すことが容易になり、サイドには《野望のカルトーシュ》も忍ばせてあります。「-1/-1」カウンターを乗せるETB能力は除去としても機能するため、アドバンテージを失うリスクを軽減させると同時に、Lifelinkでダメージレースを有利にしてくれます。特に赤単など速いデッキとのマッチアップで重要になります。
グランプリ・ポートランド2017
世界を2度制したShahar ShenharがTemur Energyでアメリカのスタンダードのグランプリを制する
2017年11月18日-19日
- 1位 Temur Energy
- 2位 Ramunap Red
- 3位 RG Pummeler
- 4位 Ramunap Red
- 5位 4C Energy
- 6位 Temur Energy
- 7位 Temur Energy
- 8位 Ramunap Red
Shahar Shenhar
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グランプリ・ポートランド2017の優勝は各種エネルギー系の中でも最もポピュラーなTemur Energyでした。
エネルギー系のデッキは、ミラーマッチや他のエネルギー系とのマッチアップを少しでも有利にするため、サイドに《自然に仕える者、ニッサ》や《奔流の機械巨人》といったパワーカードを採用し中盤以降のトップデッキの強化に力を入れています。
グランプリ・ポートランド2017
「Temur Energy」
Temur Energy
優秀なクリーチャーと除去を搭載したプロアクティブな戦略に加え、《否認》、《至高の意志》といったカウンターにアクセス可能なTemur Energyは間違いなく環境のベストデッキの1つです。
環境のベストデッキの1つとならば、当然ミラーマッチも多発します。メイン、サイド共にミラーマッチで有効なカードが多数見られ、特にサイドボードにはミッドレンジ同士のマッチアップにありがちな、消耗戦を少しでも有利なものにするためにパワーカードが多数採用されています。
メタに合わせてカスタマイズできることがこのデッキの強みで、God-Pharaoh’s GiftやAbzan Tokens、各種コントロールなどメインでは意外と相性の悪いマッチアップが多数存在しますが、それらのデッキに有効なサイドボードにアクセスできるため、サイド後は多くのマッチアップで有利になり、このデッキがトップメタに存続する理由にもなっています。
☆注目ポイント
《慮外な押収》はミラーマッチで最も有効な選択肢の1つです。特に4Cの《スカラベの神》など、強力なクリーチャーを奪うことができるのでメインから採用されるようになりました。対象に困る場面は少ないと思われますが、プレインズウォーカーや《逆毛ハイドラ》に対しては無力なので、頼り過ぎは禁物です。
《多面相の侍臣》は色拘束が強くなりますが、ミラーマッチで《ならず者の精製屋》をコピーしてアドバンテージを稼いだ後、「不朽」することで《逆毛ハイドラ》や《栄光をもたらすもの》といったより強力なクリーチャーをコピーすることができます。4CやSultaiなど他のエネルギーデッキとのマッチアップでは、《人質取り》や《スカラベの神》などもコピーすることができます。
《造命師の動物記》もロングゲームにおいてドローの質を向上させつつアドバンテージを稼げるため、ミラーマッチで有効なカードとなります。
《自然に仕える者、ニッサ》はミラーマッチやコントロール相手にサイドインされるプレインズウォーカーで、エネルギー系とのマッチアップではサイド後に《牙長獣の仔》などクリーチャーが減る傾向があり、サイドインされてくることが予想される《慮外な押収》や《チャンドラの敗北》といったスペルに引っかからないのが強みです。
メイン、サイドと合わせて合計4枚採用されている《削剥》は、《人質取り》や《巻きつき蛇》といったタフネス3のクリーチャーを対策しつつ、「機体」や《王神の贈り物》をメインから対策する手段になるフレキシブルなスペルです。
《暗記+記憶》も同じく汎用性の高いカードで、《スカラベの神》など厄介なカードを対処してくれます。「余波」で墓地対策とドローなど意外と使い道が多く、特にサイドに採用されている《奔流の機械巨人》の能力を利用することでインスタントスピードでもキャストできるため隙が少なくなります。
4Cバージョンより、マナベースが安定している純正Temurの方が赤単やSultaiとのマッチアップが有利ですが、《スカラベの神》の差で4Cバージョンとのマッチアップは分が悪くなります。
総括
4つのスタンダード・グランプリの結果からも分かるように、現在のスタンダードはTemur(4C)と赤単の2強であり、エネルギー系のデッキは主に同型対策のためにチューンアップを重ねています。中には《多面相の侍臣》がメインから採用されているリストも見られました。
エネルギー系のデッキが同型に有利を付けるためにメイン、サイド共に重めの構成にシフトしているので、赤単の地位も上がりつつあります。サイドの《自然に仕える者、ニッサ》や《奔流の機械巨人》の代わりに、《マグマのしぶき》や《チャンドラの敗北》といった軽い除去スペルが減らされる傾向にあるのも赤単にとっては追い風です。
現環境のスタンダードは、トップメタであるTemur Energyや赤単を参加する大会のメタに合わせて調整することが成功の鍵となりそうです。
以上USA Standard Express vol.110でした。
それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいスタンダードライフを!