皆さんこんにちは。
いよいよ来週末にプロツアー『イクサラン』が開幕します。世界選手権2017やアメリカ選手権2017と立て続けに大規模な大会があり、環境も熟してきたので世界のトッププレイヤーがどのような回答にたどり着くのか要注目です。
さて、今回の連載ではアメリカ選手権2017の入賞デッキを見ていきます。
17歳の若手プレイヤーOliver Tomajkoが全米チャンピオンに
2017年10月14日
- 1位 UB Control
- 2位 Temur Energy
- 3位 Mardu Vehicles
- 4位 UW Control
- 5位 Temur Energy
- 6位 Temur Energy
- 7位 Abzan Tokens
- 8位 Sultai Aggro
Oliver Tomajko
トップ8のデッキリストはこちら
600名以上の参加者が募ったアメリカ選手権2017の決勝戦は、アメリカの若手プロであるOliver Tomajkoとプロツアー『アモンケット』で優勝を収めたベテランプレイヤーのGerry Thompsonというマッチアップで、アメリカのマジックシーンの層の厚さが現れた結果でした。
TOP8では現環境のトップメタであるTemur Energyが安定した強さを見せる一方で、優勝を収めたUB ControlやMOではすでにお馴染みのAbzan Tokens、前環境から引き続いて活躍している《副陽の接近》を軸にしたコントロールデッキなど、多数の異なるデッキが存在する群雄割拠の環境です。
アメリカ選手権2017 デッキ紹介
「Temur Energy」「Mardu Vehicles」「Abzan Tokens」「Red-White Approach」
Temur Energy
5 《森》 2 《山》 1 《島》 4 《霊気拠点》 4 《植物の聖域》 3 《根縛りの岩山》 3 《尖塔断の運河》 -土地 (22)- 4 《牙長獣の仔》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 4 《栄光をもたらすもの》 3 《逆毛ハイドラ》 -クリーチャー (23)- |
4 《霊気との調和》 2 《マグマのしぶき》 4 《蓄霊稲妻》 2 《本質の散乱》 1 《削剥》 2 《慮外な押収》 -呪文 (15)- |
3 《チャンドラの敗北》 3 《呪文貫き》 2 《貪る死肉あさり》 2 《多面相の侍臣》 2 《至高の意志》 2 《造命師の動物記》 1 《人工物への興味》 -サイドボード (15)- |
Temur Energyはローテーションにより失ったカードが少なく、有力なデッキとして環境初期から人気のあるデッキです。その強さは衰えることを知らず世界選手権2017でも優勝を収め、今大会でも準優勝という好成績を残しました。
Gerry Thompson、Stephen Neal、Seth Manfield、Jarvis Yuといった上位入賞を果たした多くの強豪プレイヤーが選択しており、プレイオフ入賞を果たしたプレイヤー全てが《慮外な押収》をメインから採用していたことからもミラーマッチを意識した構成であることが分かります。
☆注目ポイント
今大会で準優勝を果たしたGerryのリストは、メインの《暗記+記憶》が《慮外な押収》に差し替えられている以外はWilliam Jensenのリストと同様でした。サイドは《奔流の機械巨人》や《反逆の先導者、チャンドラ》といったカードが不採用になっており、《至高の意志》、《呪文貫き》といった軽いカウンターを追加することで、全体除去を採用したコントロールに対抗していくスタイルです。
《反逆の先導者、チャンドラ》はVehiclesや各種トークン戦略などにそこまで強いカードではなく、《チャンドラの敗北》、《排斥》、《ヴラスカの侮辱》など多くのアンサーが存在する現在では不利な立ち位置にあるので、今後は《反逆の先導者、チャンドラ》の採用枚数が減少するかもしれません。
《造命師の動物記》は、UB Controlなど遅いデッキとのマッチアップでドローの質を高めつつアドバンテージを提供します。息切れ防止になりコストも軽いのもプラスポイントです。
サイドには《呪文貫き》と《至高の意志》が採用されており、サイド後はクロックパーミッションのように振舞うプランのようです。《否認》よりも《呪文貫き》が優先されていることから、《奔流の機械巨人》や《反逆の先導者、チャンドラ》といったパワーカードでロングゲームで勝負するよりも、テンポを意識したプランであることが分かります。
Sethのリストはメインから《殺戮の暴君》や《反逆の先導者、チャンドラ》が採用され、《本質の散乱》が《至高の意志》代えられているなどUB Controlを意識した構成になっています。《スカラベの神》などに対する優秀な確定カウンターである《本質の散乱》ですが、最近数を増やしているトークン戦略には《燻蒸》や《選定された行進》といったクリーチャーでないスペルも増加傾向にあるため、受けの広い《至高の意志》に軍配が上がりそうです。《栄光をもたらすもの》が3枚採用ですが、どのマッチアップでも強いクリーチャーなので可能な限り4枚採用したいところです。
環境初期はミラーマッチに有利なため、《スカラベの神》用に黒をタッチした4色バージョンも流行りましたが、世界選手権2017、アメリカ選手権2017、MOの大会の結果を見る限り現在は純正バージョンの方が多数派です。マナサポートに《霊気との調和》や《霊気拠点》があるとは言っても、《スカラベの神》をキャストするために《沼》を用意することは、3色全てから色拘束の強いカードを採用したこのデッキでは負担になります。
Temur Energyというデッキ自体は完成された印象ですが、メインの《本質の散乱》など今後のメタ次第でまた変化がありそうなデッキなので、しっかりとプレイテストをして環境の変化に合わせたリストに常にアップデートしていくことが重要になりそうです。
Mardu Vehicles
5 《山》 1 《沼》 4 《秘密の中庭》 4 《感動的な眺望所》 4 《産業の塔》 2 《霊気拠点》 2 《竜髑髏の山頂》 1 《手付かずの領土》 -土地 (23)- 4 《模範的な造り手》 4 《発明者の見習い》 3 《ボーマットの急使》 4 《屑鉄場のたかり屋》 4 《経験豊富な操縦者》 2 《ピア・ナラー》 3 《熱烈の神ハゾレト》 -クリーチャー (24)- |
3 《致命的な一押し》 4 《無許可の分解》 4 《キランの真意号》 1 《霊気圏の収集艇》 1 《耕作者の荷馬車》 -呪文 (13)- |
3 《過酷な指導者》 3 《暴れ回るフェロキドン》 2 《栄光をもたらすもの》 2 《ショック》 1 《泥濘の峡谷》 1 《チャンドラの敗北》 1 《削剥》 1 《霊気圏の収集艇》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード (15)- |
旧環境でも活躍していたMardu Vehiclesですが、先ほどのTemur Energyとは対照的にローテーションによる影響を大きく受けたデッキの一つです。
《スレイベンの検査官》、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、《大天使アヴァシン》といった主力カード、特に序盤のクロックやアドバンテージ、アーティファクトカウントにもなる《スレイベンの検査官》を失ったことによりデッキの存続は難しいとされていました。
《ボーマットの急使》と《発明者の見習い》が新たな1マナ域に加えられ、《熱烈の神ハゾレト》が中盤以降のゲームをサポートしていきます。ミッドレンジアグロであった旧環境のMardu Vehiclesと比べると、軽いクリーチャーが増えてアグロ寄りになっています。
☆注目ポイント
余った土地や2枚目以降の《キランの真意号》を火力に変換することで追加のダメージ減となり、自身も5/4速攻、破壊不能という高スペックの《熱烈の神ハゾレト》は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に代わるこのデッキの4マナ域として活躍が期待できそうです。
Ramunap Redでも採用されているカードが多数見られますが、Mardu Vehiclesは多色であることを活かし除去の質で勝っており、処理が難しい《禁制品の黒幕》などの高タフネスのクリーチャーも《無許可の分解》や《致命的な一押し》で容易に処理できます。多色であるが故にマナベースに不安が残りますが、Temur Energyなどクリーチャーのサイズで勝るマッチアップが多い現環境では良い選択肢となります。
Mardu Vehiclesがトップメタの一角であった旧環境と比べると、《削剥》のメイン採用率が減少傾向にあるのもこのデッキにとっては追い風です。《ボーマットの急使》は《スレイベンの検査官》と比べると1マナ域としては見劣りしますが、アーティファクトなので《模範的な造り手》や《発明者の見習い》とのシナジーがあります。
サイドの《過酷な指導者》は除去耐性がなく、タフネスも2なので《マグマのしぶき》で落ちてしまうのがネックとなりますが、《牙長獣の仔》, 《つむじ風の巨匠》、《逆毛ハイドラ》など起動能力持ちのエネルギークリーチャーが多数採用されているTemur Energyにとってはマスト除去になります。
《暴れ回るフェロキドン》はいろんな能力を有した高性能なクリーチャーで、コントロールデッキの《本質の吸収》や《副陽の接近》などのライフゲインを阻止します。
ローテーションによって《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》や《スレイベンの検査官》を失い大幅な変更を余儀なくされたMardu Vehiclesでしたが、まだまだ環境のアグロデッキの一つとして戦えることが今大会で証明されました。
Abzan Tokens
6 《平地》 2 《沼》 1 《森》 4 《進化する未開地》 4 《秘密の中庭》 4 《シェフェトの砂丘》 2 《イフニルの死界》 -土地 (23)- 2 《聖なる猫》 4 《選定の司祭》 -クリーチャー (6)- |
4 《致命的な一押し》 1 《徹頭+徹尾》 3 《燻蒸》 4 《軍団の上陸》 4 《秘密の備蓄品》 3 《排斥》 4 《選定された行進》 3 《改革派の地図》 2 《宝物の地図》 3 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -呪文 (31)- |
4 《強迫》 3 《本質の摘出》 2 《聖なる猫》 2 《賞罰の天使》 1 《燻蒸》 1 《徹頭+徹尾》 1 《アルゲールの断血》 1 《排斥》 -サイドボード (15)- |
Abzan TokensはMOではすでにお馴染みのデッキで、MOのPTQで準優勝という好成績を残したことで広く知れ渡りました。
トークン精製器に変身する《軍団の上陸》とトークンの生産力を倍加させる《選定された行進》を軸にしたミッドレンジデッキです。《致命的な一押し》、《排斥》といった優秀な単体除去や全体除去の《燻蒸》、《選定の司祭》のライフゲインと横に並ぶ戦略によってTemur Energyなどクリーチャーデッキに強く、カウンターを多数搭載した青黒は苦手なマッチアップとなります。Temur Energyのサイドボードに《人工物への興味》などエンチャント対策が採用されている理由の一つでもあります。
☆注目ポイント
《軍団の上陸》は変身することで追加の土地を得られると同時に、トークンを生み出すことでアドバンテージも獲得できます。《選定された行進》はトークンの生産力を倍加させるエンチャントでこのデッキのキーカードの一枚です。《軍団の上陸》を変身させるためには3体以上のクリーチャーでアタックする必要があり、《選定された行進》はその条件を満たしやすくしてくれます。
「不朽」持ちのクリーチャーである《聖なる猫》や《選定の司祭》とも相性が良く、特に《選定の司祭》はアグロデッキに対してブロッカーとしても優秀で、墓地に落ちれば「不朽」することで自身もトークンになるので《選定された行進》をコントロールした状態では一気にライフを安全圏にまで回復してくれます。このエンジンが回り始めればブロッカーを用意しつつライフも得られるのでアグロデッキにとっては勝つことが難しくなります。
《秘密の備蓄品》は恐らくこのデッキで最も重要なカードの一枚で、ドローの質を高めつつトークンを生みだしてくれるため《選定された行進》など他の重要なカードに辿り着きやすくなります。能動的に「紛争」を誘発させることも可能ですが、このカードの他にも《改革派の地図》や《宝物の地図》、《進化する未開地》などもあるので「紛争」の条件に困ることは少なくなりそうです。
ここまでご紹介したカードは全て白黒でしたが、プレインズウォーカーの《秘宝探究者、ヴラスカ》はこのデッキに緑を足すほどのパワーがあります。「+2」能力で2/2の威迫持ちのトークンを生み出し、「-3」能力で除去としても機能します。
どちらの能力も自身を守るのに適しており、初期忠誠値も高くトークンが並ぶこのデッキが使う《秘宝探究者、ヴラスカ》は一度着地するとプレインズウォーカーを直接除去できるカードを使わないと対処が難しいカードとなります。奥義を発動する頃には対戦相手がすでに投了していることでしょう。ミラーマッチでもエンチャントに触れる重要なカードとなります。
Red-White Approach
9 《山》 8 《平地》 4 《感動的な眺望所》 4 《採石場》 -土地 (25)- 1 《信義の神オケチラ》 1 《賞罰の天使》 -クリーチャー (2)- |
1 《マグマのしぶき》 3 《削剥》 1 《稲妻の一撃》 3 《残骸の漂着》 3 《燻蒸》 3 《副陽の接近》 4 《排斥》 2 《イクサランの束縛》 2 《ヴァンスの爆破砲》 4 《太陽鳥の祈祷》 3 《試練に臨むギデオン》 3 《反逆の先導者、チャンドラ》 1 《戦場の詩人、ファートリ》 -呪文 (33)- |
4 《栄光半ばの修練者》 3 《威厳あるカラカル》 3 《キランの真意号》 2 《焼却の機械巨人》 1 《風雲船長ラネリー》 1 《チャンドラの敗北》 1 《厳粛》 -サイドボード (15)- |
惜しくもトップ8には残らなかったものの、面白いデッキがあったのでご紹介していきたいと思います。《副陽の接近》デッキは青白が主流でしたが《太陽鳥の祈祷》をフィーチャーした赤白コントロールの登場です。
《燻蒸》を含めた多数の除去や全体除去のおかげでクリーチャーデッキとのマッチアップに強いデッキですが、《アズカンタの探索》からのアドバンテージがあるコントロール、特に青黒は相性の悪いマッチアップとなります。
相手が除去を減らしてくることが予想されるサイド後は《栄光半ばの修練者》や 《威厳あるカラカル》といった追加のクリーチャーや機体の《キランの真意号》がサイドインされWR Vehiclesに変形する戦略を取っています。
☆注目ポイント
赤を使う理由の一つである《太陽鳥の祈祷》は、一見するとカジュアルプレイヤーが好みそうな、コストが高い代わりに派手な効果のあるエンチャントですが、実はこのデッキにとって良い働きをするカードです。《副陽の接近》をキャストすれば7枚掘り進めることができ、2枚目の《副陽の接近》をめくれば最初に唱えた方が2回目の《副陽の接近》となりそのままゲームに勝つことができます。
《試練に臨むギデオン》、《反逆の先導者、チャンドラ》、《戦場の詩人、ファートリ》といったプレインズウォーカーが多数採用されており、変形サイドボードプランも採っているので《副陽の接近》に頼らずに勝てる構成になっています。《試練に臨むギデオン》は相手のクロックを1体止めることで時間稼ぎになり、自身もフィニッシャーになれるコストが軽い優秀なプレインズウォーカーです。《反逆の先導者、チャンドラ》はクリーチャー除去になりカードアドバンテージも稼ぐことが可能です。《戦場の詩人、ファートリ》はコストは少し重くなりますがトークンを生みだしライフゲインも十分な時間を稼ぐことができます。
サイドに採用されている追加の勝ち手段である《栄光半ばの修練者》や 《威厳あるカラカル》は、このタイプのデッキに有効とされている《否認》や《呪文貫き》で妨害されないのが強みです。UB ControlよりもTemur EnergyやRamunap Redなどが多いメタでは有効な選択となりそうです。特に青の代わりに軽い除去が多い赤を足したことで、青白よりもRamunap Redに対して相性が良くなっています。
総括
参加者わずか24名という特殊なメタだったこともあり世界選手権2017はUB Control、Temur Energy、Ramunap Redが3強という印象がありましたが、その翌週に開催されたアメリカ選手権2017ではTemur Energyが依然として多い中、《選定された行進》を活用したAbzan Tokens、新しい形のMardu Vehicles、Red-White Approachなど多種多様なデッキが見られました。
来週末にはいよいよプロツアー『イクサラン』が開催されます。メタがある程度確立した状態で開催されるタイミングでのプロツアーですが、世界のトッププレイヤーがどのようなデッキを持ち込むか楽しみです。
以上USA Standard Express vol.108でした。
それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいスタンダードライフを!