USA Standard Express vol.81 -『カラデシュ』注目カードとサンプルデッキ-

Kenta Hiroki



 皆さんこんにちは。

 いよいよ待ちに待った秋の大型セットの『カラデシュ』がリリースされますね。今週末にはプレリリースが開催されるので新カードにいち早く触るチャンスです (→晴れる屋のプレリリースについては【こちら】)。

 対抗色ランドや注目のプレインズウォーカーの《反逆の先導者、チャンドラ》、エネルギー・カウンターや「機体」をはじめとする新メカニックなど、新環境のスタンダードが楽しみですね。

 今回の連載では現環境の最後のスタンダードの大会である【SCG Classics Orlando】の他にも、新セットの『カラデシュ』のレビューもしていきたいと思います。



SCG Classics Orlando ~やはり強いBant Company~

2016年9月17-18日

Ted Felicetti
※画像は【StarCityGames.com】より引用させていただきました。


1位 Bant Company
2位 Bant Humans
3位 Sultai Emerge
4位 Grixis Thermo-Alchemist
5位 GR Ramp
6位 Temur Emerge
7位 Bant Angels
8位 BW Control

トップ8のデッキリストは【こちら】



 現環境最後のスタンダードの大会のSCG Classics OrlandoもBant Companyの優勝で、現環境はBant Companyに始まりBant Companyによって幕を閉じました

 一方、Emerge (「現出」) やThermo-Alchemist (《熱錬金術師》) といった新環境でも見られそうなデッキも結果を残しています。Bant Companyについては今までに何度も取り挙げてきたので、今回の連載では新環境でも引き続き活躍が見られそうなデッキを中心に見ていきたいと思います。



SCG Classics Orlando デッキ解説

「Sultai Emerge」「Grixis Thermo-Alchemist」


Dan Jessup「Sultai Emerge」
SCG Classics Orlando(3位)

4 《森》
2 《島》
2 《沼》
3 《窪み渓谷》
4 《進化する未開地》
3 《ラノワールの荒原》
4 《ヤヴィマヤの沿岸》

-土地 (22)-

4 《ヴリンの神童、ジェイス》
1 《首絞め》
4 《秘蔵の縫合体》
4 《憑依された死体》
1 《縫い翼のスカーブ》
1 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》
4 《老いたる深海鬼》
1 《膨らんだ意識曲げ》

-クリーチャー (20)-
4 《ウルヴェンワルド横断》
4 《群れの結集》
4 《過去との取り組み》
4 《コジレックの帰還》
2 《発生の器》

-呪文 (18)-
2 《精神背信》
2 《究極の価格》
2 《集団的蛮行》
2 《ムラーサの胎動》
2 《餌食》
1 《光り葉の選別者》
1 《苦い真理》
1 《無限の抹消》
1 《衰滅》
1 《山》

-サイドボード (15)-
hareruya



 SultaiカラーのEmergeデッキ。《膨らんだ意識曲げ》も加わりEmergeのメカニックをフルに活用する型で、黒を足したことにより除去やハンデスなど妨害要素にもアクセスが可能になっています。


☆注目ポイント

 最速4ターン目に出せる《膨らんだ意識曲げ》のハンデス効果はキャストした際に発動するので、インスタントスピードの除去によっても5/5本体に除去を当てることは容易ではありません。

 墓地から復活する能力を持つ《憑依された死体》《秘蔵の縫合体》はEmergeの種として最適で、《憑依された死体》を復活させることで《秘蔵の縫合体》も復活するので、カードを捨てることで墓地を肥やしつつアドバンテージを得ることができます。

 《首絞め》《墓後家蜘蛛、イシュカナ》《ウルヴェンワルド横断》のために墓地を肥やしDelirium (「昂揚」) の条件を満たすのに貢献します。


膨らんだ意識曲げ憑依された死体ウルヴェンワルド横断


 《ヴリンの神童、ジェイス》はこのデッキでは容易に変身させることが可能で、《コジレックの帰還》を墓地に送ることで、Emergeクリーチャーをキャストしたときに誘発する全体除去能力のセットアップをします。

 このデッキの《コジレックの帰還》は誘発型能力が主な使用目的なので赤マナソースはメインでは不採用ですが、Humans (白単人間) など速いデッキとのマッチアップに備えてサイドに《山》が1枚だけ採られています。

 ペインランド、《ヴリンの神童、ジェイス》《群れの結集》といった一部のカードを失いますが、《老いたる深海鬼》《秘蔵の縫合体》《コジレックの帰還》などの中核パーツをはじめとしてデッキの大部分は残るので、ローテーション後の環境でもよく見ることになりそうです。


老いたる深海鬼秘蔵の縫合体コジレックの帰還



Vincent Daniels「Grixis Thermo-Alchemist」
SCG Classics Orlando(4位)

6 《山》
2 《沼》
1 《島》
4 《窪み渓谷》
4 《凶兆の廃墟》
4 《シヴの浅瀬》
2 《さまよう噴気孔》

-土地 (23)-

4 《嵐追いの魔道士》
4 《熱錬金術師》

-クリーチャー (8)-
2 《稲妻の斧》
1 《焦熱の衝動》
4 《集団的蛮行》
4 《焼夷流》
3 《苦しめる声》
4 《癇しゃく》
3 《血管の施し》
3 《集団的抵抗》
1 《極上の炎技》
4 《熱病の幻視》

-呪文 (29)-
3 《引き裂く流弾》
2 《払拭》
2 《ナヒリの怒り》
2 《さまよう噴気孔》
1 《焦熱の衝動》
1 《稲妻の斧》
1 《否認》
1 《非実体化》
1 《集団的抵抗》
1 《コラガンの命令》

-サイドボード (15)-
hareruya



 Grixis (青黒赤) カラーの《熱病の幻視》デッキ。黒を足したことで除去にもなり本体火力としても使えるハンデススペルの《集団的蛮行》や、「マッドネス」持ちのドレインスペルの《血管の施し》にアクセスが可能になり、デッキパワーが向上しています。Bantをメタった遅いデッキに強いデッキです。


☆注目ポイント

 《集団的蛮行》はメインから採用されている《ドロモカの命令》対策となりつつ、小型のクリーチャーを除去したり最後の数点を削ったりと活躍の機会の多いスペルで、「マッドネス」を誘発させる手段としても使えるので、《癇しゃく》《血管の施し》が使いやすくなります。《血管の施し》も「マッドネス」で唱えた際は1マナ3点という優秀な本体火力となります。

 このデッキもローテーション後は失うカードが少なく、《シヴの浅瀬》がローテ落ちしますが、代わりに対抗色ランドの《尖塔断の運河》が加入予定です。


集団的蛮行血管の施し




ローテーション落ちするカード


《集合した中隊》


集合した中隊


 スタンダード環境を支配し続けた緑のインスタントもローテーションとともに退場するので、これによって構築の自由度が上がることが予想されます。現在のスタンダードでは地上クリーチャーを軸としたミッドレンジでは《反射魔道士》《森の代言者》といったクリーチャーがインスタントタイミングで一度に出てくるBant Companyに対抗することは難しく、EmergeやBW Controlといった軸をずらした戦略が主流でした。

 ローテーション後もBantの主力クリーチャーの多くは残りますが、《反射魔道士》《呪文捕らえ》《集合した中隊》《ドロモカの命令》といった強力なスペルによるバックアップがなくなるため、ローテーション前のような支配力はなくなりそうです。


《ドロモカの命令》


ドロモカの命令


 《ドロモカの命令》はコストの軽さと除去、コンバットトリック、そしてエンチャント対策とフレキシブルで優秀なスペルで、その高性能さゆえにGW TokensやBant Companyといった緑白系のデッキが長い間環境を支配し、環境を歪める原因にもなっていました。

 ローテーション後の環境では《熱病の幻視》《停滞の罠》《隔離の場》など、エンチャントメントも本来の強さを発揮できそうです。


◆ 対抗色ペインランド


シヴの浅瀬戦場の鍛冶場コイロスの洞窟
ラノワールの荒原ヤヴィマヤの沿岸


 対抗色ペインランドの退場とともに対抗色ファストランドが加入しますが、同じ対抗色ランドでも性能が異なり、デッキや戦略にもよりますがペインランドの枠にそのまま収めるというのは難しそうです。また多色デッキでは無色マナが出る土地が減るので、2色以上のデッキにとってEldrazi系を運用することは難しくなりそうです。タップインランドが増えるので、3色以上のコントロールデッキにとっても厳しくなりそうです。



『カラデシュ』の注目カード


◆ 対抗色ファストランド




 ファストランドとも呼ばれている『ミラディンの傷跡』で登場した2色特殊地形で、序盤はライフロスなどのリスクもなくアンタップインできるのが魅力です。逆に他の土地が3枚以上並ぶ中盤以降はタップインとなるため、コントロールでは使いにくくなります。

 このシリーズの土地の登場によりバトルランド、シャドーランドとともに条件付きのタップインランドが多くなるため、新環境のスタンダードでは低マナ域に寄せたデッキが増えそうです。コントロールやミッドレンジの立ち上がりの遅さに付け込みやすい赤いアグロデッキが、後に紹介する《反逆の先導者、チャンドラ》《通電の喧嘩屋》などによって強化されているため、有利になりそうです。


◆ 機械巨人




 タイタンシリーズを彷彿させる新たな強力なクリーチャーサイクルであるGearhulks。除去として機能する《激変の機械巨人》《害悪の機械巨人》、 瞬速持ちで自分の墓地の対象のインスタントスペルをコストを支払わずに再利用する《奔流の機械巨人》やクリーチャー強化をETB能力に持つ《新緑の機械巨人》、カードドローかダメージという選択を相手に迫る《怒鳴りつけ》と似た能力の《焼却の機械巨人》と、それぞれの色の特徴にあった強力な能力を持つクリーチャーで、新環境のフィニッシャーとして活躍が期待できそうです。コストや能力から、ミッドレンジやコントロールのフィニッシャー兼アドバンテージソースとして使われそうです。


《反逆の先導者、チャンドラ》




 4マナの強力なプレインズウォーカーということで《精神を刻む者、ジェイス》を彷彿とさせることもあり、話題になっています。《精神を刻む者、ジェイス》と異なり、着地してすぐにカードアドバンテージを得ることは難しいですが、「-3」の除去能力により自身を守ることが可能で、マナ加速能力とカードアドバンテージ、ダメージソースと使える能力ばかりです。

 強力な能力を持つカードがリリースされた際に問題となるのが「どんなデッキで使えるのか」ということですが、既存のデッキの中では青赤《熱病の幻視》が挙げられます。青赤のファストランド、軽い赤いインスタント火力除去である《蓄霊稲妻》など他にも収穫があり新環境でも活躍しそうなアーキタイプです。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がアグロからコントロールまで幅広く活躍していたように、《反逆の先導者、チャンドラ》も様々なデッキで活躍するポテンシャルを秘めています。


《通電の喧嘩屋》




 2マナパワー3でエネルギー・カウンターを2つ得ることが可能な上に攻撃の際にエネルギーカウンターを支払うことで強化も可能と、中々の高スペックです。このクリーチャー以外にもエネルギー・カウンターを与えるクリーチャーやカードが多数収録される予定で、先ほどの《反逆の先導者、チャンドラ》も採用された「赤緑エネルギー・アグロ」のようなデッキも出てくるかもしれません。


《霊気拠点》




 あの《氷の橋、天戸》が生まれ変わって戻ってきました。エネルギー・カウンターを支払うことで好きな色のマナを加えることができ、カウンターがない状態でも無色マナが出るアンタップインランドなので、Eldraziや多色デッキのマナ基盤として様々なデッキで採用されそうです。場に出たときにエネルギー・カウンターを生み出すことができる能力は、先ほどの《通電の喧嘩屋》《蓄霊稲妻》といったエネルギー・カウンターによって強化されるカードとも相性が良いこともあり、注目の土地です。


《過酷な精査》




 プレインズウォーカーが落とせなくなった代わりに占術が付いた《蔑み》《強迫》も環境からいなくなるので、《集団的蛮行》《精神背信》とともに新環境の妨害スペルの代表格となりそうです。

 現在のスタンダードは《膨らんだ意識曲げ》《老いたる深海鬼》《約束された終末、エムラクール》など、キャストするだけで強力な効果を誘発するクリーチャーが多く、他にも《大天使アヴァシン》《墓後家蜘蛛、イシュカナ》《呪文捕らえ》といった優秀な能力を持つクリーチャーも多数存在します。相手の情報を把握したうえで占術もできるので、その後のプランが立てやすくなるのもこのスペルの魅力です。黒を使うデッキにとって必須となりそうです。



新環境のデッキ

 新カードを使ったデッキもご紹介していきます。



「UR Thermo-Alchemist」
サンプルデッキ

8 《山》
3 《島》
4 《尖塔断の運河》
4 《霊気拠点》
4 《さまよう噴気孔》

-土地 (23)-

4 《熱錬金術師》
4 《嵐追いの魔道士》

-クリーチャー (8)-
4 《流電砲撃》
4 《蓄霊稲妻》
4 《焼夷流》
2 《苦しめる声》
4 《癇しゃく》
3 《集団的抵抗》
4 《熱病の幻視》
4 《反逆の先導者、チャンドラ》

-呪文 (29)-
hareruya



 先ほども解説した《熱錬金術師》《熱病の幻視》を使った青赤のバーンデッキで、ローテーションにより落ちるカードが少ない上に《反逆の先導者、チャンドラ》《蓄霊稲妻》など収穫も多そうです。天敵であった《ドロモカの命令》がローテーションで環境から姿を消すのもこのデッキにとっては追い風です。

 しかし赤系の速いアグロも強化されており、ファストランドの影響で環境のスピードが上がるようなら《熱病の幻視》をサイドに落とし、除去や序盤を凌ぎつつフィニッシャーにもなる《氷の中の存在》といったカードをメインに採用することも考慮に値するでしょう。


熱病の幻視氷の中の存在



「RG Aggro」
サンプルデッキ

7 《森》
5 《山》
2 《燃えがらの林間地》
4 《獲物道》
4 《霊気拠点》

-土地 (22)-

4 《ファルケンラスの過食者》
4 《ケッシグをうろつくもの》
4 《通電の喧嘩屋》
4 《ラスヌーのヘリオン》
2 《ピア・ナラー》

-クリーチャー (18)-
4 《焼夷流》
2 《蓄霊稲妻》
4 《癇しゃく》
3 《集団的抵抗》
4 《密輸人の回転翼機》
3 《反逆の先導者、チャンドラ》

-呪文 (20)-
hareruya



 《反逆の先導者、チャンドラ》をはじめとして 《通電の喧嘩屋》《ラスヌーのヘリオン》といった優秀な赤いクリーチャーが加入するため、新環境ではエネルギー・カウンターやVehicle (「機体」) といった新メカニックを活用できる赤いアグロデッキも見られそうです。特にRG Aggroのようなプロアクティブな (先に行動を起こして対応を迫る) 戦略は、メタが固まりきっていない環境初期に特に有効な戦略です。






総括

 来週末にはいよいよ『カラデシュ』がリリースされ、ローテーションによってスタンダード環境が激変します。アメリカではセットリリース直後の週末にSCGO Indianapolisが開催されます。SCGの強豪プレイヤーがどのようなデッキを持ち込むのか要注目です。USA Standard Expressでもしっかりカバーしていく予定です。

 以上USA Standard Express vol.81でした。

 それでは次回の連載でまた会いましょう。良いプレリリースを!



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