By Hiroshi Okubo
2日間にわたる予選ラウンドを終え、総勢189名いたプレイヤーたちは8名へと絞られた。参加者はいずれも各地の厳しい予選を勝ち抜いてきた精鋭や招待選手など強豪ぞろいだったが、トップ8に進出したのはそんな彼ら、彼女らの中からさらに選りすぐりの好成績を残してきたマジックエリートたちだ。
特にスタンダードとレガシーのジグザグフォーマットで開催されたThe Last Sun 2017は当然真の意味でマジックの素養が問われるトーナメントだったと言えよう。どちらか一方だけを極めているプレイヤーは数多くいるかもしれないが、その両方で勝ち続けるのは難しいことだ。だからこそ、勝ち上がるのは強豪の中の強豪のみ。そんな彼らが優勝を目指して戦う以上、繰り広げられる戦いがシビアなものになるのは想像に難くない。
そんなトップ8争いの幕開け、準々決勝のマッチアップの中でも、飛びぬけてシビアな好カードがあった。
そう、高野 成樹。
レガシーを齧っている者なら、その名を知らぬ者の方が少ないのではないだろうか。「BIGMAGIC Open Legacy vol.1」と「BIGMAGIC Open Legacy vol.7」でともに優勝、第1期レガシー神挑戦者決定戦トップ8入賞、日本レガシー選手権2015・春準優勝、Eternal Party 2017準優勝、他にも列挙しきれないほどの戦績の数々を誇る日本国内で最もレガシーが強いプレイヤーの1人だ。
無論、ここまで勝ち続けるようなプレイヤーはスタンダードをやらせようとモダンをやらせようと並のプレイヤーでは歯が立たない。マジックへの理解が、ゲームの大局観が、思考とロジックがすでに常人の域を完全に逸脱しているのだ。
ゆえに人は、時に彼のことを尊敬と畏怖を込めて「奇跡の
だが、相対する者の名もまた彼に比肩し得る実力者だ。
中道 大輔。
関東のトーナメントによく出場するという方は、どこかで彼の姿を見たことがあるのではないだろうか? どことは言えない。なぜなら、彼はどこにだって出没するからだ。毎週末どこかの草の根トーナメントに出場しては勝ちまくる、さすらいの荒武者。それが中道だ。
具体的に戦績、あるいは称号を挙げるなら、9代目ミスターPWC、かつPWC Championship 2014トップ4、PWC Championship 2015優勝、プロツアー『マジック・オリジン』出場、神シリーズトップ8入賞回数7回(単独首位)などである。ゆく先々のトーナメントでコンスタントに上位入賞するというのは、明らかに尋常なことではない。
主にPWCでその腕を磨く彼は2017年にはBIGMAGIC ユニフォーム契約プレイヤーに加入しており、今後もますますの活躍が期待されるプレイヤーの1人だ。
誰もがその名とその姿を知っている、そんな2人。強豪同士のマッチアップにフィーチャーマッチテーブルは自然と人だかりができ、多くの観衆が見守る中で試合が行われることとなった。
だが、当人たちは大量のギャラリーを背負っていてもどこ吹く風といった調子。リラックスした様子で、スイスラウンド上位の高野が対戦フォーマットを決定する。
高野「レガシーで。まぁレガシーしかやってないんでね」
中道「でしょうねw僕もスタンダードだったら負けないんですけど……」
選ばれたのは高野の得意とするレガシー。それも、デッキは「グリクシスデルバー」のミラーマッチだ。この時点では筋金入りのレガシープレイヤーである高野がやや有利な戦いとなりそうだが、果たして実際の試合はどうなるのか? 準決勝進出へ向けて、2人のプレイヤーが2017年最後の戦いへと臨む。
Game 1
先攻の中道が《沸騰する小湖》をクラックして《Volcanic Island》をサーチ。《秘密を掘り下げる者》から動き出す好スタートを切る。対して高野は逡巡する様子を見せながら《思案》。まだこれを除去するときではないと判断してか、焦らずゆっくりと手札を整える。同型対決ながら対照的な2人の動きは、先手と後手でプレイングが大きく変わるグリクシスデルバー対決の妙と言えるだろう。
返す中道の《秘密を掘り下げる者》は変身ならず。1点ダメージを与えるのみとなったが、気にせず《不毛の大地》で高野の土地を破壊して2枚目の《秘密を掘り下げる者》をプレイしてターンを終える。
しかし、ここで高野が動く。セット《Volcanic Island》からプレイしたのは《二股の稲妻》!
対象は当然2体の《秘密を掘り下げる者》。中道としてはこれを絶対に通すわけにはいかず、《意志の力》で応戦するのだが、高野も《目くらまし》で応じ、解決。高野の《二股の稲妻》による1:2交換と《目くらまし》による1:2交換、合わせて2:4のリソース交換が起きたことで、中道は一気に苦境に立たされてしまうこととなった。
だが、中道もここで簡単にはやられない。返すターンには《若き紅蓮術士》という、この上ない二の矢を放って攻撃態勢を保とうと奮闘する。高野も遅れて《秘密を掘り下げる者》2体をプレイするが、これらを唱えるために使った《Volcanic Island》と《Tropical Island》は中道の2枚目、3枚目の《不毛の大地》で破壊され、高野もまた、このゲームで3枚の土地を失っているのだ。物量では高野にリードを許しつつ、中道も食らいついていく姿勢を見せる。
さらに、返す中道は反撃の糸口を探るべく《ギタクシア派の調査》。これによって明かされた高野の手札は
というもの。決して弱くはないが、すぐにもゲームが決まってしまうというほどの脅威ではない。あとはきっちりとドロースペルを引き続け、《若き紅蓮術士》でトークンを確保し続けることができればまだゲームに成り得る……。
そのうえ中道にとっては僥倖なことに、返す高野の《秘密を掘り下げる者》は変身することなく、《若き紅蓮術士》とエレメンタルトークンの前で立ちすくむこととなる。中道は《渦まく知識》をプレイし、さらに追加のエレメンタルトークンを得ながら再びクリーチャーをレッドゾーンへと送り込み始めた。
……のだが、そうそう思惑通りにゲームは進まない。高野の2体の《秘密を掘り下げる者》が変身したことで一気にダメージレースは逆転。中道は高野がプレイした追加の脅威、《若き紅蓮術士》こそ《目くらまし》で処理するが、すでに戦場に出て走り始めている6点クロックには触ることができずにいた。
さらに、中道の《不毛の大地》によってスローダウンを余儀なくされていた高野がやっとといった調子で3マナに到達。《昆虫の逸脱者/Insectile Aberration》にさえ手を焼いている状況で、《真の名の宿敵》も相手をしなくてはならなくなってしまう。
ここまでされてしまっては、中道にはもはやゲームをひっくり返す手段は立たない。まずは高野の貫録勝ちといった調子で1ゲーム目が終了した。
高野 1-0 中道
中道「1枚挿しのそれ(《二股の稲妻》)引かれちゃったかー」
高野「運がよかっただけっす。同型後手でやるのは怖い」
The Last Sun 2017、その決勝ラウンドはゲーム開始前に互いのデッキリストを確認したうえで行われている。幸い(?)にもこのマッチは同型戦となったため、試合前のデッキチェックも両者ともにお互いのデッキリストのわずかな差異を確認するのみで、ほとんど75枚相手のデッキを覚えているようだ。
特に高野と中道のデッキの大きな違いは、高野がメインボードに1枚挿ししている《二股の稲妻》、そして中道がメインボードに搭載している《陰謀団式療法》が挙げられるだろう。
フェアデッキ相手の長期戦を見据えた場合、最後の一押しの本体火力としてもクリーチャー除去としても有用な《二股の稲妻》は玄人好みの選択で、高野らしいと言えそうだ。対する中道にも、《ギタクシア派の調査》、《若き紅蓮術士》といったラインナップと抜群の相性を誇る《陰謀団式療法》があることで“ブン回り”の強みがある。
1ゲーム目は見事に《二股の稲妻》にやられてしまった中道だったが、中道には再び“ミラーマッチ”を“先攻”でプレイできるというイニシアチブも残されている。高野自身も怖いと漏らすこのミラーマッチでは最後まで何が起こるか分からない。ここから中道がゲームカウントをイーブンに戻せるか……!?
Game 2
先攻の中道は1マリガンの後《思案》で手札を整え、返す高野が《ギタクシア派の調査》のみでターンを終えると、返す中道も《ギタクシア派の調査》をプレイ。第2ゲームは互いの手札が分かり切った状態からゲームが進行していくこととなった。
1ターン目の中道
2ターン目の高野の手札
さらに中道が《死儀礼のシャーマン》をプレイ。続くターンには2体目の《死儀礼のシャーマン》を追加し、盤石なマナ基盤とライフ供給源を得る。高野がプレイした《秘密を掘り下げる者》は《稲妻》で排除して、中道が1マリガンの差を行動回数の差で埋めに行く格好だ。
だが、続くターンに高野が《真の名の宿敵》を戦線に送り込むと状況は一変する。“小さな《大祖始》“と呼称されることもある《真の名の宿敵》は、中道にとって少なくともメインボードでは除去不能だ。さらに高野はその次のターンに2枚目の《真の名の宿敵》!
この後苛烈な《真の名の宿敵》ビートが始まると、中道の希望は潰えることとなる。
高野 2-0 中道
The Last Sun 2017の決勝ラウンドはBO5(3本先取)で行われ、サイドボードは第3ゲームから――すなわち、このマッチではこの時点から行うことができる。かつ、プレイヤーはゲームの間にデッキリストを見る権利がありるので、まさにプロツアーさながらといった対戦形式で行われている。
そこで筆者が両プレイヤーに「デッキリストを見るか?」と確認すると、なぜか高野も中道も「いらない」と一言。
高野「このマッチ死ぬほど(練習)やったから」
中道「僕もだいたい(高野のリストを)覚えてるんで」
自らの手に持っているカードから目を離すことなく、一心にサイドボーディングを行う。一瞬でも気を緩ませたくない、このままのリズム感で試合を行いたいという強い気持ちが感ぜられる、力強い返答だった。
高野にとってはすでに王手がかかっており、このゲームを制すことでマッチを制すことになる。逆を言えば、中道にとってはもう後がなく、ここが正念場という戦いだ。確実に、このマッチの終わりは近づきつつある。高まる緊張感は周囲のギャラリーにも伝播し、誰もが固唾を呑んで試合の行方を見守る中で、The Last Sun 2017の準々決勝、第3ゲームが始まろうとしていた。
Game 3
中道の《死儀礼のシャーマン》が高野の《意志の力》で打ち消され、高野の《渋面の溶岩使い》が《稲妻》で排除される。最序盤の攻防は両者一歩も譲らない。
続く第3ターン、中道は《若き紅蓮術士》を着地させ、《思案》をプレイしつつエレメンタルトークンを出すも返す高野の《稲妻》が《若き紅蓮術士》を焼き払い、高野は無人の戦場に《死儀礼のシャーマン》を降り立たせる。返す中道も《ギタクシア派の調査》で反撃の糸口を探るが、そこあった高野の手札は……
あまりにも強すぎる3枚。高野は《グルマグのアンコウ》と《若き紅蓮術士》を立て続けに戦場へと送り出し、一気に中道の喉元に食らいつく。中道はかろうじて《若き紅蓮術士》を《稲妻》で除去することに成功するも、続くターンに高野が《グルマグのアンコウ》でクロックを刻み始めるのを眺めることしかできない。
もはやこれまで。圧倒的なレガシー経験値の差をまざまざと見せつけられ、中道は天を仰ぎ膝を屈した。
高野 3-0 中道