Translated by Daijiro Ueno
(掲載日 2018/06/15)
プロツアー『ドミナリア』が終わって1週間ちょっと経ちましたね。栄冠はワイアット・ダービー/Wyatt Darbyと彼の「赤単アグロ」にもたらされました!
《ゴブリンの鎖回し》はプロツアーを支配したといっていいカードでしょう。トップ8プレイヤー8名の内、実に7名、しかも全員がデッキに4枚投入していたのです。《ゴブリンの鎖回し》が今後スタンダードで目の敵になるのは間違いないといっていいですが、このカードを用いたデッキは「赤単アグロ」、「赤黒アグロ」、「赤黒ミッドレンジ」等多岐にわたります。
プロツアーにおける私のデッキチョイスは「赤黒ミッドレンジ」でした。あまり良いところを見せられずに終わりましたが、プロツアー、Magic Online、そしてグランプリ・コペンハーゲン2018での結果を見る限り、《ゴブリンの鎖回し》の最高の居場所はこの「赤黒ミッドレンジ」だと考えています。そこで今日はこの結論に至った経緯と、プロツアー後のデッキ調整、そしていくつかプレイングのアドバイスとデッキのキーポイントをお話したいと思います。では前置きはこれくらいにしておいて、さっそく先に進んでみましょう!
赤いデッキのあるべき姿
プロツアーから帰還したあと、“スタンダード最強の赤系デッキは何か?”という問いの答えを探すことにしました。最も重要だと感じたのは、《ゴブリンの鎖回し》で死ぬクリーチャーを採用しないということで、これにより《ボーマットの急使》や《地揺すりのケンラ》をプレイすることは考えないようにしました。
他にも最近調整中に気付いたことがあります。それは、現在のスタンダードでは4ターン目がとても重要だということです。今の4マナのカードはかなり高いカードパワーを持っているので、4ターン目というのは試合の結果を左右するターンのように感じたのです (《反逆の先導者、チャンドラ》、《ウルザの後継、カーン》、《再燃するフェニックス》、《熱烈の神ハゾレト》、《残骸の漂着》、《天才の片鱗》等)。
こういった強力な4マナ域をより確実にプレイするために、デッキの土地の枚数は最低26枚必要だと感じました。《泥濘の峡谷》なら4枚採用してもマナフラッドにある程度耐性がありますし、《ピア・ナラー》や《屑鉄場のたかり屋》といったマナを注ぎ込む対象に加え、5マナ以上の重いカードもたくさん使うでしょうから問題ないでしょう。
実は最初に試したのは「赤単」でしたが、主に2つの理由からすぐに「赤黒」へ舞い戻ってきました。
最初の理由は《屑鉄場のたかり屋》が必須だということです。早い展開を可能にするだけでなく、《ウルザの後継、カーン》の「-2」能力の価値を高めることができ、コントロールデッキに対処を強いることができる強力なカードでもありますからね。
2つ目の理由は、《無許可の分解》です。「緑単」や「黒緑《巻きつき蛇》」は衰退気味 (グランプリ・コペンハーゲンでは16位以内に存在せず、プロツアーで8-2以上の成績を残したのは「緑単」が2種類のみでした)ですが、これらの緑系デッキは総じて「赤単」に有利なのです。理由は単純で、火力1枚で焼きづらいタフネス4のクリーチャーたち (《打ち壊すブロントドン》と《鉄葉のチャンピオン》)に加え、ほぼ対処不可能な《原初の飢え、ガルタ》まで入っているからです。
「赤単」は《原初の飢え、ガルタ》に対する解答を全く持っていないので、このカードに直面すると基本的にはそのままゲームオーバーとなってしまうのです。《無許可の分解》はこういったカードに対する確定除去として欠かせないと感じました。
そこで「赤黒ミッドレンジ」をプレイすべきだとすぐに確信しました。その後様々なリストを見てみた結果、最も気に入ったのは今回2度目のプロツアートップ8入賞を果たした瀧村 和幸さんのデッキです。
2 《沼》
4 《泥濘の峡谷》
4 《竜髑髏の山頂》
3 《燃え殻の痩せ地》
2 《霊気拠点》
-土地 (25)- 1 《歩行バリスタ》
4 《屑鉄場のたかり屋》
4 《ゴブリンの鎖回し》
2 《ピア・ナラー》
2 《再燃するフェニックス》
1 《熱烈の神ハゾレト》
3 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー (17)-
4 《削剥》
1 《無許可の分解》
1 《ヴラスカの侮辱》
1 《木端+微塵》
3 《キランの真意号》
3 《反逆の先導者、チャンドラ》
2 《ウルザの後継、カーン》
-呪文 (18)-
2 《大災厄》
2 《アルゲールの断血》
2 《ヴラスカの侮辱》
2 《木端+微塵》
1 《熱烈の神ハゾレト》
1 《チャンドラの敗北》
1 《魔術遠眼鏡》
1 《炎鎖のアングラス》
-サイドボード (15)-
スタンダードにおけるプレインズウォーカーは非常に強力なので、これらを多く採用することは目指すべきデッキの姿だと考えています。このリストを気に入った理由として最初にあげられるのはこの点で、3ターン目までに展開される相手のクリーチャーに対して除去で対応し、更地となったところで《反逆の先導者、チャンドラ》や《ウルザの後継、カーン》を叩きつければ、環境のほぼすべてのデッキに対してゲームエンドに近い状況を作り出せるのです。
他に気に入った要素としては、メインで採用された《熱烈の神ハゾレト》です。《熱烈の神ハゾレト》は一度戦場に着地すれば《ヴラスカの侮辱》以外での対処が非常に難しいですからね。今この除去を使うデッキは限られていて、「黒緑《巻きつき蛇》」、「青黒ミッドレンジ」、「青白黒 (エスパー)コントロール」の3種類以外にはほとんど見られません。遅いデッキを相手にすると《熱烈の神ハゾレト》の信頼性は攻守ともに低下しますが、別角度から対処を強いることを可能にしますし、4ターン目に攻撃できるような良い展開がやってくれば即座にゲームを決めてくれるでしょう。
このリストの主な問題点は、《損魂魔道士》が入っていないことです。私自身もプロツアーで採用を見送ったカードですが、後になって考えてみると大きな過ちでしたね。私たちのチームは「赤単」を「赤黒」の純粋な下位互換だと考えていて、プロツアーに向けて「赤単」を触ることはあまりしなかったのです。その結果、予想以上に多かった《熱烈の神ハゾレト》に対して、《損魂魔道士》は赤系デッキが持てる最高の対抗手段になると気づきました。それにこのカードは《ゴブリンの鎖回し》で死にませんし、《ボーマットの急使》を止めることができます。何といっても《ゴブリンの鎖回し》の強力な能力をさらに強化してくれますからね。
これまでの経緯を説明したところで、私の最新版「赤黒ミッドレンジ」のリストをお見せしたいと思います。
1 《沼》
4 《泥濘の峡谷》
4 《竜髑髏の山頂》
4 《燃え殻の痩せ地》
-土地 (26)- 4 《損魂魔道士》
4 《屑鉄場のたかり屋》
4 《ゴブリンの鎖回し》
1 《ピア・ナラー》
1 《再燃するフェニックス》
1 《熱烈の神ハゾレト》
2 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー (17)-
2 《強迫》
2 《大災厄》
1 《ピア・ナラー》
1 《遺跡の略奪者》
1 《再燃するフェニックス》
1 《熱烈の神ハゾレト》
1 《マグマのしぶき》
1 《木端+微塵》
1 《アルゲールの断血》
1 《霊気圏の収集艇》
1 《炎鎖のアングラス》
-サイドボード (15)-
ご覧の通り、プロツアーの時との主な違いは4枚の《損魂魔道士》と4枚目の《反逆の先導者、チャンドラ》、追加の土地、そしてサイドボードの一部です。Magic Onlineで試合を重ねた結果、このリストに落ち着きました。非常に驚いたのは《再燃するフェニックス》の制圧力の低さで、一時期はメインボードでの採用を見送っていたほどです。それでもこのカードは特に《キランの真意号》と《栄光をもたらすもの》に対して非常に有効で、緑系デッキにも効果的です。ですから、試合中に手元に欲しい一枚であるのは間違いないでしょう。ただ「青白」相手には良いところが全くなく、赤系のミラーマッチではどうかというと、スペルで除去してから《ゴブリンの鎖回し》で《エレメンタル》トークンを簡単に処理できます。
3ターン目にトリプルシンボルの《ゴブリンの鎖回し》をより確実にキャストするために、26枚目の土地には4枚目となる《燃え殻の痩せ地》を選択しました。このクリーチャーは非常に重要なので、3ターン目までは赤マナを出す土地以外はプレイすべきでないとすぐに気が付きましたね。
サイドボードについてお話しましょう。マッチアップと先攻・後攻に合わせてメインボードのカードを少し増量したかったので、《再燃するフェニックス》や《熱烈の神ハゾレト》、《ピア・ナラー》と《マグマのしぶき》を用意しました。
2枚目の《マグマのしぶき》は主にミラーや「赤単」、それに《屑鉄場のたかり屋》を採用しているデッキ相手の後攻で非常に有効です。「黒緑《巻きつき蛇》」を相手にしたときでも《ラノワールのエルフ》という良い的がいますね。
「白青」以外のマッチアップでは追加の《再燃するフェニックス》を、《ピア・ナラー》についてはほぼ「赤単」専用ですが、コントロールデッキ相手にもプレッシャーを与えることができます。2枚目の《熱烈の神ハゾレト》は先攻時、特に赤系ミラーと緑系のマッチアップで素晴らしいです。
残ったカードで異彩を放つのが《遺跡の略奪者》です。プロツアーではプレイしなかったカードですが、チームメイトの何人かが試したところかなりの活躍をみせたのです。3マナ域はマナカーブに良く合いますし、《ゴブリンの鎖回し》で死なない上《キランの真意号》に「搭乗」できます。それになんといっても「強襲」達成時にエンドステップで《闇の腹心》効果を得ることができますからね。このカードがスタンダードで活躍するときがやってきてとてもうれしいですが、「赤単」相手に相性が悪いのでメインデッキには採用したくありませんでした。それでもコントロール相手にはとてつもない活躍を見せますし、ミラーの先攻時でもなかなか役に立ちますね。
《霊気圏の収集艇》はいつでも一定の活躍をするカードという感じですが、何か劇的なことを起こせるものではないですね。《栄光をもたらすもの》や《再燃するフェニックス》、《キランの真意号》を上手く止めることができるのでかなり良いんじゃないかと思っていましたが、赤系デッキの大半がメイン+サイドで4枚《削剥》を採用していますし、前述のパワー4の飛行クリーチャーたちの攻撃をブロックしたあとに《ゴブリンの鎖回し》で破壊されるシナリオは容易に思い描けるのです。ただそれでも攻撃が2回通れば12点のライフ差をつけられるので、赤系ミラーではゲームを決めるだけの力があるといえますね。
《木端+微塵》は《栄光をもたらすもの》に対する追加の解答になり、特に後攻から入って終盤戦にもつれこんだ時は余ったマナを注ぎ込むのに最適です。《アルゲールの断血》はこのデッキではまだあまり試していないのですが、パワーレベルの高さは最近のトーナメントでの活躍を見れば明らかですね。たった2マナでゲームを決められる、コントロールデッキ相手に最高のカードの1つなのは間違いないでしょう。
《炎鎖のアングラス》は追加のプレインズウォーカーを用意したかったので採用しました。「赤黒」ミラーの先手で手堅い活躍を見せるほか、「青白」相手では「+1」能力により相手の手札をすみやかに枯渇させることができます。
《大災厄》はサイドボードの中でもっとも面白いカードではないでしょうか?どちらのモードも様々なマッチアップでかなり役に立ちそうですし、《熱烈の神ハゾレト》や《再燃するフェニックス》、《スカラベの神》に対する明確な解答となります。プレインズウォーカーが着地する前に手札から抜き去ることもできるので、おそらく後攻時の方が有効ですが、先攻時でも手堅いのは間違いないと思いますね。
《強迫》はコントロール相手専用として採用したカードです。「赤黒」ミラーでサイドインしている人たちもいますが、他に対処しなければいけないカードがたくさんあるので、私はミラーではそんなに強くないと思っています。《ヴラスカの侮辱》を採用していない都合上、プレインズウォーカーと戦うことも見据えて後攻の時はまあまあ良いかなとは思いますね。
最後になりますが、これを語らずして終わるわけにはいきません。2枚の《チャンドラの敗北》は大注目です。対象にとりたい相手がたくさんいるので可能な限り多く採用しようと試みましたが、3枚以上入れるとサイドボードがいびつになってしまいますね。赤系デッキ相手で主に《栄光をもたらすもの》と《反逆の先導者、チャンドラ》への解答として4枚欲しいところですが、ミラーで優秀な除去はすでにたくさん持っているので2枚が最適だという結論に達しました。
まとめと番外カードの紹介
では話をまとめましょうか。私はこのデッキを大いに楽しみましたし、今後このデッキは良い選択肢になると思います。特に《ボーマットの急使》がまた見られるようになればなおさらですね。ここで皆さんに是非試していただきたいカードがあるので、少し紹介しましょう。私はまだちょっと遊んでみただけですが、《最初の噴火》と《栄光の刻》をサイドボードに入れるのも良いのではないかと思っているのです。
《栄光の刻》が《再燃するフェニックス》と《熱烈の神ハゾレト》、それに《スカラベの神》対策なのはお分かりでしょう。色拘束の厳しい《ヴラスカの侮辱》と違いシングルシンボルなのでキャストがより簡単ですね。《最初の噴火》は5枚目の《ゴブリンの鎖回し》といった感じですが、それに加えて4ターン目に4マナスペルを2つキャストするということを可能にしてくれます (《反逆の先導者、チャンドラ》でマナを出せば《ウルザの後継、カーン》、《熱烈の神ハゾレト》、《再燃するフェニックス》等につなげられます)。まだこれらのカードを信頼できるほどテストしきれていないのが残念ですね。
この記事を楽しんでいただけたでしょうか?私のアイデアがこれからの大会で役に立てれば幸いです。
皆さんに幸運を、そしてマジックを楽しんでください。ではまた会うときまで!
読んでいただいてありがとうございます!
クリスティアン・カルカノ