By Kazuki Watanabe
プロツアー会場は、海外プレイヤーの話を直接聞くことができる貴重な機会だ。
この機会を活かし、今回のプロツアーで是非とも話を聞きたいプレイヤーが一人居た。
マッティ・クイスマ。
Hareruya Hopesの一員であり、グランプリ・バルセロナ2018の王者だ。そして、我々の元へ様々な記事を投稿してくれるライターでもある。
記事の中心にあるのは、“思考方法”。「生存バイアス」をマジックに当てはめて考えてみよう、攻撃は最大の防御、相手のデッキの構成を推測しようといった記事を読むと分かるように、彼は常に”どのように考えるべきか”を我々に訴えかけ、道を示してくれる。
そして、そういったマジックにおけるロジカルシンキングの技法は未だ体系化されておらず、言語化の難しい分野でもある。彼はなぜこれらの記事を書こうと思い至り、そして素晴らしい文章に落とし込んでいるのか? 早速、話を伺ってみよう。
思考を巡らせたものが勝利する
――「はじめまして。お会いできて光栄です」
マッティ「こちらこそ、はじめまして」
――「いつも記事を執筆していただき、ありがとうございます! あなたの記事は『考え方』に注目したものが多いですよね。どうやってあの素晴らしい記事の数々を生み出しているのですか?」
マッティ「ありがとう。僕は元々読書が大好きなんだ。主専攻はエネルギー工学なんだけど、数学や心理学について勉強することも好きで、ジャンルにこだわることなく様々な本を読むようにしている。すると、専門的な知識だけではなく、“基本的な思考方法”も学ぶことができるんだ。思考を積み重ねるマジックはもちろんだけど、様々なことに応用できることだよね」
――「その積み重ねの1つが、記事なのですね」
マッティ「そうだね。もちろん、実際にマジックをプレイしなければ分からないこともたくさんある。しかし、合理的な考え方はあらゆる場面で有効だ。例えば、数学の確率。カードを何%の確率で引けるか、というシンプルな計算も、知っているかどうかで大きな違いがある。特定の確率を下回った場合にどうするか、というのは危機管理能力が問われるよね」
――「たしかにそうですね。マジックのゲーム中は、様々なことを考えなければなりません」
マッティ「そのとおりだね。マジック以外の様々な要素が、マジックに応用できる。そして、マジックで培った考え方が他のことに応用できることもあるんだ。マナと手札を有効活用する能力は、その他の場面でも活かせるはずだよ。そういった視点を持って、しっかりと考えることを習慣にして、練習を続けるんだ」
――「なるほど。本当に読書や、考えることが好きなのですね」
マッティ「マジックは、思考を巡らせたものが勝利するゲームだ。デッキ選択もそうだよね。メタゲームを読んだ上でアーキタイプを決めて、細部に調整を加える。ゲーム中は選択の連続だ。マリガン、占術、どの土地からプレイするか、アタックすべきか。機械のように最適解を叩き出し続けることができれば良いけど、そういうわけには行かない。多少の運もあるし、対戦相手が居るからね。それでも、自分自身で考えられる部分に関しては、しっかりと考え抜いた上で決断すべきだ」
マッティ「時には賭けに出ることもあるけど、無謀な賭けと、計算した上での賭けでは価値が違う。限界まで思考を積み重ねて最後の数%を委ねるのか、一切の思考を放棄してすべてを天に任せるのか。仮に結果は同じでも、過程がまったく違うからね」
フィンランドのマジック事情 -Pro TourとPoro Tour-
――「では、少し母国であるフィンランドのマジックコミュニティについてお聞かせください」
マッティ「フィンランドでもマジックは人気だ。特に、モダンが盛んだね。毎週大会が開催されて、カジュアルプレイヤーからプロ志向のプレイヤーまで一緒になって楽しんでいる。アメリカのSCG Openのような大きな大会もあるんだ。”Poro Tour”って言うんだけど……これがプレイマットだよ」
――「Poro Tour……Pro Tourのパロディですね」
マッティ「そのとおり! Poroというのは、”トナカイ”という意味なんだ。プレイマットのイラストは毎年変わるんだけど、2018年のものは《Taiga》をイメージしているんだ。上位入賞者が招待される大会もあって、そこではアンコモン限定ハイランダーとか、基本セットだけを使用した特殊な大会も開かれている。とにかく毎年盛り上がるよ」
――「フィンランドにもとても素敵なコミュニティがあるんですね! 最後に、日本にもあなたのファンがたくさんいます。ぜひ、ファンの皆さんにメッセージをお願いします」
マッティ「改めて言葉にするのは少し恥ずかしいけれど、いつも読んでくれてありがとう。マジックは様々なことを学べるし、学んだことを活かせる素晴らしいゲームだ。これからも楽しんでもらえるような記事を書いて、『考えることの面白さ』と『マジックの奥深さ』を伝えたいと思っているよ。僕もまだまだ練習を積んで、思考を研ぎ澄ましていかなければいけない立場だ。その中で得たもの、学んだことは、なるべく魅力的な形で届けられるようにしたいね。もちろん、プレイヤーとして結果を残せるように頑張るよ」
――「ありがとうございました。次の記事も楽しみにしています!」
マッティ・クイスマの記事の魅力は、深淵な知識量に裏付けされていた。一見マジックとは無縁に思える数学や心理学といった領域の学問も、彼の技術の一部として取り込まれているのだろう。
困ったことに、彼について少しだけ知ったことでますます次回の記事が待ち遠しくなってしまった。遠く離れたサンタクロースの国、フィンランドの地から再び素敵な記事が届くのを楽しみにしたい。
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