7月5日に開催された「レガシー神決定戦」。
国内最大級300名のレガシートーナメント、他に類を見ないほど強豪揃いのトップ8という苛酷な条件の中で、頂点に立ち「レガシー神」の称号を獲得したのは、《精神を刻む者、ジェイス》に誰よりも愛された男だった。
ついに誕生した3人目の「神」。その名は。
川北 史朗(東京)。
レガシーといえば古強者ばかりが揃った、3つの中でも最もカードパワーが高いフォーマット。
しかも「エルフマスター」高野 成樹、「日本代表」日下部 恭平、そして「The Last Sun2013」でもトップ4に入賞した「のぶ」こと斉藤 伸夫と、レガシー界でも選りすぐりの強豪プレイヤー3名を立て続けに破っての優勝。
そんな圧倒的なパフォーマンスを見せた川北という人物……いや、新たなる「神」。
彼は一体何者なのか、「神インタビュー」しないわけにいかないだろう。
川北という人間がマジックと歩んできた足跡。
そしてその強さの理由とは。
川北とマジック:ザ・ギャザリングとの出会い
--「川北さんはいつごろマジックを始められたんですか?」
川北 「インベイジョンからですね。昔立川に『ロータス』というカードショップがあって、そこに友達が出入りしてたんです。彼に誘われて始めました」
--「川北さんといえば結構フルFoilのデッキを使っているというイメージがあるんですが、その頃からFoil好きだったんですか?」
川北 「いえ、最初はそうでもなかったです。その頃は普通のカードで弱いデッキを使って、勝ったり負けたりしてました」
--「Foilに目覚めたきっかけは何だったんでしょうか?」
川北 「Foilを集めだしたのは『ミラディン』が発売されてからですね。『親和』ってデッキがあったじゃないですか。このデッキにとにかく惚れ込んじゃって、このとき初めてデッキをフルFoilにしました」
「Foilを集める、デッキをFoilにするのには、一体どういった理由があるんでしょうか?」
川北 「気に入ったデッキがあったら、Foilにするとより愛着が生まれるんですよね」
--「確かに自分の手札を見てるだけでも顔がほころんでしまいそうです」
川北 「それから『神河』ブロックでマジックを1回引退しちゃったんですけど、そのときも『親和』のフルFoilは好きすぎて手元に残しておくほどでした」
レガシーへの参入
--「一旦マジックをやめた川北さんが、再びマジックを再開したきっかけは何だったんでしょうか?」
川北 「ずっと手元で温めていた『親和』が使えるということで、立川の『ファミコンくん2号店』というお店でレガシーの大会に出たことがきっかけですね。そのときは決勝でベルチャーに負けて、『レガシーってすげー』ってなりましたw」
--「それからレガシーの魅力に取りつかれたと」
川北 「そうですね。大好きな『親和』が使えるのはもちろんですが、社会人になってからはスタンダードはなかなかやる時間がとれなくて。その点レガシーはローテーション落ちがなくてカードの値段が下がらないですし、ちょっと休止してもいつでも戻ってこれるので、社会人に優しいフォーマットですよね」
--「川北さんはレガシーではずっと『親和』を使ってらしたんですか?」
川北 「はい。というのも、『ミラディンの傷跡』で《刻まれた勇者》が出て、一時期はこいつに《頭蓋囲い》がつくだけで勝てたんですよね。AMC(Ancient Memory Convention)でも2回も優勝したりして。大好きな『親和』で勝てるので、使い続けてました」
--「ところが、風向きが変わってきたと」
川北 「最初は《終末》でしたね。《刻まれた勇者》の能力を無視できる1マナのインスタント全体除去の登場で立ち位置が怪しくなって、その後《突然の衰微》の登場でレガシーの『親和』は完全にオワコン化してしまいました」
--「それから川北さんは何のデッキを使ってらっしゃるんでしょうか?」
川北 「色々ですね。『親和』ほど気に入るデッキはなかなかなくて……とりあえず基本的に青が好きなので、『親和』を使わなくなったときにレガシーの主な青絡みのカードのFoilは大体集めましたw」
--「1年ほど前、晴れる屋トーナメントセンターオープン記念レガシー杯ではDeathbladeで優勝されていましたね」
川北 「Blade系を使いだしたのは、エターナルフェスティバル11で優勝した国吉さんが使用されていたEsper Bladeに影響を受けてのことですね。アドバンテージがとれるカードしか入っていないので、回していて気持ちが良いデッキでした」
--「しばらくはBladeだけ使っていたんでしょうか?」
川北 「いえ、実は《実物提示教育》にも浮気しましたw 一時期BUG系が死滅して、ハンデスをあまり撃たれない環境だったので……ただ9回戦とかの長丁場になるとコンボはあまり使いたくないですね。長丁場になるとコンボは1回は事故って負けるので、安定しているフェアなデッキの方が良い印象です」
「親和???」ができるまで
--「今回『レガシー神決定戦』に出場しようと思った経緯はどんな感じだったんでしょうか?」
川北 「やっぱり国内で開かれるレガシーの大きな大会には出ておきたいなと思って。グランプリのサイドイベントのレガシートーナメントとかは、方々から人が集まる貴重な機会なので欲しいFoilをトレードしてもらったりしててあまり出られないので、そういう意味でこの『神決定戦』はありがたかったですね」
--「川北さんはミラクルというデッキを選択されていましたが、これはどのような理由によるものなんでしょうか?トップ8プロフィールには『デルバーに強いから』とありますが」
川北 「あれは間違いでしたw 《秘密を掘り下げる者》デッキはクロックも早くて、どうしても《終末》を撃たされる感じになってしまう上に『奇跡』への妨害手段も豊富なので、そこまで相性は良くないと思います。どちらかといえば『《死儀礼のシャーマン》に強いから』が正しいですね」
5 《島》 2 《平地》 3 《Tundra》 2 《Volcanic Island》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《沸騰する小湖》 1 《乾燥台地》 1 《秘教の門》 1 《Karakas》 -土地(23)- 3 《瞬唱の魔道士》 2 《ヴェンディリオン三人衆》 -クリーチャー(5)- |
4 《剣を鍬に》 4 《渦まく知識》 2 《呪文貫き》 1 《対抗呪文》 3 《天使への願い》 1 《議会の採決》 4 《Force of Will》 3 《終末》 3 《相殺》 4 《師範の占い独楽》 3 《精神を刻む者、ジェイス》 -呪文(32)- |
3 《紅蓮破》 2 《摩耗/Wear》 2 《安らかなる眠り》 1 《青霊破》 1 《白鳥の歌》 1 《狼狽の嵐》 1 《赤霊破》 1 《対抗呪文》 1 《至高の評決》 1 《仕組まれた爆薬》 1 《大祖始の遺産》 -サイドボード(15)- |
--「なるほど。ミラクルは死儀礼に対して強いから選択した、と」
川北 「《死儀礼のシャーマン》というカードは単体ではクロックが足りないので、2体目のクリーチャーを追加せざるをえないんですよね。なので《死儀礼のシャーマン》が入っているデッキに対しては《終末》による1対2交換が実質保障されているというのが大きいです。また、《死儀礼のシャーマン》デッキは《不毛の大地》を採用していることが多いですが、ミラクルというデッキは基本地形が多くて《不毛の大地》に対して強いので、その意味でも相性が良いです」
--「つまり川北さんは《死儀礼のシャーマン》を使ったデッキが多いだろうと考えていたんですね」
川北 「そうですね。BUGとジャンドが多いんじゃないかと思っていました」
--「ミラクル対ジャンドはジャンドの方が有利なのかなという印象を持っていたんですが、そうではないんですね」
川北 「私は経験的にですけど、ミラクルの方が有利だと思ってます。何といっても土地と《師範の占い独楽》だけ並べてゆっくりしてれば、どこかでエンド前に《天使への願い》X=3を『奇跡』するだけで勝てちゃいますからね。もしミラクルでジャンドに勝てないという方がいれば、『《天使への願い》につなげる』ということをもっと意識してゲームプランを立てるといいと思います」
--「川北さんのレシピには《天使への願い》が3枚入っているというのも大きいかもしれませんね。このレシピはご自分で調整されたんですか?」
川北 「いえ、実はミラクルを大きな大会で使うのは初めてで勝手がわからなかったので、レシピはSCGから良さげなものをもらってきましたw ジャンドに勝ちたくて《天使への願い》の3枚目を追加した感じです」
川北、神に挑む
--「『レガシー神決定戦』当日の話に移りますが、やっぱり川北さんのメタ予想が当たった感じだったんでしょうか?」
川北 「いえ、実はそうでもなかったです。ジャンドをメタっていったのにジャンドには1回も当たらなかった有様で……」
--「それでもトップ8には残られたのはさすがですね。予選ラウンドでは誰に負けたんですか?」
川北 「高野さんのエルフですね。《天使への願い》が《終末》だったら勝っていた場面もあって、《終末》を3枚にしたことを後悔しました」
--「準々決勝ではきっちりリベンジを果たしましたね」
川北 「やはりミラクルというデッキ自体がエルフに有利なのが響いたと思います。それでも準々決勝1戦目はこの日一番危ないゲームでしたね。《天使への願い》をライブラリ操作なしで2回も『奇跡』できたおかげですが、正直ツイてました」
--「素で『奇跡』2回はまさしくミラクルな勝ち方ですね。とすると一番印象的だったのは準々決勝ということになるんでしょうか」
川北 「いえ、決勝ラウンドはどれも印象的でした。何といっても対戦相手が高野さん、日下部さん、斉藤さんと、滅茶苦茶厳しい当たりでしたから……」
--「その後準決勝、決勝とミラクル同型対決が続きましたが、このあたりは意外と楽に勝てたということでしょうか?」
川北 「そうですね。ベスト8入りが決まった後に、立川で1番か2番にうまい『ツボさん』とミラクル同型をスパーして、サイドのインアウトやゲームプランをあらかじめ練習できたのが大きいです。正直デッキの完成度では日下部さんや斉藤さんに負けていたと思いますよ。日下部さんのサイドの《石鍛冶の神秘家》は、トップ8後のリストが公開じゃなかったらきっと《剣を鍬に》をサイドアウトしてやられていたでしょうし、斉藤さんのレシピも、私のレシピの《呪文貫き》の部分が《対抗呪文》になっていたりメインに《紅蓮破》を1枚差していたりと、すごく調整されていました」
--「具体的な勝因をあえて挙げるとすれば、何だったんでしょうか?」
川北 「サイド後のゲームプランの違いですね。例えばなんですけど、ミラクル同型のサイド後で《青霊破》って強いと思いますか?」
--「《紅蓮破》しか刺さるカードないし、微妙そうだなと思います」
川北 「そうですね。でも私は《議会の採決》よりは強いと思って、《議会の採決》を抜いて《青霊破》を入れたんです」
--「《相殺》も《精神を刻む者、ジェイス》も対処できる《議会の採決》をですか!それは思い切ったサイドプランですね」
川北 「ミラクル同型の肝って3つあると思うんですよ。1つ目は《相殺》と《師範の占い独楽》をめぐるゲーム。2つ目は《精神を刻む者、ジェイス》で、3つ目はこれは数は少ないですが、《天使への願い》でまくるというパターン。このうち1つ目と2つ目、どちらの場合でも《議会の採決》は『一旦その状態を作られてから抜け出すためのカード』であって、『自分がその状態を作るためのカード』ではないわけです。それってあまり強くないなって思って。対して、《青霊破》なら最悪《Force of Will》のコストとして切れますしね」
--「なるほど、対処するカードよりも自分がマウントを取りにいくためのカードを優先してサイドインしたわけなんですね」
川北 「そうです。スパーの結果《摩耗+損耗》すらサイドインしない方がいいと私は思って、日下部さんのときも斉藤さんのときもそういうサイドでやったらうまくハマって。斉藤さんとの決勝2本目なんかは《解呪》を腐らせて勝てたんで、これが絶対的に正しいかどうかはわかりませんが、少なくともあの時点では正解だったな、と思いました。あとはまあ《精神を刻む者、ジェイス》を引いたタイミングが完璧でしたね」
--「この日一番活躍したカードを挙げるとすれば、やはり優勝写真でも抱えていた《精神を刻む者、ジェイス》でしょうか?」
川北 「間違いなく《精神を刻む者、ジェイス》ですね。毎回良いタイミングで駆けつけてくれました」
--「もしかして決勝戦で斉藤さんとの決定的な差を生んだのはサイドプランでもなんでもなくて、『川北さんの《精神を刻む者、ジェイス》が日本語Foilだった』ということだったりしませんか?」
川北 「そうかもしれませんねw やはり『信心』の差が出たのかなーとw」
--「改めて、優勝および第1期『レガシー神』就任おめでとうございます」
川北 「ありがとうございます!」
レガシー神、川北史朗のこれから
--「そんなわけで川北さんは神になられたわけですが、次なる目標は何でしょうか?」
川北 「とりあえずはレガシー神の座を維持することですね。実は昔レーティングシステムがまだあった頃、レガシーの日本レーティング1位だったんですよw でも今はレガシー人口も増えましたし、凡ミスが多くて『レガシー全一』とはまだまだ名乗れないので、レガシーの1番を目指すために、次の神決定戦(防衛戦)はできれば勝ちたいなと」
--「スタン神やモダン神を奪取して3神制覇とかは考えていないと」
川北 「スタンやモダンになると経験の差で全然勝てませんからね。あ、あと別の目標として、最終的には『デッキの全日本語Foil化&全ベータ化』というのがありますw」
--「そこまでくるともはや究極のデッキ愛ですねw」
川北 「それとデッキビルダーとしていつかは、オリジナルでレガシーのTier1に入るようなデッキが作りたいです。かつてのレガシーの『親和』は、《霊気の薬瓶》が入ったタイプだと私くらいしか使ってなくて結構それに近かったんですけど、やっぱりちゃんと自分のデッキがトップメタとして定着して欲しいですね」
--「それは良い目標ですね、是非頑張ってください。それでは最後に、何か一言あれば」
川北 「それじゃあ最後にこれだけ言わせてください。『古川さん(GP京都13トップ4)のおかげで勝てました!』」
ついに3人の『神』が出揃った。
彼らは頂にて待っている。自らを打ち倒さんとする挑戦者たちを。
次なる『神』は、あなたかもしれない。