MOCS3レポート

伊藤 敦



 【Super Crazy Zoo調整録】で予告したとおり、MOCS3(正確には、Magic Online Championship 2015 Season3 Final)に出場してきた。

 市川 ユウキや覚前 輝也をはじめとして、今や多くのトッププロたちはマジックオンラインから輩出されている。

 現実のマジックでは対戦相手の都合などで決して有効活用できない、深夜や早朝といった時間帯すらも、オンラインならば自由に練習し放題だ。彼らはそうして睡眠を削り、時にリアルを犠牲にしながらも、世界のプレイヤーと対等に戦える構築力とプレイングを磨き上げてきた。

 ほとんど見返りのない電脳世界でのゲームに、膨大な時間を捧げる。

 そんな廃人たちの「最強」を決めるトーナメントが、【MOCS】なのだ。



 MOCS Season Finalは月1回開催され、各回の優勝者は年1回のMOCS本戦に出場することができる。

 かつてyaya3(八十岡 翔太)(【2009年】)、Archer.(浅原 晃)とrizer(石村 信太朗)(【2010年】)、SEVERUS(彌永 淳也)(【2011年】)といったトッププレイヤーたちも挑戦したことがある大会だ。

 私自身も、【あと一歩のところまでは辿りついた経験】がある。

 2012年のMOCS Season11 Final、その決勝戦。

 今でも忘れられないその戦いは、当時MOCSのプロモーションに熱意を持っていたWizardsによって動画化されている。





 スイス11回戦を10-1で乗り越え、準々決勝、準決勝と勝利して辿りついた決勝戦で、あろうことか私は負けた。

 その悔しさ、そのときのやるせない感情は、正直なところ今となっては思い出せないのだが、ただ筆舌に尽くしがたかった、ということだけは覚えている。

 それからというもの。

 MOCS本戦への出場は、私の目標の1つになった。



 とはいえ、MOCS Season FinalのフォーマットはSeasonごとに変わる。

 ブロック構築が事実上消滅した今、レガシーをやらず、スタンダードもあまり追いかけなくなって久しい私にとって、チャンスはリミテッドか、モダンしかなかった。

 2015年に入り、Season1(スタンダード)、Season2(『運命再編』入りリミテッド)と凡庸な成績で終わった私だったが、Season3のフォーマットはモダン

 しかも【Super Crazy Zoo】という稀代の相棒があった。

 1年のうちで、お気に入りだと思えるデッキと出会える機会は何回あるだろうか。

 今回の私にはそれがあった。最大のチャンスと言っていい。なのに。



 私は、負けた。

 決勝どころかトップ8など望むべくもない、ギリギリ勝ち越しという程度の成績で。

 しかも、それだけならまだいい。ただ【Super Crazy Zoo】が弱かった、というだけの話なのだから。

 問題は、私自身のプレイミスでトップ8の可能性を逃してしまったという点にある。

 【Super Crazy Zoo】は期待以上の働きをしてくれた。

 にも関わらず私はその働きに応えるどころか、足を引っ張りすらしてしまったのだ。

 悔やんでも悔やみきれない。

 【Super Crazy Zoo】が世界により高く羽ばたくチャンスを、自ら潰してしまったのだから。

 それでも、せめて。

 せめて自分への戒めとして、今回MOCS3の対戦レポートを動画付き(優勝して動画付きレポートにする予定だったのだ)で残すことにする。

 【Super Crazy Zoo】を実戦で使用したいという方の参考(サイドボーディングなどは【Super Crazy Zooのまわし方】に書いてある)になれば幸いだ。




■ 第1回戦 対 緑単感染




Game 1

 1ターン目《死の影》から《強大化》《ティムールの激闘》先手3キル


Game 2

 相手が先手マリガン。《ギタクシア派の調査》で安全確認しつつ、《強大化》《ティムールの激闘》後手3キル


強大化ティムールの激闘


○○ Win


1-0



■ 第2回戦 対 タルモツイン




Game 1

 後手2ターン目《死の影》への《瞬唱の魔道士》《炎の斬りつけ》《強大化》でかわして攻める。

 後手4ターン目のアタックで相手のライフを1にして赤赤を出せない状態になり、返しで《稲妻》《電解》トップ条件を引かれずに勝ち。


Game 2

 相手が先手マリガン。《思考囲い》《タルモゴイフ》を抜き、《渋面の溶岩使い》《稲妻》で処理してクロックを残す。後手4ターン目に都合良くトップした《変異原性の成長》《稲妻》をかわしつつ《強大化》《ティムールの激闘》叩き込んで勝ち。


○○ Win


2-0



■ 第3回戦 対 アブザンジャンク




Game 1

 先手で《ステップのオオヤマネコ》《死の影》《死の影》と並べる。

 3枚目の土地が引けずに《死の影》が1/1のまま殴る格好になるが、ライフが減ると2体の《死の影》が育つので相手が《包囲サイ》を不用意に出せず、仕方なく効果の薄い《ヴェールのリリアナ》を出した返しでフェッチを引き込んで勝ち。


Game 2

 相手が先手ワンマリ。後手2ターン目の《思考囲い》《大渦の脈動》を抜き、《突然の衰微》《突然の衰微》《未練ある魂》と抱えた相手を《わめき騒ぐマンドリル》で撲殺。


思考囲いわめき騒ぐマンドリル


○○ Win


3-0



■ 第4回戦 対 アブザンジャンク




Game 1

 先手。


ギタクシア派の調査ギタクシア派の調査ギタクシア派の調査ミシュラのガラクタ
稲妻強大化ティムールの激闘


 キープして5ドローで土地引けず負け。


Game 2

 相手が後手2ターン目に《突然の衰微》《タルモゴイフ》かの2択で前者を正しく選んできて、クリーチャーがいなくなって《強大化》《ティムールの激闘》が決められずに負け。


×× Lose


3-1



■ 第5回戦 対 ストーム




Game 1

 向こうがドロースペル撃ってる間に先手3キル


Game 2

 《思考囲い》引けずに《野生のナカティル》《死の影》で普通に殴り合って、自分でライフ減らしたところに《稲妻》《炎の中の過去》《稲妻》《ぶどう弾》で負け。


Game 3

 ここがこのトーナメントの分岐点だった。

 《野生のナカティル》《野生のナカティル》《思考囲い》というパーフェクトハンドをキープした、先手2ターン目。




 《血清の幻視》《魔力変》《捨て身の儀式》《ギタクシア派の調査》

 この4択で、何を落とすか?





 私は考えた。

 ここから負けるとしたら、ドローで《ゴブリンの電術師》《紅蓮術士の昇天》《巣穴からの総出》に辿りつかれるパターンだろう、と。

 だからドロースペルさえ落としてしまえば、対戦相手はドローを運に任せざるをえず、こちらの有利は動かないだろう、と。

 そして私は《血清の幻視》を選択した。



 





 そして返しで、《血染めの月》をトップされて負けた。


捨て身の儀式血染めの月



 もちろんストームのサイドに《血染めの月》が入っていることは知っていた。ただこの瞬間だけ、「返しで《血染めの月》をダイレクトに引かれる」というパターンを想像から外していたのだ。

 「最も都合の悪いパターンを切り捨てる」ことは、マジックにおいては重要なスキルだ。「どうせ負けるパターン」ならば考えても仕方がない。ならばそのパターンのことは最初から諦め、残りのパターンで最も勝率が高いラインを取るということも、時には重要になる。

 だが、それは本当に「どうせ負けるパターン」なのか?

 プレイング次第でケアできるパターンではなかったか?

 実際このときの手札は、《捨て身の儀式》を落として次のターンの対戦相手の行動を《血清の幻視》一本に絞ってさえいれば、残りマナは1マナしかないので相手はいずれにせよコンボスタートできず、したがってこちらはフリーな3ターン目を迎えられるので、2枚目の《思考囲い》を叩き込みつつ、ドロー次第ではさらに《強大化》まで撃てる、という状況であった。

 なのにこのとき私は、《血染めの月》を出された後ですら、対戦中は己の間違いに気づかなかったのだ。



 対戦が終わってゲームを思い返したとき、ようやく私は自分のミスに気がついた。

 【Super Crazy Zoo】は最高のドローを手渡してくれていたのに。

 私はミスでトップ8の可能性を自ら潰してしまっていた。

 またか。またダメだったのか。

 失意のあまりにドロップしたい衝動に駆られながらも、わずかに残るトップ8進出の可能性に賭け、私はトーナメントを続行することにした。


○×× Lose


3-2



■ 第6回戦 対 親和




Game 1

 ヌルキープで盤面詰みになるが、1/2の《僧院の速槍》のアタックをライフ19点の相手が《刻まれた勇者》でブロックしなかったので奇跡的に勝利。


Game 2

 《死の影》2体並べたのに相手が構わず全力でダメージレースしてきて、11/11の《死の影》2体が殴って勝ち。


○○ Win


4-2



■ 第7回戦 対 マーフォーク




Game 1

 先手、《広がりゆく海》の返しで《強大化》《ティムールの激闘》3キル


Game 2

 相手が先手マリガン。2ターン目《虚空の杯》、3ターン目《潮縛りの魔道士》で場に出てた《野生のナカティル》止められて完封されて負け。


Game 3

 相手が後手マリガン。《ミシュラのガラクタ》ドロー→2ターン目の通常ドロー→フェッチ後の《通りの悪霊》サイクリングが全部フェッチだった上、4/4の《死の影/Death’s Shadow》《四肢切断》で処理され、最後のドローもフェッチで負け。


○×× Lose


4-3



■ 第8回戦 対 No Pod




Game 1

 相手が先手マリガン。《根の壁》からの《テューンの大天使》《強大化》《ティムールの激闘》で乗り越えて勝ち。


Game 2

 《思考囲い》で手札見たら《呪文滑り》《召喚の調べ》《根の壁》《ガヴォニーの居住区》があって、《死の影》ビート以外で乗り越えられなさそうな感じだったけど引けなかったので投了。


Game 3

 《思考囲い》2連打で除去と《召喚の調べ》を落としたら相手がフラッドしてトップ合戦になるも、2枚目の《死の影》を引く前に《未練ある魂》に辿りつかれて負け。


○×× Lose


4-4



■ 第9回戦 対 アブザンジャンク




Game 1

 相手が先手で《思考囲い》《タルモゴイフ》《未練ある魂》のブン。さらに《突然の衰微》まで持たれてて負け。


Game 2

 《思考囲い》《思考囲い》抜いて、《タルモゴイフ》の返しで《強大化》《ティムールの激闘》3キル


Game 3

 《呪文滑り》出されたけど《死の影》《わめき騒ぐマンドリル》ビートモードだったので支障なく、向こうがクロック引く前にブロッカーの群れを乗り越えて押し切って勝ち。


×○○ Win


5-4





 最終成績、5-4。

 しかし私はこれが【Super Crazy Zoo】の実力だとは思っていない。

 プレイヤーとしての私の実力がこのデッキのポテンシャルに追いついていなかっただけだと、そう考えている。



 残念ながら今回は【Super Crazy Zoo】の強さを世界に知らしめることはかなわなかった。

 だが、今後も機会がある限り挑戦し続けようと思う。

 それではまたどこかの記事で会おう。