第3期モダン神決定戦: 砂田 翔吾(神奈川) vs. 市川 ユウキ(神奈川)

晴れる屋


By Kazuya Hirabayashi


「勝負とは戦う前に全てが決定している」

この言葉が一番当てはまるのがこの神決定戦だろう。


コンボはビートダウンに強く、ビートダウンはパーミッションに有利。

パーミッションはコンボには負けないなど、とかく「じゃんけん」に例えられるメタゲームだが、こと神決定戦においてはまさしくじゃんけんそのもの。

【第2期モダン神決定戦】で小堺のバーンを砂田のソウルシスターズがいともたやすく3-0で葬り去ったように、相手の出す手を読み切ることさえ出来れば勝つことは容易である。

相手は何を使ってくるのか?それを受けて自分は何を使うべきか?

その読み合いこそがこの神決定戦の醍醐味だ。

伏せられたカードの中身、それを見る瞬間。

ある意味そのために用意されたイベントだと言ってもいいかもしれない。





確かに《ゴブリンの先達》により《平地》が捲られたときほどのインパクトは無かった。

だが確実にその瞬間は存在した。

“第2期モダン神”砂田 翔吾と”プラチナレベルプロ”市川 ユウキの運命が決まるその瞬間が。





セット《沼》からの《コジレックの審問》

コジレックの審問


明かされた手札は― 



Game 1


ダイスロールにより市川が先手を取る。長い3本先取とはいえ、先手有利には変わらない。

対して砂田はダブルマリガン。

繰り返し土地1枚の手札が来てしまっては選択肢も無かった。


そしてゲームは冒頭へと戻る。

市川の《コジレックの審問》により互いのデッキは明かされた。

公開された砂田の手札は以下だ。

2《ウルザの鉱山》
《ウルザの魔力炉》
《解放された者、カーン》
《古きものの活性》


この時点で判明したのは市川がBG系のデッキを持ち込んだということである。

そして砂田の選択はトロン。





市川の《コジレックの審問》《古きものの活性》を落とし、第2ターンには《タルモゴイフ》

BG系お得意の妨害からの迅速なクロック。早くも勝ちパターンを作り上げる。



市川 ユウキ 


砂田は引いてきた《彩色の宝球》を次の《彩色の宝球》へとサイクリングすることしか出来ず、市川が《稲妻》、2体目の《タルモゴイフ》と動くのを見ていることしか出来ない。

2体の《タルモゴイフ》がアタック、そして《稲妻》

市川の迅速なる先手5ターンキル。


砂田 0-1 市川




市川 「日曜以来マジックしてないから急にバスケと言われそうで(笑)」





【プロツアー『ニクスへの旅』】【プロツアー『マジック2015』】と立て続けのプロツアーベスト8入賞、獲得したプロポイントにより一躍プロ最高レベルのプラチナレベルに登り詰めると、【世界選手権】も上位入賞、国内開催のグランプリも2連続ベスト8と「瀬畑旋風」を巻き起こした一年。

スポンサードされているBIGMAGICシャツを着た市川の動向は、もはや日本中で注目の的である。

見る者を楽しませる豪快な発言、そして確かな結果を残す実力。まさしくプロそのものだ。


そして「松本ハーレー」で挑戦権を勝ち取った市川の選択はジャンドだった。

BG系のデッキは構造上死角が少ない。


市川 「ジャンドはメタるデッキはあってもメタるカードが無いので」

まさにその通りだ。有利が付くデッキはあっても不利が付くカードらしいカードはあまり無い。


さらにBG系デッキの難しさ、勝率は主にサイドボードの選択肢に依存する。

市川 「僕がBG系、双子を使うキャラなので、おそらくミラーマッチにはしてこないと考えました。」

この読みの鋭さたるや。


プロツアー『タルキール龍紀伝』、グランプリ京都、ニコニコ超会議とイベント続きの中でも、事前準備に余念は無かった。

市川 ユウキ、恐るべしである。

市川 「ほんとは【アミュレットブルーム】を使いたかったんだよね(笑)」









Game 2


今日は《解放された者、カーン》様のご機嫌斜めか、砂田は再び土地1枚の手札を手に苦悩する。

《探検の地図》が2枚。土地が2枚。だがその1枚が《ウギンの目》では。

再びマリガンからのスタートとなってしまう。


砂田が《ウルザの魔力炉》から《彩色の星》で立ち上がると、市川は1本目同様第1ターン《コジレックの審問》から。

《精霊龍、ウギン》
《解放された者、カーン》
《古きものの活性》
《探検の地図》

小考の後、《古きものの活性》が落とされる。


ここで砂田は《ウルザの鉱山》をトップデッキすると《探検の地図》をプレイ。

第3ターンでの「ウルザトロン」条件達成を確定させ、市川の動きを待つ。



砂田 翔吾 



だが市川のジャンドは並のBGとは違った。

《思考囲い》《解放された者、カーン》を抜き、直接《ウルザの塔》をトップデッキされた場合にも備えると、《探検の地図》起動で予定通りウルザ地形を揃えたもののマナが足りずターンを返す砂田に差し向けるは《大爆発の魔道士》


大爆発の魔道士


砂田はウルザ地形の恩恵を受けられず、《大祖始の遺産》をプレイしてターンを返すことしか出来ない。


そして登場する《ヴェールのリリアナ》

このプラス能力を前に砂田としては《大祖始の遺産》を起動するしかないのだが、ここに《コジレックの審問》、続くターンに《コラガンの命令》と連打されて砂田は全ての手札を失ってしまう。


市川が《コラガンの命令》により回収された《タルモゴイフ》《闇の腹心》をプレイする頃には《ヴェールのリリアナ》が奥義を発動。

マナ基盤をずたずたにされた砂田、そのドローステップには悪魔の如き《コラガンの命令》が。

ヴェールのリリアナコラガンの命令


市川 ユウキの完全な世界。


砂田 0-2 市川



あのバーン殺しから5ヶ月。

砂田 翔吾は再び神決定戦のフィールドに立っている。

かつては挑戦者、今は”第2期モダン神”として。




この「神決定戦」は特殊なマッチ形式だ。

必要なことは敵を知り己を知るということ。

相手の手を読むということは、すなわち相手も同様にこちらの手を読むのだから。

そして一歩間違えるとパラドックスに陥る思考に、何らかの結論を導き出さなければならぬ。


結論を出すということは、自身の読みに賭ける行為に他ならない。

有利不利の未来がその時点で確定しまうのだから。これはまさしくギャンブルそのものだ。


冒頭で「神決定戦」をじゃんけんに例えたが、これまで「神決定戦」に出場したプレイヤーの中でも、この「じゃんけん」に最も精通しているのはおそらく砂田 翔吾で間違いない。

大胆な予想と、エンターテイメント精神に富んだベットによって。

この時点においても、少なくとも市川の選択がフェアデッキであるという予想は当てているのだから。



互いのサイドボーディング
無し



Game 3


ここに来てようやく砂田は初手をキープする。

《ウルザの鉱山》
《ウルザの塔》
《燃え柳の木立ち》
2《森の占術》
《忘却石》
《彩色の星》

一方の市川はマリガン。砂田、流れを持ってこれるか。


砂田が《ウルザの鉱山》から《彩色の星》を置いてターンを返すと、市川は《怒り狂う山峡》をタップイン。

これまで市川のアクションが必ず《コジレックの審問》から始まっていたことを考えると、単純な手札状況のみならず展開が砂田有利になっているように見えてくる。


そして砂田は手札そのまま第2ターンに《森の占術》《ウルザの魔力炉》を。

揃えただけで《大爆発の魔道士》に阻まれた2本目とは異なり、完全にフリーな第3ターンを確約させる。

ウルザの鉱山ウルザの塔ウルザの魔力炉



市川が《闇の腹心》のみでターンを返したため、《ワームとぐろエンジン》でも《解放された者、カーン》でもやりたい放題になる……!

が、砂田は初手とさほど変わらず有効なカードが引き込めていなかった。

《大爆発の魔道士》を考えてウルザ地形を揃えるか逡巡するも、ひとまず揃えて《忘却石》《大祖始の遺産》と並べてターンを返すことに。


《古えの遺恨》。手札破壊を持たない市川が持つ妨害手段はアーティファクト破壊だった。

まずは《大祖始の遺産》に差し向け起動を強要すると、返すフラッシュバックで《忘却石》を破壊。

揃ってしまったウルザ地形にこそ干渉できないものの、なればこそビッグアクションを持たない砂田の行動を阻害しにかかる。


これが功を奏したか、続くターンに砂田はただウルザ地形を並べることしか出来ない。

だが市川も《闇の腹心》で引き増ししているにも関わらず、ただ《闇の腹心》で攻撃するのみ。

ゲームの焦点は市川がマナベースへの攻撃手段を引き当てるか、砂田がフィニッシュブローをトップデッキするかという部分に絞られた。


という状況で砂田が引いてきた《彩色の星》を「緑マナ」宣言でドローに変換すると、そこには《古きものの活性》が。

見えたカードは《ワームとぐろエンジン》《解放された者、カーン》・・・・

《精霊龍、ウギン》

精霊龍、ウギン


少々やり過ぎなラインナップから導かれるは当然の《精霊龍、ウギン》

その《幽霊火》《闇の腹心》を葬り去ると、市川が出来たことは《精霊龍、ウギン》《稲妻》を放つことのみ。

引いたカードを確認すると・・・・投了。

やはり《精霊龍、ウギン》の忠誠度は高すぎるか。


トロンらしい大味なトップデッキで砂田が取り返す。





砂田 1-2 市川



砂田は市川のデッキを「BG系か双子コンボ」と読み切った。

だからこそトロンを選んでいるし、サイドボードは徹底的に双子対策のカードを詰め込んでいる。


だがマジックは思考ゲームである。

それは1on1の特殊性があろうともそれは変わらない。

相手の心を覗き込もうとするとき、相手も同様にこちらを視ている。

市川もまた砂田のデッキが「BG系か双子コンボでは無い」と踏み込んだのだ。


そして市川は、砂田にしてみればまさしく悪魔的な嗅覚で砂田の使用デッキへと思考を辿り着かせていた。

市川「土地系コンボも有り得ると思って。トロンかスケープシフトのような」



互いのサイドボーディング
無し



Game 4


「またか」

思わずそんな声が聞こえてきそうな砂田の初手は、何度目か分からない土地1枚の手札だった。

ウルザ地形が揃えば大きく勝ちに近づくトロンにとって、マリガンという行為自体は他デッキに比べれば苦にならない。

だが手札破壊を主とする相手に対しては極力選びたい選択ではない。

《彩色の星》《古きものの活性》《森の占術》と有り、大きく悩む砂田だが。


下した決断はテイクマリガン。

《ウルザの魔力炉》
《ウルザの鉱山》
《燃え柳の木立ち》
《世界のるつぼ》
《忘却石》
《解放された者、カーン》

この6枚に自身の運命を託す。


《黒割れの崖》から《コジレックの審問》

市川の妨害は奪取した1、2本目同様、第1ターンの手札破壊から始まった。


この《コジレックの審問》《忘却石》を奪うと、《ウルザの魔力炉》を置いてターンを返すのみの砂田に対し、《新緑の地下墓地》フェッチで《沼》を置くと第2ターンの《闇の腹心》

先手ということも考えれば、およそ最上の立ち上がりを見せる。


砂田は《ウルザの塔》を求めて《大祖始の遺産》をプレイ。

どうにも冴えない感じではあるが、それでも爆発の可能性があるのがトロンである。

市川の妨害が緩いことを祈って待つより無い。


第3ターン市川は《闇の腹心》で捲った《コジレックの審問》により砂田が引き当てていた2枚目の《忘却石》を捨てさせ、《ウルザの塔》の入手が叶わなかった砂田は手札そのままに《世界のるつぼ》を設置。

マリガンしたことを考えれば、砂田にとってはまだ穏当にターンが経過できていると言ってもいいだろう。



さてここで幾つか不自然な点があることにお気付きだろうか。

まず市川の土地が2枚で止まっている。《黒割れの崖》《沼》の2枚だ。

これ自体は初手から土地が引けていないということになるのだが、それなら何故市川は《新緑の地下墓地》から《沼》を持ってきたのだろう。

緑マナの供給源も無いというのに。

また市川が執拗に《忘却石》をディスカードさせた理由は何だ?



その答えは市川の第4ターンに明かされる。

アップキープに《闇の腹心》《闇の腹心》を捲った後、待望の土地を引き当てた市川がプレイしたのは……《血染めの月》!!


血染めの月


そう市川は自身のマナベースを守るために基本地形を持ってくる必要があり、《血染めの月》を破壊されないように《忘却石》を排除していたのだ。

砂田のマナベースが凍り付く。





ジャンドからの《血染めの月》。まさに掟破りの荒業だ。

だがなればこそ砂田は《自然の要求》はサイドインしていない。


砂田が《探検の地図》《大祖始の遺産》を置いて待つ中、市川は《コラガンの命令》により《世界のるつぼ》の破壊と手札破壊を(《解放された者、カーン》が捨てさせられる)。

さらに《大爆発の魔道士》を追加と砂田にプレッシャーをかけ続ける。


しかし市川にも深刻な問題があった。

3色デッキが《血染めの月》を使うには相応の問題がある。この時点でも緑マナが出ていない。

もちろんそれは折り込み済みのことだっただろうが、《闇の腹心》がスペルばかりを捲るため、ライフの減少が早過ぎて無視出来ない状況になってしまったのだ。

《タルモゴイフ》《突然の衰微》と持つもののプレイできる見込みの無い市川。

《大爆発の魔道士》を土地破壊に使いたいのも確かだが、この状況で《闇の腹心》を追加するのはリスキーすぎる。

覚悟を決めて《大爆発の魔道士》をクロックとして運用することとする。


だが《血染めの月》という枷を嵌められた砂田には4点クロックでも十分だ。

一刻も早く残り2枚の《忘却石》に辿りつきたい砂田は《彩色の星》から《古きものの活性》に繋げるのだが、、引けず。

意味のあるカードを引き込めない。


マナベースを縛った市川が次に展開したのは《ヴェールのリリアナ》

その手札破壊が砂田の最後のリソースを奪おうとする。






生き延びる可能性を模索して砂田が《古きものの活性》から《ワームとぐろエンジン》を入手するのだが、どこまでも市川は完璧だった。

《ヴェールのリリアナ》によって手札破壊を行うと、それに続いたのは2枚目の《ヴェールのリリアナ》

ヴェールのリリアナヴェールのリリアナ


最後の希望が零れ落ちる。市川の悪魔の如きプレインズウォーカーによって。


砂田 1-3 市川



思えば「神決定戦」はプロプレイヤーに縁が無かった。

【第1期スタンダード神決定戦】の決勝で八十岡 翔太が木原 惇希に敗れて以来、度々三原 槙仁が挑戦者決定戦ではベスト8には残るものの、「神決定戦」でプロプレイヤーの姿を見ることはなく第3期の神決定戦を迎えている。

だがそれは全て過去のものとなった。市川 ユウキの手で!


“第2期スタンダード神”瀬尾 健太が防衛を果たし、レガシーにいたってはここまで絶対神として川北 史朗が君臨しているこの神決定戦。

モダンもまた市川に支配されてしまうのだろうか。



いずれにせよその結論はまだ幾分か先のことである。

今は新たな神を祝おう。そして来たるPPTQシーズンと第4期挑戦者決定戦が我々を待っている。





第3期モダン神決定戦は、市川 ユウキが砂田 翔吾を下しモダン神の座を奪取!