『タルキール龍紀伝』シールドの極意

伊藤 敦


 今回は割と誰得だが『タルキール龍紀伝』×『運命再編』シールドについて書こうと思う。


 誰得とは言っても、今期のPPTQはモダンだけでなくシールドでも開催されているし、6月27日(土)に開催される【RPTQミルウォーキー】 (PT『戦乱のゼンディカー』こと、来シーズン1つ目のプロツアーの地域予選) も、【PTミルウォーキーのMOPTQ】の一部も、『タルキール龍紀伝』×『運命再編』シールドで開催される。

 国内グランプリがないから競技プレイヤー全員の関心事とはとても言えないが、PPTQガチ勢やMOガチ勢にとっては需要はなきにしもあらずということだ。というわけで、まあ関係のない方は読み飛ばしてくれて構わない。

 それでは、私が考えるこの環境の極意について説明していこう。






■ 1. 『タルキール龍紀伝』シールドはどのような環境か

 まず前提として、環境の基本速度は結構早い。「疾駆」や「鼓舞」があるし、生物のサイズは「大変異」などもあるので大きめだからだ。


無謀なインプ砂造形の魔道士オジュタイの介入者


 ただその上で、環境の特徴を1つあげるとするなら。

 「2つのフェイズ」の存在に、言及せざるをえない。

 「2つのフェイズ」とはどういうことか?『タルキール龍紀伝』シールドをやっていると途中で《Shahrazad》よろしく「サブゲーム」が挟まったりするのだろうか。

 違う。

 これは、「この環境の一般的なゲームにおいては、あるターンを境目として、ゲームの表情ががらりと変わる」ということを指している。

 この点について、具体的に説明していこう。





■ 2. 「2つのフェイズ」とは

◎ フェイズ1: バニラと変異のゲーム

期間: 1ターン目~5・6ターン目まで

キーワード: 初手ゲー、テンポ、展開効率、軽量除去、変異、コンバットトリック


 いずれかのプレイヤーが5マナに到達するまでは、2/2や2/1、3/2、2/3といったサイズを基本とした、バニラや「変異」クリーチャーの並べ合いと殴り合い、ときに相打ちが行われる。


ドロモカの戦士鍛えられた狂戦士湿地の大男


 フェイズ1では展開のテンポがモノを言う。除去はフェイズ2で役に立たない、サイズ限定の除去が優先して使用され、その使用目的は大抵テンポの奪還となる。

 接触戦闘が頻繁に発生するため、除去の代用としてコンバットトリックも、テンポを奪うのに用いられる。


双雷弾押し倒し薄暗がりへの消失


 また、フェイズ1では初手の重要性が際立つ。

 先手で土地:スペル比が 2 : 5 の手札をキープして土地が詰まってしまうと3マナがプレイできずに相手のテンポの良い展開についていけなくなるし、クリーチャーの全くない手札や、重すぎてプレイできないスペルばかりの手札をキープして足りないカードが引けなかったときもまた同様だ。



◎ フェイズ2: レアと龍のゲーム

期間: 5・6ターン目~ゲーム終了まで

キーワード: トップデッキゲー、レア、ドラゴン、万能除去、大変異


 ところが、いずれかのプレイヤーが5マナに到達すると、ゲームの様相はがらりと変わるのだ。

 なぜか?それは『タルキール龍紀伝』には5マナ域の強力なドラゴンが多数存在しているからである。


陽焼の執政屍術使いのドラゴン雷光翼の匪賊


 シールドにおいてはドラフトと違って自分のメインカラーは自由に設定でき、引いたレアは好きに使える以上、これらのドラゴンを引いたプレイヤーは必然的にできるだけデッキに入れようとする。

 したがって、シールドにおいては5マナドラゴンとの遭遇率はドラフトよりもはるかに高いと言える。

 また、6マナともなるとドラゴンとの遭遇率はさらに跳ね上がる。『タルキール龍紀伝』『運命再編』ともに、アンコモンに4/4飛行のドラゴンが各色に存在しているためである。


快速ウォーカイトウギンの末裔有毒ドラゴン


 さてフェイズ2では「支配クリーチャー」(レアやドラゴンなど、ダメージレースの優位を基礎づけるクリーチャー)による制圧が重要だ。テンポにはあまり意味はなく、最終的に盤面で一番強いクリーチャーを定着させ、アタックさせ続けられるかどうかが焦点となる。

 したがって、このフェイズの除去はレアやドラゴンも落とせる万能除去が飛び交う。受ける側は「支配クリーチャー」を定着させてしまうと敗北となるため、ありとあらゆる手段で「支配クリーチャー」の排除を試みる。


押し拉ぎサルカンの怒り平和な心


 一方、フェイズ2ではコンバットトリックは役に立たない。場にはフェイズ1の残骸であるバニラクリーチャーが肉の壁を形成しており、またこのフェイズでは相手もインスタント除去を構える余裕ができているため、本命であるドラゴンにトリックを当てるのは不可能に近いからだ。


 ほか、フェイズ2では「大変異」を使って表返るクリーチャーも多くなってくる。

分節クロティク僧院の伝承師砂嵐の突撃者


 「大変異」はレアやドラゴンほどのインパクトはないが、フェイズ1のクリーチャーでは太刀打ちできないサイズや能力を持っているため、レアやドラゴンに対処した後のフィニッシャーとしては十分機能する。


 フェイズ2まで進むと初手に何を持っていたかは関係なく、トップデッキの密度が求められる。

 「支配クリーチャー」を引き込めるか、相手の「支配クリーチャー」を排除できるカードはデッキに何枚入っているのか。

 端的に「除去とフィニッシャーの総量」が勝負の決め手となるのだ。





■ 3. メインボードで有利なシールド戦略は何か

 このような特徴を持つ『タルキール龍紀伝』シールドにおいて、メインボードで有利なシールド戦略とはどのようなものか。


 まず、明確にメインボードで組んではいけないデッキがある。それは「フェイズ2に全てを寄せたデッキ」だ。

 極端なコントロールや無理なマナベースの多色はもちろん、デッキ全体のマナカーブが重すぎる場合や相手のオールインを捌けない構成などがこれに当たる。

 なぜいけないのか?簡単だ。これらのデッキはフェイズ1を切り抜けることができないからだ。

 フェイズ2に辿りつくためにはフェイズ1を切り抜けなければならないのであって、決して逆ではない。基本的には早い環境ということを忘れてフェイズ2に寄せたデッキを組むと、フェイズ1で土地が詰まってしまったときに耐える手段がなくなってしまう。


 では逆に「フェイズ1に全てを寄せたデッキ」はどうだろうか?

 これも良くないだろう。シールドはデッキのコンセプトは選べるものの、そのコンセプトの最大値はドラフトほど高くない。完璧なマナカーブのクリーチャーと必要十分なスペルが都合よくパックに封入されていることはほとんどないし、対戦相手の多くが5マナドラゴンを出してくることがわかりきっている状況でリミテッドレベルのビートダウンに徹するというのは大きなリスクが伴う。


 このような観点からして、理想のメインボードのバランスは「フェイズ1で五分の立ち回りができつつ、フェイズ2でも優位を築けるデッキ」ということになると思う。

 当たり前だろと思われるかもしれないが、意外と実践するのは難しい。それぞれのフェイズで必要なカードの性質が全く異なるからだ。

 加えて、シールドプールごとに組むべき方向性は異なる。共通した法則を見出すことはなかなかに困難だ。

 だが、守るべき基本的な作法は確かに存在する。

 「極意」というと大袈裟かもしれないが、今回はこれらの前提を踏まえ、メインデッキを組む際のテクニックについて、いくつか紹介しよう。





■ 4. 『タルキール龍紀伝』シールドの極意

◎ 「大変異」を使いこなそう


 シールドが始まったらまずは、プールの「大変異」持ちクリーチャーを全て抜き出そう

 《ダルガーの宿敵》のようにフィニッシャーにならないものや、《コラガンの嵐唱者》のように弱すぎるものは除いて、「大変異」クリーチャーはメインカラーが何色だったとしてもデッキに入る可能性がある。何故なら「大変異」持ちのクリーチャーは、フェイズ1は3マナ2/2のクリーチャーとして相打ち要員となりつつ、フェイズ2には (「大」とつくだけあって) フィニッシャーとなりうるサイズを有しているからだ。


 もっとも、この環境は『タルキール覇王譚』のようにコモンの2色土地が1パックに2枚も3枚も出てくる環境ではないにも関わらず、各色の『大変異』をそんなに簡単に運用できるのか?と疑問に思われるかもしれない。

 だが、可能だ。理由は3点ある。


 
平穏な入り江進化する未開地アタルカの碑


 1つは、少ないといってもこの環境にもマナサポートは存在するという点だ。特に、この環境のシールドには『運命再編』が2パック含まれている。『運命再編』のパックには2色タップイン土地 (か、運が悪いと・・・・・フェッチランド) が必ず1枚入っているから、実はこの環境のシールドは「2色土地がプールに2枚」というところまでは保証されているのである。

 また、『タルキール龍紀伝』には《進化する未開地》と「碑/Monument」シリーズがある。前者は約40% (コモン10枚×4パック / コモン全101枚) で出現し、後者に至っては約75% (アンコモン3枚×4パック×5種類 / アンコモン全80枚) で出現する (ちなみに「碑/Monument」シリーズはマナベースを補正しつつフィニッシャーになるという、ほとんどミシュラランドみたいなものなので、出来る限りデッキに入れよう) 。

 つまり、約85%の確率でどちらかは引ける。これを総合すると、この環境のシールドでは毎回平均3枚ほどのマナサポートがプールに存在していることになる。


  
湿地の大男分節クロティクアタルカのイフリート


 2点目は、「大変異」クリーチャーの色拘束の薄さである。『タルキール龍紀伝』のカードの「大変異」コストを見ると、コモンは全てシングルシンボルとなっている。またアンコモンになるとダブルシンボルの「大変異」コストを持つカードもあるが、それらにしても代わりに普通のキャスティングコストがシングルシンボルになっており、要は「通常のキャスティングコストも『大変異』コストもダブルシンボル」という「大変異」持ちのクリーチャーは存在しないのである。


 しかしそうはいっても、3枚程度のマナサポートでメインカラー以外の「大変異」クリーチャーをそう何枚もタッチできるものだろうか?

 できる。それが3点目の理由だ。「大変異」をタッチする場合は、その色のマナは最低「1つ」出ればいい。


僧院の伝承師陰鬱な僻地


 リミテッドにおいてカードを「タッチする」……つまりメインカラー以外の、通常のシングルシンボルのカードを採用する場合、その色のマナを「3つ」用意するのがセオリーだ。

 だが「大変異」の場合は「1つ」でいい。何せ序盤は相手の2~3マナ域のクリーチャーと相打つのが仕事だ。表向きにするためのマナが出ている必要は微塵もない。

 また、「1つ」では表向きにできないとフェイズ2においてフィニッシャーの役割が果たせないと思うかもしれない。だが、この戦略では表向きになればフィニッシャーになりうる「大変異」クリーチャーを「複数枚」採用することを前提としており、その上で「どの『大変異』持ちクリーチャーでブロックするか」は自分に決定権がある。つまり、複数の「大変異」クリーチャーがいたら、「大変異」コストが払えなさそうなやつからプレイして相打ちにすればいいということだ。

 この「色マナ『1つ』あれば『大変異』をタッチできる」という感覚は実は『タルキール覇王譚』シールドで培われたものだ。【『タルキール覇王譚』のrizer’s answer】でrizer先生が、「サイズの大きい『変異』は入れ得なので、色マナが1つしか出なくても即タッチしましょう。」と述べていたのを想起されたい。そのセオリーは、『タルキール龍紀伝』シールドでも変わらず役に立つ。


  
吐酸ドラゴン鐘鳴りのドラゴン盾皮のドラゴン


 ほか、特にアンコモンの「大変異」ドラゴンシリーズに関しては、

1. 裏向きで出して3マナ2/2バニラ
2. 普通にプレイして6マナ3/3「飛行」に加えて能力持ちの中堅クリーチャー
3. 裏向きで出してから「大変異」コストを支払って4/4「飛行」に加えて能力持ちのフィニッシャー


 の3つのモードが選択できるという優良カードだが、ダブルシンボルが出なくても十分仕事はするので、優先して色マナ1つ(以上)とともにデッキに入れるようにしたい。



◎ 後手を取ろう


 フェイズ1で活躍するバニラクリーチャーは、フェイズ2に入ると万歳フルアタックでライフを詰める以外では途端に役割を失ってしまう。

 そのため余程恵まれたプールでない限り、タフネスの高いクリーチャーと除去で盤面を固める後手デッキの方が安定する

 先手でマリガンして死亡なんてことにならないためにも、できれば後手を取りたい。そのためには、後手でも機能するカードを多く採用し、デッキ全体を後手に寄せにいくべきだ。


 ただしこのとき注意点が2つある。

 1つ目は、マナカーブ上の要請として、23枚のスペルのうちのおよそ3分の2は2マナ~3マナ域のカード (「変異」含む) で固めた方が良い、ということだ。

 具体的には、4マナ以上のカードは5~7枚にとどめた方が良い。カードパワーの不足は「大変異」で補おう。

 シールドだから、後手デッキだからといってマナが伸びる前提でデッキを重くしすぎると、フェイズ1でビートダウンを仕掛けられたとき、あるいは土地が詰まったときにあっさり押し切られてしまう。

 2マナ域が薄いときは軽い除去やコンバットトリックを厚くするなどして調節しよう。4ターン目に2マナ+2マナや5ターン目に2マナ+3マナのツーアクションをとれるかどうかは、展開の後手をまくりにいく上でかなり重要だからだ。

 2つ目は、カードパワーの要請として、そのようなマナカーブ上の制約を満たした上でなお、2マナと3マナのクリーチャーはなるべくフェイズ2でも通用する能力を持っているものを選びたいというものだ。

 たとえば「接死」や「飛行」を持っているとか、「大変異」はもちろん、何らかのおまけの能力を持っているといったクリーチャーが適切だ。フェイズ2に入ってトップデッキが弱くなりすぎないようケアする必要があるからだ。

 もちろんマナカーブ上の要請が優先してバニラクリーチャーが入ってしまうことがカードプール上やむをえないこともあるが、2マナ~3マナ域を全てバニラクリーチャーで固めるというのは、盤面が固まったときに何もできなくなるため、あまりオススメしない戦略だということだ。



 ちなみに、こういった環境の要請を理解すると、メインカラーの選択は比較的楽になってくる。

 これらの条件を満たせる色の組み合わせは、大抵のプールではそう多くはないからだ。

 最後に、実際のシールドデッキをいくつか見てみよう。





■ 5. シールドデッキ例




 赤黒タッチ青(白)。軽いマナ域が揃った組み合わせに色の合ったドラゴンを引けるとメインカラーを決めるのは容易い。

 AB色とCD色の2色土地を引いてデッキがABタッチCになったとき、タッチのCの基本土地の代わりにCD土地を1枚入れ、その色の「大変異」を入れるテクニック (このデッキだと《砂嵐の突撃者》) は使い勝手がいいので覚えておくといいかもしれない。





 緑黒タッチ赤(白)。少しシンボル面で無理をしているので、あまりサンプルとしてふさわしくないかもしれない。《龍火の薬瓶》はメインカラー2色を揃えるまでの時間稼ぎができる良カードで、大抵デッキに入る。

 このデッキでも《霧蹄の麒麟》を「Dタッチ」しているが、この程度でもタッチする価値は十分にある。





 白黒タッチ青(緑)。一見細すぎるように見えて、豊富な飛行クリーチャーとライフ維持要素、3枚入った本体火力によってトリッキーに戦える。

 このデッキの《鐘鳴りのドラゴン》は「大変異」コストがダブルシンボルなためタッチするのか疑問に思うかもしれないが、逆に通常コストがシングルシンボルなので、青い土地を引いてるときだけ6マナまでキープするようにすればフィニッシャーとして運用できる。

 この「大変異」のドラゴンシリーズはフェイズ1とフェイズ2を通じて常に活躍する良カードなので、引いたらなるべくデッキに入れるようにしたい。





 青白タッチ赤(緑)。メインカラーが除去色でないため、少し多めに除去をタッチしている。その分土地からのメインカラー供給が7:7になってしまっているのが不安だが、そこは《オジュタイの碑》がうまくかみ合っている。

 「Dタッチ」は《分節クロティク》。特殊土地がCD土地2枚で噛み合っていなくても、何かしらの運用方法はあることが多い。





 白黒タッチ青(緑)。《強迫》は23枚目だが、フェイズ2に入る直前の露払いに丁度良い。



 ちなみにこれらは全て後手を取る想定のデッキで、体感だがメインカラーの組み合わせとしては白黒、緑黒、赤黒が多い。

 なお先手デッキになるパターンは、未検証だがおそらく複数枚のレアと《砂草原ののけ者》《砂造形の魔道士》のある白緑で、土地を18枚にするのではないかと考えている。





■ 6. 終わりに

 シールドのデッキを組むときは、マナベースや必要なマナ量、序盤の戦略や終盤の戦略などの複数の評価軸全体のバランスをとる必要があるため、そのプールにおけるいわゆる「正解」、100点満点の構築をすることは極めて難しい。

 とはいえ、「変異」と「後手」を中心にした戦略は「タルキール龍紀伝」シールドにおける1つの指針になるのではないかと考えている。

 ただ、ここで紹介したのはあくまでメインデッキの組み方に過ぎない。サイド後は対戦相手のデッキに合わせて逐一組み直さなければならないという点には注意が必要だ。

 それでは、良いシールドライフを!





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