Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2018/12/05)
健全なスタンダード環境を楽しもう
やぁみんな!今回もよく出席してくれたな!
スタンダードといわれると「つまらないもの」というイメージを持つ人は多いかもしれないな。普通はプロツアーが終わって3週間も経つと、環境は固まり、最強のデッキも決まってしまう。それ以外のデッキを使うのがミスになってしまうんだよな。
しかしそれは今までの話だ。今のスタンダードは訳が違う。プロツアーから3週間経った今でも環境は健全なままなんだ。直近のイベントのトップ8を見てみても、多種多様なデッキが存在しているのがわかる。自分の好きなデッキを使って、結果を出せる可能性があるんだ。しかも、それぞれのデッキが形を変え続けているから、同じアーキタイプでも2~3週間前のデッキリストと比較してみると見違えるような進化を遂げている。
そこで今回の講義では、今の環境にどれだけデッキの選択肢が豊富にあるかを話していこう。この講義を聴けば、自分のプレイスタイルに合ったデッキを選べるようになるはずだ!
アグロ
白ウィニー
まずは、俺たちがプロツアー『ラヴニカのギルド』で使ったデッキから解説しよう。一口に白ウィニーと言っても、そのバリエーションは豊富だ。赤をタッチしているものもあれば、本当に白単のものもある。《アジャニの群れ仲間》とライフ回復の要素を取り入れているものもあれば、メインデッキに《英雄的援軍》を入れているものもある。自分がプロツアーで使ったデッキだから多少思い入れがあるっていうのもあるだろうが、白ウィニーを使うのであれば上に掲載したリストがベストなものだと思っている。なぜベストなのかを説明しよう。
まず、《アジャニの群れ仲間》はライフ回復カードと合わせて使うことで、急速に大きなサイズのクリーチャーへと変貌し、相手にとって大きな脅威となる。《採取+最終》や《轟音のクラリオン》なんてへっちゃらだ。
このデッキリストの次なる強みは《実験の狂乱》だ。サイドボード後に異なった角度から相手を攻めることが可能になる。ゲームの勝敗を決定づけるこのエンチャントを唱えると、クリーチャー除去ばかりを抱えている相手は絶望の表情を浮かべることが多いな。俺たちが使ったこの白ウィニーについてもっと詳しく知りたい生徒は、プロツアー直後に俺が書いた「コヴァルスキ先生の白ウィニー講座」を受講してくれ。
長所
能動的なゲームプランをとることができる。ゲーム展開も速いことが多い。サイドボード後は《実験の狂乱》のおかげで異なった角度から相手を攻めたてることができる。
短所
赤単との相性がすこぶる悪い。また、プロツアーが終わってから白ウィニー対策の意識が強まっている。
赤単
-土地 (22)- 4 《狂信的扇動者》
4 《ギトゥの溶岩走り》
4 《遁走する蒸気族》
4 《ヴィーアシーノの紅蓮術師》
4 《ゴブリンの鎖回し》
2 《再燃するフェニックス》
-クリーチャー (22)-
白ウィニーが嫌なら、赤単はどうだろうか。ここに掲載したデッキリストはグランプリ・リール2018を優勝したものだが、プロツアーでも同じようなデッキリストで8-2という成績を収めた赤単が4つもあった。このデッキリストが完成されているということだな。
赤単の最大の強みは、他のアグロデッキに対して優位なことだ。前環境から使われている《ゴブリンの鎖回し》は、相変わらずクリーチャー戦で頼りになる。白ウィニーや青単はタフネス1のクリーチャーが多いしな。
このデッキはサイドボードプランも強い。たとえば、遅めのデッキに対しては強力なコンボが使える。《実験の狂乱》と《宝物の地図》のコンボだ。このコンボがあれば、ジェスカイコントロールやゴルガリミッドレンジに対しても簡単に消耗戦で勝てるようになる。『カラデシュ』があった頃の赤単は本当に退屈なデッキで、あまりにも直線的なデッキだった。しかし今の赤単はプレイしていて面白い。プレイの選択肢の幅が広いからな。4ターン目に相手を倒してしまうこともあると思えば、長期戦の末に《実験の狂乱》のカードアドバンテージで勝つこともあるんだ。面白いだろ?
長所
他のアグロデッキに対して有利に戦える。《宝物の地図》を使った、長期戦向きのサイドボードプランがある。従来の赤単よりもプレイしていて面白い。さまざまな勝ち筋がある。
弱点
ライフを回復してくるデッキに対して非常に弱い。《野茂み歩き》の能力を2回でも誘発させてしまうと大体負けてしまう。
青単テンポ
-土地 (20)- 4 《霧まといの川守り》
4 《セイレーンの嵐鎮め》
4 《マーフォークのペテン師》
3 《戦凧の匪賊》
4 《大嵐のジン》
1 《排斥する魔道士》
-クリーチャー (20)-
今度はちょっと刺激的なデッキだ。プロツアーのスタンダードで全勝をするというのは滅多にできない。しかしギヨーム・ゴティエ/Guillaume Gauthierは青単テンポを使って全勝をやってのけたんだ!ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifもグランプリ・リール2018で青単テンポを使って準優勝を果たしていたが、プロツアーに向けて俺たちのチームは「青単テンポは単純に弱い」と結論づけていたし、プロツアーで使う可能性も低かったんだ。しかし、ギヨームは俺たちの考えが間違っていたことを証明してくれた。
青単は古典的なアグロデッキというよりは、テンポデッキだ。主なゲームプランは、軽量のクリーチャーに《執着的探訪》をエンチャントし、そのクリーチャーを守ること。《マーフォークのペテン師》や《戦凧の匪賊》のおかげで攻撃はかなり通しやすくなっている。だから、《執着的探訪》をエンチャントしたクリーチャーの攻撃を安定して通しやすく、その効果でドローもできるんだ。
仮に《執着的探訪》を使ったゲームプランがダメになったとしても、《大嵐のジン》というたった1枚で勝てるカードが控えている。《潜水》や打ち消し呪文を採用しているため、《大嵐のジン》を守り抜くことも容易だ。そうすれば、《大嵐のジン》がたった数ターンで勝利をもたらしてくれる。
プレイスタイルはモダンやレガシーの《秘密を掘り下げる者》を使ったデッキに非常に似ている。もし《秘密を掘り下げる者》デッキを好きになった経験があるなら、青単テンポもおすすめだ!
長所
強い初手を引ければ、どのデッキもほとんど太刀打ちできない。豊富に採用しているインスタントタイミングのカードで相手を打ち負かす。使いこなすのは難しいが、いいプレイができればそれだけの見返りがある。
短所
一度劣勢になってしまうと、逆転することが難しい。
ミッドレンジ
ゴルガリミッドレンジ
5 《沼》
4 《草むした墓》
4 《森林の墓地》
3 《愚蒙の記念像》
-土地 (24)- 4 《ラノワールのエルフ》
4 《野茂み歩き》
4 《マーフォークの枝渡り》
2 《探求者の従者》
4 《翡翠光のレインジャー》
2 《貪欲なチュパカブラ》
3 《破滅を囁くもの》
1 《殺戮の暴君》
-クリーチャー (24)-
もっとも人気のミッドレンジは間違いなくゴルガリミッドレンジだろう。
それにはちゃんとした訳がある。まず、ゴルガリミッドレンジは環境初期のスタンダードを席巻していた実績をもっていること。次に、強力な神話レアやレアを採用していること。ミッドレンジというのは、そういったカードを使っていると強いパターンが多いんだ。そしてゴルガリが人気である最大の理由は、《野茂み歩き》と「探査」クリーチャーの強烈なシナジーだ。
プロツアーではゴルガリミッドレンジが仮想敵だったため、《トカートリの儀仗兵》が主にゴルガリミッドレンジ対策として採用されるようになってしまっていた。しかし今となっては環境にさまざまなデッキが存在しているため、再びゴルガリミッドレンジが頂点に返り咲くチャンスだ。
マシュー・ナス/Matthew Nassのデッキリストはよくできている。4枚採用している《野茂み歩き》はアグロデッキが多い環境であれば必要となるカードだ。《破滅を囁くもの》は赤単・白単・青赤ドレイクに対して有効なカードという認識は一般的だが、マシューのリストで革新的なのは《破滅を囁くもの》を3枚も入れていることなんだ。
6マナ域には《秘宝探究者、ヴラスカ》ではなく《殺戮の暴君》を採用しているが、これはもはや常識のようになっているので驚くべきことではない。《殺戮の暴君》をメインデッキとサイドボードで合わせて3枚入れているが、丁度いい枚数だと思う。6マナのカードだから、ゲーム序盤に引きすぎても困るカードだからな。4枚だと多すぎると思う。ただ、環境が今後もっとミッドレンジやコントロールにシフトしていくのであれば、3枚目の《破滅を囁くもの》を抜いて、メインデッキに《殺戮の暴君》を1枚追加するだろう。
長所
古典的なミッドレンジであり、ドローが噛み合えばどんなデッキに対しても勝てる可能性をもっている。単体として強力なカードを使いながらも、しっかりとしたシナジーも有しているデッキでサイドボードも強い。
短所
ドローが噛み合わないと、動きが鈍くなる。コントロールとの対戦で除去を引きすぎてしまったり、アグロとの対戦でマナコストの重いカードを引きすぎてしまったりすると、ほぼ負けに直結する。
セレズニアトークン
4 《森》
4 《寺院の庭》
4 《陽花弁の木立ち》
1 《オラーズカの拱門》
-土地 (21)- 4 《アダントの先兵》
3 《協約の魂、イマーラ》
4 《敬慕されるロクソドン》
3 《不和のトロスターニ》
-クリーチャー (14)-
原根 健太と覚前 輝也は75枚すべて同じリストを使い、ともに8-2という成績を収めた。これはすごいことだよな。セレズニアトークンはゴルガリミッドレンジと同じミッドレンジではあるが、異なる角度から攻めるデッキといえる。このデッキの勝ち方は、まず盤面を広げ、数の多さでダメージを少しずつ与えていく、あるいは《開花+華麗》で一気に押し切ることだ。
《不和のトロスターニ》はトークンデッキにとって最高のカードだな。戦場に出たときにトークンを生成してくれるから、「召集」はもちろん、《開花+華麗》や《大集団の行進》をよりうまく使えるようにし、さらには自軍のクリーチャー全体を強化してくれる。セレズニアトークンは使っていてとても楽しいデッキだ。ドローが強ければ、1マナ域から5マナ域まで順当にプレイして、アグロデッキのように動くこともある。しかも状況に合わせて、かなりの長期戦も戦うこともできる。相手のターン終了時に《大集団の行進》を唱え、返しのターンで《開花+華麗》を使って一斉突撃する勝ち方は、禁止される前のモダンの《欠片の双子》デッキを彷彿とさせる。
《クロールの銛撃ち》は、《弾けるドレイク》や《パルン、ニヴ=ミゼット》がいる環境で大活躍するサイドボードだ。また、《無効皮のフェロックス》は単体除去をベースにした相手に苦戦を強いらせることができる。
グランプリ・リール2018のトップ8にもセレズニアトークンが入賞していたが、上記デッキリストとは毛色が異なるものだった。《ベナリアの軍司令》で全体を強化することを狙いとしたものだ。
3 《森》
4 《寺院の庭》
4 《陽花弁の木立ち》
-土地 (21)- 3 《追われる証人》
4 《アダントの先兵》
2 《協約の魂、イマーラ》
3 《ベナリアの軍司令》
1 《豊潤の声、シャライ》
3 《敬慕されるロクソドン》
1 《不和のトロスターニ》
-クリーチャー (17)-
どっちのリストが良いのかはわからないが、トークンデッキが好きなのであればどっちも試してみるべきだろう!
長所
全体除去を採用していない相手にめっぽう強い。ゲーム序盤から速い動きをし、マナカーブ通りに動きながらも、終盤でも十分に戦える。
短所
全体除去であればどんなものでも厳しい。軽量クリーチャーを前提とした高マナ域のカードが多いため、手札次第では動きが鈍いこともある。
コントロール
ジェスカイコントロール
1 《苦悩火》
1 《ショック》
1 《軽蔑的な一撃》
4 《轟音のクラリオン》
2 《予言》
3 《イオン化》
2 《残骸の漂着》
1 《薬術師の眼識》
4 《発展+発破》
1 《絶滅の星》
3 《封じ込め》
4 《アゾールの門口》
4 《ドミナリアの英雄、テフェリー》
-呪文 (33)-
2 《活力回復》
2 《神聖の発動》
2 《不滅の太陽》
1 《黎明をもたらす者ライラ》
1 《パルン、ニヴ=ミゼット》
1 《原初の潮流、ネザール》
1 《苦悩火》
1 《溶岩コイル》
1 《イクサランの束縛》
1 《浄化の輝き》
-サイドボード (15)-
4 《蒸気孔》
4 《聖なる鋳造所》
4 《硫黄の滝》
4 《断崖の避難所》
4 《氷河の城砦》
-土地 (25)- 2 《奇怪なドレイク》
1 《再燃するフェニックス》
4 《パルン、ニヴ=ミゼット》
-クリーチャー (7)-
2 《中略》
2 《潜水》
1 《呪文貫き》
1 《ショック》
2 《溶岩コイル》
3 《轟音のクラリオン》
2 《イオン化》
1 《残骸の漂着》
3 《発展+発破》
4 《宝物の地図》
3 《ドミナリアの英雄、テフェリー》
-呪文 (28)-
2 《苦悩火》
2 《封じ込め》
2 《イクサランの束縛》
2 《絶滅の星》
1 《軽蔑的な一撃》
1 《否認》
1 《残骸の漂着》
1 《浄化の輝き》
1 《呪文詐欺》
-サイドボード (15)-
今もっとも人気のコントロールデッキは間違いなくジェスカイコントロールだ。《ドミナリアの英雄、テフェリー》をもっともうまく使えるデッキだからな。もし《ドミナリアの英雄、テフェリー》が好きなら、ジェスカイコントロール以外の選択肢はあり得ないだろう。
エリ・カシス/Eli Kassisはグランプリ・ニュージャージー2018をコンボ寄りのジェスカイコントロールで優勝した。《アゾールの門口》と《発展+発破》を4枚ずつ入れ、メインデッキに《苦悩火》を入れていたのだ。
その3週間後にはエイドリアン・サリバン/Adrian Sullivanが、カードアドバンテージ源としての《宝物の地図》、そしてフィニッシャーとしての《パルン、ニヴ=ミゼット》を採用したジェスカイコントロールでグランプリ・ミルウォーキー2018を制覇した。これらは同じジェスカイコントロールではあるが、デッキリストは目に見えて違う。これは、ジェスカイコントロールを自分の好みに応じて構築できるということだ。カードの採用枚数も自分で試して調整してみよう。
『ラヴニカのギルド』でジェスカイコントロールを大きく強化したのは《轟音のクラリオン》だ。軽量の全体除去であり、《残骸の漂着》に依存することもなくなった。《残骸の漂着》や《浄化の輝き》はケアしやすい全体除去であったため、軽量な《轟音のクラリオン》はアグロデッキと戦う上で非常に大きな強化といえる。
長所
ゲーム終盤で無類の強さを誇る。あらゆる脅威を対処できる。《ドミナリアの英雄、テフェリー》をうまく使えるデッキである。
短所
ゲームが長引く。ドローが噛み合わないと何もできずに負けることもある。
コンボ
イゼットドレイク
6 《山》
4 《蒸気孔》
4 《硫黄の滝》
1 《イゼットのギルド門》
-土地 (21)- 3 《ゴブリンの電術師》
4 《弧光のフェニックス》
3 《弾けるドレイク》
1 《つぶやく神秘家》
-クリーチャー (11)-
青赤ドレイクは純粋なコンボデッキではないが、今回の講義では「今のスタンダードはさまざまな人が楽しめるデッキがある」ということをみんなにわかってもらいたいため、今回は分類上コンボとした。実際のところ、コンボが好きなら青赤ドレイクを使っていて楽しいと思う。
大量のキャントリップがあって、手札に加えるカードを選べるタイミングも多い。そして来たるべきターンまで準備をし、最終的に《弧光のフェニックス》で無限のアドバンテージを得るんだ。《つぶやく神秘家》をメインデッキに入れておくと、(古典的な青赤ドレイクが一番苦しかった相手である)白単や他のアグロデッキに耐性をつけることができる。
このデッキを使いこなすのは大変だが、もしマスターできればそれだけの見返りが待っている。この傑作とも呼べるデッキについてもっと知りたい生徒はパスカル・フィーレン/Pascal Vierenの記事を読もう!
長所
うまくプレイできればそれに応えてくれるデッキである。ゴルガリミッドレンジに対して強い。16枚もキャントリップが入っているため、1枚挿しでもしっかりと引き込むことができる。
短所
使いこなせるようになるまでに非常に苦労する。白ウィニーに弱い。
結論
このように、環境はかつてないほど健全で、自分の好みに合ったデッキを見つけられるはずだ。2週間後には俺はバルセロナで開催されるワールド・マジック・カップ2018にポーランド代表として出場する。フォーマットはチーム・シールド、そして楽しみなチーム共同デッキ構築スタンダードだ。チーム共同デッキ構築スタンダードは本当に楽しみにしている。チーム内でのベストなデッキの組み合わせを見つける必要があるが、今のスタンダードはデッキの選択肢が多いから、かなりやりがいがあると思う。
今年のワールド・マジック・カップは最高のショーになると確信している。スタンダードの環境はまだ固まっていないから、勝ち残るチームが使用するデッキやチーム内でのデッキの組み合わせはさまざまになるはずだからな。観客にとってはこれ以上ないことだろう(ミラーマッチばかり観たいなんて人はいないよな)。スタンダードが好きなら絶対に見逃すなよ!ポーランドは昨年のワールド・マジック・カップで準優勝だった。今年はそれよりもひとつ上の順位になれるように全力を尽くすつもりだ。
では今回はここまで。また次回の講義も出るように。