決勝: 山下 善旗(石川) vs. 岡 洋介(東京)

晴れる屋メディアチーム

By Hiroshi Okubo

 誰かは言った。「デュエルをすることは、物語を紡ぐことと同じだ」と。

 では、物語とは誰のためにあるのか? 物語の定義とは何か? 作者がいて、主人公がいて、読者がいる。その三者の中で、物語を必要としているのは果たして誰なのか? そして、その主人公とは誰なのか? それらの茫漠とした疑問について考えるのはあまりにも迂遠なようでいて、しかし誰もがその答えを持ち合わせてはいないように思える。

 第1回目のThe Last Sun 2013。その優勝者は山本 賢太郎だった。今や押しも押されぬ人気プロとして、国内の競技プレイヤーで彼のことを知らぬものはない。翌年のThe Last Sun 2014は林 隆智が、関東の強豪プレイヤーとしてコミュニティの中心人物が自身初のタイトルを獲得した。

 そしてThe Last Sun 2015では八十岡 翔太が。

 The Last Sun 2016では清水 直樹が。

 The Last Sun 2017では川居 裕介が。

 強豪として、あるいはプロとして知られる彼らが、堂々タイトルを勝ち取ってきた。主人公について考えるならば、彼らはその候補の第一位に挙がるはずだ。よしんばそれに疑問を挟むとして、ならば誰ならば主人公と呼ぶに相応しいのかと問われれば答えに詰まってしまう。

 The Last Sun 2018、決勝戦。

 全14ラウンドの予選ラウンドと2回の決勝ラウンドを争い、勝ち残ったのはわずかに2名。そしてそこにいた証を、優勝という形で記録に刻み付けることができるのはわずかに1人だ。この物語の主人公と呼ぶにふさわしい存在は、これから決まることとなる。

 相見えるのは岡 洋介山下 善旗の2人。いずれもこれまでに目立った戦績はないが、このThe Last Sun 2018で数々の勝利を重ね、この舞台まで駒を進めてきた。何事にも初めがあるように、彼らのキャリアはこの決勝から始まることとなる。

 名を上げる。賞金を手にする。己のマジックを証明する。自らの存在を記録に刻む。勝利に付随する様々な価値も、しかし彼らのプレイを濁らせることはない。ただ眼前の相手を打ち破る。それだけを求め、静かにライブラリーをシャッフルし対戦に臨まんと席についている。

 フォーマットの決定権を持つのはスイスラウンド2位通過の山下だ。大きく息をつき、レガシーを選択する。山下は独自の調整を重ねた「白黒デス&タックス」で、岡の「ANT」との対戦に挑む。

 山下と岡。2人が固く握手を交わすと、その物語が幕を開けた。

決勝: 岡 洋介(東京) vs. 山下 善旗(石川)

Game1

 ダイスロールによって先攻を勝ち取った岡は第1ターンに《定業》をプレイする。山下もまた《霊気の薬瓶》からスタートするのだが、返す岡は《ライオンの瞳のダイアモンド》をプレイし、一言。

「ストーム1で」

 この言葉の意味するところは一つ。あまりにも早い、事実上の死刑宣告。山下は天を仰ぎ、岡は続いて《暗黒の儀式》をプレイする。無論これも解決され、2枚目の《暗黒の儀式》、そして《冥府の教示者》と次々に呪文が編み上げられる。

 《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動し、《炎の中の過去》をサーチ。手に加えるまでもなく即座にこれをキャストし、墓地にある呪文がすべて「フラッシュバック」を得るや否や流れるような所作で《苦悶の触手》を導き出し、山下のライフを吸い尽くすのだった。

山下 0-1 岡

Game2

 最初に与えられた7枚のカードを捲るや否やマリガンを即決した山下。その初手には土地が《平地》1枚のみだったものの《霊気の薬瓶》を設置できる、本来なら検討に値する手札であった。しかし、岡を相手に《霊気の薬瓶》スタートだけでは不足であることを瞬時に判断する山下の判断力には、2日間の激戦の疲労を感じさせない冴えがあった。

 対照的に、岡は《ライオンの瞳のダイアモンド》2枚が含まれる手札を前に逡巡すること数分。フィニッシュ手段はないものの、逆に言えばフィニッシュ手段さえ引くことができれば瞬殺もあり得る。ドロー呪文もあるためライブラリートップにゲームを懸ける価値はあるかもしれない――手札を手繰り、思考を巡らせ、やがてマリガンを選択する。

山下 善旗(石川)

 ゲーム開始前に大いに頭を悩ませた2人だったが、しかしその甲斐もあってか互いに6枚になった手札は即座にキープ。かくして第2ゲームが開始された。

 まずは先攻の山下が第1ターンに《霊気の薬瓶》をプレイする好スタートを切る。マリガンを挟んでなおも絶好調の滑り出しだが、しかし返す岡は目を疑うような切り返しを見せる。

 《水蓮の花びら》《水蓮の花びら》《ライオンの瞳のダイアモンド》。貴重なストームカウントとなる0マナ呪文たちは、基本的に仕掛け時にプレイされる。つまりこれらが第1ターンに唱えられるということは、すでにゲームは佳境を迎えたということだ。

 まずは1枚の《水蓮の花びら》から黒マナを捻出し、土地からのマナと合わせて2マナを得ると《冥府の教示者》。優先権をパスすることなく《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動し「暴勇」を達成すると、探し出されたのは《巣穴からの総出》。先の《ライオンの瞳のダイアモンド》による3マナにもう1枚の《水蓮の花びら》のマナを合わせてこれが唱えられ、「ストーム」によって4つのコピーがスタックに乗る。

 わずか1ターン目にして立ち並ぶ10体のゴブリントークン。無論山下にはこれに抗う術はなく、ゴブリントークンの群れに飲み込まれることとなった。

山下 0-2 岡

Game3

 3本先取で争われるThe Last Sun 2018の決勝戦で、岡操るANTに凄まじい速度でコンボを決められ第1ゲーム、第2ゲームの勝利を明け渡すこととなってしまった山下。もう後がなく、一矢報いらんと懸命にサイドボーディングを行うが、第3ゲームで山下を待ち受けていたのはさらなる受難だった。

 岡は2ターン目に2枚のフェッチランドを起動し、《ライオンの瞳のダイアモンド》をプレイ。明らかに決めにきている動きに、山下は全てを悟ったように岡の挙動を見守る。

 そんな山下をしり目に岡は続けて《汚物の雨》でマナを得て、2枚の《暗黒の儀式》に繋ぐと《冥府の教示者》。当然これにスタックして《ライオンの瞳のダイアモンド》が起動され、《むかつき》を手札に加えてそのまま唱える。

岡 洋介(東京)

 これによって20枚弱のカードが捲られ、岡の手札に加わる。だが、その中にフィニッシュ手段はない。山下は祈るような気持ちで岡のターンエンドの宣言を待ったが、岡は《思案》《渦まく知識》によってさらに合計7枚のカードを探り、《苦悶の触手》を導き出す。

 さあ、岡は「ストーム」もマナも十分。つまり、これが決着の瞬間だ。

山下 0-3 岡

 対戦後、岡は仲間たちの熱い祝福に包まれながらカバレージブースへ移動し、優勝者インタビューを受けていた。一方で茫然とした様子で対戦テーブルに残っていた山下は、このマッチをこう述懐する。

山下「実は岡さんとは昨日の第6ラウンドで当たっていたんです。そのときも2ターンキルを2連続でやられてマッチを落としてしまったんです」

 思わぬ形で――それも決勝という舞台で再戦の機会を得た山下は、レガシーで行われた第6ラウンドのリベンジに臨んだのだった。

山下「(フォーマット選択は)まぁ、情の選択ですねぇ。モダンも相性悪かったからどっちにせよレガシーを選択していたと思いますが、僕もこのデス&タックスはかなり一生懸命調整したので、決勝の場で一矢報いたかったんですよ」

 瞬殺と呼んでも差し支えないほどに一瞬でコンボを決められ、それでもなお堂々と、岡に挑んだ山下。結果としては敗れてしまったが、しかし彼の存在を今ここに記録しよう。山下はきっと今日の悔しさを忘れないし、これからも戦い続けるのだから。

 いつかこの物語の続きが紡がれる、そのときのために。

岡 洋介(東京)

 The Last Sun 2018、優勝は岡 洋介(東京)!

 おめでとう!!

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