Draft Tech:齋藤 慎也のピック指針

晴れる屋メディアチーム

 二日間のPros&Hopesドラフト練習会において、最終勝率70%で総合順位2位となった齋藤 慎也。過去にはドミナリア環境で黒緑苗木をピックし続け、得意アーキタイプとしていた。

 今回の練習会ではなんと5種類全ギルドで2-1以上の成績を残し、そして7thドラフトでは前人未到の門11枚デッキで5色デッキを組み3-0を果たした。

 特定のアーキタイプに偏らず、安定した成績を残している秘訣は一体何なのか。何がこの環境の齋藤の強さを支えているのか?ここでは実際に行われた4thドラフトを例にとり、ピックの指針を伺っていきたい。

齋藤 慎也

4thドラフトピック譜

1パック目

1-1:《エリマキ神秘家》(他候補:《トカゲ体の混種》)
1-2:《速足ウツボ》(他候補:《ラクドスの火輪使い》《教団のギルド魔道士》)
1-3:《激情のエイリンクス》(他候補:《アゾリウスの騎士判事》)
1-4:《一族のギルド魔道士》foil(他候補:《一族のギルド魔道士》《騒がしいシャーマン》)
1-5:《批判家刺殺》
1-6:《繁殖池》
1-7:《踏み鳴らされる地》(他候補:《拘引者の忠告》)
1-8:《尖塔に忍び寄るもの》(他候補:《歩哨の印》)
1-9:《ギルド門通りの公有地》
1-10:《小走りワニ》(他候補:《教団のギルド魔道士》)
1-11:《評議会の急使》
1-12:《可能性の揺らぎ》
1-13:《大ムンクルス》
1-14:《アゾリウスのロケット》
1-15:《精神純化》

 分岐は初手から訪れた。かなり弱いパックを掴んでしまったため、選択肢は2択に絞られていたのだ。

エリマキ神秘家トカゲ体の混種

 齋藤の基本的なピックの指針は、デッキ自体の最大値(デッキパワー)を上げることにある。だが《エリマキ神秘家》は4つのマナシンボルをもつ非常に色拘束の厳しいカードである。マナベースへの圧迫もあり、《トカゲ体の混種》と悩む様子も見受けられたが、最終的には指針通りにカードパワーの高い《エリマキ神秘家》を選択した。

 もう一点特徴をあげるならば、デッキパワーを優先しつつも無理はしないことだろう。必ず使えるようにマナベースに細心の注意を張っている点だ。1-2で《ラクドスの火輪使い》が来たが、初手との兼ね合いから見送っている。初手を極力使えるようにとカードパワーは劣る《速足ウツボ》をピックした。

ラクドスの火輪使い速足ウツボ

 実はこのパックには《教団のギルド魔道士》が同封されており、卓内に2人ラクドスが生まれる危険性を懸念していた部分もある。ラクドスは卓一こそが望ましく、そのためにシミック路線を堅持したのだ。

 ただ、3手目にして方向性が変わる。評価がぐっと上がったという《激情のエイリンクス》をピックしたのだ。もちろんこの一手でシミックを諦めグルールに切り替えたわけではないが、渡りをつけることは忘れない。齋藤は決して初手に固執するわけではないのだ。あくまでも完成した際のマナベースとデッキパワーを天秤にかけつつ、進むべき方向を探っている。

 だからこそクリーチャーや呪文に固執せずかなり早い段階でマナベースへも手を伸ばす。カードは使えてこそ、なのだから。

2パック目

2-1:《成長室の守護者》(他候補: 《評議会のギルド魔道士》《渦巻く激流》)
2-2:《暴れ回る裂き角》(他候補:《野蛮な一撃》《予知覚》)
2-3:《門破りの雄羊》(他候補:《応用生術》《瓦礫帯走り》)
2-4:《暴れ回る裂き角》(他候補:《トカゲ体の混種》《的中》《評議会のギルド魔道士》)
2-5:《グルールのギルド門》(他候補:《火刃の芸術家》)
2-6:《暴れ回る裂き角》(他候補:《連合のギルド魔道士》)
2-7:《ゴーア族の破壊者》(他候補:《オルゾフの処罰者》)
2-8:《シミックのギルド門》
2-9:《渦巻く激流》(他候補:《組織のギルド魔道士》)
2-10:《活力の贈り物》
2-11:《シミックのロケット》
2-12:《火消し》
2-13:《護民官の重鎮》
2-14:《しつこい請願者》
2-15:《サルーリの世話人》

 カードパワーと安定したマナベースだけでは、強力なデッキとはならない。マナカーブも必須要件だ。齋藤としてもその重要性は認識しているが、そのバランスの難しさがでたのが2-4:《暴れ回る裂き角》《トカゲ体の混種》だ。

トカゲ体の混種暴れ回る裂き角

 グルールであれば2マナ域から展開を始めたいが、迷いに迷ってここでは《暴れ回る裂き角》をピックしている。これは齋藤が《トカゲ体の混種》を軽視しているのではなく、直近のドラフトにて《暴れ回る裂き角》よりも《トカゲ体の混種》の方が流れやすかったからとのことだ。経験則に基づき重いカードを優先したが、結果的にアグレッシブな戦略をとるグルールにもかかわらず2マナ域が不足してしまい、「あそこはやはり2マナ域を優先すべきだった」とのことだった。

 戦略に沿ったマナカーブを描きつつ、デッキを整えることを理想としているのだ。ぐるぐる回っていたオルゾフのカードへは目もくれず、緑のカードをかき集めている姿は印象的だった。

3パック目

3-1:《ボーラク族の破壊者》
3-2:《スカルガンのヘルカイト》
3-3:《縄張り持ちの猪》
3-4:《瓦礫帯走り》(他候補:《グルールのギルド門》)
3-5:《剛力の殴り合い》
3-6:《鋭射手の斉射》
3-7:《シラナの道探し》(他候補:《石のような強さ》)
3-8:《ブリキ通りの身かわし》
3-9:《剛力の殴り合い》
3-10:《オルゾフの処罰者》
3-11:《焼印刃》
3-12:《公判への移送》(他候補:《聖堂の鐘憑き》)
3-13:《奇怪な死》
3-14:《スライム縛り》
3-15:《地底街の抱擁》

 1、2パックでマナベースと進むべきギルドを調整していたからこそ、3-2では《スカルガンのヘルカイト》をピックでき、大幅なデッキ強化につながった。そして、最終的には以下のようなデッキが完成した。

齋藤 慎也

 デッキパワーを優先しつつも、きちんとデッキを回すという意識は土地に現れている。なんと土地枚数は18枚であり、《シミックのロケット》も含めてマナ関連のカードは実に半数近くの19枚

 これはデッキの5マナ域が5枚と渋滞しているため、最低でも5枚までは土地が伸びるようにとのことだ。土地を引きすぎるマナフラッドよりも、思うようにマナが伸びずカードを使えないことを危惧して、この枚数となっている。

暴れ回る裂き角トロール種の守護者

 そして、余ったマナも《スカルガンのヘルカイト》《激情のエイリンクス》といった受け先もきちんと用意されている。過不足なくピックされたデッキなのだ。

スカルガンのヘルカイト激情のエイリンクス

 齋藤の指針をまとめれば、先ずはデッキの最大値を高めるようにピックすること。その上でプレイ可能なマナベースを作り上げ、マナソースが多ければフラッド時の受け先も用意する。ただ、むやみやたらにアグロなデッキやコントロール力の高いデッキを目指しているのではなく、カード本来の力を最大限発揮できるようなデッキを到達点としているのだ。

 今回のデッキは《トカゲ体の混種》1枚分厳しくはなってしまったものの、齋藤のピックの指針がわかりやすいものとなっていた。最終的には決勝でアジズのアゾリウスに敗れはしたが、このドラフトを2-1で終えている。

単色でもマルチカード

 齋藤の基本的なピックの指針は、デッキ自体の最大値を上げることであると既に説明済だが、もう一点注目したいのはこの環境では単色カードも単色ではないとの言葉だ。ここで例にあがったのは《地底街のゴミあさり》だった。

地底街のゴミあさり

 齋藤の中でドラフトを通じて評価が上がったカードいうが、それはオルゾフの完成形に必須だというのだ。《傲慢な支配者》から4ターン目に着地する5/5はグルール、シミックよりも早い展開を可能としている。その《地底街のゴミあさり》はラクドスではなく「死後」のあるオルゾフでこそ輝く。だからこそこのカードは黒単色でありながら、オルゾフのみで使用する実質白黒のカードなのだ。

 この意識の差はギルドへの着手タイミングにも関係する。他のプレイヤーよりも早くギルドへ切り込むため、卓内で自分の位置取りを決めやすく、結果として選択したギルドのカードも集まりやすいとのことだった。

傲慢な支配者組織の伝書使

 プレイだけではなく、ドラフトのピックにも押し引きがあり、またクリーチャー同士の殴り合いと決めつけず、その色の戦略まで考えた上で、パックから出たカードで帳尻を合わせる。「ラヴニカの献身」環境が始まったばかりとは思えない、しっかりとした指針をもった職人のようなピックであった。

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