『ラヴニカの献身』がモダンに与える影響

Lee Shi Tian

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/01/30)

『ラヴニカのギルド』を振り返る

みなさん、いかがお過ごしでしょうか。

『ラヴニカのギルド』が発売された際、「『ラヴニカのギルド』がモダンに与える影響」という記事を書かせていただきました。そして今回、『ラヴニカの献身』が発売されましたので、今回もモダンにどんな革命が起きるのかをお話しようと思います。

弧光のフェニックス弾けるドレイク

『ラヴニカのギルド』の記事では、モダンで活躍するであろうカードを挙げましたが、個人的にあまりにも重要なカードを見落としていました。それは《弧光のフェニックス》《弾けるドレイク》です。

《弧光のフェニックス》に関しては、明らかにそのカードパワーを見誤っていました。今考えてみれば、何のコストもなしに3/2の速攻クリーチャーが墓地から戻ってくるのですから、モダンで屈指の動きであることは間違いありません。記事を書いた当時は、墓地から戻るとしても、そこまで安定しないのではないか、と思っていたのです。しかし蓋を開けてみれば、理想的な初手が来たときの動きがあまりにも強く、多少の弱点など目をつむることができました。

墓地を利用するデッキにとって、墓地対策は厄介です。しかし、《弾けるドレイク》は墓地対策をものともしない、最善のサイドボードカードでした。確かに4マナという重さであり、すぐにゲームに大きな影響を与えるわけでもありません。ですが、《安らかなる眠り》《虚空の力線》を設置されたとしても、追放領域も参照する《弾けるドレイク》ならばお構いなしです。これこそがこのドレイクの魅力なのですね。

『ラヴニカの献身』がモダンに与える影響

さて、それではこの『ラヴニカのギルド』での経験を活かし、『ラヴニカの献身』のなかからモダンで活躍する可能性が高そうなカードたちを見ていきましょう。

《徴税人》

徴税人

クリーチャータイプが人間であり、それがひとつの大きな魅力になっている1枚。インスタントタイミングで動いてくる相手に対して、わかりやすいサイドボードカードですね。《スレイベンの守護者、サリア》と共に戦場に出せれば、相手には大きな“税”がかかります。そうなれば、相手はあなたのターンに呪文を何も唱えられない状況になるでしょう。

ここで特筆すべきは、《スレイベンの守護者、サリア》と異なり、《徴税人》は伝説のクリーチャーではないこと。つまり、《幻影の像》でコピーすれば、相手に二重の税を負担させることができるのです。しかも、仮に《幻影の像》が呪文や能力の対象になり、生け贄に捧げることになっても、「死後」によってトークンを生成することが可能なので、ぜひ覚えておきましょう。

《プテラマンダー》

プテラマンダー

モダンに追加の《秘密を掘り下げる者》がいたらどうなるでしょうか?今のところ《秘密を掘り下げる者》はモダンでは真価を発揮していませんが、それはモダンの打ち消し呪文があまり強力ではなく、1体のクリーチャーだけで勝ち切ることが難しいからなのです。しかし、《プテラマンダー》が登場したことで、軽量クリーチャーの数が倍増。相手は除去だけでは対処できなくなる可能性が高まりました。

また、「順応」をして5/5というサイズになれば、大抵の除去は効かなくなります。《プテラマンダー》は、高速で墓地にインスタント・ソーサリーを送ることができる墓地利用デッキ、たとえば《弧光のフェニックス》を使ったデッキで採用される可能性があると考えています。

自分のターンに1マナという軽さで1/1のクリーチャーとして展開し、相手のターン終了時に「順応」をする。こうすればマナを効率的に使うことができます。これはインスタントタイミングで動くデッキにとって最高の動きでしょう。

《雷電支配》

雷電支配

(X)=0で使えば、「待機」なしで《死せる生》《祖先の幻視》を唱えられるので、大きく心惹かれるカードですね。《予言により》の登場により、青単《死せる生》というデッキが現れましたが、《予言により》への依存度が高く、デッキとしての安定性がやや欠けていました。

しかしここでも《プテラマンダー》と同様のことが言えます。つまり、《予言により》と類似した役割を持つ《雷電支配》が登場したことで、デッキの動きを支えるカードの枚数が倍増したのです。より安定性のある構築となり、さまざまなカードを使ったシナジーを利用するデッキが登場する可能性はかなり高いと思われます。

信仰無き物あさり詐欺師の総督鏡割りのキキジキ
雷電支配死せる生

たとえば、1ターン目に《信仰無き物あさり》《鏡割りのキキジキ》《詐欺師の総督》を捨てたとしましょう。そして2ターン目に《雷電支配》から《死せる生》を唱えれば無限コンボの完成です。2ターンキルが起きるモダンの世界へようこそ。

《舞台照らし》《批判家刺殺》

舞台照らし批判家刺殺

この2枚をまとめてお話するのは、もっとも相性の良いデッキがバーンという点で共通するからです。《溶岩の撃ち込み》は、「絢爛」の条件をもっとも手っ取り早く達成する役割が生まれました。今回のような、大きな強化がバーンに与えられるのは随分と久しぶりのことですね。バーンというデッキは、ただメタの風向きが自分に向いてくるのを待つことが多かったのですが、今や《物読み》《稲妻の連鎖》を手にしました。果たしてバーンデッキがTier1の座を取り戻す日はやってくるのでしょうか?

《燃えがら蔦》

燃えがら蔦

絵に描いたようなサイドボード用のカード。モダンにおいては、安定性を維持するためにキャントリップ呪文に依存しているデッキが非常に多く、《燃えがら蔦》はそのようなデッキに痛い目を見させる有効な手段となります。

同時にアーティファクトやエンチャント対策にも一役買ってくれます。似た効果を持つカードとして《破壊的な享楽》がありますね。《燃えがら蔦》は戦場に出しておけば、相手がインスタントやソーサリーなどを唱えたときに1点のダメージを与える役割が持てます。そのため、《破壊的な享楽》と違って、相手がエンチャントやアーティファクトを唱えてこないから手札で腐ってしまう、という状況が発生しません。しかし、その「腐らない」というメリットが「3マナの《破壊的な享楽》となってしまう状況もある」というデメリットを上回るか。それが疑問として残りますが、時間が経てばその答えは見えてくることでしょう。

《成長のらせん》

成長のらせん

インスタントタイミングでマナ加速できることには大きな意味があります。たとえば相手が2マナを構えている状態を想像してみてください。何か唱えればまんまと《差し戻し》を使われ、かといって何も唱えなければ《成長のらせん》でみすみすマナ加速を許してしまうわけです。このインスタントカードは、私の愛用デッキのひとつであるティムール《風景の変容》デッキにとって大きな戦力となります。このデッキは、現在のモダンのパワーについていけない状態が続いていましたが、《成長のらせん》によって環境の第一線へ復帰してくれたら良いなと思っています。

《災いの歌姫、ジュディス》

災いの歌姫、ジュディス

Q:クリーチャータイプが人間か?――A:はい

Q:《民兵のラッパ手》で手札に加えられるか?――A:はい

Q:戦場に影響を与えるか?――A:はい

《災いの歌姫、ジュディス》は5色人間にとって大きな強化となるでしょう。クリーチャーが死亡するたびに1点のダメージを与えられる能力があり、全体除去を撃たれても大抵の場合は相手にダメージが与えられるので、従来の5色人間にはなかった、別の角度からの攻め方が実現できるようになったのです。死亡することに意味が出てきたので、《カルテルの貴種》がモダンで活躍するチャンスが巡ってくるのでしょうか?

《アゾリウスの造反者、ラヴィニア》

アゾリウスの造反者、ラヴィニア

対戦相手はトロンを使っていて、あなたは《翻弄する魔道士》《忘却石》を指定しているとしましょう。さて、手札にある2枚目の《翻弄する魔道士》で指定するべきカードは《解放された者、カーン》でしょうか?それとも《精霊龍、ウギン》でしょうか?なんと《アゾリウスの造反者、ラヴィニア》ならどちらのカードも対処できます!

《アゾリウスの造反者、ラヴィニア》はレガシーやヴィンテージのサイドボードカードとしてはもちろんのこと、モダンでも活躍します!相手が2ターン目に《献身のドルイド》を出してきたとしても、3ターン目の《集合した中隊》《召喚の調べ》を封じ込めることも可能なのです。ときには、3ターン目は《アゾリウスの造反者、ラヴィニア》よりも《反射魔道士》を優先させるべき展開もあるでしょうけどね。

《首席議長ヴァニファール》

首席議長ヴァニファール

サミュエル・パーディー/Samuel Pardeeがこのカードに関する素晴らしい記事を書いてくれました。《首席議長ヴァニファール》の能力が起動できる状態で、何らかのクリーチャーが横に並べば、ほぼ無限コンボが決まってしまうというのです。《出産の殻》はモダンで禁止ですが、《首席議長ヴァニファール》が召喚酔いという弱点さえ突破してしまえば、同等の働きを見せるかもしれません。彼女に速攻を与えると、コンボを止めるのはより一層困難になるでしょう。

《野生の律動》

野生の律動

クリーチャーに速攻を与えられれば、というお話をしましたが、《野生の律動》はクリーチャーを使ったコンボが成立する確率を飛躍的に高めます。《首席議長ヴァニファール》《献身のドルイド》が打ち消されず、速攻を持つのですから、突如としてコンボが決まる可能性があるのです。

「暴動」のもうひとつのモード、+1/+1カウンターを置くという能力は、「頑強」クリーチャーを無限に復活させることができます。そのため、《野生の律動》が戦場に出ていれば、「待機」中の《大いなるガルガドン》《台所の嫌がらせ屋》《残忍なレッドキャップ》と無限コンボが形成できます。しかも、この過程では打ち消し呪文や単体除去の介入の余地を与えません。

新たな時代へ

『ラヴニカの献身』には、モダンで活躍しそうなポテンシャルを持つカードが多いですね。個人的にはバーンが目下の仮想敵になるのではないかと考えています。大幅に強化されましたからね。5色人間や青赤の呪文ベースのデッキは、引き続き勢力を伸ばしていくことでしょう。新しいデッキとしては、《首席議長ヴァニファール》《雷電支配》を使ったものが間違いなく登場すると思われます。

つい先日《クラーク族の鉄工所》が禁止され、モダンは大きな変化の時を迎えています。アイアンワークスはモダンでもっとも安定し、妨害にも強いデッキのひとつでしたからね。もっともっと多様性に富んだ環境になってくれることを願っています。

リー・シー・ティエン@leearson

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Lee Shi Tian リー・シー・ティエンは香港出身のスーパースター。プロツアートップ8が5回、グランプリトップ8が10回 (内優勝1回) と凄まじい戦績を誇り、特にモダンフォーマットを得意とするプレイヤー。 リーは偉大なプレイヤーとしてのみならず、アジア圏のコミュニティの育成に尽力した人物としても広く知られており、彼とそのチームメイトである "チームミントカード" の面々はプロシーンで次々と好成績を残し続けた。 プレイヤーとして、そしてコミュニティリーダーとしての功績が世界中で高く評価され、2018年にマジック・プロツアー殿堂入りを果たす。 Lee Shi Tianの記事はこちら