エレクトロフェニックス ~完全デッキガイド~

Raphael Levy

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/03/18)

(編注:MTGアリーナ・インポート用テキストに誤りがあったため、2019年03月20日に修正いたしました。)

ダイヤの原石

ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019が開催される前のこと。チームで調整する予定になっていたが、私は個人的に色々なデッキを先んじて試していた。その過程で目を引くデッキがひとつあった

弧光のフェニックス静電場

それは津村 健志が私たちのFacebookグループに投稿していたものだ。《弧光のフェニックス》《静電場》、そして大量に採用された1マナの赤の呪文。『ラヴニカのギルド』が発売された当初、私が試していた赤単スナイパーデッキを彷彿とさせるものだった。

同じ船に乗ってくれるチームメンバーはいなかった。それにこのデッキに十分な時間がかけられそうにもなかったため、当時の私は諦めることにした。そして再びこのデッキを手に取ったのは、ミシックチャンピオンシップが終わり、スタンダードをやり直そうとしたときのことだった。

デッキリスト

細部の調整を重ね、私はこのようなデッキリストにたどり着いた。

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デッキ解説

このデッキは多角的な攻め方が可能だ。

プランA:《遁走する蒸気族》《静電場》

遁走する蒸気族

この2枚は手に手を取るような相性のよさがある。インスタントやソーサリーを唱えるたびに《静電場》は相手を狙い撃ち、《遁走する蒸気族》は+1/+1カウンターを乗せ、マナを生み出す。

相手がこの二人の仲を引き裂かなければ、ものの1~2ターンでゲームに幕を引くことができる。まさにそれこそが、白単ウィニーやシミックネクサスといった、妨害してこない相手への勝ち筋だ。

「今朝はとてもいい時間を過ごせた。このデッキは最高だね。」

単体で見てもこの2枚は強力だ。《遁走する蒸気族》は、もっとも一般的なタイプの赤単アグロを代表するようなパワーカードであることからも、その実力は折り紙付きである。

《静電場》は、《遁走する蒸気族》に比べれば使われる機会が圧倒的に少ないが、強力な1枚である。タフネスが4あるため、《稲妻の一撃》で除去されず、多くのクリーチャーの攻撃から身を守ってくれる

私たちが判断しなければならないのは、ブロックをするタイミングだ。もしブロックをすれば、《ショック》で除去されるなどのリスクを伴う。アグロデッキと戦う際、この判断はもっとも勝敗に影響を与えるものになるだろう。

パワーが3のクリーチャーをブロックすれば、戦闘後に《ゴブリンの鎖回し》で除去されてしまうこともある。逆に、ブロックせず3点のライフを失った場合、ダメージレースで負けたり、相手の「絢爛」の条件達成を許してしまうこともある。

ブロックするかどうかの判断は、自分の手札でできること次第だ。言い換えるならば、《静電場》が仮にいなくなったとしても勝てるのかどうか、だ。

突破大将軍の憤怒舞台照らし批判家刺殺

《静電場》は相手のライフを大きく削る力がある。現に、このデッキが与えるダメージの大半はこのカードによるものだ。このクリーチャーの最大の利点は、「絢爛」の条件が達成しやすいことにある。

《突破》《大将軍の憤怒》といった単なるキャントリップ呪文で、《舞台照らし》《批判家刺殺》をたったの赤1マナで唱えられるようになるのだ。この事実は、《弧光のフェニックス》を墓地から蘇らせたいときに大きな意味を持つ。

危険因子

また、《静電場》が戦場にいれば、《危険因子》がゲームに与える影響も非常に大きくなる。相手からすれば、こちらに3枚ドローさせるのか、あるいは4点のダメージをもらうのかの判断は、一層悩ましいものになるのだ。というのも、もしこちらにドローをさせる選択をした場合、より大きなライフ損失につながる可能性があるからである。そのため、相手は8点、いや10点のライフを失うことになるパターンが多いのだ。

プランB:《弧光のフェニックス》

弧光のフェニックス

《静電場》と同じく、《弧光のフェニックス》は継続的なダメージ源となる。スタンダードのイゼットカラーでは使われない傾向にあるようだが、間もなく復活するだろうと予想している。

このデッキにおいては、《弧光のフェニックス》を墓地へ送り、蘇らせる方法は非常にシンプルだ。

苦しめる声リックス・マーディの歓楽者

しばらくの間、《苦しめる声》を4枚入れた構築にしていたが、少々《リックス・マーディの歓楽者》を見くびっていた。ソーサリーの枚数を増加させたいと思っていたのだ。そして《苦しめる声》を4枚で試してみたところ、あまり多すぎても問題だということになり、《リックス・マーディの歓楽者》が3枚、《苦しめる声》が2枚の構築が一番いいという結論になった

《リックス・マーディの歓楽者》の強みは、手札がないときに戦場に出せば1ドローのクリーチャーになること、あるいは「絢爛」で唱えればカードを3枚引けることにある。リソースの削り合いになる展開では、非常に重要な役割を果たす

危険因子

《危険因子》《弧光のフェニックス》を手札から捨てる手段である。《弧光のフェニックス》をコストにして「再活」で唱えれば、手札から捨てつつも、墓地から蘇らせるための呪文数にカウントされるため、一石二鳥である。

《遁走する蒸気族》が戦場にいる状態であれば、1ターンで一度に事を運ぶことも容易だ。手札から《危険因子》を唱える、《弧光のフェニックス》を捨てつつ《危険因子》を「再活」で唱える、何らかの1マナ呪文を唱える、《弧光のフェニックス》で攻撃する。このような動きができれば、大抵は勝利が目前になる。

火の鳥を有効活用するにしても、手札から捨てる手段が少ないのでは?と思った人もいるかもしれない。しかし、《弧光のフェニックス》が手札に溜まって困ったことは一度たりともない。必要であれば手札からも容易に唱えられるため、問題として顕在化しないのだ。

その他のカード選択

その他の呪文は、脇を固めるカードたちだ。

《大将軍の憤怒》《突破》

大将軍の憤怒突破

3枚ずつ採用された《大将軍の憤怒》《突破》は、土地が少ない手札を円滑にするキャントリップ呪文だ。また、《遁走する蒸気族》《静電場》のエネルギー源にもなれば、《弧光のフェニックス》を復活させる手段にもなる。

《舞台照らし》

舞台照らし

《舞台照らし》は、当然のごとく採用するカードだ。他の軽量呪文と同様にクリーチャーの能力を誘発させつつ、更なる呪文へとつなげられる。

《興行/叩打》

興行/叩打

《興行/叩打》は、健志の元々のデッキリストに含まれていなかったカードの1枚であり、大きな違いを生んだものでもある。1ターン目に展開された《ラノワールのエルフ》《プテラマンダー》《セイレーンの嵐鎮め》はどれも面倒なクリーチャーであり、これらを対処する手段を増やすべきであると感じた。そしてこの分割カードはこの問題を見事に解決してくれる1枚なのだ。また、「絢爛」を手軽に達成できる手段が欲しいという事情もあった。

《叩打》は、とどめの一撃としても使えるし、シミックネクサスの手札破壊としても有用であるため、非常に使い勝手がいい。

《ショック》《批判家刺殺》

ショック批判家刺殺

この2枚は、マナ効率がもっともいい赤の呪文であるため、当然の採用だ。相手のクリーチャーを除去し、攻撃クリーチャーのために道を開けることもできるし、《静電場》と合わさればいち早く相手を焼き尽くすことができる。

マナベース

山血の墓所竜髑髏の山頂

土地19枚が、このデッキの適正値である。呪文を連鎖させていくには少なくとも土地が2枚は必要だが、マナフラッドしたくもないのだ。土地を過剰に引いてしまった場合には、《苦しめる声》《リックス・マーディの歓楽者》《危険因子》が役立つ。逆に、土地が少ない場合にはキャントリップ呪文が活躍してくれるだろう。

黒マナはあまり多くは必要でない。《血の墓所》《竜髑髏の山頂》もそれぞれ裏目があるのだ。《血の墓所》1枚を4枚目の《竜髑髏の山頂》に変更することも可能だが、手札の土地が2枚とも《竜髑髏の山頂》になると最悪だ。ライフの管理を徹底しなければならない攻撃的なデッキと対戦においては、《血の墓所》も2点のライフを支払うことがあるため、それが命運を分けることもあるだろう。

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サイドボードガイド

自信を持って言えるが、このデッキであればどんなデッキに当たっても構わない

エスパーコントロール

対 エスパーコントロール

Out

苦しめる声 苦しめる声 大将軍の憤怒 突破
遁走する蒸気族 遁走する蒸気族 遁走する蒸気族 遁走する蒸気族
興行/叩打

In

強迫 強迫 強迫 強迫
恐怖の劇場 恐怖の劇場 恐怖の劇場 恐怖の劇場
血の墓所

エスパーコントロールは、正しいサイドボードがわかるまで、相性が一番好ましくない相手だと思っていた。相手はこちらの序盤のクリーチャーを除去できるし、《ヴラスカの侮辱》《弧光のフェニックス》も追放できる。さらに《吸収》でライフ回復までされてしまうのだ。そのため、1ゲーム目は遅れをとることになる。

強迫恐怖の劇場

サイドボード後は状況が変わる。手札破壊や《恐怖の劇場》をサイドインできるからだ。《実験の狂乱》を少しだけ試していた時期があったが、望むような働きを見せることはなかった。赤単アグロほど軽量のカードがなく、《危険因子》やキャントリップ呪文との相性もよくないのだ。ところが、《恐怖の劇場》はカードアドバンテージ源でありながら、相手のライフを直接的に狙える武器にもなる。

血の墓所

このマッチアップでは、20枚目の土地、追加の黒マナソースが欲しい。《恐怖の劇場》が存分に活躍するにはマナが多く必要なのだ。それに、《恐怖の劇場》の起動能力は余分なマナを有効活用できるため、土地を引きすぎたとしても気にならない。

相手は打ち消し呪文や《屈辱》》でエンチャントを対処してくる。しかし、だからこそ《恐怖の劇場》を4枚採用しているし、《強迫》でバックアップできるような形にしてある。

黒マナはすぐに引き込む必要はないし、ゲームは非常に長引くパターンが多い。そのため、いずれは黒マナを引き当てられることが多いだろう。メインデッキに黒マナソースを増量させるのもひとつの手だが、《血の墓所》《竜髑髏の山頂》の採用枚数が多すぎることによる弊害を受けるぐらいならば、サイドボード後に追加の黒マナをサイドインした方がよいだろう。

喪心渇望の時ケイヤの怒り肉儀場の叫び

サイドボード後に対戦相手が除去満載の構築にしてくるのであれば(《喪心》《渇望の時》《ケイヤの怒り》《肉儀場の叫び》……)、易々とやられてしまうクリーチャーを展開したくない《遁走する蒸気族》は何もしないことがほとんどであるから、サイドボードに置いておいた方がいいだろう。

青単

対 青単

Out

苦しめる声 苦しめる声
危険因子 危険因子 危険因子

In

ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し
血の墓所

青単との勝負は、どちらが先行をとれたか、そして青単が最初に展開したクリーチャーを除去できるかに大きく左右される。相手は《遁走する蒸気族》を除去する手段がないため、着地すればやりたい放題できる。そうなれば大体は勝てるだろう。

呪文貫き

「マナコストが重い」呪文は、《呪文貫き》に容易く打ち消されてしまう。手札を捨てなければ唱えらえない《苦しめる声》を打ち消されたら目も当てられない

スゥルタイミッドレンジ

対 スゥルタイミッドレンジ(先手)

Out

遁走する蒸気族 遁走する蒸気族 遁走する蒸気族 遁走する蒸気族
危険因子 危険因子 危険因子
山

In

ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し
恐怖の劇場 恐怖の劇場 恐怖の劇場
血の墓所

対 スゥルタイミッドレンジ(後手)

Out

遁走する蒸気族 遁走する蒸気族 遁走する蒸気族 遁走する蒸気族

In

ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し

スゥルタイは長期戦で挑んでくるため、直接ダメージで相手を倒す時間的猶予が与えられる。大抵の場合、相手のエースカードたちが間に合わない速度で攻め立てられる。

ラノワールのエルフビビアン・リード打ち壊すブロントドン

サイドボード後に相手は除去を豊富にサイドインしてくるため、《遁走する蒸気族》が長生きすることはないはずだ。《ゴブリンの鎖回し》は、少なくともいずれかの時点で《ラノワールのエルフ》を除去できる見込みがある。

先手であれば、《恐怖の劇場》は相手とアドバンテージ差をつける手段として有力なサイドボードカードだ。スゥルタイがエンチャントを破壊する方法は《ビビアン・リード》>しかおらず、《実験の狂乱》よりも1ターン早く機能し始める強みがある(黒マナソースを引いている場合)。

もし1ゲーム目に《打ち壊すブロントドン》を見ていたら、《恐怖の劇場》はサイドインしないようにしよう。後手の場合、《恐怖の劇場》は少し遅い可能性があるため、《危険因子》プランのままでいいだろう。

赤単

対 赤単

Out

遁走する蒸気族 遁走する蒸気族 遁走する蒸気族 遁走する蒸気族

In

ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し

ほとんど仕事をしない4枚を、はるかに大きな仕事をしてくれる4枚に変更しよう。

白単ウィニー

対 白単ウィニー

Out

弧光のフェニックス 苦しめる声 苦しめる声 突破
危険因子 危険因子 危険因子

In

ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し ゴブリンの鎖回し
血の墓所 焦熱の連続砲撃 焦熱の連続砲撃
ゴブリンの鎖回し焦熱の連続砲撃

白単ウィニーは、全体除去を苦手としている。いい知らせとしては、私のデッキにはその全体除去がサイドボードに6枚も採られている

不可解な終焉議事会の裁き不敗の陣形

サイドボード前も相性は良好である。こちらには相手が対処しづらいカードが多く入っているからだ。白単ウィニーが唯一勝つ方法は、《不敗の陣形》《議事会の裁き》を多く引き込み、こちらの序盤のクリーチャーを除去することである。

サイドボード後は、相手の脅威をすべて除去することが主なポイントとなる。ぜひとも注意したいカードは、《不敗の陣形》だけだ。

3マナ域を6枚も追加するため、これらを安定して唱えらえるよう、追加の土地が必要となる。《ゴブリンの鎖回し》を手札に抱えたまま負ける、なんてことがないようにね。

シミックネクサス

対 シミックネクサス

Out

苦しめる声 苦しめる声 大将軍の憤怒 突破
山

In

強迫 強迫 強迫 強迫
血の墓所

1本目は、速度勝負になるだろう。こちらにとって追い風なのは、相手の《根の罠》では直接ダメージを防げないことだ。サイドボード後には手札破壊が使えるため、相性は改善される。

サイドボード概括

このデッキのサイドボーディングはあまり複雑ではない。おおよそどんな相手に当たろうとも、今回紹介したサイドボーディングを応用すれば対応できるはずだ。

サイドボーディングするときは自問自答するようにしよう。どんなゲームを展開したいのか?どんな呪文が重要になってくるのか?《危険因子》《恐怖の劇場》か?《遁走する蒸気族》《ゴブリンの鎖回し》か?)サイドインするカードのために20枚目の土地が必要なら……と考えていくわけだ。

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デッキの動きをご覧になりたい方へ

もしミシックチャンピオンシップをもう一度やるとすれば、間違いなくこのデッキを使うだろう。せめて今すぐに何らかの大会で使いたかったぐらいだ……。

私はTwitchでの配信を再開し、ここ数日は今回紹介したデッキを使っている。この記事が公開される頃には、構築のプラチナレベルになっていることだろう。

実際にこのデッキが動いているところをご覧になりたいのであれば、私のリプレイ動画を見てもらえればと思う。私のチャンネルは下記のリンクからご覧いただける。

フランス語で放送することが多いが、みなさんの馴染みの言語でなくても、何が起こっているのかは理解できるだろう。放送のチャットに英語を話す人が多いときや、質問が投げかけられたときには、英語に切り替えるつもりだ。だからぜひとも私の放送に来ていただきたいし、気になることはどんなことでも尋ねてほしい。

また、Twitter(@raphlevymtg)も忘れずフォローしていただければと思う。デッキや放送について、随時情報をお伝えしていく。

今回もお付き合いいただきありがとう。

ラファエル・レヴィ

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Raphael Levy ラファエル・レヴィはフランスの古豪。初のプロツアー参戦は1997年で、そこから2017年のプロツアー『イクサラン』まで、91回連続でプロツアーに出場し続けたという驚異の経歴の持ち主だ。そして、2019年のミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019にて、歴史上で初めて100回のプロツアーに参戦したプレイヤーとなった。これまでに築き上げてきた実績は数知れず、2019年2月の時点でプロツアートップ8が3回、グランプリトップ8が23回(優勝6回)、その他にもワールド・マジック・カップ2013ではキャプテンとしてチームを優勝に導くなど、数々の輝かしい成績を残している。生涯獲得プロポイントは750点を超えており、2006年にはプロツアー殿堂にも選出されている。 Raphael Levyの記事はこちら