あなたの隣のプレインズウォーカー 第82回 ラヴニカ人の『灯争大戦』

若月 繭子

若月 繭子

こんにちは、若月です。

『ラヴニカのギルド』と『ラヴニカの献身』の間、この連載ではボーラス側ギルドとそうでないギルドをそれぞれ考察してきました。

そして『灯争大戦』では、物語の中心となるプレインズウォーカーだけでなく、非プレインズウォーカーのキャラクターも大いに活躍しています。勢力が十もあるというラヴニカの性質上、全ギルドとは行きませんでしたが。今回は、その中でも特に目立っていた人達&ギルドを紹介します。

1. ボロス軍/オレリア、フェザー、パルヘリオンⅡ

聖なる鋳造所

何があろうとも、やはりラヴニカの正義と平和を守るギルドの筆頭はボロス軍です。ラヴニカでギルド間の仲が不穏になるのは毎回のことですが(まあ、そうでないとゲームになりませんからね……)、ボロス軍はいつもその争いを止める側です。特に今回のラヴニカ3部作では、ギルド内外の不仲を煽るのもボーラスの策略のひとつでした。結果、ボロス軍はいつにも増して暴れるグルール一族やラクドス教団に立ち向かっていました――さらに極悪かつ捕えがたい敵の影響を察知しながら。

そして『灯争大戦』。今回はラヴニカ内部の戦いではなく、ニコル・ボーラスと永遠衆という外部からの侵略です。ボロス軍は何ら迷うことなく、文字通りに全戦力を投入してきました――過去の物語や設定でのみ登場していた諸々も、惜しむことなく。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター21より訳

応唱の要塞、浮遊城、飛行城塞――パルヘリオンⅡがサンホームの空へと上昇していた。完璧な対称形が頭上に鎮座する様は、輝かしい光景だった。永遠衆ですら立ち止まってその存在に圧倒されたように見えた。そしてパルヘリオンⅡの巨大な防壁から、ボロスは兵を展開していた。戦天使が飛び立ち、空騎士はグリフィンに騎乗して敵へと降下していった。

Parhelion II陽光の輝き

《聖なる鋳造所》が飛んでビーム撃ってるーーー!!??」

カードが公開された時は、多くの人が度肝を抜かれたかと思います。「パルヘリオンⅠ」自体の初登場は小説『Guildpact』でしたが、当時はっきりとした外見の描写はありませんでした。どうもアメリカでは、毎年7月4日(独立記念日)に「火薬で金床を空に飛ばす」という行事が割とポピュラーに開催されているらしく、そこから持ってきたのかもしれません。さらにその派生なのか、アメリカのカートゥーンアニメでは「空から金床が落ちてくる」定番のネタがあるらしいのです。日本で言うところの「金だらいが落ちてくる」に近いでしょうか。

話がそれました。「パルヘリオンⅡ」という名前の通り、これは2号機です。1号機は『ディセンション』にてアゾリウス評議会本拠地プラーフに墜落、大破しました(現在のアゾリウス評議会本拠地が「新」プラーフなのはそのため)。そして、2号機が建造されたことは『ギルド門侵犯』時には明らかになっていましたが、設定が語られていたのみで特に登場はしていませんでした。

パルヘリオンの由来は遠い昔、最初のギルドパクト調印以前に遡ります。当時、ラヴニカには外部からの来訪者が時折やって来ており、他の世界の魔法や技術や物語をもたらしていました。

ですが、彼らが訪れる頻度は次第に減少し、ある時ぱったりと途絶えてしまったのです。ラヴニカの人々は知るよしもありませんでしたが、それは遠くドミナリア次元で発生した「時の裂け目」の影響により、ラヴニカそのものが閉ざされてしまったためでした。

そしてその原因を探るべく、来訪者たちが残していった魔法やアーティファクトを元に、パルヘリオンが建造されたのでした。天使たちは空の果てを目指すも、世界はそこで単純に途切れているだけでした。その後、パルヘリオンはボロス軍の空中要塞へと転用されました。

贖いし者、フェザー

……というようなことを『ディセンション』当時語ってくれたのが、このフェザーです。登場は初代『ラヴニカ:ギルドの都』の小説版。主人公であるボロス軍の老警官、《ウォジェクの古参兵、アグルス・コス》の相棒の天使でした。何でも過去に不名誉なことがあったらしく(詳しく語られてはいません)、翼を束縛されて他の天使とは別にウォジェク連盟(ボロス軍の一支部、警察組織に該当する)へと配属されていました。

そして、《秘密の王、ザデック》《アウグスティン四世大判事》によるギルドパクト転覆の陰謀を追い、最後には《ボロスの大天使、ラジア》の後継としてボロス軍のギルドマスターとなりました。が、『ラヴニカへの回帰』ブロックの前にオレリアに敗北してその座を失い、拘束された……というところでその物語は止まっていました。

フレイバーテキストにすら登場していないキャラクターでありながら、カード化の要望は昔からとても多かったようです。マローも記事でこう説明していました。

公式記事「大戦のゲーム」より引用

特定の登場人物を伝説のカードにしてほしいというリクエストが大量に届いている。リクエストが最も多い人物の1人が、ボロス軍の一員でありアグルス・コスの相棒であるフェザーだった。

プレビューでは先に《陽刃の天使》が出ていまして、主に背景ストーリー勢がそのフレイバーテキストにざわついていました。

陽刃の天使

《陽刃の天使》フレイバーテキスト

フェザーの指揮のもと、戦天使中隊がパルヘリオンⅡから飛び出すと、朝焼けで鍛えた刃をきらめかせた。

今回は本当にこういう見せ方が上手かった。そんな感じで待望のカード化だったフェザーですが、物語での明確な出番は残念ながらありませんでした。とはいえウェブ連載版の方で「珍しい4枚翼の天使」が目撃されており、これがフェザーである可能性は十分にあると思います。そして、現在スタンダードで活躍中のデッキがありますね。その名も「ボロスフェザー」。やっぱりカードゲームですから、カードを使われてこそ。不名誉な天使とされてきたフェザーの、最高の名誉回復だなと思います。

さて、すでに話が長くなりましたが、今回ボロス軍のキャラクターで最も活躍していたのは、やはりギルドマスターのオレリアです。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター7より訳

「ギルドマスターのオレリアは確固としてこちらの味方です」

「当然だ」ギデオンは満足の笑みで頷いた。

正義の模範、オレリア

これは『灯争大戦』小説序盤、ようやくラヴニカへと帰還したゲートウォッチにラヴィニアが現状説明をする場面です。ギデオンは『ラヴニカへの回帰』ブロック当時にボロス軍に身を寄せていましたが、メインストーリーである「暗黙の迷路」にはほぼ関わっていなかったため、当時の彼の動きはあまりよくわかっていませんでした。今回、かなり序盤でのこのやり取りからは、今も強い信頼関係が続いていることがわかってとても嬉しくなります。

そして永遠衆の侵攻が始まると、すぐにギデオンはボロス軍へ急ぐとオレリアと嬉しい再会を果たします。その詳細や《信頼あるペガサス》について、永遠神ロナスとの戦いについては第79回にて詳しく書きました。また順番は前後しますが、2人の信頼が長く続いていることを示すこんな場面も。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター25より訳

ジェイスはギデオンへとテレパスで短い伝言を送った、次元橋の入口へ攻撃を向けないようにと。そこには彼とテフェリーの魔法が今も効いていた。ボロス軍がテフェリーの時間魔法や彼の幻影魔法に引っかかっては役に立たなくなってしまう。そして、次元橋の向こう側にはまだ永遠衆の大軍が待ち構えているのだ。

ギデオンは片手でオレリアへと合図を送った。いくつかの短い軍用の手振りが、いかにしてか即座に明確な知識へと繋がっていた。

兵士のテレパス。ジェイスは憂うようにそう感じた。

ギデオンだけではありません。プレインズウォーカー達の会議の前、オレリアは最高に頼もしい味方だとラルが認めている場面もありました。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター31より訳

長年の味方である秩序と戦いの天使、ボロス軍のギルドマスター・オレリアは思った通り、真っ先にやって来た。そしてイスペリアからラルへと怒りの視線をやった、まるでスフィンクスの死が彼の責任であるかのように。異論はなかった。ラルもまた自身を大いに責めていたのだから。

そう、俺自身とヴラスカを。

だがオレリアは極めて現実的な人物だった。そして全ギルドの中でも、最も力強い味方だった。

当初は保身に走るギルドも多かった中、『灯争大戦』の物語を通して、オレリアとボロス軍はラヴニカを守る軍隊として常に先頭で永遠衆と戦い続けていました。その中にはいつも、ペガサスに騎乗して戦うギデオンの姿がありました。

そしてご存知の通り、ギデオンは最後のボーラスとの戦いにおいて、リリアナの契約違反の身代わりとなりました。その身体は塵となって消滅してしまったため、残ったのは彼の鎧だけでした。エピローグにて、それをゲートウォッチのもとへ大切に持ち込むオレリアの姿は、とても印象的です。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――結末の灰燼」(『灯争大戦』第6話)より引用

何も本当には決まらなかったけど、そこでオレリア様が、ジュラ氏の焦げた鎧を聖なる秘宝みたいに大切に抱えてやって来た。その後ろにそのうちゲートウォッチの残りの人達が――レヴェインさんと黄金のたてがみさんが――続いていた。

たったひとつの遺品は、やはり仲間のもとに。けど私思うんですよ、オレリアはむしろこの鎧をギデオンが救ってくれたラヴニカに、ギデオンが共に戦ったボロス軍に奉りたかったんじゃないかって。スペルブック版の《安らかなる眠り》に描かれている彫像はテーロス次元にあるものと思われますが、次にラヴニカを訪れる時には、こちらにもギデオンの彫像が立っているかもしれませんね。

2. ディミーア家/ラザーヴ

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター7より訳

「ボーラスはこの諜報ギルドにも入り込みましたが、ギルドマスターのラザーヴが一掃した模様です。そのラザーヴも、然程信頼できる者ではありません。とはいえラザーヴはあのドラゴンを深刻な脅威とみなしており、恐らくは――味方です」

万面相、ラザーヴ

こちらもボロスの項目に同じく、物語序盤にゲートウォッチへと現状説明をするラヴィニアの台詞です。(元)アゾリウス評議会員が「ディミーアは味方」と言う、これがどれほど凄いことか!歴代ラヴニカでは、不気味な雰囲気を漂わせながら主人公側と対立してきたディミーア家ですが、今回のラヴニカ3部作は最初から様子が違っていました(不気味な雰囲気は相変わらずですが)。

悪意ある妨害

《悪意ある妨害》フレイバーテキスト

「侵入者の影響によって陥落したギルドが出たという情報がある。確認が取れるまで冒険は控えるのだ。」――ラザーヴ

なにせ『ラヴニカのギルド』の早々に公開されたカードからしてこれでしたから。「ボーラスがラヴニカを狙っている」ことは『イクサランの相克』時点でわかっており、また今回のラヴニカでは「プレインズウォーカーがトップにいる=ボーラスの息がかかっているギルド」、そして『ラヴニカのギルド』でのそれはイゼット団ゴルガリ団でした。

青黒という色、陰謀に長けた性質。どう考えても一番「ボーラスっぽい」(何度も言うけどごめん)ギルドであるディミーアがボーラス側でないというのは非常に意外であり、同時に「とても熱い」状況でした。あのディミーア家が今回はラヴニカを守るの!?

各種記事や資料もそれを裏付けていました。第75回に載せたものと同じですが、アートブックの記述がこちらです。

書籍「The Art of Magic: the Gathering: Ravnica」P.56より訳

究極的に、ディミーアにとっての真の脅威は、最大の懸念となりうるのはニコル・ボーラスである。ディミーアは熟達の策略家が率いる強大な工作員の組織である――彼らの世界がさらに強大な工作員らとそれ以上に優れた策略家に脅かされているのだ。その策略を全て時代遅れのものとしてしまうことで、ボーラスはディミーア家の存在にとって直接の脅威となっているのである。

つまり、いわゆる「敵の敵は味方」。でもこれまでの敵が、もっと強大な悪に直面して世界を守る立場になる。この展開が嫌いな人はいないでしょ! 私も大好きです!!

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター31より訳

ラルはまた、ディミーア家の多相のギルドマスター・ラザーヴが何らかの姿で出席するものと認識していた。諜報のギルドの名に違わず、ラザーヴは下らない目論見をこよなく愛している。だがこれまでのところ、ラザーヴは驚くほど協力的だった。信頼できるわけではない、だが協力的だった。

そしてオレリアと同様、ラザーヴもまた現実的だった。ボーラスの存在は都合が悪いのだ。つまるところ、全員が死んでしまったなら、誰も暗殺者を雇いはしないということだ。

どのような姿かはともかく、「ラザーヴが表舞台に現れる」と認識されていること自体が今回の事態のすさまじさを物語っています。そしてラザーヴ本人のまさかの活躍は第79回に詳しく書きました。まさにディミーアらしい動き、読む方も完全に騙されたわ!

そしてラザーヴだけではありません。単独の隠密行動が基本のディミーアですが、今回はラヴニカのために表立って共闘するカードがいくつも見られます。

間に合わせの大隊洞察の絆ダスクマントルの調査員

ラヴニカやそのギルドとは我々長い付き合いになりますが、本当こんな様子は初めてで感慨深いものがあります。私が特に好きなのは《間に合わせの大隊》。カード名の通りに能力が「大隊」、先頭のボロス兵が率いる2人はディミーアとシミック。さらには「武器は借り物」というフレイバーテキストの通り、ディミーアの人が手に持っているのはアモンケット次元の武器であるコペシュです。きっとそのへんの永遠衆から奪ったのでしょう。

そして華麗な変身で活躍してくれたラザーヴですが、物語の山場であるニヴ=ミゼット再誕の儀式、そしてエピローグにはしっかりと変身を解いて元の姿(かどうかは誰も知らないのですが)で参加していました。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――結末の灰燼」(『灯争大戦』第6話)より引用

「そのプレインズウォーカー3人は」 ラザーヴ様が確かな口調で言った。「我らが手の届かぬところにいる。だが、おぬしらにとってはそうではない」

そして、火想者様が結論を告げた。「ラル・ザレックはすでにテゼレット追跡に合意した。ヴラスカよ、過去の罪状の償いとして、我らはドビン・バーンの追跡を命ずる。そしてケイヤ、全ギルドはリリアナ・ヴェスの暗殺をそなたに依頼するものである」

かくして、ボーラスに協力したプレインズウォーカー3人へとサーチ&デストロイの任務が下りました。この様子からするに、ラザーヴを含むギルド代表者間でしっかり話し合って決めたのでしょうね。今後のラヴニカでディミーア家とラザーヴがどのような立ち位置になっていくのか、今から楽しみです。

3. シミック連合/ヴォレル

ヒレバサミダコハイドロイド混成体成長室の守護者

第75回に書いたように、今回のシミック連合は、面白いビジュアルとカード性能の両方で攻めてきていました。そして地理的条件もあってなのか、あまり他ギルドと目立った抗争はせずに、不穏な情勢下で自軍の勢力を増強している……という設定です。それは『灯争大戦』開始直後も変わりませんでした。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター7より訳

「会談が決裂した後、シミック連合は領土内に籠り、交渉にも応じません」

これもラヴィニアからの現状説明です。とはいえ、次元橋が開いて永遠衆の侵略が始まると、シミック連合はすぐに動き出しました。その先頭に立っていたのは《首席議長ヴァニファール》でも《楽園党の議長、ゼガーナ》でもなく、また『灯争大戦』の《混種の頂点、ロアレスク》でもありませんでした。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター24より訳

ケイヤはすでにマーレーがイゼット団を率いているのを見ていた。その隣ではシミック連合の生術戦士たちが、ヴォレルというマーフォーク混成体の指揮で戦っていた。ギルドが共に戦う、滅多にない瞬間だった。そしてシミック連合が孤立の壁から踏み出して戦いに加わってくれたのは、嬉しい驚きだった。

育殻組のヴォレル

ヴォレル!『ラヴニカへの回帰』ブロックにてシミック連合の迷路走者として登場しましたが、当時の出番は多くありませんでした。また当時はあまり物語に反映されていなかったのですが、元はグルールの出身という設定があります(フレイバーテキストでそう語っています)。ヴォレルが率先して前線に出てきたのは、今も残っていたグルールの好戦的な気質によるものであろうことは想像に難くありません。

そして《古呪》と共に灯が刈られ始めると、現状把握と作戦会議のためにプレインズウォーカーとギルドマスターに招集がかかります。未だ戦いを渋るギルドが複数ある中、ヴォレルはギルドマスターの全面バックアップと共に参上しました。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター31より訳

ヴォレルが来ていた。主席議長ヴァニファールの全面委任があるとのことだった。ラルは頷いて了承の意を示したが、ヴァニファールが主席議長であるとは知ってすらいなかった。

ゼガーナはいつ失脚したんだ?

ヴァニファールについて聞いたことはあった。エルフであり――噂が本当ならば、シミックの生術師によって改造された「元」エルフ――だが知っているのはごくわずかなそれだけだった。会ったことすらなかった。

ヴォレルはラルの当惑を察してか、安心させるように説明した。ヴァニファールは戦士であり、あのドラゴンの脅威が判明する遥か以前から戦いに備えていたと。ヴォレルは確信とともに言った。「現在の状況において、主席議長に相応しいのはゼガーナ様よりもヴァニファール様だ」

ラルは力を抜き、あまりに明白なひとつの疑問を口にしないことを決めた。ボーラスが来る前、ヴァニファールは果たして何との戦争に備えていたのか?

首席議長ヴァニファール守護者計画

うむ。ヴァニファールのようなハイブリッド戦士を作り出す「守護者計画」は、情勢不安を鑑みての軍事力増強でした。そして肝心の会議の場面、ある意味ヴォレル最大の見せ場はここだったのではないでしょうか。彼はラヴニカ人の誰もが思っているであろう、けれど中々口にはしづらいことをきっぱりと言ってくれました。

Magic Story「ラヴニカ:灯争大戦――結束という難問」(『灯争大戦』第2話)より引用

「それがお前たちの結論か? 隠れ潜んで永遠衆とあのドラゴンからラヴニカを見捨てる?お前たちプレインズウォーカーこそが、ボーラスがここにいる目的だ。ラヴニカが危機にある元凶だろうが」そしてあのエイヴンへ向き直った。「だがお前の考えは気に入った。お前たちプレインズウォーカーが全員降伏して――必要ならば力づくでもな――ボーラスが全員を食えば満たされるかもしれない。そうなれば、ラヴニカを離れるだろうな」

(略)

「だがこれだけははっきりさせてもらう。ラヴニカが燃える中でお前たちプレインズウォーカーが隠れているというなら、市民とギルドからの助力は一切受けられないと思え」

これを読んだ時、私は正直痺れました。当然そう思うよな!そしてこれを受けた「自分達は決して逃げない」というギデオンの演説がまた熱いんだ。その後、ヴァニファールの方はニヴ=ミゼット再誕の儀式にこそ登場したものの、やはりシミックのキャラクターとして前に出続けていたのはヴォレルでした。たくさんのプレインズウォーカーとギルドが共闘する、こんなエキサイティングな場面の中にも。

小説「War of the Spark: Ravnica」チャプター31より訳

北では、ニッサがアングラスと狼女アーリン・コードに加わった。その後ろには小規模ながら熱狂的なグルールとゴルガリの軍勢がついていた。東ではタミヨウとナーセットが、ヴォレル率いるシミックの腕力魔道士と共に戦っていた。南では、ティボルトと悪魔主義者ダブリエル・ケインが少数の悪魔と共に、イゼットの武器鍛冶やオルゾフの騎士、巨人、ガーゴイルを率いて突入した。西では、放浪者とだけ知られるプレインズウォーカーが印象的かつ効果的な攻撃を放っては、その剣で永遠衆の隊列を大きく切り裂いていった。

世界を揺るがす者、ニッサ混沌の船長、アングラス群れの声、アーリン伝承の収集者、タミヨウ
覆いを割く者、ナーセット無頼な扇動者、ティボルトはぐれ影魔道士、ダブリエル放浪者

この短い文章の中だけでプレインズウォーカーがなんと8人、これを見ていたギデオンも加えれば9人。『灯争大戦』の小説ではこのように、これまで接点のなかったようなプレインズウォーカーが共闘する場面がいくつもありまして、まだまだ紹介しきれていないくらいです。

少し話がそれました。このように今回のシミック連合は、早くから確固としてラヴニカのために戦っていました。ヴォレルも、最終決戦においてはグルールの血を思い出したような荒々しさに、シミックらしい技を加えて戦う姿が目撃されています。またエピローグの判決場面でも、ギルドの代表としてなのかオレリアやラザーヴと共に参列していました。

ラヴニカには勢力が10もあるため、どうしても物語内での扱いには毎回差が出てしまうと感じています。シミック連合はアルファベット順とカラーホイール順の両方で最後尾に位置するためもあってか、過去2回のラヴニカ訪問ではあまり美味しい立場ではなかったような気がします。それが、『灯争大戦』では遂に格好いい役どころで活躍できました。良かった、本当に。

4. ニヴ=ミゼット

Niv-Mizzet, Parun

『灯争大戦』の物語は完結しましたが、現在その前日談シリーズ「The Gathering Storm」が配信されています(基本はメール配信ですがウェブでも公開)。

6月下旬現在、『ラヴニカのギルド』序盤付近の物語が進んでいます。そして長らく謎であったこの頃のニヴ=ミゼットの詳しい動向がようやく判明しましたので、今回はそれを紹介します。

「なんか不可解で壮大なことを企んでいるっぽい」→「それは真にラヴニカを守るためのものだった」というムーヴを回帰ブロック、そして今回と連続でやってくれたこのドラゴン。第74回第76回にも書いてきましたが、ニヴ=ミゼットは多元宇宙とプレインズウォーカーの存在を、またラルがその一人であることもしっかり認識していました。前日談シリーズにて、その「ラルの身バレ」がどのようなものだったかが判明しました。少々長いですが紹介させて下さい。

「The Gathering Storm」チャプター1より訳

「ラルよ」ニヴ=ミゼットはさらにもう一歩近づき、ラルはその息の熱を感じた。「偽りの時は終わりだ」

なんてことだ。ラルは長年にわたって弁舌を駆使し、ギルドマスターから秘密を守ってきた。プレインズウォーカーの存在から始まって、ラルがその一人だという事実、電光虫計画の真の目的は言うまでもなく。

「怖れることはない」何故か、ドラゴンの声色には楽しむような様子があった。「ニコル・ボーラスの工作員と会っていたのだな」

「!」 ラルは凍り付いた。ニヴ=ミゼットは知っている、だが果たしてどこまで。「ギルドマスター……」

「ああ、ラルよ。おぬしは実に賢い」

ニヴ=ミゼットの巨大な頭部が近づき、その顎が開かれた。「人間にしては。イゼット団のギルドマスターを、我はどれほどの長きに渡り務めてきたか言うてみよ」

「始まりの時より」 ラルはかろうじて声を出した。「創設者なのですから。少なくとも一万年は」

「一万年」 ドラゴンは頷いた。「おぬしはその年月の長さを想像しうるか?一万年をかけて、この都市と人々を見守る。一万年をかけて、宇宙の法則に心を巡らす。それでいて自身の些細な秘密を知らぬとおぬしは思い込んでおる」

ニヴ=ミゼットの精神的な声が咆哮にまで大きくなった。「この我が理由もなしに火想者と呼ばれておると思うのか?」

ラルは無意識に一歩後ずさり、頭を下げた。「とんでもありません、ギルドマスター」 彼は躊躇し、そして恐る恐る顔を上げた。「いつからご存知だったのですか?」

「おぬしがプレインズウォーカーであることを、か? ここに来た時より。真実を知ってさえいれば、その徴を読むなど難しくはない」

「では、何故ご存知でないふりを?」

ニヴ=ミゼットは乾いた含み笑いを漏らした。「一万年の間に我は学んだのだ。知らぬと思わせておくことこそ、最高に効果的な戦略であると。おぬしの些細な楽しみを妨げる理由もなし……これまでは」 そして翼を震わせた。「誰と会っておったのだ?」

ああ、この腹心の部下への信頼と、その秘密や矜持を大切にしてあげる器の大きさよ。けどこれ言うの絶対すごく楽しかっただろうな!そして言える日を楽しみに待っていたんだろうな……こんな形じゃなくて、もっと明るい情勢下で。

この直前、ラルは呼び出しを受けてニヴィックスを離れていました。待っていた相手はテゼレット。雰囲気からして2人は旧知の間柄、それも険悪な雰囲気でした。テゼレットはラルへと「主からの誘いを」伝えに来たのでした、最後の誘いを。先ほどと場面は前後しますが翻訳します。

橋の主、テゼレット

「The Gathering Storm」チャプター1より訳

「ザレック、お前はあれに借りがある。それを支払って、得られるものを役立てろ」

テゼレットは首をかしげた。金属の腕に真紅のエネルギーが波打った。「それとも、強情を貫いて全てを燃やし尽くすか」

「そそる話だ」 ラルは薄い笑みを浮かべた。「だが俺はもう1体のドラゴンの相手で手一杯だ。できれば変えたくはない」

「だろうな」 テゼレットは肩をすくめた。「ならば」

ラルとボーラスの関係は長いこと謎のままでした。古い借りがあり、現在は積極的に仕えているわけではない……というくらいだったでしょうか。ですが、この件も前日談シリーズで判明しつつありますので、いずれ詳しく語りたいですね。ラルの日常生活も描かれていました。テイクアウトのカレーを食べていたり(本当)

話を戻して。ボーラスの気配を察知していたニヴ=ミゼットは、長く温めていた計画をラルへ伝えました。ニコル・ボーラスと戦うためにはさらなる力が必要、けれどギルドパクトがそれを許しません。ひとつのギルドが突出した力を持つことはできないのです。

そして現在、ギルドパクトの体現者であるジェイス・ベレレンは長い不在が続いている。ですがニヴ=ミゼットには打開策がありました……ギルドパクトは改訂が可能なのです、全ギルドの同意があれば。全てのギルドを話し合いの座に着かせるだけでなく、ニヴ=ミゼットが莫大な力を得ることに同意させる。それがどれほど難しいかは考えるまでもありません。ですがニヴ=ミゼットは、その困難極まりない任務を、ラルへと与えました。それを完遂できた暁には。

「The Gathering Storm」チャプター1より訳

「おぬしに命ずるのだ。全力を尽くして遂行せよ、でなければ他の者を探すのみ」そこでニヴ=ミゼットの声色は和らいだ。「それが完遂したならば、我はもはやイゼット団のギルドマスターではなくなる。ギルド構造から離れる。我らがギルドは創設一万年にして初めて、新たなギルドマスターを迎えることとなろう」

ドラゴンは目をすっと狭めた。「卒業試験のようなものと思うがよい」

「私は……」

ラルは背筋を伸ばした。即座に理解し、ニヴ=ミゼットの言葉に震えた。ドラゴンの意図は疑いなかった。その提案は……ずっと求めてきたものだった。自らの能力に相応しい地位、イゼット団のギルドマスター。目の前に、可能性という宇宙が開かれたのを感じた。そのためにはただ、十の宿敵同士を同意させればいい。一体の古く強大なドラゴンに、もう一体を倒すための力を与えるために。

ラルは咳払いをした。

「了解致しました、ギルドマスター。すぐに着手致します」

これは……。「ニヴ=ミゼットが姿を消してラルがギルドマスター代理的な立場となった」ことは以前からわかっていましたが、それ以前にニヴ=ミゼットが次のギルドマスターとしてラルを見込んでいたとは。ラル自身が思うより、私達が思うよりずっとニヴ=ミゼットはラルを高く評価しているのでした。

そして、続く展開はカードの方で判明しています。ラルの努力はどうにか実り、全ギルドを話し合いの席に着かせることに成功します……が。

ギルド会談暗殺者の戦利品

この後は皆さんだいたいご存知の通りかと思います。ヴラスカによるイスペリア暗殺によってギルド間の情勢は一気に不穏となり、後にどうにか実施にこぎつけたらしいギルドパクトの改訂も叶いませんでした。《次元間の標》こそ起動できたものの、ニヴ=ミゼットは到来直後のボーラスによってなすすべもなく死亡してしまいました。ですが周到にいくつもの安全策を仕込んでいた彼は、瞑想領土で「再誕」の時を待つことになります……。

それにしても前日談シリーズはとても面白いのですが、つくづくこれを昨年秋に読みたかったなあと思うのですよ。ニヴ=ミゼットのラヴニカ愛と、ラルへの信頼がとても伝わってくるものなので。

Niv-Mizzet Reborn

困難はあったけれど、ニヴ=ミゼットは最終的にギルドパクトの体現として再誕しました。ラヴニカへ戻ってくる度に、この世界への愛着を行動で表現してくれていたドラゴン。本人が言うようにこれこそ「真に相応しき地位」なんじゃないかな、と私も思います。

5. まだ続きます

躁の書記官

『モダンホライゾン』は発売し、『基本セット2020』も全カードが公開されました。なのにまだ『灯争大戦』が書き終わらない。すみません、今回ばかりはとことん書きたいのです。もう少しだけお付き合い下さい。

(終)

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若月 繭子

若月 繭子 マジック歴20年を超える古参でありながら、当初から背景世界を追うことに心を傾け、言語の壁を越えてマジックの物語の面白さを日本に広めるべく奮闘してきた変わり者。 黎明期から現在までの歴代ストーリーとカードの膨大な知識量を武器にライターとして活動中。 若月 繭子の記事はこちら