《石鍛冶の神秘家》とサヒーリコンボ

Jacob Nagro

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/09/02)

サヒーリコンボに加わった完璧なカード

前回の記事では、私が調整してきた《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》によるコンボデッキをいくつかご紹介しました。

あの記事からモダンに変化がありました。《信仰無き物あさり》《甦る死滅都市、ホガーク》が禁止され、環境トップのデッキのなかには弱体化したものがあり、環境は健全なものとなったのです。しかしそれだけではなく、《石鍛冶の神秘家》の解禁はサヒーリコンボにとって朗報でした。

石鍛冶の神秘家

《石鍛冶の神秘家》の登場により、サヒーリコンボは《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》の両方と相性が良い2マナ域を採用できるようになりました。まさにこのアーキタイプにとって完璧なカードです。それでは早速、禁止改定以降に私が調整し続けているデッキをいくつか見ていきましょう。

4色プレインズウォーカーver.

前回の記事でご紹介したものに非常に近しいものとなっています。禁止改定が発表される前から調整を続けていたので、《石鍛冶の神秘家》以外の点でも改善を加えていました。

レンと六番平穏な茂み精神を刻む者、ジェイス

《レンと六番》は非常に強力ですが、このデッキで採用している主な狙いは土地の枚数が少なくてもデッキが回るようにすることにあります。《平穏な茂み》《精神を刻む者、ジェイス》《レンと六番》の[+1]能力で回収した土地を呪文に変換する役割があり、その点において《レンと六番》の価値はさらに高まっていると言えます。

殴打頭蓋

《石鍛冶の神秘家》の解禁に伴う変更点に話を移しますと、これから解説するデッキの全てにおいて《殴打頭蓋》が少なくとも1枚は採用されています。《殴打頭蓋》はデッキを選ばない装備品のなかで間違いなくベストなカードであり、《石鍛冶の神秘家》がプレッシャーをかけることに長けている主な理由となっています。

この4色プレインズウォーカーにおいては、《饗宴と飢餓の剣》が好印象です。このデッキにはドロー効果や呪文を探しにいける効果が豊富にあり、1ターン内に多くのマナを使うことができると思います。また、このリストが苦手とするであろうアーキタイプのひとつはコンボデッキであり、手札破壊効果はそういった相手を妨害する手段となるでしょう。

饗宴と飢餓の剣サヒーリ・ライ光と影の剣

それからもうひとつ忘れてはならないことがあります。「剣」を装備させたクリーチャーを《サヒーリ・ライ》の[-2]能力の対象にとれるのは、「剣」サイクルのなかで《饗宴と飢餓の剣》《光と影の剣》しかありません。その他の「剣」を今回ご紹介するデッキリストから完全に除外したわけではありませんが、デッキ構築に際してはこの相互作用を重視するようにしています。

このデッキはミッドレンジとコントロールに対して有利に戦えるようになっていると思います。アドバンテージの取りやすさは見劣りしませんし、相手としてはコンボのプレッシャーを大きく感じながらも、アドバンテージをもたらすこちらの脅威にリソースを割かなければならないこともあります。場合によっては《殴打頭蓋》1枚にリソースを使うことになるでしょう。

時を解す者、テフェリー

4枚採用している《時を解す者、テフェリー》は非常に気に入っています。一方的な《防御の光網》はこのデッキにおいてぜひとも欲しい戦力ですし、コンボを妨害してくる目障りなパーマネントへの解答となります。

4色プレインズウォーカーはビッグマナやコンボ戦略にやや弱い側面があります。これらとの相性を改善したいのであれば、これからご覧いただくデッキの方向性が良いかと思われます。

4色マナクリーチャーver.

極楽鳥貴族の教主

マナクリーチャーを8枚搭載することでゲームスピードを大幅に加速させており、3ターンキルさえ可能です。さらには、《石鍛冶の神秘家》はマナクリーチャーたちの価値を全体的に底上げします。装備品の対象となるのはもちろんのこと、マナが十分に確保されているのは装備品を使ううえで重要なのです。

レンと六番疫病を仕組むもの

このデッキには明確な問題点が1つあり、《レンと六番》《疫病を仕組むもの》のようなタフネス1のクリーチャーを咎めるカードに弱いことです。ですが、何らかの理由でこのようなカードの人気が落ち、コンボやビッグマナ戦略が頭角を現してきた場合には(《貴族の教主》だけになるかもしれませんが)マナクリーチャーに目を向けてゲームスピードを上げる方向性に走っても良いでしょう。

ジェスカイスペルver.

前回の記事で「プレッシャーをかけるために毎回のように緑が最終的に入っている」とお伝えしました。しかし今や《石鍛冶の神秘家》がありますから、純正のジェスカイへと回帰しても十分なプレッシャーをかけられるかもしれません。より歴史のあるジェスカイサヒーリをアップデートするとすれば、このような形になるでしょう。

瞬唱の魔道士

《瞬唱の魔道士》がデッキと微妙に噛み合っていないという印象は拭えないままであり、《石鍛冶の神秘家》の枠を空けるに当たってインスタントとソーサリーの枚数を減らしたのでさらに立場が悪くなっています。とはいえ、1マナのインスタントとソーサリーが12枚あれば採用に値するレベルとなり、《守護フェリダー》で「明滅」したり《サヒーリ・ライ》でコピーすればアドバンテージを確保できる場面もあることでしょう。《石鍛冶の神秘家》が解禁された今、ジェスカイのままで《瞬唱の魔道士》に別れを告げる選択肢も見えてきたように思います。

ジェスカイブルームーンver.

アーカムの天測儀広がりゆく海

このタイプはビッグマナ戦略を倒す方向性のものです。また、《アーカムの天測儀》《広がりゆく海》があるため、《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》の効果の対象となってアドバンテージを獲得できるカードがクリーチャー以外に存在しています。

薄氷の上血染めの月

《血染めの月》を使用するデッキですので、基本土地を与えてしまう《流刑への道》よりも《薄氷の上》を優先させています。ただ、《薄氷の上》《流刑への道》の明確な下位互換というわけではありません。《石鍛冶の神秘家》が多い環境では、相手に土地を与えることなく召喚酔いをしている《石鍛冶の神秘家》を除去できるカードを持っておくことは有利な点です。

殴打頭蓋殴打頭蓋

クリーチャーの枚数が少ないため、「剣」は一切入れずに《殴打頭蓋》を2枚採用しました。《石鍛冶の神秘家》デッキを色々とチェックしてきましたが、《殴打頭蓋》の2枚体制は過小評価されている傾向にあると思います。《殴打頭蓋》1枚と「剣」の組み合わせよりも《殴打頭蓋》2枚体制を優先させたいときは少なくないはずです。

「剣」が抱える問題は、膨大なマナ(クリーチャーを唱えるマナ、「剣」を戦場に展開するマナ、装備に必要なマナ)を注ぎ込んで結果的に1マナの除去と交換してしまう可能性があることです。アドバンテージの点では1:1交換をしたにすぎませんが、この交換が起きれば大きなテンポロスとなり、敗北につながります。ましてや複数回繰り返されることがあれば、その傾向は強まるでしょう。

ジェスカイヘイトベアーver.

最後にご紹介するのは、非常に珍しい形のジェスカイサヒーリであり、以前から強化するカードが欲しかったアーキタイプです。このデッキリストを見直す最初のきっかけとなったのは《ルーンの与え手》でしたが、そこにデッキパワーの向上に大きく役立つ《石鍛冶の神秘家》が加わりました。

スレイベンの守護者、サリアルーンの与え手スレイベンの検査官民兵のラッパ手

《スレイベンの守護者、サリア》が今のモダン環境でどれだけ有効かはわかりませんが、(手札から唱える想定である)非クリーチャー呪文は《サヒーリ・ライ》《霊気の薬瓶》しかありませんので、こちら側に大きく悪影響を及ぼすことはないでしょう。《ルーンの与え手》は自然と避雷針のような役割を果たしてくれるため、このデッキにすんなりと入る戦力です。《スレイベンの検査官》《民兵のラッパ手》はどちらのコンボパーツでもアドバンテージが取れるパーマネントとなっています。

守護フェリダーオーリオックのチャンピオン守護フェリダー

さらに重要なのは、白が濃いマナベースであることからサイドボードに《オーリオックのチャンピオン》を採用できることです。《オーリオックのチャンピオン》は別の無限コンボを成立させることができ、2体の《守護フェリダー》と合わされば《守護フェリダー》が互いに無限に「明滅」させることで無限のライフを得ることが可能なのです。仮に《オーリオックのチャンピオン》が強い環境となり、メインデッキに採用しても良いような状況になれば、無限ライフコンボにおける5枚目以降の《守護フェリダー》として《修復の天使》を1枚か2枚入れても良いかもしれません。

さいごに

最近になってサヒーリコンボをTwitterやTwitchで多く見かけるようになり、とても嬉しく感じています。さらなる研究を重ねれば、このアーキタイプはモダンのトップデッキに食い込める力があることを証明できるでしょう。

今回もお付き合いいただきありがとうございました。質問やモダンのオリジナルデッキのシェアは大歓迎です。ぜひTwitterでコンタクトを取ってくださいね。

ジェイコブ・ナグロ (Twitter)

この記事内で掲載されたカード

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Jacob Nagro アメリカ出身のプロプレイヤー。 彼の最初の活躍はグランプリ・デンバー2016でのことで、「青白フラッシュ」を用いてトップ8に入賞した。その後も惜しまぬ努力を続けた結果、彼の労力は2016-2017シーズンのシルバーレベルという形で報われることになる。 《大いなるガルガドン》と《恐血鬼》が印象的な「赤黒ブリッジヴァイン」を駆使してマジック25周年記念プロツアーで7位入賞を果たす。そしてこの素晴らしい成績は彼をゴールドレベルへと押し上げたのだ。 Jacob Nagroの記事はこちら