Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/09/13)
はじめに
みなさんはじめまして。クリスティアン・オルティス・ロス/Cristian Ortiz Rosと申します。Magic Onlineをプレイされている方にはNaisircと言った方が伝わるかもしれませんね。
今回記事を書くことになったのは、私を象徴するデッキとその戦略の歴史を詳しくお話するためです。私がマジック歴で最も使い込んできたそのデッキは、クリーチャーを「サイクリング」して墓地を肥やし、それらをアーキタイプ名となっているカード、つまり《死せる生》で一気に戦場に呼び戻します。みなさんに《死せる生》デッキ (リビングエンド) をご紹介する機会に恵まれ、本当に誇らしく思います。
執筆するに当たってどのような記事にするか迷いましたが、本記事はリビングエンドを使い始めたばかりの方には最初に参考にすべき資料として提供し、このデッキを良く知るプレイヤーの方には究極の補足資料として参考になるように構成してあります。
リビングエンドは簡単なデッキ?
初めてデッキリストのカードに目を通した人は、間違いなくすごく簡単そうなデッキだと思うはずです。「サイクリング」コストを支払って、インスタントタイミングでドローしつつ墓地を肥やし、3マナの「続唱」呪文から《死せる生》を見つけて、はいおしまい。グッドゲーム!
……とはいきません!見た目ほどこのデッキは簡単ではないのです。ゲームプランは単純にコンボに向かうだけではないですし、このコンボとの戦い方も今では周知の事実となっています。ですから必ずしもシンプルな展開になるわけではないのです。したがって、コンボを仕掛けるべきタイミングを見極め、コンボを正しい方法で遂行する力が必要になります。
たとえば、《大爆発の魔道士》と《内にいる獣》はコンボを仕掛けるタイミングをつくる際にキーカードとなります。あるいは、正規のマナコストを支払って手札からクリーチャーを唱えることが最善のゲームプランになることもあります。そうです、3マナ、5マナ、6マナのクリーチャーを唱えるのです。一見するとおかしいようにも思えますが、練習を重ねていけばこのようなゲームプランでも勝てるとわかるようになってくるでしょう。
手札から唱える場合は、どのクリーチャーから唱えていくのかをしっかりと考えなければなりません。一度このゲームプランを始めたなら、攻撃をする際にも注意が必要です。というのも、ブロックに回って死んでしまった相手のクリーチャーは、いずれ《死せる生》を唱えたときに戦場に戻ってくるため、その度に倒さなければならなくなるからです。
しかし慌てる必要はありません。経験と努力を重ねれば全てわかるようになります。そしてその境地にたどり着くことができれば、このデッキは変幻自在となって皆さんを驚かせることでしょう!
過去10年のリビングエンドの変遷
2010年 (エクステンデッド時代)
2010年。トラヴィス・ウー/Travis Wooがリビングエンドを開発し、グランプリ・オークランド2010のトップ8に入賞しました。当時の環境を支配していたのは《超起源》や《暗黒の深部》、極めて厄介な《飛行機械の鋳造所》と《弱者の剣》のコンボでしたが、それでもなおリビングエンドは成功を収めたのです。そしてその2か月後、彼はデッキリストをアップデートしグランプリ・ヒューストン2010でトップ32に滑り込みました。
これからご紹介していきますが、オリジナルのデッキリストはこれ以降に大きく姿を変えていきます。
2014年
モダンと呼ばれるフォーマットになっている時代ですが、リビングエンドは墓地利用デッキのなかでも人気のアーキタイプに仲間入りしていました。2014年、私の友人であり調整のパートナーであるフアン・ベルモンテ/Juan Belmonteは以下の構成で人生初のプロツアーの出場を決めています。
1 《沼》
1 《血の墓所》
1 《神無き祭殿》
1 《草むした墓》
1 《踏み鳴らされる地》
1 《ドライアドの東屋》
4 《新緑の地下墓地》
4 《黒割れの崖》
4 《銅線の地溝》
1 《ケッシグの狼の地》
-土地 (20)- 4 《大爆発の魔道士》
2 《なだれ乗り》
4 《死の一撃のミノタウルス》
4 《巨怪なオサムシ》
4 《通りの悪霊》
3 《叫び大口》
3 《青ざめた出家蜘蛛》
2 《ジャングルの織り手》
-クリーチャー (26)-
当時はジェスカイコントロール、青赤《欠片の双子》、ジャンドが環境を席巻していました。ここで《死せる生》の枚数が4枚から3枚に減らされていますね。
2015-2016年
豆知識:なんと《欠片の双子》が第2の戦術としてリビングエンドに採用されたことがあります。信じがたい話ですよね?
1 《冠雪の沼》
1 《血の墓所》
1 《繁殖池》
1 《草むした墓》
1 《蒸気孔》
1 《踏み鳴らされる地》
1 《湿った墓》
4 《樹木茂る山麓》
2 《血染めのぬかるみ》
2 《黒割れの崖》
2 《銅線の地溝》
-土地 (18)- 4 《詐欺師の総督》
3 《猿人の指導霊》
2 《やっかい児》
2 《意思切る者》
4 《死の一撃のミノタウルス》
4 《巨怪なオサムシ》
4 《通りの悪霊》
2 《鏡割りのキキジキ》
1 《よじれた嫌悪者》
2 《ジャングルの織り手》
-クリーチャー (28)-
2 《叫び大口》
2 《四肢切断》
2 《骨までの齧りつき》
2 《跳ね返りの罠》
2 《殺戮遊戯》
1 《斑の猪》
1 《フェアリーの忌み者》
1 《大爆発の魔道士》
-サイドボード (15)-
当然ですが、強すぎると禁止されるのが世の常です。《欠片の双子》も例に漏れず、2016年にモダンから姿を消しました。リビングエンドにおける《欠片の双子》コンボはデッキに安定感を加えたり、時間を稼いだりするためではなく、新たな即死コンボを追加することで相手を困惑させることが狙いでした。
2017年
2017年には『アモンケット』がリリースされ、新たな「サイクリング」カードが登場しました。リビングエンドに採用されるのは自然な流れであり、同時にデッキの基盤のひとつとなったのです。そのおかげで私はグランプリ・コペンハーゲン2017の初日で全勝 (9-0) を収めることができました。最終的には、決勝戦でグリクシスシャドウを駆るイタリアのマッティア・リッツィ/Mattia Rizziに敗れてしまいましたけどね。
上記のデッキリストでスポットライトを当てたいのは、新入りの《遺棄地の恐怖》であり、「サイクリング」クリーチャーのなかで最も強力です。1マナで「サイクリング」できるうえに、最も攻撃的なクリーチャーであり、容易にパワーを6や8まで上昇させることができます (当然ですが、他の「サイクリング」が必要になります)。
《猿人の指導霊》は必須の定番カードとなりました。《大爆発の魔道士》や《内にいる獣》、さらには《暴力的な突発》や《悪魔の戦慄》を1ターン早く唱えられるため、デッキに必要とされていたスピードをもたらし、多くのマッチアップの相性を改善したのです。
姿を消したリビングエンド
2017-2018年、リビングエンドはいくつかの問題点から立場を危うくします。まず、墓地対策が環境に非常に多かった点。そして、5色人間やバントスピリットのようなヘイトベアーデッキが極めて人気だったのです。
どうしてこのような状況になったのでしょうか。当時はドレッジがモダンプレイヤーのなかで非常に人気のアーキタイプであるのは明らかで、誰しもが墓地対策を詰め込んでいました。5色人間やバントスピリットのようなデッキが目立ち始めるようになりますが、これらのデッキは《翻弄する魔道士》や《呪文捕らえ》といったヘイトベアーを擁しているため、リビングエンドに対して非常に有利に戦えます。
それでもリビングエンドはその他のクリーチャーデッキを倒す力がありましたが、使用する最善のタイミングでないことは明らかでした。
2018年
そして2018年。Magic Online上ではJundilionとして知られる日本人プレイヤーが、異なる角度からアプローチしたリビングエンドで好成績を残し始めます。彼はそのデッキをミッドレンジと表現しており、コンボ要素はやや抑えられた構成になっていました。
ご覧いただいたとおり、《死せる生》の枚数は3枚から2枚に減っています。《イフニルの魔神》が加わったことで、クリーチャーが溢れかえったメタゲームに対応できるようになりました。また、《血編み髪のエルフ》はミッドレンジという考え方を推し進めようとして採用され、《砂漠セロドン》は「サイクリング」クリーチャーの一環として使用されています。
2019年
2019年。《甦る死滅都市、ホガーク》は環境の絶対王者であると同時に、《信仰無き物あさり》を明確に悪用していたカードでした。そして8月に発表された禁止改定において上記の2種は禁止され、《石鍛冶の神秘家》が初めてモダンの世界へと参入してきました。
この結果、ドレッジのように墓地に依存し、《信仰無き物あさり》の恩恵を受けてきたデッキは一気にデッキパワーを低下させました。王者がいなくなり、何の戦力も失っていないリビングエンドに再び可能性が開かれたのです。
ロンドンマリガンの影響
ここからは私が現在使用しているデッキリスト、「サイクリング」の順序、サイドボードガイドについて解説します。ですがその前に、ロンドンマリガンの採用がモダンにもたらした影響をお話しておきましょう。たとえばリビングエンドの場合、初手の《死せる生》を山札の底に送り込むことができます。そのため、少なくとも1枚は手の届かない場所にあり、後になって素引きをしたり手札破壊されたりする可能性が下がるという意味で小さなアドバンテージになります。だからこそ、さらなるマリガンをしなければならなくても、恐れることはないのです。
サンプルの手札
こちらのサンプルハンドは確実にキープですが、7枚でキープするよりも1マリガン後の方が明確に良い手札です。なぜならば、《死せる生》を山札の底に送り込めるからです。
もうひとつのアプローチ
すみません、もうひとつお伝えしなければならないことがありました。私は古典的な構成以外のリビングエンドを好きになれませんが、ややマイナーな青赤のリビングエンドが存在しています。
このデッキの強みは、《謎めいた命令》や各種打ち消し呪文で時間を稼げることにあります。そして来るべきタイミングを待ち、《予言により》や《雷電支配》を使って手札から《死せる生》を唱えるのです。
現在のデッキリスト
さて、これ以上お待たせするわけにもいきませんね。この記事で最も注目すべき点へとたどり着きました。私の現在のデッキリスト、「サイクリング」の順序について言及し、各種マッチアップを上手く戦えるようにサイドボードガイドについても触れていきましょう。
デッキリストとカード選択
さて、再び古典的なデッキリストへと戻ってきました。1ゲーム目を有利に運べるようなデザインとなっています。《叫び大口》や《フェアリーの忌み者》はメインデッキには入れず、その枠には《よじれた嫌悪者》と《谷のラネット》を採用し、安定して3枚目の土地へアクセスできるようにしました。このデッキの強みは3マナから始まるため、確実に3枚目の土地まで伸ばすことは極めて重要なのです。また、『モダンホライゾン』に収録された《育成泥炭地》がマナベースに加わりました。ゲームが長引いた際にドローに変換できるのは優秀ですね。
サイドボードで注目していただきたいのは、4枚搭載された《虚空の力線》です (私はこのカードが大好きなんだと思います)。墓地に依存、あるいは利用する相手を妨害するにはこのエンチャントが最善の方法だと考えています。ただ、これが気に入らない場合には第二の選択肢として《フェアリーの忌み者》も候補に挙がります。
また、4枚目の《内にいる獣》をサイドボードに確保しました。青白コントロールの《時を解す者、テフェリー》や《安らかなる眠り》への対抗策を増やすと共に、タイタンシフト、トロン、アドグレイス、4色ウルザソプターとの相性を改善するためです。
さらに注目していただきたいのが、《斑の猪》です。バーンは人気急上昇中のデッキですから、絶対に必要なカードでしょう (正直にお伝えしますと、この猪が好きすぎて他のライフ回復カードを使う気になれません😁)。
「サイクリング」の順序
「サイクリング」コストが2マナのものは常に最後に回します。そして、必要がない限り、基本土地を探すよりもドローを必ず優先させましょう。
サイドボードガイド
青白コントロール
対 青白コントロール
バーン
対 バーン
ジャンド
対 ジャンド
トロン
対 トロン
エルドラージトロン
対 エルドラージトロン
タイタンシフト
対 タイタンシフト
グリクシスシャドウ
対 グリクシスシャドウ
鱗親和
対 鱗親和
白黒石鍛冶
対 白黒石鍛冶
ウルザソプター
対 ウルザソプター
ドレッジ
対 ドレッジ
(注意: 相手が《虚空の力線》を使用してくる場合は、《大爆発の魔道士》4枚と《谷のラネット》1枚をサイドアウトし、《虚空の力線》4枚と《内にいる獣》1枚をサイドインしましょう。)
ドルイドコンボ
対 ドルイドコンボ
青赤ストーム
対 青赤ストーム
リビングエンド
対 リビングエンド
アドグレイス
対 アドグレイス
5色人間
対 5色人間
呪禁オーラ
対 呪禁オーラ
ワンポイントアドバイス
Modern Format Playoff
(私の考えでは) リビングエンドは現在の立ち位置が非常に良いと感じています。それを示す例をひとつ挙げましょう。以下の表は、私が先日Modern Format PlayoffというMagic Onlineのイベントに参加したときの対戦結果であり、384名のプレイヤーが栄光を目指して戦った大会です。私は上記の75枚と全く同じデッキリストで参加し、スイスラウンドで8-1の5位に入り、準々決勝まで進出しました。
ラウンド | 対戦相手のデッキ | 対戦結果 |
---|---|---|
Round 1 | 鱗親和 | 2-1 |
Round 2 | 《ぐるぐる》ストーム | 2-1 |
Round 3 | ジャンド | 2-1 |
Round 4 | アブザン | 2-1 |
Round 5 | ウルザソプター | 2-0 |
Round 6 | トロン | 2-0 |
Round 7 | 青白コントロール | 0-2 |
Round 8 | バーン | 2-1 |
Round 9 | バーン | 2-1 |
ラウンド | 対戦相手のデッキ | 対戦結果 |
---|---|---|
準々決勝 | ウルザソプター | 0-2 |
End 5th at Modern Format Playoff losing in quarterfinals vs @TonisRP and doing 8-1 in the swiss, happy to enjoy again with Living End, deck is great! #Mtgo #Modern #HareruyaHopes pic.twitter.com/Ahqh6FHzZy
— Naisirc (@Naisirc) September 8, 2019
「Modern Format Playoffはスイスラウンド8-1で、準々決勝にトニ・ラミス・パスカル/Toni Ramis Pascualに負けました。再びリビングエンドを使う機会に恵まれて嬉しかったです。デッキは最高でした!」
リビングエンドは今までで最もメタゲーム上の立ち位置が良いです!デッキ選択をする際には必ずこのデッキの存在を思い出すようにしてみてください。
さいごに
ここまで読んでくださったということは、記事を楽しんでいただけたのでしょう。この楽しい戦術を試したい気持ちになったのなら嬉しい限りです。みなさんが待ちわびた勝利を手にしていただけたらと思います。みなさんと卓上やMagic Onlineでお会いできる日を楽しみにしています。そのときは気軽に声をかけてくださいね!
最後になりますが、私を信頼してくれた晴れる屋には感謝します。こうして記事を執筆し、リビングエンドに関する私の知識を世に広める機会を得ることができました。私にとっては、このうえない名誉です。
何か質問がある方は、SNS上で喜んでお答えいたします。ここまで読んでいただきありがとうございました。
クリスティアン・オルティス・ロス (Twitter / Twitch)