はじめに
こんにちは、若月です。
前置きは抜きにして前回の続きを。『灯争大戦』の続編小説「War of the Spark: Forsaken」で展開された、ラルによるテゼレット追跡の物語を解説します。
テゼレット関係記事一覧
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1. 決意のラル
ラヴニカを侵略したニコル・ボーラスは倒されました。ですが、人的・物質的損害は計り知れません。死者は数千人とも言われています。新たにギルドパクトの体現者となったニヴ=ミゼットは、かつてボーラスに仕えたプレインズウォーカー兼ギルドマスター3人に償いとしての任務を課しました。ラルはテゼレットを、ヴラスカはドビンを、ケイヤはリリアナを追い、殺すというものです。
世界が侵略されて甚大な被害が出た直後という重要な時期に、ギルドマスターを3人も他所へ送り出すことに疑問の声もありました。ですが、そこにはラル自ら返答しました。ラヴニカにとって将来の禍根の芽を摘む。そして、例え一時でも侵略者ボーラスに協力した者がそれを実行するべきなのだと。それだけでなくラルはテゼレットとある程度の面識があり、その危険性を知っているだけでなく戦ったこともありました。個人的にもある意味望むところの展開だったのです。
ラルがテゼレットを追うことに誰も異議を唱えませんでしたが、問題がありました。テゼレットがアモンケット次元から逃亡して結構な時間が経過しており、その軌跡はすでに消えていたのです。そこで、《放浪者》が声を上げました。
小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター20より訳
放浪者がラルへと向き直った。「私、テゼレットを見つける手助けになれるけど」
「どうやってだ。あいつが最後にいたのはアモンケットで、それから一日近くが経ってるんだぞ」
「テゼレットの胸には次元橋の技術が埋め込まれている。それがいくらか損壊していて、一般的なプレインズウォーカーよりも長持ちする軌跡が久遠の闇に残っているの。私が追える軌跡が」
「それはありがたいな」半ば唖然と、半ば疑うようにラルは見た。「けれど聞いてもいいか。君はこの追跡の何に興味があるんだ?」
「私も、テゼレットと昔関わったのよ。あいつを知ってる。他に質問はある?」
ラルは黙った、少なくともこの時は。
このようにして、ラルは放浪者の協力を得てテゼレット追跡に向かうことになります。また言うまでもなく、ターゲットを始末したという証拠の提出が必要とされました。一方、また別の懸念があったのです。それ自体はテゼレットと関係はないのですが、せっかくですので紹介します。
ケイヤがリリアナを追跡する件に関しても(ラルほど簡単ではないにしても)合意に至りましたが、こちらにもまた問題がありました。ケイヤはオルゾフ組の契約で、ラヴニカ次元に縛り付けられています。ケイヤ本人は不本意にギルドマスターの座に就いたのであり、ギルド側もそれを承知しています。ですが、それはそれとして契約は存在し、ケイヤはラヴニカを離れたなら死亡してしまう可能性があるのです。そこで、解決策があるとトミクが切り出しました。
同チャプターより訳
トミクは考えをまとめ、口を開いた。「私は長年、テイサ・カルロフ様のもとで法魔道士として学んできました。そして今朝早く、その努力が報われました。法の抜け穴を見つけたのです、魔法的に、合法的に、自主的に、かつ一時的に契約とオルゾフ組の運営をケイヤ様から委託できるようにする……」彼は言葉を切り、不安そうに唇を噛んだ。
「委託とは誰にだ? 話せ」 ヴォレルが強い口調で言った。
「はい……私に、です。私がギルドマスター代理となり、ケイヤ様をラヴニカから離れられるようにできます――短い間ですが」
ラルとケイヤは同時に言い放った。「トミク、いけない!」
少し傷ついたように、トミクは言った。「私を信用して頂けないのですか?」
ラザーヴが笑った。「ギルドマスター同士が親密というのはな」
ラルはラザーヴを睨みつけた――けれど肯定も否定もしなかった。
これまでラルは、トミクとの仲を世間から隠してきました。異なるギルドのトップに近い者同士が特別な関係にあると知れたなら、言うまでもなく余計な詮索や疑念が向けられるためです。それにしても楽しそうに言うラザーヴがまさにラザーヴって感じで!相手の秘密を握っているならそれを明かさずにいることこそがアドバンテージとなる、というのもままあるだろうに。ニヴ=ミゼットに対してもそうでしたが、ラルはこう、隠している(隠せていると思っている)秘密がバレてる続きですね。強く生きろ。
なおこれで完全に開き直ったのか、出発直前の会話がなかなかにお熱いです。
同・チャプター22より訳
トミクは言った。「どうかお気をつけて」
「気をつけるのはお前だ」ラルは即座に、心配そうに答えた。
トミクは溜息をついた。「言わせて頂きますが、ラルさんは利害の対立を心配しなくとも――」
「そうじゃない。そんなことを心配はしない。少なくとも当面は」
「でしたら何ですか?私がケイヤ様の手助けをすることを怒っているのではないと?」
「違う」
「私はただそれを務めているのですが」
「わかってるさ」
「でしたら何を?」
ラルは自身へ向けて少しだけほくそ笑んだ。「俺は馬鹿なんだよ。頼むから俺の馬鹿さ加減を暴露させないでくれ」
「私はまさにそうさせようとしているのですが」
「トミク――」
「でしたら魔法で言わせますよ」
「トミク――」
「何を怖れているのですか?」
「お前が権力の味を知ったら――」
「私が堕落してしまうと?」
「そうじゃない!頼むから最後まで言わせてくれないか?俺に全部ぶちまけて欲しいなら、お前はただそれを待ってればいいんだよ!」
「すみません」
「お前がギルドマスターの本当の力を知ってしまったら、俺がどれほどいい加減かってわかってしまうのが怖いんだ。お前に俺はもう必要ないってわかってしまうのが」
「なるほど。ラルさんは本当に馬鹿な人ですね」
「そう言っただろ」
長いわ!(小説ではこの前後にもっと続いています)。ちなみにこのやり取りをニヴ=ミゼットや放浪者が黙って見ているのである。そうしてラルは放浪者と共に、まずはテゼレットの姿が最後に確認されたアモンケット次元へと向かいました。
2. 逃亡のテゼレット
一方、追われる側のテゼレットです。アモンケットを脱してから、彼はいくつもの次元を経由して自身の本拠地へ向かっていました。そこは――故郷であるアラーラ次元、エスパー。そして、願った通りにニコル・ボーラスが倒されたことも知らされていました。では、その情報源は?
小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター7より訳
テゼレットは現実主義かつ実用主義であるため、ボーラスへと忠実に仕えていた。ボーラスは強大すぎて打ち倒せないがゆえに仕えていたのだった。今や――終わりを目撃した、満足気なティボルトによって――テゼレットはボーラスの死を知っていた。ティボルトは主人の死に苦しむテゼレットを期待したのかもしれないが、テゼレットはこの上なく喜び、ティボルトは失望とともに去った。結局のところ、ボーラスはその手下を止める力を持つ唯一の存在だったのだ。そのドラゴンが消えた今、彼の前に立ちふさがるような者は誰も残っていなかった。
何してんだ。『灯争大戦』Forsakenは、その前作ほど多くのキャラクターは登場していません。そんな中で名前だけでも出ているとは(まあ、前作でもほぼ名前だけの登場でしたが)。
さて、テゼレットの本拠地は「要塞」と表現される構造物で、おびただしい数の罠で満ちています。元々は、プレインズウォーカーとして覚醒する以前にテゼレットが所属していた魔道士会「カルモット求道団」の建物でした。後にテゼレットは知ったのですが、カルモット求道団はアラーラ次元におけるボーラスの隠れ蓑だったのです。そしてドラゴンの注意が他へ向けられているうちに、テゼレットは求道団を急襲し、全員を殺戮しました。生き残ったのはその時に偶然不在であったサイラス・レンだけだといいます。
テゼレットにとっては、求道団時代から因縁のある相手です。それがまだ生きているというのはとても気に障るものでした。ともあれテゼレットは本拠地へ帰りつくと、部下のホムンクルスに命じ、追跡者を迎え撃つ準備に入りました。
同チャプターより訳
もはや疲労は感じなかった。あのドラゴンは消え、まるで重荷が降ろされたかのようだった。背から降ろされ、何万人もの上に課せられる重みが。もはや下僕ではない。彼はようやく、当事者となったのだ。
3. 対決の時
やがてラルと放浪者は、テゼレットの軌跡を追ってエスパーに辿り着きました。道中のエピソードを第91回で紹介しましたが、この2人はやり取りも軽快な、結構気の合うコンビという感じです。イクサラン次元で小休止した際には、互いについて少しの打ち明け話すらしていました。
小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター38より訳
「何を話してたんだっけか」
「貴方の傷について」
「俺の傷か」
「テゼレットからのじゃなくて」
「ああ」
「どの傷?」
「ああ……ボーラスからのもある。ほとんどは、ラヴニカの裏通りで過ごしてた頃のだ。俺には、愛してると思ってた芸術家がいた。それが、じわじわ破滅していった。言ってることはわかるだろ」
「ええ、わかる」
前作『灯争大戦』で登場した放浪者。そちらの小説での出番はさほど多くはありませんでしたが、謎めいた外見に反してどこかこう……軽い、とでも言うような雰囲気がありました。Fosakenで出番がぐっと増えましたが、やはり見た目から予想されるよりもかなり気さくなお姉さんです。
第91回で書いていたじゃないですか、実は放浪者さんは黄金の仮面を被っていると。ですが《アクロスの古参兵、タラニカ》の背景にスペルブック版《安らかなる眠り》があるのを見るに、『テーロス還魂記』は『灯争大戦』よりも後というのがわかります。つまり放浪者は少なくともエルズペスではない、のね(そもそも死の国を脱出する時に仮面被ってなかったよな)。いや、上で「気さくなお姉さん」と書いたように元々性格とか結構違うのだけど、思わせぶりすぎて一体何だったんだろう。
ともかくそうして2人はアラーラへ辿り着き、テゼレットの要塞へ忍び込みました。とはいえ身を隠して進みはしませんでした。テゼレットが自分達の到来を把握していないはずはありません。ただ不意打ちをされないように、大ボスのところへ辿り着くまでに死んでしまわないように。要所要所で現れるガーゴイルとの戦闘を繰り返しながら、2人は進みました。
遭遇したのは手強い敵ばかりではありません。テゼレットを目指す中、その類稀なアーティファクト技術や計り知れない野望を2人は見せつけられました。特にイゼット団という技術者集団に属するラルは否応にも。
小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター47より訳
彼と放浪者は高い天井の部屋に入った。そこは磨かれた石の階段、巨大な円形のガラス窓、そしてこれまた大規模な回転歯車の機構で満ちていた――その全てが繊細な金線で飾られていた。この機械の目的を見極めるまでにラルは数秒を要したが、すぐに結論に至った。この仕掛けは時計そのものを制御しているのだ――多元宇宙時計を。円形の窓のそれぞれが時計であり、おびただしい数の世界の時刻を表示しているのだ。アラーラ、ラヴニカ、ドミナリア、アモンケット、イニストラード、カラデシュ、フィオーラ、他にも。
これ純粋に疑問なのですが、各次元の一日の長さってどうなってるんでしょう。それを置いても色々な面で興味深い描写です。いくつものメジャーな次元にテゼレットは目を向けている。ボーラスの部下として、あるいは無限連合時代に知って密かに繋がりを作っていた、とかありそうです。続けてもう一つ。
同チャプターより訳
2人は巨大な工房に入った。時計の部屋よりもさらに天井は高く、その最高点を見ることすらできなかった。黒く太い柱が影の中へと消えていた。
警戒してはいたが、ラルはこの場所の広大さと、何十という金属製の作業台に散らかった製作途中の物品、その莫大な量に目を向けずにはいられなかった。イゼット団のギルドマスターとして、ラル・ザレックはほぼあらゆる機械を素早く見定め、評価し、見極める能力を誇っていた。だがこの部屋の、彼にとって未知の技術の量はそれだけでも――テゼレットにとっては、自分達に見られても構わないことを意味している――愉快になるものではなかった。あらゆる作業台の上のあらゆる物品が、謎めいてかつ危険なものに見えた。ラヴニカや多元宇宙に対してこれらがどのように用いられるのか、ラルは考えることをためらった。
そしてこの部屋で、ラルと放浪者は散々な目に遭ってしまいます。不意にタールの塊のようなものが上から降ってきたかと思うと、ラルの頭に当たりました。続いて落ちてきた塊をかろうじて避け、降りかかったそれを拭い取ろうとしたところで、ラルの手は額に貼り付いてしまったのです。
罠だと気づいた時には遅く、部屋の柱が動き出しました。柱と思ったそれは、巨大な蜘蛛のようなクリーチャーの脚だったのです。タールのようなものは、それが口から吐き出していたのでした。2人は苦労してそれを対処しますが、共に靴を失って裸足にならざるを得ず、さらにラルは手を剥がした際に額へと酷いダメージを負ってしまいました。髪も酷い有様で、ラヴニカに戻ったなら頭を剃った方が良さそうだと思うほどでした。
幸いにしてと言うべきか、そこから扉を抜けた先は巨大な屋外アリーナで、目的のわからない機械が高くそびえていました。そしてその中央で、鉛のガーゴイルと小さなホムンクルスを従え、笑みを浮かべてテゼレットが待っていました。
同チャプターより訳
「私の大研究室へようこそ、ザレックよ。正直なところ、ここに辿り着けるとは思っていなかったが」
ラルもまた、笑みを浮かべた。
余興は終わり。メインイベントの時間だ。
ようやく戦いが始まりました。放浪者にガーゴイルの相手を任せてラルは次々と稲妻を放ち、テゼレットを追い詰めていきます。が、効いている気はしませんでした。それでもその間に、頭上へと少しずつ嵐雲を集めていきます。戦いの場としてテゼレットが屋外を選んだのは明らかに誤りでした。
やがて準備が整い、ラルは嵐雲から特大の稲妻を呼び出しました――ですが不運にも、その衝撃に地面が揺れ、放浪者は隙を作ってしまいます。彼女はガーゴイルの拳に強打され、意識を失って倒れました。そして集中が切れたことで、即座にどこかへとプレインズウォークしてしまったのでした。テゼレットはガーゴイルを下がらせ、一対一でラルへと対峙しました。
ラルは再び両腕を上げて稲妻を落とし、するとテゼレットは避雷針のようにエーテリウムの腕を上げ、その稲妻を胸へと吸収していきました。稲光が収まると、テゼレットの胸内にある次元橋は開き、内の虚空を見せています。不意に気圧が変化したかと思うと、その中から次々と隕石が飛来してラルへと放たれました。慌てて避け、稲妻で破壊しますが全てをさばくことはできません。あまりの数にテゼレットの姿すら見えなくなりました。それでも、相手の笑い声は聞こえていました。テゼレットが戦いの場として屋外を選んだのは、ラルの稲妻を次元橋のエネルギーとして利用するためだったのです。
それでもラルは諦めませんでした。彼が拳と拳での戦いを要求すると、テゼレットはそれを認めました――そしてほんの数分後には、ラルは両目を腫らし、鼻血を流しながら地面に転がされていました。テゼレットはラルよりも大きな体格と、長い金属の腕に金属の拳を持っています。殴り返すことはほとんどできませんでした。肋骨が数本折れたようで、息をするのも困難でした。
テゼレットは笑い、嘲笑とともに謝罪をし、そして驚いたことに生身の腕でエーテリウムのそれを掴んで取り外し、ラルの目の前に投げてよこしました。部下のホムンクルスが新しい腕を持って現れ、鉛のガーゴイルがそれを主人の肩に取り付けました。
同・チャプター58より訳
そしてテゼレットは古い腕を顎で示し、ラルへと告げた。「それはお前のものだ。私にはもう必要ない。それを今日の『成功』の証として使え。殺しの証拠としてな」
「何?」 ラルは呟いた。あまりに混乱していた。脳震盪を起こしていたのかもしれない。実際、そうだと思っていた。
テゼレットは溜息をつき、再び口を開いた。この時はまるで小さな子供へと少々複雑な物事を理解させるように、大げさなほどにゆっくりとした喋りで。「私に、その腕はもう必要ない。そしてお前の代わりに3、40人ものプレインズウォーカーに追跡されるのは心からご免だ。そいつらが、お前のように無能とは限らないだろう?」
ラルは再び罵った。
テゼレットはそれを無視した。「ザレック、私には長期計画がある。それを邪魔されたくはない。ラヴニカへ戻り、英雄になれ。厳しい戦いだったと、だが勝利したと言え。是非ともその腕を見せつけ、私は死んだと伝えるがいい。そうすれば、お互いの勝利で終わりだ。それとも私に慈悲を願うなら、この場で殺してやろう。そして私は次に来る英雄へと同じ取引をするだけだ」
言われた通りにして去るか、さもなくばこの場で殺されるか。選択を迫られ、満身創痍のラルは金属の腕へ手を伸ばすと、残った全力を振り絞り、ラヴニカへとプレインズウォークしたのでした。
4. 終幕……ではなく
そうしてラルは帰ってきました。ラヴニカへ、それも自宅へ、直接。ですが酷い傷を負った身では、少々乱暴な帰宅となってしまいました。
小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター60より訳
トミクは扉の鍵を開けたところだった。自分たちのアパートで、テゼレットに勝利したばかりのラルが待っているのではと、見込みのない希望を持って。
それ以外は考えない――考えられない。
現実は、その中間のどこかだった。
中に2歩入るよりも早く、食料の袋を置くよりも早く、それどころか扉を閉じるよりも早く、ラル・ザレックが自身の家へとプレインズウォークしてきた――両手両足を宙に、床から2フィート上に浮かべて、即座にその短い距離を落下して堅材の床にわずかに跳ね返った。
これ実は、前作の小説版を読んでいるとクスっとする場面です。第81回で紹介していましたが、ダク・フェイデンが同じように宙に出現して落下していたのですよ。曰く、「同じことがこれまで何度あったか、数えることすらやめていた」「あらゆるプレインズウォーカーが経験している可能性はある」だとか。それはともかくトミクは驚き、焦り、苦労してラルを寝台へ運ぶと治療師を呼びに駆けていきました。
やがて、アゾリウス評議会本拠地にて会議が招集されました。二ヴ=ミゼット、各ギルドの代表、任務を成し遂げてきたと思しき3人、そしてもう数人のプレインズウォーカー。ラルはテゼレットの砦で受けた被害から頭を剃っており、それを見たヴラスカ曰く「ギルドマスターというより囚人のよう」。銀のメッシュ入りの髪を常にビシっとオールバックで決めているラルがそうなるとは、絵として見てみたいようなそうせずにいて欲しいような……。
虚偽の主張を不可能にする《真理の円》のもと、ケイヤとヴラスカは各自の旅と戦いについて述べ、証拠の品を差し出しました。ケイヤは(付き添いのテヨが)《鎖のヴェール》を魔法の光球の中に入れて、またヴラスカは石化した手首を。他の証言や魔法による確認もあって、それらは確かに殺害の証拠として二ヴ=ミゼットと各ギルドに認められました。そしてラルの番がやって来ました。彼はテゼレットの腕をもって真理の円に入り、語っていきました。やがて、テゼレットとの直接対決に至ると、全員の期待の目がラルへと向けられていました。
同・チャプター72より訳
ラルは躊躇し……そして、アゾリウスの真理の円を欺く呪文を遥か以前に火想者から教わっていたにもかかわらず、彼は純然たる真実を語った。
「テゼレットは私を打ち負かしました。造作もなく私を殺せるところでした。そうではなく、あの男はこの腕を、死の証拠として偽るように寄越したのです。私は自惚れやだと、もしくは失敗したという事実を明かしたくないだろうとあの男は思ったのでしょう。ですが、私はどちらでもありません」
出席者たちが唖然とする中、ラルには放浪者がどこか安堵したような溜息をつく音が聞こえました。続けて彼女が証言しました。意識を取り戻してエスパーに戻ると、テゼレットの要塞はもぬけの殻だったと。明らかにそれは前もって計画していた撤退に違いない。そして今回、テゼレットのプレインズウォークの軌跡は全く残っていなかった。元々、自分が辿れる軌跡を残しておいたことすら、意図的だったのかもしれない……と。
ラルが勇気を出して二ヴ=ミゼットを見ると、自身の後継者に対しての失望がありありと伺えました。一方でトミクの表情は、同情に満ちていました。
それでは、テゼレットはどこへ行ったのでしょうか? 青と銀の火花を散らして、テゼレットは狭い部屋にプレインズウォークしてきました。椅子が2つと、壁一面に広がった巨大な鏡があるだけの部屋です。その鏡が揺らめいたかと思うと、放浪者が姿を現しました……え?
小説「War of the Spark: Forsaken」チャプター79より訳
テゼレットは尋ねた。「上手くいったか?」
放浪者が返答した。「あいにく。残念だったわ。けれどラルは現に失敗を詫びていた。そんなことができるとは思っていなかったわ」
「全くもって同感だ」
「あの男には善人としての情がある。少なくともそう自分で思ってる。その信念があの男を変えたのかもね」
テゼレットは目を丸くした。「弱点とは時に、そして不意に結果として強みとなるものだ。ではどうする?」
「ラルが正直に白状しなかったなら」放浪者はラザーヴへと変身しながら言った。「計画通り、脅迫を送り付けていたところだ。それはもう不可能だ。他に手はない……今のところは」
……おい!!最初かなりびっくりしましたよ。ラザーヴはプレインズウォーカーではなく、また次元間ポータルは(《次元橋》以外)機能を停止しているので、ここはラヴニカのどこかということになります。続けてラザーヴは、他のギルドにもどのように手を伸ばしているかを語りました。ヴラスカの弱みを握っている。オルゾフ組は権力構造が分散している。そしてシミックにもまた。そういった報告を聞きながら、テゼレットも考えを巡らせます。
同チャプターより訳
ラザーヴは私を利用できていると思っている。だが時が来たなら、全く正反対だということを悟るだろう。
4つのギルドに手がかりを確保し、残るは6つ。歩調を合わせて計画を進めよう、2人はそう頷き合いました。
5. 今回はここまで
『灯争大戦』Forsaken、ラルによるテゼレット追跡の話は以上になります。テゼレットはラルに勝利しながらも死を偽装しようとし、ですがそれは叶いませんでした。一方で読者に向けてテゼレットとラザーヴの繋がりが明らかになりました。『灯争大戦』の本編でまさかの活躍を見せてくれたラザーヴですが、こちら続編ではすっかり「本業」に戻っています……暗躍はこれだけじゃないんですよ。ケイヤとヴラスカについても所々で触れましたが、詳細はそちらをメインで取り扱うまで少々お待ちください。
今わかるのは、テゼレットはラザーヴと組んでラヴニカで何かをしようとしている、というくらいです。次にラヴニカ次元がセットの舞台になった時に、テゼレットが敵として登場するのでしょうか。とはいえ、あのアーティファクトがラヴニカに置かれたままですよねえ。
どこが持っているのかはわかりませんが、同じ製作者のギルドが管理していたりするかもしれない。これの存在がキーになってくるのかな?と想像が膨らみます。
Forsakenの解説としては、次はヴラスカを取り扱う予定です。こちらはドビンの追跡、ジェイスとの関係、ゴルガリ団内部の様相の変化が同時に展開されます。そうだゴルガリ団といえば、『ディセンション』から14年ぶりに登場したキャラがいるんですよ。重要人物のはずなのに『ラヴニカへの回帰』から『灯争大戦』に至るまで名前すら出ていなかったあの子が、立派になって。知名度は低いかもしれないけれど、私はとても嬉しかったのでぜひともお話したいです。
とはいえテーロスもね……ひとまず、また次回。
(終)