Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/2/06)
朝礼
みなさんおはよう。私はプレイヤーズツアー・ブリュッセル2020から帰ってきたところで、結果はタイブレイカーによる10位だった。この大会はあまり例を見ないものになった。というのはデッキ登録締め切りの3日前にデッキを変更したのだ。とはいえ、この判断は正解だったように思う。5色《ニヴ=ミゼット再誕》(以下、5色ニヴ)の練習にほぼ2週間も使ってしまったがね。乗り換えたデッキは赤単だ。Twitterでたくさんの質問をいただいたため、個々に対応するのではなく、こうしてひとつの記事を書くことにした。
なぜ5色ニヴから乗り換えたのか
プレイヤーズツアーのおよそ2週間前、いや3週間前だっただろうか。5色ニヴはあらゆる敵に勝ち、まさに環境の王者だと思えた。既存のほぼ全てのアグロに対して非常に有利だったし(当時は誰もスピリットを使っておらず、イゼットエンソウルだけが唯一の例外だった)、しかも自分のプレイスタイルに合っている(除去、カードアドバンテージ、力強い脅威を兼ね備えたミッドレンジが好きなのだ)。
しかし不運なことに、パイオニアのメタゲームは日々変動していた。何かが突出したパフォーマンスを見せると、そのデッキを叩くデッキが出てくるのだ。それは5色ニヴでも同じだった。仮想敵として目をつけられてから間もなく、イゼットエンソウル、アゾリウススピリット、ロータスブリーチがどんどん数を増やしていったのだ。ダメ押しとなったのは、ディミーア《真実を覆すもの》(以下、ディミーアインバーター)の発明で、これがまた相性が悪かった。この時点で5色ニヴは選択肢から外され、メタゲームの急所を突けるデッキを探すことにした。
ディミーアインバーターの注目度は高く、プレイヤーズツアーでの使用率、少なくともトップ中のトップの選手たちのなかでは使用率は高いだろうと予想した。ハイレベルな大会で好成績を出したいのなら彼らと戦うことは必至であり、彼らはメタゲームのなかでも重要な存在であると言える。ディミーアインバーターの人気は周知されていたため、メタゲームの”ネクストレベル”はこのデッキを倒すことだった。
ディミーアインバーターを倒すのに適したデッキは3つある(少なくとも私の理解では3つだが、ディミーアインバーターの調整に多く時間を割いていないので、デッキの相性を見誤っている可能性はある)。そのデッキとは、黒単アグロ、イゼットエンソウル、 アゾリウススピリットだ。これらのデッキに共通するものがわかる生徒はいるだろうか?はい、正解。赤単を苦手としているのだ。こうして土壇場で私はデッキを乗り換えた。月曜日から最善の赤単のデッキリストを見つけることだけに時間を注いだ。その成果をご覧いただこう。
デッキリスト
4 《ラムナプの遺跡》
2 《エンバレス城》
1 《変わり谷》
-土地 (24)- 4 《僧院の速槍》
4 《損魂魔道士》
3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《砕骨の巨人》
4 《ゴブリンの鎖回し》
4 《ゴブリンの熟練扇動者》
3 《朱地洞の族長、トーブラン》
1 《熱烈の神ハゾレト》
-クリーチャー (27)-
2 《削剥》
2 《丸焼き》
2 《溶岩コイル》
2 《力による操縦》
1 《熱烈の神ハゾレト》
1 《チャンドラの敗北》
1 《トーモッドの墓所》
1 《反逆の先導者、チャンドラ》
-サイドボード (15)-
キーカード
このデッキの概要を理解するには、従来の赤単ミッドレンジが抱えていた大きな問題を知る必要がある。あのデッキはあまりにも速度が遅く、コンボやコントロールについていけなかったのだ。《栄光をもたらすもの》は活躍するときもあるが、それはアグロや線の細いミッドレンジとリソース争いをするときであって、コンボや太いデッキ(5色ニヴやランプ)と戦う際は役に立たない。
赤単の最大の魅力であり、赤という色で最も理不尽な効果を持っているのは《朱地洞の族長、トーブラン》である。他のプレイヤーが理不尽なこと(《真実を覆すもの》と《タッサの神託者》の2枚コンボ、《死の国からの脱出》による呪文の連鎖)をしてくるのであれば、こちらとしてもカードパワーを”卑怯”なものにしないと渡り合っていけない。ここからは特に重要なカードについて詳しく講義していこう。
1マナの「果敢」クリーチャー8枚
パイオニアは高速環境であって、後手後手になるのは望ましくない。他のクリーチャーデッキに対する理想の勝ち方はクリーチャーをさばきつつライフを削っていくことであり、1マナ域の8枚体制がその実現をサポートする。コンボやコントロールに対しても1ターン目からダメージを与えていった方が好ましい。
除去
除去については大きなテコ入れをしていない。メインデッキにはあらゆるものを対象にとれる最強の火力呪文を12枚採用し、クリーチャーがいないデッキ相手でも腐らないようにしてある。対象が限定される除去はサイドボードに配置し、有効な相手に対してのみサイドインする形だ。
2マナ域
《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》はこのデッキにおいて最強の2マナクリーチャーだ。《朱地洞の族長、トーブラン》と強烈なシナジーを形成する(生成された猿トークンと合わせて《朱地洞の族長、トーブラン》の効果を2回分利用できる)。また、黒単アグロに対して有効なブロッカーでもある。
好む人も多い《ケラル砦の修道院長》は採用を見送ることにした。2ターン目に出せばきまりが悪いし、唯一価値があるのは唱えられる呪文が終盤にめくれたときだけだ。唱えられないものがめくれようものなら、2ターン目に出すよりももっと価値が下がってしまう。何よりも、《ゴブリンの鎖回し》にやられてしまうのだ。マナカーブの観点から採用されているのだろうが、《砕骨の巨人》を2マナ域に準ずるものとして捉えれば、マナカーブはそこまで悪くないだろう。
3マナ域
《ゴブリンの鎖回し》はこのデッキを使うひとつの理由だ。絶対に抜かないこと!《朱地洞の族長、トーブラン》と組み合わせれば本来は勝てなかったゲームをひっくり返せるし、3ターン目に唱えるとしても昨今のメタゲームで幅を利かせている黒単やスピリットなどには悪夢のような存在だ。
《朱地洞の族長、トーブラン》と次に相性が良いのは《ゴブリンの熟練扇動者》だ。一般的なデッキリストの《ケラル砦の修道院長》の枠に入れたが、これは正解だったと思っている。《ゴブリンの熟練扇動者》はコンボとコントロールに対する3ターン目の動きとして理想的だ。コンボ戦で必要とされる速度を備えているし、コントロール戦では”除去しなければ負け”の脅威になる。さらには”コントロール”としての立ち回りも可能にしてくれる。相手の脅威に片っ端から除去を使い、このゴブリンが勝利手段となるのだ。
4マナ域
《朱地洞の族長、トーブラン》が4マナ域のベストカードだが、伝説でもある。4枚は多すぎると考え、《反逆の先導者、チャンドラ》と《熱烈の神ハゾレト》を1枚ずつ採用した。1枚ずつに散らしたのは、どちらのカードも相手のデッキ次第で良くも悪くもなってしまうからだ。
相手によって立ち回り方を変える
赤単を使ううえで最も重要なスキルは、そのマッチアップでアグロとして立ち回るのか、それともコントロールとして立ち回るのかを理解することだ。サイドボーディング/キープ基準/プレイパターンはこの理解に大きく影響される。パイオニアの上位10個のデッキとの戦い方を例に説明していこう。
黒単アグロ
vs. 黒単アグロ
テンポコントロールとして立ち回ろう。序盤にクリーチャーを展開してライフを削りつつ、クリーチャーを除去していく。《ゴブリンの熟練扇動者》は1ゲーム目に除去される手段が多くなく、”ブロックできない”クリーチャーたちを前に大きなアドバンテージをもたらす悪くないカードだ。しかしサイドボード後は《ゴブリンの熟練扇動者》を綺麗に対処できる2マナの除去が増えてしまう。
一般的なプランではあるが、序盤の数ターンは防御に集中し、一気にダメージレースに傾倒する瞬間を摸索していく。たとえば《僧院の速槍》や《損魂魔道士》が序盤にライフを少し削っていると、ライフが14点の相手に対して7点のクロックが並んでいることがある。このような場合、クリーチャーを全軍突撃させればすぐに決着をつけられるだろう。
5色ニヴ
vs. 5色ニヴ
一番戦いたくない相手で、相性の改善も難しい。《力による操縦》はゲームを奪い得るが、それ以外はあまり言うことがない。幸い5色ニヴはたまに土地事故を起こすので、そこに付け入れる可能性はある。最も勝利の可能性が高いプランは、序盤から猛攻をしかけることだ。相手がマナカーブ通りに呪文を唱えられず、5マナに到達する前にライフを削りきれることを期待しよう。見事なプランだとは言えないが、機能するタイミングも存在する。
付記:相手の正確なデッキリストがわかり、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor damo da Rosaがブリュッセルで使用した構成だと知り得る場合、《丸焼き》はサイドインしなくてよい。《包囲サイ》がない構成には無力だ。その代わりに《乱撃斬》を残して《金のガチョウ》や《復活の声》を除去できるようにしておこう。本番では《稲妻の一撃》を2枚抜き、《力による操縦》を2枚入れていた。
イゼットエンソウル
vs. イゼットエンソウル
プレイングに関しては、黒単アグロのときと非常に似ている。《削剥》を持っている場合を除き、《アーティファクトの魂込め》をクリーチャーにエンチャントさせないようにしよう。後手のときは、《乱撃斬》を持っていなくてもブラフのために1ターン目は動かない方が基本的に良い。
仮に《ダークスティールの城塞》を5/5にされたとしても《損魂魔道士》がいれば対処できるので覚えておこう。この”コンボ”を打ち破る唯一の方法だ。破壊不能の5/5さえいなければ、1:1交換で全てを対処するだけの除去の枚数が揃っている。《ゴブリンの鎖回し》は”フェア”な動きだしに効果抜群なので、手札にいるときは単体除去を相手の1マナ域に使わずに温存することを検討しよう。ゴブリンを戦場に送り出した後は、《技量ある活性師》を難なく除去できるようにしておきたい。
スピリット
vs. スピリット
相性が良い。完全にコントロールとして立ち回る。基本的なプランは、《至高の幻影》や《天穹の鷲》などのロードクリーチャーを筆頭として、全ての脅威を排除することだ。《ゴブリンの鎖回し》がこのうえなく頼もしい存在となってくれるだろう。スピリットはクリーチャーを多く並べなければ大したことはできない。サイドボードからあらゆる除去を投入する戦術が効果てきめんだ。ただし《残骸の漂着》には気をつける必要がある。必ずしも採用されているわけではないが、相手のデッキの全貌を知らないのであれば、負けないはずだったゲームを落とすよりかはケアした方が賢明だ。
アゾリウスコントロール
vs. アゾリウスコントロール
緑単ストンピィ(タッチ黒含む)
vs. 緑単ストンピィ(タッチ黒含む)
序盤はコントロールとして動き、手当たり次第に除去をしていく。その後(おおよそ4~5ターン目から)攻撃に転じよう。《原初の飢え、ガルタ》などを展開できないように盤面はできるだけ綺麗にし続けながら、《グレートヘンジ》を出されて負けないように比較的早期の決着を目指す。「言うは易く行うは難し」だが、このマッチアップで勝つには最も優れたプランだ。《朽ちゆくレギサウルス》のために黒をタッチした型には相性が一層悪くなる。
白単ヘリオッド
vs. 白単ヘリオッド
緑単ストンピィ戦と似たプランをとるが、《熱烈の神ハゾレト》が弱いという点が異なる(《停滞の罠》などの追放除去が多いのだ)。ゲームの冒頭は片っ端から除去をし、「信心」や《太陽冠のヘリオッド》の絆魂付与効果などを妨害する。同時に、《太陽冠のヘリオッド》と《歩行バリスタ》のコンボを揃える時間を与えないように、短期決戦を図っていこう。
ぜひ覚えておいてほしいのだが、《太陽冠のヘリオッド》がクリーチャー化しても《損魂魔道士》と《丸焼き》があれば除去できる!このプレイを意識している白単プレイヤーはなかなかいない。
ランプ
vs. ランプ
入れ替えは少ない。積極果敢に攻め、遅い手札は絶対にキープしないこと。お互いにガードをあまりしない、純粋な速度勝負だ。他にプレイするものがなく、「果敢」を誘発できるなら序盤からプレイヤーに火力呪文を使っていって構わない。その1点1点がものを言う!
ロータスコンボ
vs. ロータスコンボ
ランプ戦と全く同じだ。完全なるスピード勝負、勝負を分ける1点。ここでのキーカードは《大歓楽の幻霊》と《ゴブリンの熟練扇動者》で、このいずれかを持っている場合は《朱地洞の族長、トーブラン》も含まれる。《トーモッドの墓所》は「果敢」を誘発するので記憶しておこう。1~2点の追加ダメージになることがある!《損魂魔道士》が手札にあるときは1ターン目にプレイしないように!
ディミーアインバーター
vs. ディミーアインバーター
あらゆるコントロールに対してそうであるように、ディミーアインバーターに対しても100%のアグロとして立ち回る。コントロール戦と違って魅力的になるカードは《力による操縦》だ(特に相手がその存在を知らない場合)。《真実を覆すもの》は赤単に対して優秀なブロッカーであり、ターンに猶予がないことから、相手はすぐに6/6として展開してくることが多いのだ。少なくとも私のプレイテストではそういった展開であった。
このサイドボードガイドを使ってデッキの理解を深めていただけたらと思う。疑問が解消できなかった生徒はTwitterまで聞きにくるように。全ての疑問に全力でお答えする!サイドボードガイドを印刷したい場合は、私がプレイヤーズツアーで使用したものを使ってみると良いだろう。
表に関して追記しておくと、《焙り焼き》ではなく《溶岩コイル》を採用した。それから《減衰球》が0枚になっているが、表が完成する最後の最後まで迷っていたのだ。予想されるメタゲームにおいてはさほど必要性が高くないと思い至り、かつ《削剥》が多様なマッチアップで活躍することから、1枚採用していた《減衰球》を2枚目の《削剥》とした。
サイドボードの変更点
使用したデッキリストには本当に満足しているし、プレイヤーズツアーをもう一度やるとしてもほとんど変更を加えないだろう。だが、《トーモッドの墓所》がサイドボードに必要ないことは認めねばならない。このカードを採用した理由は、大会のルールにしかないのだ。プレイヤーズツアーはデッキが公開される大会であり、採用枚数を含む完全なメインデッキ情報が試合前に交換されるが、サイドボードはカード名が共有されるだけで枚数は非公開となっている。
ドレッジや《魂剥ぎ》などの墓地戦略を使用するプレイヤーに、墓地対策が1枚も入っていないとバレてしまうのは非常に危険だ。“対策の対策”を投入する必要がなくなってしまう。そこで私が何枚《トーモッドの墓所》を採用しているか知り得なければ、相手としてはそれを尊重し、いつものようにサイドボードを行い、デッキパワーをある程度下げざるを得なくなる。
デッキを公開しない大会に参加する、あるいはただMagic Onlineリーグに参加するだけなら《トーモッドの墓所》は別の何かと入れ替えた方が良いだろう。ブリュッセルでスゥルタイ昂揚が優勝したため、サイドボードに《暴れ回るフェロキドン》を入れてみてはどうだろうか。私なら《トーモッドの墓所》と(ミラーでしか有効でない)《チャンドラの敗北》の代わりに《暴れ回るフェロキドン》を2枚入れるだろう。
私は赤単が素晴らしいデッキであると確信しているし、パイオニアのメタゲームに大きな変革が起きない限りはその強さを維持するだろう(プレイヤーズツアー・フェニックス2020がその契機になるかもしれないが、それはまだわからない)。今回の直前でのデッキ変更を実に誇らしく思う。みなさんにとっても赤単が素晴らしいデッキでありますように!
ではまた次回の講義で。