スタンダードに変化を求めて~黒単アグロ~

Raphael Levy

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2020/04/06)

はじめに

ある痛ましい気づきからすべては始まった。どのTier1デッキを使っても1マッチすら勝てなかったのだ。

創案の火波乱の悪魔エンバレスの宝剣

ジェスカイファイアーズ、ラクドスサクリファイス、赤単……。そのどれもが私には機能しなかった。それだけでなく、スタンダードを過剰にプレイしている状況だった(2月の初めからノンストップでプレイしてきた)。そういった事情があり、3月28日にMTGアリーナで開催されるウィークリーチャンピオンシップへのモチベーションは高くなかった。

ここ2週間フランスでは外出が制限されているため、配信や家庭のことに追われ、時間の確保が難しい状況だった。スタンダードの調整は優先度が非常に低いものになっていた。

気分を一新できるデッキ

スタンダードをプレイするならば、新しいデッキを使いたい気持ちだった。あるいは、使ったことのないデッキだ。私はいくつかデッキを構築してみたが、どれも競技レベルには達しなかった。《創案の火》を入れたアドベンチャーデッキ、白単アグロ、黒単アグロなどだ。

霊気の疾風

後ろ2つについては、好印象だった点もあった。昨今はメインデッキに《霊気の疾風》を入れるのがトレンドになっているため、白単と黒単は立ち位置が良いように思われたのだ。特に黒単はほぼすべてのデッキに対応できる強力なサイドボードを用意できる魅力がある。

最終的にウィークリーチャンピオンシップで使ったデッキがこれだ。

デッキリスト

詳細を解説する前に、ひとつお断りしておきたい。

上記のデッキリストは、念入りに調整したわけではなく、慌てて登録したものだ(登録遅れによるペナルティを受ける1分前に登録した)。そのためデッキに至らぬ部分があることに気づいたのは、大会が始まってからだった。

黒単に可能性を感じた理由

漆黒軍の騎士

これらのすべてのカードが同居できるデッキを探すのには苦労した。《漆黒軍の騎士》真価を発揮するのは、1ターン目に展開し、2ターン目に後続のクリーチャーを並べ、3ターン目に+1/+1カウンターを置く流れだ。よって、2色デッキで運用するのは難しいことがわかる。1ターン目にアンタップインの黒マナ土地が必要になるし、マナベースへの憂いなくクリーチャーを並べられることが求められるからだ。

騒乱の落とし子

《騒乱の落とし子》も同様の条件を必要とする。「絢爛」のマナコストで唱えるには、2ターン目までにダメージを通せる攻撃的なクリーチャーを並べなければならないのだ。このデーモンはクロックが大きく、《轟音のクラリオン》で除去されず、《初子さらい》に奪取もされない

虚空の力線

アグレッシブなデッキにおける《虚空の力線》は、環境に存在するいくつかの戦略を完封できる。相手が解答を探している隙にゲームに決着をつけられるからだ。

強迫苦悶の悔恨

前回の記事において、ラクドスサクリファイスでは手札破壊呪文が悲惨だとお伝えした。相手の手札を確認したら、どれを捨てさせてもそれを埋め合わせられるカードがあることがわかっただけ。そんなことに1ターンは使いたくないのだ。

しかし、盤面にプレッシャーがあるなら事情は大きく変わる。最初の2ターンで《どぶ骨》《漆黒軍の騎士》を展開し、3ターン目に《強迫》で相手の全体除去を捨てさせる。これがひとつの勝ち筋になるのだ。

《強迫》を黒単で使用するメリットはもうひとつある。1ターン目に唱えることで数ターン先までの綿密なプランを描き、それをテンポ良くたどることができる。「神殿」や《寓話の小道》でマナベースを整えることに序盤のターンを使ってしまうデッキにはできない芸当だ。

デッキの核

このデッキの核は、以下のものから成っている。

メインデッキ

どぶ骨

4

漆黒軍の騎士

4

騒乱の落とし子

4

悪ふざけの名人、ランクル

3

サイドボード

強迫

4

虚空の力線

4

害悪な掌握

3

これら以外のカードはすべて脇役だ

脇を固めるカード

穢れ沼の騎士真夜中の騎士団恋に落ちた剣士ロークスワインの元首、アヤーラ

ウィークリーチャンピオンシップの構成では、騎士をサブテーマとし、《穢れ沼の騎士》《黒槍の模範》《真夜中の騎士団》《恋に落ちた剣士》《真夜中の死神》《残忍な騎士》を採用した。《死より選ばれしティマレット》《ロークスワインの元首、アヤーラ》といった小粋な伝説クリーチャーも含まれていた。

壮大な破滅

何よりも大きなミスだったのは、最後の最後で《壮大な破滅》を抜いてしまったことだ(さっきも言ったように、1分を残すところでデッキ登録した)。0枚ではなく、サイドボードと合わせて4枚採用すべきだった。

《残忍な騎士》《波乱の悪魔》《真夜中の死神》を除去できるため、《残忍な騎士》だけでラクドスサクリファイスを対策できるだろうと考えていたが、これは完全なる誤りであったと反省している。《壮大な破滅》があれば赤単との相性は良好であるが、0枚であればほぼ勝てない


つまり、ウィークリーチャンピオンシップには最善でないリストで参加してしまったのだ。大会の模様はTwitchで配信したので、全ゲームこちらからご覧いただける。

ウィークリーチャンピオンシップ 1

初日

回戦数 対戦相手 対戦結果
1回戦 シミックフラッシュ 2-1
2回戦 赤単アグロ 0-2
3回戦 ラクドスサクリファイス 2-0
4回戦 ジェスカイファイアーズ 1-2
5回戦 ラクドスサクリファイス 1-2
6回戦 ティムール再生 2-1
7回戦 ティムール再生 2-1
8回戦 バントランプ 2-0

総合成績:5-3

2日目

回戦数 対戦相手 対戦結果
9回戦 ティムール再生 0-2
10回戦 ラクドスサクリファイス 1-2
11回戦 バントランプ 2-1
12回戦 ラクドスサクリファイス 0-2

総合成績:6-6 ドロップ

結果は2日目止まりであり、6-6という成績は決して誇れるものではなかった。とはいえ、デッキリストは理想とかけ離れており、先手後手のダイスロールにもほとんど勝てなかったことを考えれば、デッキは悪くないパフォーマンスを見せてくれたと言える。先手だったら勝てていたゲームも多かったが、これは未来への教訓になるだろう。このデッキは先手の利を上手く活かせる

理想のデッキリストは?

本番になってデッキの改善点に気づいた(普段ならテスト段階で気づくものだろうが、さっきから言っているように時間がなかったのだ)。まず、騎士のパッケージはそこまで良くなかった。満足できたのは、パワー3のクリーチャーである《黒槍の模範》、単純な良カードである《残忍な騎士》だ。

《真夜中の死神》は期待ほどの活躍はしなかったが、自軍のクリーチャーを生け贄に捧げるシステムがないデッキであれば及第点の存在だったと思う。《穢れ沼の騎士》《真夜中の騎士団》《恋に落ちた剣士》といった「出来事」騎士はただただ弱かった。

では、デッキの理想形をご覧に入れよう。

アップデートしたデッキリスト

大きな変更点

強迫

1ゲーム目からジェスカイファイアーズやティムール再生に勝つには《強迫》が重要になる。このカードが有効ではない相手はほとんどいない。《エンバレスの宝剣》をしばらく手札に抱えている赤単にさえ効果的である。アップデートされたこのデッキはかつての黒単を思い出させる。2000年代初頭に活躍した、強力な黒単ミッドレンジだ。

このデッキの真の課題は、脇を固めるカードにある。2マナでパワーが3あるクリーチャーは《黒槍の模範》しかいない。黒の軽量呪文は、全体のカードプールを見渡してもインパクトに欠けるものばかりだ。場に残ったときに継続的な脅威になるのは《漆黒軍の騎士》のみである。黒単が真の脅威となるには《漆黒軍の騎士》のようなクリーチャーがもう1体、あるいは《義賊》のような存在が求められる。

石とぐろの海蛇

当面の間、その穴を埋めるクリーチャーは黒ではなくアーティファクトに求めることにした。《石とぐろの海蛇》だ。このデッキがクリーチャーに対して求めていたのは、3ターン目に《騒乱の落とし子》の「絢爛」を達成できる軽量のクリーチャーであること、そして4ターン目から7ターン目にかけて盤面に大きなインパクトを与えられるクリーチャーであること《穢れ沼の騎士》では担えなかった役割だ。

轟音のクラリオン時を解す者、テフェリー自然の怒りのタイタン、ウーロ夢さらい

使ってみてわかったが、《石とぐろの海蛇》《轟音のクラリオン》《時を解す者、テフェリー》への耐性がある。バントランプは《空の粉砕》でしか対応できないのだ。ブロックをしようにも《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《夢さらい》をすり抜けてしまう。

《真夜中の死神》との面白いシナジーもあり、3ターン目に0マナでプレイすれば「サイクリング」することもできる。後続の《悪ふざけの名人、ランクル》に必要な4枚目の土地を探しているときなどに有効なプレイだ。

おわりに

このデッキがTier1デッキだとは決して言わないが、ポテンシャルは高い。

『イコリア:巨獣の棲処』の発売が目前に迫っている。このマイナーなデッキをTier1へと押し上げる軽量の黒のクリーチャーが出てくるかどうか、期待しよう。

ラファエル・レヴィ (Twitter / Twitch)

この記事内で掲載されたカード

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Raphael Levy ラファエル・レヴィはフランスの古豪。初のプロツアー参戦は1997年で、そこから2017年のプロツアー『イクサラン』まで、91回連続でプロツアーに出場し続けたという驚異の経歴の持ち主だ。そして、2019年のミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019にて、歴史上で初めて100回のプロツアーに参戦したプレイヤーとなった。これまでに築き上げてきた実績は数知れず、2019年2月の時点でプロツアートップ8が3回、グランプリトップ8が23回(優勝6回)、その他にもワールド・マジック・カップ2013ではキャプテンとしてチームを優勝に導くなど、数々の輝かしい成績を残している。生涯獲得プロポイントは750点を超えており、2006年にはプロツアー殿堂にも選出されている。 Raphael Levyの記事はこちら