はじめに
近年、MTGアリーナが導入されたことで、Magic: The Gatheringのオンラインイベントはかつてないほどの隆盛をみせています。自宅にいながらグランプリと同様のハイレベルなプレイと緊張感、達成感を味わえるものです。
本稿では盛り上がりをみせるオンライン上で開催された大会結果をまとめて、みなさんにお届けしていきたいと思います。今回は先週末に開催されたArena Openと禁止改定告知後のスタンダードについてみていきましょう。
Arena Openとは
MTGアリーナ上で開催される2日制の賞金イベント。初日はBO1スタンダードでおこなわれ、7勝または3敗までプレイ可能となっており、7勝達成することで2日目の参加権利獲得となる。2日目はBO3スタンダードでおこなわれ、7勝するか2敗するまでプレイ可能で勝利数により賞金やゲーム内通貨(ジェム)が獲得できる。
Arena Open 2日目7勝デッキ
デッキタイプ | 人数 | 内訳 |
---|---|---|
ジェスカイルーカ(ヨーリオン) | 58 | |
アゾリウスコントロール(ヨーリオン) | 17 | |
ティムール再生 | 13 | |
オーラアグロ(ルールス) | 10 | セレズニア8/バント1/白単1 |
ジャンド城塞 | 8 | |
シミック変容(ウモーリ) | 4 | |
ウィノータ系 | 4 | 4色2/ジェスカイ2 |
ボロスサイクリング(ルールス) | 2 | |
赤単アグロ(オボシュ) | 2 | |
グルールアグロ(ウモーリ) | 2 | 相棒使用1 |
ジェスカイファイアーズ(ケルーガ) | 1 | |
ジャンドアグロ(カヒーラ) | 1 | |
マルドゥ騎士(ルールス) | 1 | |
ラクドスサクリファイス(ルールス) | 1 | |
ティムールフラッシュ | 1 | |
ティムールアドベンチャー | 1 | |
合計 | 126 |
126名中58名と、ほかを大きく引き離しジェスカイルーカが圧倒的な勝ち組となりました。まさに“支配的な勝率とメタゲーム上のシェアを大きく占める”デッキですね。攻防に優れ、5ターン目を起点に相手のパーマネントを奪い続けてそのままゲームを決めてしまう押しの強さだけではなく、本来苦手とするカウンター主体のデッキに対しても《時を解す者、テフェリー》《神秘の論争》を用いて戦略を遂行する対抗手段も持ち合わせています。
2番手にはオンライン大会で立て続けに戦果を挙げているアゾリウスコントロールがつけています。大ぶりなデッキ対してカウンター呪文は非常に効果的であり、隙間を縫って《厚かましい借り手》《サメ台風》を使い、速やかにゲームを終わらせます。ジェスカイルーカとの決定的な違いは、デッキの特性上タイトなゲームが多くプレイヤーのスキルが問われる点にあります。
以下ティムール再生、オーラアグロ、ジャンド城塞と続きます。いずれのデッキも自身の目指す戦略(攻撃手段)とジェスカイルーカへの対抗手段の両方を持ち合わせています。それぞれ《荒野の再生》からはじまる多面的な仕掛けとカウンター、《きらきらするすべて》による速度と対除去手段、《ボーラスの城塞》を用いたリソースゲームと手札破壊などです。ゴールへ向かいながらも、ジェスカイルーカへのガードを下げないデッキたちが顔を連ねていますね。
次は視点を変えて、「相棒」別に比較してみたいと思います。
相棒 | 使用者数 |
---|---|
《空を放浪するもの、ヨーリオン》 | 75 |
《夢の巣のルールス》 | 14 |
《集めるもの、ウモーリ》 | 5 |
《獲物貫き、オボシュ》 | 2 |
《巨智、ケルーガ》 | 1 |
《孤児護り、カヒーラ》 | 1 |
合計 | 98 |
圧倒的!まさに《空を放浪するもの、ヨーリオン》の圧勝です!アーキタイプこそ違えど実に6割り近くのプレイヤーが80枚のデッキを手に7勝へ到達していました。コントロールが優位な環境となっていたようです。
白を基調としたアグロデッキへ鞍替えした《夢の巣のルールス》は複数のアーキタイプで確認できました。主にアグロデッキのリソース回復/ダメ押し役を担うこのカードはオーラアグロとボロスサイクリングにぴったりとフィットし、《空を放浪するもの、ヨーリオン》を使用するデッキに速度で勝負を挑んだようです。サクリファイス系での使用も確認できましたが、スピードではなくシナジーで対抗するには少し心もとなかったようです。
問題となるのは3番手です。これまでは《獲物貫き、オボシュ》ないし《巨智、ケルーガ》の定位置となっていましたが、ここにきて変動がありました。なんと《集めるもの、ウモーリ》なのです!
環境終盤になりましたが、グルール変容やシミック変容といった《集めるもの、ウモーリ》を新たな「相棒」としたクリーチャーベースのデッキが生まれ、確固たる地位を築きました。対応力が乏しく思われたクリーチャー軸のデッキですが、《水晶壊し》や《飛びかかる岸鮫》などの「変容」を使うことでパーマネント対策を得るなどの柔軟性を持ち合わせています。
豊富に用意されたマナ加速クリーチャーには「変容」元になるという別の役割もあります。一転して、《樹上の草食獣》は3点ないし4点のダメージソースとしても機能するのです。また、サイドボードまで含めると複数のクリーチャーが速攻をもっているため、この「相棒」は《空を放浪するもの、ヨーリオン》に睨みを利かせた存在となっていたようです。
2日目7勝デッキリストはこちら。
環境総括
ジェスカイルーカを中心に大相棒時代が続いてきたスタンダード。ゲーム外にある8枚目の手札は干渉されず、また、再現性の観点からもマジック史上類を見ないほど強力なカードとなっていました。《空を放浪するもの、ヨーリオン》の活躍ばかりが目立ってしまいましたが、環境初期にはスポットライトを浴びたのは別のクリーチャーでした。
レガシーでも大活躍した《深海の破滅、ジャイルーダ》ですが、《灯の分身》がスタンダードリーガルということもあり、コピーの連鎖が始まりました。ほかのフォーマットほどの連鎖性はありませんでしたが、《深海住まいのタッサ》と組み合わせるなど工夫が凝らされていましたね。爽快感は“クセ”になるものの、やはりメタゲームは堅実な方向へと進んでいきます。
悪夢のダイナモ《夢の巣のルールス》が《死の飢えのタイタン、クロクサ》を伴ってサクリファイス系に採用されはじめると、ジェスカイファイアーズは《巨智、ケルーガ》を新たなドローエンジンとして迎え入れました。
また、従来通り《波乱の悪魔》を使うために《獲物貫き、オボシュ》を採用したラクドスサクリファイスも近い時期に成立しました。いずれも「相棒」を主軸にデッキを合わせた選択であり、8枚目の手札というリソース側面が際立っていました。
リソースゲームに終止符を打つべく登場したのが《空を放浪するもの、ヨーリオン》擁する80枚のバントコントロールです。場に出たときに効果をもつパーマネントを組み合わせることで、8枚目の手札はゲームを決める「相棒」へ一歩進んだのです。
速度勝負へ舵を切りなおした「相棒」も存在しました。《夢の巣のルールス》はサイクリング系へ、《孤児護り、カヒーラ》は《創案の火》と速攻クリーチャーを組み合わせたグルールファイアーズへ居場所を見つけました。段々と「相棒」ありきの構築から、デッキ自体に最適な「相棒」を見つけだすように変化してきます。
《空を放浪するもの、ヨーリオン》使用の最適解としてジェスカイルーカが頭角を現しはじめると、数多のミッドレンジデッキは姿を消していきました。カウンターをもつアゾリウスコントロールこそ同速での勝負が可能でしたが、残された選択肢は速度で勝る以外ありませんでした。対抗すべく現れた赤単アグロは明確な戦略を有しており、横に並べた打点をパンプアップしつつ相棒に繋げて押し切る動きを実現するために《紋章旗》と《獲物貫き、オボシュ》がセットで採用されました。
そして最後にクリーチャーだけで構成された《集めるもの、ウモーリ》が登場します。《集めるもの、ウモーリ》は環境終盤に登場しながらも、瞬く間に進化を遂げたことになります。単なるアグロデッキからアドバンテージエンジンとして「変容」を組み込んだミッドレンジタイプへとガラリと姿を変えたのです。それこそあと1か月この環境が続こうものなら、メタゲームが大きく変わったかもしれないほどに。
どのデッキも環境初期に見られた「相棒」ありきの構築や単なるリソースカードとしての1枚ではなく、デッキの動きと連動するキーパーツでありシナジーを明確に持つ、まさに「相棒」として組み込まれていました。
「相棒」すべての活躍をみることは叶いませんでしたが、『イコリア:巨獣の棲処』から登場したこの新メカニズムはマジック史に残る活躍を見せてくれました。
禁止改定後のスタンダード予想
環境を支配していたジェスカイルーカは2枚の禁止カードにより、解体を余儀なくされてしまいました。銃身と弾、キーカードの2種類を失ってはどうしようもありません。また、環境を支配してきた「相棒」についても大胆なテコ入れがおこなわれました。
相棒のルール変更について
新ルール
各ゲーム中に1度だけ、あなたはソーサリーを唱えられるとき(あなたのメイン・フェイズの間でスタックが空であるとき) に(3)を支払うことでサイドボードからあなたの相棒をあなたの手札に加えることができる。これは特別な処理であり、起動型能力ではない。
「相棒」のルール変更は禁止カードを免れた各デッキにも影響を及ぼすはずです。そこで新環境後のスタンダードを予測していきたいと思います。
ティムール再生
1 《島》
1 《山》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《蒸気孔》
4 《踏み鳴らされる地》
2 《寓話の小道》
4 《ヴァントレス城》
2 《爆発域》
-土地 (28)- 2 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
1 《厚かましい借り手》
-クリーチャー (3)-
メタゲーム最上位に位置しながら失ったカードはないため、構成を一切変えずに次の環境でも活躍が見込めるデッキです。《神秘の論争》《焦熱の竜火》といった最低限の干渉手段をもちながら、《成長のらせん》を使い《荒野の再生》の土台作りを目指します。エンチャント後は有り余るマナから《発展/発破》を重ね打ち、手札補充とフィニッシュブローを兼ねます。
対抗馬となるのは《時を解す者、テフェリー》と赤単アグロ。デッキパワーは十分にあるため、環境の本命とみて間違いないでしょう。
このデッキの参考記事
- 2020/5/22
- 増田 勝仁のティムール再生 パーフェクトガイド ~土地を起こし続けたその先に~
- 増田 勝仁
ジャンド城塞
《ボーラスの城塞》を組み込んだことでジェスカイルーカ、アゾリウスコントロールとも肩を並べるデッキとなったジャンド城塞。シナジーを形成するクリーチャーたちを並べ、徐々にゲームをコントロールしていきます。自身のリソースを増やすだけではなく、《波乱の悪魔》を使い相手の戦力を削いでいきます。小粒なクリーチャーデッキに強く、リソース獲得手段も多分に持ち合わせているためコントロールデッキにも劣らない存在です。
デッキが動き出すまでに時間がかかるためティムール再生に分が悪いのは懸念点ですが、対アグロの急先鋒として活躍が見込めるのではないでしょうか。
このデッキの参考記事
- 2020/5/28
- 帰ってきたジャンドサクリファイス
- マティアス・レヴェラット
ティムールアドベンチャー
4 《島》
2 《山》
2 《ケトリアのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《蒸気孔》
4 《踏み鳴らされる地》
1 《奔放の神殿》
1 《神秘の神殿》
-土地 (27)- 4 《エッジウォールの亭主》
4 《願いのフェイ》
4 《厚かましい借り手》
4 《砕骨の巨人》
4 《恋煩いの野獣》
4 《豆の木の巨人》
-クリーチャー (24)-
ジャンド城塞を動のミッドレンジとするならば、こちらは静のミッドレンジ。独自のアドバンテージエンジンを用いて盤面の拡充に努めます。ウィッシュボードによる柔軟な対応力が魅力であり、単体除去をもたないコントロールには抜群の相性を誇ります。天敵であるサクリファイス系の立ち位置が気になるところです。
デッキの大部分を「出来事」関連のカードが占めたシナジーの集合体であるため、フリースロットが少なくなっています。そのため構成を変えることが難しく、メタゲームによっては苦境に立たされます。アゾリウス系コントロールにはめっぽう強いものの、サクリファイス系デッキを苦手とします。
バントコントロール
2 《森》
1 《平地》
4 《神聖なる泉》
4 《繁殖池》
4 《寺院の庭》
4 《寓話の小道》
4 《啓蒙の神殿》
4 《神秘の神殿》
4 《豊潤の神殿》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (36)- 4 《厚かましい借り手》
3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
-クリーチャー (7)-
3 《ドビンの拒否権》
4 《神秘の論争》
4 《中和》
2 《空の粉砕》
4 《海の神のお告げ》
4 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《サメ台風》
4 《時を解す者、テフェリー》
3 《覆いを割く者、ナーセット》
1 《伝承の収集者、タミヨウ》
-呪文 (37)-
弱体化しながらも使用され続ける可能性がある「相棒」もいます。《空を放浪するもの、ヨーリオン》はコントロールデッキのフィニッシャーを兼ねているため、比較的遅いタイミングでのキャストとなります。そのためルール改定後も「相棒」として活躍する可能性を秘めているのです。
バントコントロールはカウンターをベースに《時を解す者、テフェリー》や《空の粉砕》など明確なメタカードを持ち合わせており、構成上遅いデッキであるためルール変更後も問題なさそうです。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《伝承の収集者、タミヨウ》により消耗戦も強いだけでなくメタゲームによって柔軟に構成を変えられるため、活躍の可能性は多いにあるでしょう。
『イコリア:巨獣の棲処』によってガラリと変わった構成ですが、《世界を揺るがす者、ニッサ》や《ハイドロイド混成体》を使用した構成も気になるところです。
このデッキの参考記事
- 2020/5/1
- バントヨーリオンコントロール ~デッキガイド~
- ピオトル “カニスター” グロゴゥスキ
赤単アグロ
4 《エンバレス城》
-土地 (21)- 4 《熱烈な勇者》
4 《焦がし吐き》
4 《ブリキ通りの身かわし》
4 《義賊》
4 《遁走する蒸気族》
2 《リムロックの騎士》
4 《鍛冶で鍛えられしアナックス》
1 《砕骨の巨人》
2 《朱地洞の族長、トーブラン》
-クリーチャー (29)-
3 《砕骨の巨人》
3 《ショック》
2 《無頼な扇動者、ティボルト》
1 《リムロックの騎士》
1 《朱地洞の族長、トーブラン》
1 《実験の狂乱》
-サイドボード (15)-
構成を変え存在し続ける赤単アグロ。マナカーブに沿った確定フィニッシュブローである《獲物貫き、オボシュ》は失いましたが、『イコリア:巨獣の棲処』以前同様に《朱地洞の族長、トーブラン》と必殺の《エンバレスの宝剣》が控えています。
ティムール再生が人気となれば、小粒なクリーチャーの多いこのデッキには活躍が見込めます。《エンバレスの宝剣》はどんな相手をも倒すエクスカリバーとなるでしょう!!
ただし、《時を解す者、テフェリー》とサクリファイス系は要注意となりそうです。
このデッキの参考記事
- 2020/4/1
- 赤単アグロはまだ通用するのか?
- ジョン・ロルフ
おわりに
いかがだったでしょうか。今回紹介したデッキ以外にも、スタンダードに強力なカードたちは存在しています。《軍団のまとめ役、ウィノータ》や《天頂の閃光》はその最たるものであり、メタゲームの中心となってもなんら不思議はありません。答えは来週に判明するでしょう。
今週末にはRed Bull Untapped 2020予選が控えていますね。次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。