はじめに
近年、MTGアリーナが導入されたことで、Magic: The Gatheringのオンラインイベントはかつてないほどの隆盛をみせています。自宅にいながらグランプリと同様のハイレベルなプレイと緊張感、達成感を味わえるものです。
本稿では盛り上がりをみせるオンライン上で開催された大会結果をまとめて、みなさんにお届けしていきたいと思います。今回は先週末に開催されたRed Bull Untapped 2020のドイツとスペインの予選結果を振り返っていきましょう。
Red Bull Untapped 2020とは
MTGアリーナを用いたオンライン大会であり、プレイヤーはInternational Qualifier 1をはじめとする各予選イベントへ参加可能となっている。各イベントには賞金が用意されており、さらに優勝者は年末開催予定のThe Finalsへの出場権を獲得できる(招待者全16名)。The Finals優勝者には『2021年にウィザーズ・オブ・ザ・コーストが開催する、”もっとも権威のあるマジック:ザ・ギャザリングのイベント”への出場権』が与えられる。
Red Bull Untapped Online Qualifier Germany
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Stefan Günther | ティムール再生 |
準優勝 | Philipp Aßfalg | ティムール再生 |
3位 | Jan Wallbaum | アゾリウスコントロール(ヨーリオン) |
4位 | Kristof Prinz | ジャンド城塞 |
5位 | Sebastian Gerard | ジャンド城塞 |
6位 | Vazrael | 赤単アグロ |
7位 | Andreas Hamann | ティムール再生 |
8位 | Denny Weinhardt | グルールアグロ |
ドイツ予選は参加者157名のスイスドロー8回戦で開催され、上位8名が2日目へと進出しています。トップ8にはアグロ、ミッドレンジ、コントロールがバランス良く入っていますが、なかでもティムール再生とジャンド城塞はそれぞれ3名/2名と下馬評通りの活躍となりました。決勝戦はティムール再生同士の対決となり、Stefan Günther選手の優勝となりました。
トップ8デッキリストはこちら。
メタゲームブレイクダウン
デッキタイプ | 初日 | トップ8 |
---|---|---|
ティムール再生 | 27 | 3 |
ジャンド城塞 | 19 | 2 |
赤単アグロ | 12 | 1 |
ボロスサイクリング | 9 | 0 |
アゾリウスコントロール(ヨーリオン) | 9 | 1 |
ラクドスサクリファイス | 7 | 0 |
グルールアグロ | 6 | 1 |
バントコントロール(ヨーリオン) | 6 | 0 |
ティムールアドベンチャー | 5 | 0 |
バントランプ | 5 | 0 |
他 | 61 | 0 |
合計 | 157 | 8 |
同大会のメタゲームブレイクダウンになります。大方の予想通り、禁止改定の影響下になかったティムール再生とジャンド城塞が人気を集めました。以下赤単/サイクリングといったアグロ系のデッキが続きますが、これらのデッキたちがティムール再生に微有利ながら勢力を伸ばせなかった理由は第2勢力のジャンド城塞にあります。このライフとリソース回復手段をもつミッドレンジデッキに対して明確に不利であるため、トップ8にはわずか1名しか送り込むことがかないませんでした。
ティムール再生へのキラーカードである《時を解す者、テフェリー》を採用したコントロール/ランプデッキも存在していますが、環境初期ということもありメタゲームに合わせた最適な構成が見つけられなかったようです。2大勢力を相手取るには相反するゲームメイクをこなす必要があるためです。
ジャンド城塞
3 《森》
1 《山》
4 《寓話の小道》
4 《血の墓所》
4 《草むした墓》
4 《踏み鳴らされる地》
1 《ロークスワイン城》
-土地 (24)- 4 《大釜の使い魔》
4 《金のガチョウ》
1 《鋸刃蠍》
4 《忘れられた神々の僧侶》
4 《波乱の悪魔》
4 《悲哀の徘徊者》
-クリーチャー (21)-
4 《燃えがら蔦》
2 《レッドキャップの乱闘》
2 《焦熱の竜火》
1 《エンバレスの盾割り》
1 《フェイに呪われた王、コルヴォルド》
1 《魂標ランタン》
-サイドボード (15)-
トップ4に入賞したKristof Prinz選手のジャンド城塞を見ていきましょう。従来のミッドレンジタイプのジャンドサクリファイスから《ボーラスの城塞》を採用したことで、新しいデッキへと生まれ変わりました。対クリーチャー戦、対コントロールでのリソースゲームではこれまで通り《波乱の悪魔》や《パンくずの道標》を用いたゲームを展開しますが、一番の変化は対ティムール再生です。これまでは《荒野の再生》を設置されると行動回数に差が生じ、カードパワーもしくは手数の差により一方的な展開となっていました。
《ボーラスの城塞》はマナコストこそ6マナと重いものの《忘れられた神々の僧侶》を使えば最速4ターン目、つまりは《荒野の再生》と同速度での設置が可能となっています。そのカードパワーたるや《荒野の再生》を凌駕し、ライフを犠牲に延々と展開が可能となっています。
ダメージソースが攻撃だけではなく《波乱の悪魔》や《大釜の使い魔》といったクリーチャーの誘発型能力もあるため、必要牌さえ揃えばターンを渡さずともライフを削りきることが可能となっています。ライブラリートップが土地の場合ストップしてしまいますが、《悲哀の徘徊者》があれば「占術」を組み合わせることで有効牌をプレイし続けられます。そのため設置できたが最後、勝利と同義といえるカードなのです。
サイドボードからも強烈なティムール再生メタが伝わってきます。《強迫》に加え《燃えがら蔦》も4枚採用されているため、ターンをまたぎ《荒野の再生》が場に残ることは難しそうです。《苦悶の悔恨》《神秘の撤回》《自然への回帰》などほかの候補もありますが、マナコストが軽量なものや先に展開しておけるものなどデッキの展開力を阻害しないものが選択されています。
このデッキのオススメ!
アグロデッキ戦のスペシャリストであり、クリーチャーベースのデッキながらリソース回復手段を多数持ち合わせているため攻め手が途切れません。カード同士の結びつきが強く、回せば回すほど味が深くなるスルメのようなデッキ。《ボーラスの城塞》のパワーをもってすれば苦手としてた《荒野の再生》にも引けを取りません。アグレッシブにゲームをコントロールしたいあなたにオススメ!
このデッキを使う場合は下記の記事もオススメ!
- 2020/5/28
- 帰ってきたジャンドサクリファイス
- マティアス・レヴェラット
Red Bull Untapped Online Qualifier Spain
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Jaume Cruz | ティムール再生 |
準優勝 | Marc Facerías | ジャンド城塞 |
3位 | Daniel Toledo | ティムール再生 |
4位 | Oscar Gonzalez | ジャンド城塞 |
5位 | Aruna Prem Bianzino | ジャンド城塞 |
6位 | Carlos Moral | ティムール再生 |
7位 | Javier Sáez | ティムール再生 |
8位 | Aitor Ubierna | ボロスサイクリング |
スペイン予選は参加者257名のスイスドロー8回戦で開催され、上位16名が2日目へと進出しています。優勝はドイツ予選に続きティムール再生であり、トップ8はティムール再生4名とジャンド城塞が3名、ボロスサイクリングが1名と極端な分布になっています。二大勢力による直接対決となった決勝戦では相性差もあり、優勝はJaume Cruz選手のティムール再生となりました。
トップ8デッキリストはこちら。
メタゲームブレイクダウン
デッキタイプ | 初日 | 2日目 |
---|---|---|
ティムール再生 | 42 | 5 |
赤単アグロ | 25 | 1 |
ボロスサイクリング | 22 | 1 |
ジャンドサクリファイス | 16 | 4 |
ティムールアドベンチャー | 15 | 1 |
アゾリウスコントロール(ヨーリオン) | 15 | 1 |
バントランプ | 13 | 1 |
セレズニアオーラ | 7 | 0 |
ラクドスサクリファイス | 7 | 1 |
シミックフラッシュ | 6 | 0 |
緑単アグロ | 6 | 0 |
ジェスカイサイクリング | 6 | 0 |
他 | 88 | 1 |
合計 | 257 | 16 |
スペイン予選でははっきりと《荒野の再生》を意識したメタゲームが形成されていました。最大母数を誇るティムール再生に対し微有利とされる赤単アグロ、ボロスサイクリングがキッチリとマークしていたのです。しかし、アグロデッキの選択者たちにも誤算がありました。
4位以下にジャンド城塞だけではなく、ティムールアドベンチャーといったアグロに有利なクリーチャーベースのミッドレンジデッキが選択されていたことです。対ティムール再生戦は微有利とされたアグロ系ですが、相性差は僅差でありひっくり返されてしまうこともあります。追い打ちをかけるように、ミッドレンジデッキに食われるかたちで2日目に進出したのは計2名にとどまりました。
結局デッキパワーで劣る速度特化のアグロデッキや構成により勝率に差が生じやすコントロールではなく、王道デッキであるティムール再生とジャンド城塞にメタカードをどれだけ採用したかが焦点となったようです。
ティムール再生
1 《山》
1 《森》
2 《寓話の小道》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《蒸気孔》
4 《踏み鳴らされる地》
1 《奔放の神殿》
1 《神秘の神殿》
1 《天啓の神殿》
3 《ヴァントレス城》
-土地 (28)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
-クリーチャー (3)-
優勝したティムール再生を確認してみましょう。前環境から何も失わず、むしろライバルたちの失速により自動的に先頭へと躍り出たティムール再生。《選択》のスロットを《否認》などのカウンターへあてがっているレシピも散見されましたが、優勝者はオーソドックスなものとなっています。状況に応じて必要牌が変化していくこのデッキにとっては《選択》は潤滑油であり、必要不可欠なカードであると思われます。今後のメタゲームの変化によっては多少のリスクを承知で別のカードへと変更されるのか、気になるところです。
サイドボードはわかりやすく、対コントロール/対アグロのカードで埋められています。今後はミラーマッチの増加を考え、「サイクリング」によりタイミングを選ばない《萎れ》などの採用もありそうです。
このデッキのオススメ!
環境トップに君臨するコントロールコンボデッキ。マジックに必要不可欠なマナを最大限に活かし、ゲームを進めていきます。ノンクリーチャーに近い構成のため相手のデッキの除去呪文を無駄にできる反面、《発展/発破》や除去を引けないと相手に押し切られてしまうこともしばしば。緻密にプレイしつつも、時として《発展/発破》で強引にイニシアチブを引き寄せる動きは一度体験したら忘れることはできません!先を見越したプレイに自身がある、繊細さと派手さを両方体験したいあなたにオススメ!
このデッキを使う場合は下記の記事もオススメ!
- 2020/5/22
- 増田 勝仁のティムール再生 パーフェクトガイド ~土地を起こし続けたその先に~
- 増田 勝仁
今週末の勝ち組を探せ!!
先週末から始まった新環境スタンダードですが、ティムール再生とジャンド城塞を中心にメタゲームが形成されています。不利とされるジャンド城塞側がサイドボードにどれだけカードを用意できるかにかかっていますが、《強迫》《燃えがら蔦》の計8枚をとったデッキをもってしても敗北しているため、ティムール再生の攻略は一筋縄ではいきません。
小型クリーチャーを多用したアグロデッキがジャンド城塞/ティムールアドベンチャーといったクリーチャーベースのミッドレンジデッキに飲み込まれてしまっているため、メタゲームのカギは《時を解す者、テフェリー》を使ったコントロールデッキが最適な構築を見つけられるかにかかっているようです。
先週末の結果からティムール再生とジャンド城塞の2デッキを軸としたメタゲームが確定した今、同デッキに焦点を絞ったアゾリウス/バントコントロールが勝ち組となるでしょう。
今週末にはプレイヤーズツアー1&2が控えていますね。次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。