期待の新星、マルドゥウィノータ

Lee Shi Tian

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2020/08/04)

(編集者注: この記事は2020/8/3の禁止告知以前に書かれたものです)

選択肢にあったもうひとつのデッキ

みなさん、こんにちは。

先日、私はプレイヤーズツアーファイナル(以下、PTF)に参加しました。使用したデッキはラクドスサクリファイスで、結果は27位。《荒野の再生》デッキが溢れかえったメタゲームはラクドスサクリファイスにとって最善とは言えないものでした。再生デッキと当たらないことを願っていましたが、結局10度も対戦。対再生デッキには5-5、それ以外のデッキには3-0-1という結果でした。予想通りの範疇に収まったなという感じですね。

しかし、今日みなさんにお話したいのはラクドスサクリファイスではありません。私の配信をご覧になっている方であれば、私が調整の大半の時間を費やしたデッキはラクドスサクリファイスではなく、マルドゥウィノータであることをご存知でしょう。PTFでただ1人《軍団のまとめ役、ウィノータ》をデッキに入れ、トップ8に入賞したマイケル・ジェイコブ/Michael Jacobとは違い、残念ながら私はマルドゥウィノータを本番で使用する度胸がありませんでした。

軍団のまとめ役、ウィノータ

デッキリスト

私のマルドゥウィノータの構成の核は、トップ8に入賞した彼のリストと非常に似ているため、この記事では彼のリストを使わせていただこうと思います。なんといっても、このデッキでトップ8に入賞した男のリストですからね。

ウィノータデッキを構築する際につきまとう問題は、《ウィノータ》なしでもゲームを展開できるようにすることです。《ウィノータ》は着地してすぐにゲームを決定づけるほどのパワーカードですが、その構築制約は重くなっています。《ウィノータ》の能力で展開する人間クリーチャーを十分に確保しながらも、ゲームの火ぶたを切る人間以外のクリーチャーが求められるのです。

マルドゥウィノータはカードの選択肢が広くありません。構築するに当たっては、デッキが求める条件に合うカードを複数種類採用すればいいだけなので、ここではカードの役割ごとに分けて解説していきましょう。

盤面を広げる呪文

急報ラゾテプの肉裂き悲哀の徘徊者

初手に少なくとも1枚は必要で、2枚あると理想的です。どの呪文も頭数が2体分であるため、《ウィノータ》の能力を複数回誘発させます。

一般的なリストとの大きな違いは、《悲哀の徘徊者》が採用されている点でしょう。《霊気の疾風》の対象にならず、全体除去された場合は「脱出」して終盤戦のリソースとなり、占術能力は4枚目の土地さえくれば《ウィノータ》を展開できる状況で大きな意味を持ちます。

広げた盤面を活かす呪文

軍団のまとめ役、ウィノータ敬慕されるロクソドン災いの歌姫、ジュディス

初手に1~2枚あると望ましいカードたちです。土地や「盤面を広げる呪文」が揃った手札で、これらのカードを引いたときの備えができている手札が来た場合は、0枚でキープすることもあります。

《ウィノータ》は4ターン目までに能力を3~4回誘発させられれば、異常な強さのカードになります。10~12マナ相当のクリーチャーを展開し、瞬時に勝てることはなかったとしても逆転不可能な状況を作りだしてくれるのです。

このリストの特徴的な部分は、《エンバレスの宝剣》を排し、《敬慕されるロクソドン》をフル投入していることです。この変更の狙いは、相手が返しのターンの《ウィノータ》《エンバレスの宝剣》に対して除去を構えてきたことを逆手にとり、生き残ったクリーチャーを「召集」のコストに充てることです。

また、「盤面を広げる呪文」はウィノータプランだけでなく、アグロプランを取ることもできます。ここにこそ《敬慕されるロクソドン》が活躍する条件が整うのです。2ターン目と3ターン目に2マナのトークン生成呪文を唱えられれば、3ターン目にパワーが12もある盤面を構築する強い動きをとることができ、相手に逆転の余地を与えません。

《災いの歌姫、ジュディス》《ウィノータ》からヒットさせて嬉しいクリーチャーであり、第2のゲームプラン(ビートダウンプラン)にも噛み合っています。全体強化はトークンを並べる戦術と相性がよく、死亡時のダメージ能力は全体除去に対する保険になることもよくあります。

防御呪文

無私の救助犬帆凧の掠め盗り将軍の執行官
軍勢の切先、タージクバスリの副官

これらは初手になくても一向にかまいません

《無私の救助犬》は幅広い除去呪文から本命のクリーチャーを守り、《帆凧の掠め盗り》は除去を引き寄せる的となり、《ウィノータ》のために道の安全を確保する役割を担います。どちらもマナコストが軽く、《敬慕されるロクソドン》との相性も良好です。

《バスリの副官》は『基本セット2021』からの大きな収穫のひとつ。ウィノータプランとアグロプランの橋渡し役になります。伝説のクリーチャーではないため、複数並べられるのも強みですね。《ウィノータ》から《バスリの副官》が2体めくれれば、クリーチャーが全滅することはなくなるでしょう。

それだけでなく、《バスリの副官》は手札から唱えても悪くないカードです。+1/+1カウンターをばらまく《敬慕されるロクソドン》とのシナジーもあります。《バスリの副官》の能力でパワー4以上のクリーチャーを作り出したうえで、死亡時のトークン生成能力を活かせば、盤面を広げても《空の粉砕》に対するリスクヘッジができます。《陽光の輝き》で除去されず、タフネスを5にしておけば《嵐の怒り》にも巻き込まれません。相手が《霊気の疾風》を構えているときにプレイするのも裏をかけていいですね。

命の恵みのアルセイド

ピン挿しの《将軍の執行官》《軍勢の切先、タージク》《ウィノータ》でヒットできる当たりであり、それぞれが異なる除去を無力化させます。そして同時に、マナカーブ通りのタイミングで唱えても使用に耐えるクリーチャーでもあります。私が使っていたリストでは《漆黒軍の騎士》《軍勢の切先、タージク》の枠に《命の恵みのアルセイド》を2枚投入しており、この点だけがとマイケル・ジェイコブのリストとの唯一の違ったポイントです。防御呪文を追加するよりも、彼のように単体で機能するカードを入れたほうがいいかもしれませんね。

マナ基盤

色拘束が特別厳しいデッキではないので、マナ基盤は安定しています。マナコストに不特定マナを含むものがほとんどですし、1ターンに呪文を複数唱える機会もめったにありませんから、色マナを大きな問題として捉える必要はないでしょう。

サヴァイのトライオーム

対して、大きな問題となるのはマナスクリューとマナフラッドです。このデッキは余ったマナの使い道がピン挿しの《エンバレス城》以外にほとんどありません。「神殿」は土地が2枚しかない初手でもキープさせてくれるようになるため、《サヴァイのトライオーム》の枠に追加で入れようと思ったこともありますが、PTFまでに調整する時間がありませんでした。

このデッキのアドバンテージ源はほぼ《ウィノータ》しかありません。たいていは《ウィノータ》の存在を匂わせ、相手にマナを構えさせることでテンポアドバンテージを獲得していきます。そのため、何らかの土地事故の状況に陥ると、ゲームを立て直す手段は多くありません。こういった経緯から、マナスクリュー/フラッドの影響は一般的なデッキよりもはるかに大きくなっています。私が最後の最後でこのデッキを諦めたのも同様の理由からです。この問題を解決するいい方法が見つかりませんでした。

サイドボード

敬虔な命令取り除き灯の燼滅害悪な掌握

私は詳細なサイドボードプランを持ち合わせていませんが、大切なのは非クリーチャー呪文の枚数をサイド後も少なく抑えておくことだと思います。マイケル・ジェイコブのサイドボードには軽量の除去が5枚しか採用されておらず、おそらく彼はどんなマッチアップでもその4枚以上を入れることはなかったはずです。マルドゥウィノータのようなアグロは積極的なゲームプランを描くべきであり、手札で出番を待っているカードを多く抱えてはなりません。

サイドボーディングの原則は、人間クリーチャーは人間クリーチャーと入れ替え、非人間クリーチャーは非人間クリーチャーと入れ替えることであり、マナ域まで一致していると理想的です。人間クリーチャーと非人間クリーチャーの比率をメインデッキと大きく変えないように意識しましょう。

おわりに

マルドゥウィノータに関して私が知るところのすべてを解説してきました。PTFで結果を出したことを考えると、このデッキを選択しなかったことに悔いが残りますね。環境のベストデッキではないかもしれませんが、ミラーマッチを避けたい人にとっては非常に楽しめるデッキです。ぜひマルドゥウィノータで遊んでみてください。

ではまたお会いしましょう!

リー・シー・ティエン (Twitter)

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Lee Shi Tian リー・シー・ティエンは香港出身のスーパースター。プロツアートップ8が5回、グランプリトップ8が10回 (内優勝1回) と凄まじい戦績を誇り、特にモダンフォーマットを得意とするプレイヤー。 リーは偉大なプレイヤーとしてのみならず、アジア圏のコミュニティの育成に尽力した人物としても広く知られており、彼とそのチームメイトである "チームミントカード" の面々はプロシーンで次々と好成績を残し続けた。 プレイヤーとして、そしてコミュニティリーダーとしての功績が世界中で高く評価され、2018年にマジック・プロツアー殿堂入りを果たす。 Lee Shi Tianの記事はこちら