Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2021/9/13)
はじめに
みなさん、こんにちは。
9/3~9/5はこの競技生活においてもっとも重要な週末となりました。2021/22シーズンのMPL、そして残る世界選手権の枠を懸けて48名のプレイヤーがライバルズ・ガントレット、MPLガントレットを戦ったのです。
そして私はライバルズ・ガントレットでトップ4に入賞。また来年もMPLに所属できることになりました!
大会のフォーマットはスタンダードでしたが、もう間もなくローテーションが起こる環境です。すぐに新しい時代へと入っていくのですから、大会で使用したリストを解説することはしません。今日は、ハイレベルな大会にオンラインで1年間参加し続けて得られた教訓を共有していこうと思います。
障害を知る
障害とは、避けることができないが乗り越えなくてはならないものを指します。
私にとってのひとつ目の障害は、時差によるものでした。リーグウィークエンドやセットチャンピオンシップの試合は必ず深夜から朝方にかけて行われます。これは何度も言っていることなので以前にも聞いたことがあるかもしれません。そのような悪条件のなかで複雑なデッキを高い水準で使いこなそうと四苦八苦していました。
1回目と2回目のリーグウィークエンドではディミーアローグを選択しましたが、結果は最悪でした。
このデッキはインスタントタイミングで動くデッキであり、判断の連続です。呪文を唱えるタイミング、手札と盤面の状況をもとに攻守を切り替えるタイミング。世界最高峰の戦いとなれば、その判断のひとつひとつが勝敗につながります。誰にも相談できないなかで、私は一夜を通してミスを積み重ねていきました。こうして、すぐに時差が障害であることに私は気づいていきます。
この問題への対応策は、シーズン後半戦のデッキ選択に反映されています。見てみるとわかりますが、攻撃的な戦略か、相手を一発KOできるようなコンボ要素を含んだデッキを選ぶようになったのです。
もうひとつの問題は、調整の質が不足していたことです。私は調整は効率的でなければならないと考えています。プロツアー前週の日夜マジック漬けの合宿は良かったのですが、目的が定まらないままアリーナのランク戦やMagic Onlineのリーグをひたすらやるというのは性に合いません。対戦相手の質を担保できないため、何か新しい発見をしたくても信頼性のある結果を得られないのです。
不幸なことに、アジア太平洋地域のMPLメンバーは私以外に数人の日本人プレイヤーだけです。私は日本語が話せませんので、彼らとの調整は不可能。あるときはマルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoの協力を得てヨーロッパ勢と目的を定めた調整に参加したこともありましたが、日々のルーティンと噛み合わず、上手くいきませんでした。
結局、私は実際にゲームをプレイして調整することは諦めざるを得ませんでした。2021年当初から、リーグウィークエンド、セットチャンピオンシップ、アリーナオープン以外では構築戦を1ゲームたりとプレイしていません。異常だと思うかもしれませんが、そこで節約した時間をほかのことに充て、大会準備の効率化を図りました。
制約を知る
根本的な解決はできないが、それによる被害を発生させない/抑えることができるもの。それが制約です。
大会に臨むにあたり、質の高い調整が自分の進むべき方向ではないと決意したとき、まずミラーマッチは避けなくてはならないという意識が生まれました。ハイレベルな大会では、自分よりもそのデッキを熟知している相手に当たれば、圧倒的に不利な立場に立たされます。
調整の質不足による被害を軽減させる方法はもうひとつあります。それは、メタゲーム上で警戒されているデッキを使わないことです。
私のデッキ選択を見てもらえれば、選択者が自分しかいないデッキを選んでいることがすぐにわかると思います。サイクリング、ゴブリン、グルール、イゼット《不屈の独創力》、緑単アグロ。メタゲームの一部にならないように強く意識してきました。
もちろん、この戦略で失敗することもあります。たとえば、ディミーアパクトはダントツの最強デッキでしたが、私は禁止されるまで使うことはありませんでした。とはいえ、マジックは動的なゲームであり、基本的にマイナーな戦略でも活躍できる余地があります。事実、この制約に適応するようになってから、私の成績は飛躍的に向上しました。
強みを知る
プロツアーがまだあった時代、チームメイトの調整結果をもとに、環境的にもっとも立ち位置の良いデッキを選ぶ力が私にはありました。このスキルがあったからこそ、誰も気に留めてないデッキでもメタ的に通用するデッキを見出せたのだろうと思います。
今の時代は、インターネット上に大会のデータベースがたくさんありますね。MTG MELEEは自ら多く大会をサポートしながら、そのデータを見やすく整理しています。MTG Goldfishを開けばMagic Onlineの大会結果も見つかるでしょう。MTG DataなどのTwitterアカウントは大型イベントがあるとデッキごとの相性をまとめてくれます。このどれもが私にとっては最高の研究材料です。
もうひとつの強みは、プロツアーを巡るなかでできた友人たちです。MPLガントレットのときに特にそのありがたさがわかりました。
世界で見ても、当時スタンダードを競技的に真剣にやっていたプレイヤーはガントレットの参加者だけだろうと思います。参考となる大会データはないに等しく、Magic Onlineの大会はコントロールとウィノータが支配する二極化状態。警戒しなくてはならないデッキではあるものの、この2つのデッキがトップ32を支配する状況でした。
ことライバルズ・ガントレットに関してはレックス・チェン・リアン/Rex Chen Liangに感謝したいと思います。緑単のリストとサイドボードプランはそっくりそのまま参考にさせてもらいました。リーグウィークエンドのときはティアゴ・サポリート/Thiago Saporitoの赤単のリストや、殿堂プレイヤーであるラファエル・レヴィ/Raphael Levyのグルールのリストを使わせてもらいました。
調整を自分一人で全てやるだけの力はありませんでしたから、実力のあるプレイヤーを知って彼らの結論を信じる。それが私にできる最善の行動でした。
障害を強みに転換する
ガントレットを熱心に追っていないとわからないかもしれませんが、大会スケジュールは前日に変更されました。3日制のイベントから2日制に変わったのです。
夜11時から9回戦を戦うのはアジア圏のプレイヤーにとって無理難題のように思えました。しかし、この1年、あれだけ遅い時間で戦い続けてきた私なら乗り越えられるという予感もありました。
かつては午前3時を回ると一度もマッチを勝ち取ることができませんでした。しかし、ガントレットでは同じ時間帯でも1マッチしか落としませんでした。MPLガントレットでは複数の日本人プレイヤーがトップ8に入賞しています。これは時差という障害を何度もくぐり抜けてきた結果だと私は思います。
また、ガントレットで当たった相手は緑単アグロとの準備が十分ではありませんでした。誰も選ばないデッキを選択する、そして参考になる情報が少ないなかで準備を進められるという強みが再び発揮された状況だったと思います。
ネバーギブアップ
そして最後に。絶対に諦めないことです。
MPLリーグウィークエンドの初週から私は降格圏内に入っていました。自分に合うように戦略を調整し、来る週も来る週も脱落せずに生き残り、ガントレットステージまでこぎつけたのです。
ライバルズ・ガントレットは5回戦を終えて1-4というスタートでした。しかし、クリスティアン・カルカノ/Christian Calcanoという友人がいたことが私の救いでした。彼がそんなに簡単に諦めちゃいけないと思い出させてくれたのです。私は気合を入れなおし、タイブレイカーが最下位ながらも続く7マッチを6勝してトップ8に滑り込みました。
マジックにバラつきは付き物です。思うようにいくこともあれば、そうでないときもあります。
諦めないこと。それだけは忘れないようにしてください。
以上がMPL残留を決めた一年の旅路です。今回紹介した考え方はマジックに限定されないものだと思います。人生のさまざまな場面で適用できることでしょう。
人生とはチョコレート箱のようなものです。ほろ苦いこともあれば、自分の望む味に出会うこともある。今年の挑戦で培ったマインドセットがみなさんにとって考えるヒントとなり、人間としての成長を促せれば幸いです。
来年は最後のMPLの年となるでしょう。競技マジックがどうなっていくのかはわかりません。新しい組織化プレイがあるのかもしれませんし、全くないのかもしれません。今はただ待って、その行く末を見守るとしましょう。
MPLに残留した者より