その衝撃は大阪からやってきた。
「いってつさん知らないんですか?メディアチームの統率者戦担当なのに」
まただ。
トレードチームがまた妙なことを言っている。シングルカードの値付けや買い付けを行っている、晴れる屋の中枢を担う部署の人間だけに、トレードチームの面々の所有しているカード、蓄積している知識は尋常ではない。東京、高田馬場、晴れる屋本社事務所。ここはカードゲームフリークが集まる場所。その中のトップがトレードチームだ。
そんなトレードチームの杉ちゃんが大阪から新しいフォーマットを持ち帰ってきた。これまであちこちのコミュニティで生まれては消えていったであろうパイオニアプールの統率者戦。そんなフォーマットがいま、ついに大きなうねりになろうとしている。
パイオニアEDHルール
【パイオニアEDH構築ルール】統率者戦の構築ルールに従い、デッキ枚数は統率者を含め100枚。
使用できるカードは『ラヴニカへの回帰』以降のスタンダードセットに収録されたカード。(パイオニアと同じ。)
「パイオニア」での禁止カードは使用可能。
【パイオニアEDHゲームルール】
統率者戦での禁止推奨カードは使用不可。統率者戦と同じく、初期ライフは40、統率者ダメージのルールあり。
使用できるカードプールはパイオニアだが、パイオニアでの禁止カードリストを無視する。
つまり、コピーキャットコンボもヘリオッドバリスタコンボもやりたい放題だ。
《創造の座、オムナス》でデッキを組んでもいいし、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を脱出させてもいい。《夢の巣のルールス》を相棒にすることだってできる。
一方で、統率者戦で禁止されているカードは使用できない。
ブロールやリミテッド統率者戦と違い、統率者戦の構築ルールの中で構築制限を設けているので、パイオニアEDHのデッキのまま普通の統率者戦に参加することができる。デッキレベル5~6、ゲームレベル「Battle」程度のテーブルならお互いに楽しく遊べるはずだ。
パイオニアプールの魅力
そもそもパイオニアとはなんのためにあるのか。
もともとはモダンが「参入しやすく、ローテーションのないフォーマット」としての役割を持っていたが、カードプールが広がるにつれその役目を担えなくなり、「パイオニア」が誕生した。
そんなパイオニアはフォーマット制定後に禁止カードがつぎつぎ発表されたり、新型感染症対策でテーブルトップイベントが中止になったりと不遇の時代があり、プレイヤー数が伸び悩んでいた。
転機は2021年10月。「パイオニア・チャレンジャーデッキ」の発売をきっかけにパイオニアに参入するプレイヤーが急増する。スタンダードからの参入だけでなく、『モダンホライゾン』『モダンホライゾン2』によるモダン環境が肌に合わなかったプレイヤーが「かつてのモダンの雰囲気」を求めて参入する様子も見られた。
パイオニアは”浅い”フォーマットだと誤解されがちだが、下環境で禁止されたパワーカードを使用できる、見た目の印象以上にハイパワーな環境なのだ。
カードプールの制限によってデッキパワーが制限されることで、逆により多くのカードが選択肢となるのは非常に魅力的だ。そこには1ターン目に《Underground Sea》をフェッチして《吸血の教示者》で《宝石の睡蓮》をサーチするゲームとはまた違った面白さがある。
「自宅のストレージをひっくり返してとりあえずデッキ組んでみたぜ!」という感じの統率者戦をまた味わうことができるのだ。もちろん、スタンダードやパイオニアからの参入もおすすめ。
似たようなルールで統率者戦を遊んでいるコミュニティは他にもあるだろう。トレードチームの杉ちゃんにこのフォーマットを伝えた大阪のコミュニティでは精力的にこのフォーマットの普及活動を行っているようだ。いつか「ヒュージ・リーダーズ」のように、多くのショップでイベントが催されるようになるのかもしれない。
環境感
パイオニアEDHの環境はいったいどんなものなのだろうか。
パイオニアで禁止されたコンボが使用可能ではあるが、100枚ハイランダー構築であり、サーチ手段が乏しいため、そうそう決まるものではない。
むしろ強力なクリーチャーによるコンバット勝利が多い印象だ。《太陽の指輪》や《波止場の恐喝者》などの暴力的なマナ加速手段に乏しいため、ゲームスピードは一般的な統率者戦と比べてゆったりとしている。高コストでハイパワーなクリーチャーが暴れまわることができ、パイオニアでも採用が難しい癖の強いカードが活躍できる。
クリーチャーが強い環境には強い全体除去がつきもの。《サイクロンの裂け目》超過は全てを解決する!
ちなみに、《統率の塔》と《秘儀の印鑑》は使用可能だ。この2枚は『エルドレインの王権』に収録されている。
パイオニアでは禁止されている、有効色フェッチランドが使用可能。ショックランドやトライオームもあり、3色以上のデッキの構築も難しくない。
《彩色の灯籠》《イリーシア木立のドライアド》が存在し、ゲームスピードもゆったりしているため5色統率者を組むことも可能だ。
サンプルリスト
以前にも紹介したブロール「ラトスタイン翁」をパイオニアプールにあわせて拡張したかたちだ。
マナ総量5以上のクリーチャーが23枚というとんでもない重量級デッキ!《ラトスタイン翁》が供給する宝物・トークンを使って早期にフィニッシャーを叩きつけたり、《ラトスタイン翁》が墓地に埋めたフィニッシャーをリアニメイトしたり。スタンダードの各時代に活躍したフィニッシャーがそろい踏みという感じで楽しい!
コンボなどいらぬ!殴って勝つ!それが僕が最初に好きになった統率者戦だ。パイオニアEDHはそのことを思い出させてくれる。
もちろんコンボデッキだって使っていい。
タイシン作のこのデッキはどんなコンボを内蔵しているのか。いってつのコンバットははたして間に合うのか。
実際にご覧ください。
パイオニアのゆくえ
今年の10月には新たなパイオニアチャレンジャーデッキが登場。 MTGアリーナにも「将来的にパイオニアになる」エクスプローラーが実装され、パイオニアは今後も大きく躍進していくだろう。
パイオニアEDHはほどほどのパワーの統率者戦を楽しみつつ、かつてのスタンダード環境に思いをはせることができる、心地いい世界になるかもしれない。今後の発展に注目だ。
それではみなさん、パイオニアEDHのテーブルでお会いしよう。