はじめに
みなさんこんにちは。
プロツアーへの最終関門である『地域チャンピオンシップ』が世界各地で始まり、先週末には日本、東南アジア、オーストラリア/ニュージーランドの3箇所で権利獲得者が決まりました。事前情報ではグリクシスミッドレンジが最有力でしたが、結果が気になるところです。
今回は日本で開催された地域チャンピオンシップ『チャンピオンズカップファイナル サイクル2』の大会結果を振り返っていきます。
先週末の注目トピックは?
メタゲームで見る勝ち組
大方の予想通り、『チャンピオンズカップファイナル サイクル2』はグリクシスを筆頭にミッドレンジ中心のメタゲームとなりました。メタゲームが複雑化し戦略が多岐に渡れば、全体的にカードパワーが高く、対応力に富んだミッドレンジに人気が集まるのは必然といえます。グリクシス、ジャンド、白単、アトラクサなど複数のミッドレンジ戦略が見られました。
その一方で、ミッドレンジを真っ向から否定する戦力がいたのも事実。ラストチャンストライアルでも一定の戦力を誇った赤単や青単などの単色デッキ、軽さと妨害がセットになったアゾリウス兵士、さらにはここしばらく見かけなかったエスパーレジェンズです。これらはロングゲームに持ち込ませない=ミッドレンジのカードパワー発揮前にゲームを終了させることを画策していました。
かくして『チャンピオンズカップファイナル サイクル2』はミッドレンジ対テンポの構図となったわけですが、1日目はテンポ側の圧勝というかたちで終わりました。1日目突破率を見てわかる通り、いずれのミッドレンジ戦略も使用者の半数も2日目に送り込めていません。グリクシスミッドレンジにいたっては10%止まりとなっています。
(※参照:1日目メタゲームブレイクダウン/2日目メタゲームブレイクダウン)
初日をもっとも上手く切り抜けたのはセレズニアポイズン、赤単アグロ、アゾリウス兵士の3デッキ。公式記事『八十岡 翔太のスタンダード解説 ~ミッドレンジの正体~』でも語られている通り、「リソースで勝とうとするデッキにはテンポで勝つ」が証明されたかたちです。
決してミッドレンジ側もテンポデッキへのガードを下げきっていたわけではありませんが、勝つべきはミラーマッチと見定めていたはずです。その結果メインボードから《切り崩し》の枠を《強迫》や《否認》《眼識の収集》と分け合うかたちとなりました。テンポ戦略はわずかにミラーマッチへと寄せていた隙を逃さなかったのです。
プロツアー権利獲得デッキ一覧
1日目突破率ではアグロリードとなりましたが、プロツアー獲得ラインではどうでしょうか。プロツアーへの招待ラインである上位18名のデッキをアーキタイプ別にまとめてみました。
初日は好調だったテンポ戦略ですが、2日目に入り失速していることがわかります。アゾリウス兵士は2日目に4名ものプレイヤーを送り込みながら、誰一人としてトップ18には入れませんでした。
赤単アグロとエスパーレジェンズは複数名の権利獲得者を出しており、テンポ戦略の中では成功した部類です。それでも2日目進出者が9名ずつだったことから考えれば厳しい戦いだったと予想されます。
逆に息を吹き返したのがミッドレンジであり、1日目の突破には苦しんだものの、上位に多くのプレイヤーを送り込みました。特にジャンドミッドレンジの躍進は目覚ましいものがあります。使用者の3/4名がプロツアーの権利獲得したことから、もっとも成功したアーキタイプといっていいでしょう。
2日目のフィールドに求められていたのは、テンポとミッドレンジという相反するデッキの攻略です。ここで上位18デッキのミッドレンジの内訳をみると、白単以外はグリクシス、ジャンド、リアニメイトパッケージ入りのラクドスとグリクシスとなります。これらに共通するのはスタンダードを代表する1枚、《鏡割りの寓話》。攻防の起点となり、不要牌を入れ替えてくれるこの万能英雄譚は複雑化したメタゲーム攻略の鍵だったのです。
それでは大会結果をみていきましょう。
チャンピオンズカップファイナル サイクル2
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | 佐藤 レイ | セレズニアポイズン |
準優勝 | セゴウ ケンジ | エスパーレジェンズ |
トップ4 | 小澤 毅 | グリクシスミッドレンジ |
トップ4 | 内藤 圭佑 | 青単テンポ |
トップ8 | 原根 健太 | グリクシスリアニメイト |
トップ8 | 岡村 眞怜 | 白単ミッドレンジ |
トップ8 | 川﨑 弘敬 | 白単ミッドレンジ |
トップ8 | 増門 健太 | ジャンドミッドレンジ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者194名で開催された『チャンピオンズカップファイナル サイクル2』はセレズニアポイズンを使用した佐藤 レイ選手が優勝しました。『ファイレクシア:完全なる統一』でフィーチャーされた「毒性」を前面に押し出したビートダウン戦略であり、見事メタ外からの奇襲が成功しました。
初日を全勝で切り抜けた内藤 圭佑選手が持ち込んだのは《秘密を掘り下げる者》入りの青単テンポ。通常《傲慢なジン》と《トレイリアの恐怖》がフィニッシャーを努めますが、ウミヘビの枠をレガシー級の1マナ域と入れ替えています。ミッドレンジの増加を見越した最序盤からプレッシャーをかけられる構築であり、弱点であった《未認可霊柩車》の効かないクロックです。
墓地にインスタントとソーサリーを貯める必要がなくなったことで軽量ドローを減らし、代わりに《知識の流れ》が4枚採用されています。デッキ全体は軽く構築されていますが、このパワーカードのおかげで対ミッドレンジでもリソースゲームで引けを取りません。
増門 健太選手が使用したのは《気まぐれな厄介者》入りのジャンドミッドレンジ。トリプルシンボルの6マナクリーチャーとスタンダードでは重い部類のカードですが、ランダムとはいえタイプを問わず墓地のカードをコピーするというその重さに見合うだけの効果を持ち合わせています。
打ち消された《鏡割りの寓話》や割られた《勢団の銀行破り》を再利用できますし、事前に唱えたばかりの《絶望招来》をおかわりすることも可能です。マナコスト軽減効果もありますが、特定のカードをコピーできるように墓地が少ないタイミングが狙い目です。
セレズニアポイズン
セレズニアポイズンは「毒性」持ちクリーチャーのみで構築された毒勝ちを狙うビートダウンデッキ。メインボードは一部の土地を除いてすべて『ファイレクシア:完全なる統一』のカードであり、今までにないまったく新しいアーキタイプとなります。
1マナ域から順次クリーチャーを展開し、毒カウンターを蓄積させていきます。デッキ全体が非常に軽く展開力の優れたデッキであり、中盤以降も回避能力を付与する《離反ダニ、スクレルヴ》、戦闘ダメージ以外で毒カウンターを配置する《敬慕される腐敗僧》など工夫がみられます。
ミッドレンジ環境に最適な1マナ域が《這い回る合唱者》と《離反ダニ、スクレルヴ》です。後者はエスパーレジェンズやアゾリウス兵士などにもみれら、キークリーチャーを守る保護役としてお馴染みですが、前者はリミテッドで見かけるくらいでした。
《這い回る合唱者》は見かけに反して非常に厄介なクリーチャーです。そのマナコストにより打ち消されにくく、単体除去に強い仕様です。生成されるトークンがアーティファクトのため、《喉首狙い》で対処できません。つまり、グリクシスやジャンドに採用されている除去で効率よく対処するのが難しいクリーチャーなのです。ミッドレンジ側はクリーチャーを壁として止めることも可能ですが、《別館の歩哨》を考えると万全とはいえません。
デッキ全体が軽く、カードパワーに不安があるかもしれませんが、ご安心ください。白き《苦花》こと《スクレルヴの巣》が圧倒的なダメージレースを可能にしてくれます。クリーチャーの少ないミッドレンジ相手には、これ1枚で着々と毒カウンターを貯められますし、「堕落」を達成すれば絆魂が付与されるためアグロマッチでも引けを取りません。「堕落」の達成いかんによって戦況が変化するため、クリーチャーを複数展開できる場合はそちらを優先し、「堕落」後に悠々と《スクレルヴの巣》を設置しましょう。
また、小粒なクリーチャーをバックアップするカードが多数採用されています。《殺戮の歌い手》と《種子中枢》は限定的にクリーチャーを強化してくれます。環境のミッドレンジ側のクリーチャーサイズが3/3程度のため、《種子中枢》は1枚で自在に戦闘を支配できます。
軽さに反して大きな効果を持つのが《タイヴァーの抵抗》です。《タミヨウの保管》と同じく1マナで除去や戦闘ダメージからクリーチャーを守る保護カードですが、おまけでバフ効果までついています。《別館の歩哨》を単体除去から守ったり、《ふくれた汚染者》と組み合わせて戦闘ダメージによる勝利も狙えます。
デッキ全体が軽く、かなりテンポに寄せた構築ですが、《スクレルヴの巣》や《ミレックス》のおかげで中盤以降も攻め手が尽きません。数で押してくるためブロッカーが間に合わず、かといって毒戦略のため正面切ってダメージレースもしにくくなっています。セレズニアポイズンが増えるようなら《一時的封鎖》や《兄弟仲の終焉》などの全体除去が必要になりそうです。
グリクシスリアニメイト
名だたるプロプレイヤーたちが持ち込んだのが《偉大なる統一者、アトラクサ》デッキのアッパーバージョン、グリクシスリアニメイトです。ボードコントロールの優れたグリクシスミッドレンジをベースにして《絶望招来》の代わりに《ギックスの残虐》+《偉大なる統一者、アトラクサ》のエンジンを加えた構築となります。リアニメイトやミッドレンジマッチを意識して打ち消し呪文を加えられています。
ラクドスカラーのリアニメイトではボード以外への干渉手段が《強迫》しかなく、トップデッキに対応できない状況がありました。序盤の隙を埋め、先手の《ギックスの残虐》や《絶望招来》へ対抗するために3種類の打ち消し呪文が採用されています。パワーカード以外では中盤の軸となる《鏡割りの寓話》まで対応できる《否認》が優先されています。
一般的なアトラクサデッキは《ヴェールのリリアナ》や《大勝ち》で《偉大なる統一者、アトラクサ》を墓地へと落とし、《ギックスの残虐》で釣り上げる戦略をメインに据えていました。それゆえに《未認可霊柩車》などで対策されると脆く、宝物トークンで無理矢理白と青マナの捻出を目指すしかありませんでした。
一部の墓地へ《偉大なる統一者、アトラクサ》を捨てるカードを排除し、マナベースに手を加えたことこそがこのデッキの強みとなります。リアニメイトプランにはやや不安がありますが、《ギックスの残虐》に頼らず、マナを支払って手札から《偉大なる統一者、アトラクサ》をプレイ可能となっています。
赤単アグロ
トップ8に入賞こそなかったものの、プロツアー圏内に当たる18位以内には3名を送り込むことに成功した赤単アグロ。しかも構築は三者三様であり、ここでは《機械化戦》をフィーチャーした佐藤 文昭選手の構築を取り上げます。
従来の赤単アグロ同様に1マナ域から綺麗なマナカーブを描いていき、展開を火力でサポートしていく速攻戦略です。特徴としてはデッキ全体の軽さがあげられます。《怪しげな統治者、スクイー》や《轟く雷獣》といったプレッシャーの高いクリーチャーを排除し、デッキ全体のダメージを増強する《機械化戦》へと変更されています。
《機械化戦》は赤い《婚礼の祭典》というべきカードで、ボード上のクリーチャーのパワーを増強してくれます。クリーチャー展開後に設置し、一気に打点をアップする軽い構築にフィットしたエンチャントです。しかも打点が上がるのはクリーチャーに限りません。火力呪文や《反逆の先導者、チャンドラ》の[+1]効果も増幅されます。たとえボードを捌かれてしまったとしても、プレイヤーへの直接火力によりライフを削りきることが可能なのです。
《機械化戦》と相性の良い火力が《祭典壊し》。このエンチャントが設置されていれば、プレイヤーとプレインズウォーカーのみならず、各クリーチャーへのダメージも1点プラスされるため、ミラーマッチやアゾリウス兵士のような戦線を横に広げる相手に対して効果的です。展開で出遅れたり、不利な状況をまくるコンボとなります。
おわりに
今回は『チャンピオンズカップファイナル サイクル2』で活躍したデッキをお届けしました。数の上では多色ミッドレンジばかりに目がいきがちですが、現在のスタンダードはさまざまなデッキに溢れています。その証拠に、プロツアーの権利を獲得したアーキタイプは全部で9つに上りました。一部共通点はありますが、決してグリクシスミッドレンジ一強環境ではないのです。
それでは次回の情報局でお会いしましょう!