はじめに
みなさんこんにちは。富澤です。
『プロツアー・機械兵団の進軍』ご覧になられましたか?トッププレイヤーたちが選りすぐりのデッキを持ちより、栄光を目指してリミテッドとスタンダートで雌雄を決する3日間でした。
- 2023/05/06
- 『プロツアー・機械兵団の進軍』カバレージ
- 晴れる屋メディアチーム
公式によるカバレージや大会配信に加えて、晴れる屋でも大会ページを作成しています。ぜひ、ご一読ください。
今回は終了したばかりの『プロツアー・機械兵団の進軍』の大会結果を振り返っていきます。
先週末の注目トピックは?
『プロツアー・機械兵団の進軍』にはいくつもの新しいデッキが持ち込まれました。なかでもラクドスカラーのデッキは使用者数、戦績とも抜きんでていたといえます。
ラクドスの差別化
今大会のラクドスは大まかに3パターンに分類できます。主流であるミッドレンジ、《ギックスの残虐》パッケージを採用したリアニメイト、そして新しく登場した《多元宇宙の突破》を使ったブリーチタイプです。リアニメイトとブリーチは”スケールの大きさ”(※)を利用した戦略であり、ミッドレンジに対して有利なデッキとなります。
(※編集者注:「スケール」とはマナ総量をさし、「スケールが大きい」とは相手よりもマナ総量が上のカードを使い、それによって生じるカードパワーの差を利用して優位に立つこと)
《ギックスの残虐》+大型クリーチャーのリアニメイトパッケージはグリクシスリアニメイトでも採用されており、見覚えある方も多いはずです。墓地へ落とした《原初の征服者、エターリ》や《偉大なる統一者、アトラクサ》を高速召喚し、戦場や手札でアドバンテージを得て相手のリソース切れによる決着を狙います。
《多元宇宙の突破》は《ギックスの残虐》と近い効果ですが、「切削」付きのため墓地が空の状態からでもリアニメイトが可能です。「切削」からリアニメイトまでが一連の効果であるため《未認可霊柩車》などの墓地対策を挟むタイミングもありません。7マナと重いものの《大勝ち》とセットで運用することで奇襲性を高めています。
ミッドレンジに狙いを定めて
ラクドスを選択したプレイヤーがミラーマッチを見越していたのように、ほかのデッキもミッドレンジの増加を予見していました。マナ加速+高コストカードや対処手段の異なる多角的な攻め手を利用して、対ミッドレンジ戦を優位に進めようとしていたのです。
5色ランプはマナ加速から高コストカードへと繋げていく戦略であり、スケールの大きさを利用した典型的なデッキです。最速5ターン目に着地する《偉大なる統一者、アトラクサ》や《原初の征服者、エターリ》はボードを制圧するに十分すぎるほどのパワーがありながら、リアニメイトと違って墓地対策の影響を受けない点は明確なメリットといえます。
オルゾフミッドレンジは白単やボロスミッドレンジをベースに構築されており、戦術的には差はありません。ターゲットにしていたのはグリクシスやラクドスといった単体除去が多く、横並びを苦手とするミッドレンジです。これまで同様にパーマネント・カードによるボード構築が主眼におかれています。
こちらにも《多元宇宙の突破》の姿がありますが、対ミッドレンジよりは5色ランプやリアニメイトを意識しての採用です。苦手としていた《偉大なる統一者、アトラクサ》や《原初の征服者、エターリ》への最高のカウンターカードとして機能します。
プロツアーでは多くのデッキがミッドレンジマッチを意識し、構築に工夫を凝らしていたようです。それでは大会結果をみていきましょう。
『プロツアー・機械兵団の進軍』
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | ネイサン・ストイア | ラクドスミッドレンジ |
準優勝 | ケイン・リアンハルト | ラクドスブリーチ |
トップ4 | オータム・バーチェット | オルゾフミッドレンジ |
トップ4 | デイヴィッド・オルセン | 5色ランプ |
トップ8 | ハビエル・ドミンゲス | ラクドスミッドレンジ |
トップ8 | カール・サラップ | ラクドスミッドレンジ |
トップ8 | サイモン・ニールセン | ラクドスミッドレンジ |
トップ8 | イーウェン・チェン | アゾリウス兵士 |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者252名で開催された『プロツアー・機械兵団の進軍』は現世界王者であるネイサン・ストイア/Nathan Steuer選手が優勝しました。ネイサン選手が使用したラクドスミッドレンジはTeam Handshake製のものであり、合計4名のプレイヤーをトップ8へ送り込む大きな戦果をあげました。
メタゲーム
メタゲームをみるに1日目、2日目ともに上位にミッドレンジがかたまっており、リアニメイトやランプ、白単が想定していた通りのメタゲームとなっていたことがわかります。
トップ8デッキリストはこちら。
3種のラクドス詰め合わせ
今回のプロツアーではミッドレンジ、リアニメイト、ブリーチと3種類のラクドスが活躍していたわけですが、構築に共通点があります。《税血の収穫者》と《喉首狙い》《絶望招来》《勢団の銀行破り》《鏡割りの寓話》は枚数に差こそあれ、どのデッキにも採用されています。ラクドス戦略のベースにはボードを捌くこと、リソースを伸ばすことの2点におかれているのです。
どのデッキもゲームスピードに大差なく、中速デッキに分類されます。変化が現れるのは4ターン目の以降の脅威とフィニッシャーの選択です。今回はその点を比較しながらみていきます。
ラクドスミッドレンジ
ラクドスミッドレンジは、単体除去や火力でボードを平らにしていく捌きに重きをおいたアーキタイプ。2マナ以下の軽量インスタントを多用しており、テンポ良く対処しながら《税血の収穫者》や《鏡割りの寓話》へ繋げてボードを切り返していきます。特定のカードに依存していないため構築の自由度が高く、メタゲームに合わせたカードチョイスが可能です。
4枚の《勢団の銀行破り》が特徴的な構築であり、積極的にドローを進めながら2マナ除去でボードを処理していきます。《切り崩し》も3枚とやや多めに採用されており、奇数ターンにボード処理とドローを同時におこなえるようになっています。
以前の構築と変わらず、4枚採用された《絶望招来》がフィニッシャーを務めます。単体でも十分なカードパワーがあり、《希望の標、チャンドラ》と織りなすコンビネーションはオーバーキル感さえ漂います。
Team Handshakeの面々は《絶望招来》と《希望の標、チャンドラ》に追加で、もう1枚ライフを攻めるカードを採用しています。《夜を照らす》は《希望の標、チャンドラ》と相性が良く、常在型能力でコピーすれば軽く二桁のダメージを叩き出します。クリーチャー以外のダメージソースを増やしたことにより、スケールで劣るデッキ相手にもライフを削りきる手段を得たのです。
ラクドスブリーチ
ラクドスブリーチは、ラクドスミッドレンジに《多元宇宙の突破》とマナ加速用の《大勝ち》パッケージを採用した構築です。ミッドレンジマッチをスケールを利用して有利に運ぶための工夫であり、ランダム性はあるものの1枚で複数の脅威を並べることができます。《喉首狙い》や《絶望招来》の枚数を減らしてスペースが捻出されています。
《多元宇宙の突破》は7マナとマナコストはやや重いものの、それに見合うだけの効果を持ち合わせています。ラクドスやグリクシスはもちろんのこと、リアニメイトやランプ、ボロスミッドレンジといった《原初の征服者、エターリ》や《偉大なる統一者、アトラクサ》を採用したデッキに効果があります。
プレインズウォーカーも対象にできるため、《希望の標、チャンドラ》の流行は追い風といえます。相手が重いクリーチャーやプレインズウォーカーを採用していればいるほど効果が高くなるカードです。
ラクドスリアニメイト
ラクドスリアニメイトは《ギックスの残虐》+大型クリーチャーによる奇襲性を高めた構築です。釣る対象には《原初の征服者、エターリ》と《偉大なる統一者、アトラクサ》が採用されていますが、前者は宝物トークンを経由せずに手札からプレイできる点で優れています。
リアニメイト戦略では珍しく《絶望招来》が採用されたハイブリット構築になっています。中盤を支えるために《ファイレクシアの肉体喰らい》や《燃え立つ空、軋賜》が採用されており、《ギックスの残虐》に頼らないミッドレンジプランも選択できるだけのダメージソースがそろっています。
リアニメイト戦略には下準備が必要不可欠であり、《税血の収穫者》や《鏡割りの寓話》《巨竜戦争》の捨てる効果を利用します。
下準備を終えたら《ギックスの残虐》の出番。墓地から《原初の征服者、エターリ》や《偉大なる統一者、アトラクサ》を釣りあげ、圧倒的なアドバンテージとカードパワーでもってボードを制圧します。この2種と比べるとややパンチに欠けますが、《ファイレクシアの肉体喰らい》もダメージレースでは頼もしい存在であり、リアニメイトに値するクリーチャーです。
リアニメイトと聞くと一発屋的な印象を受けますが、このデッキはサブプランに当たるミッドレンジプランも充実しています。《ファイレクシアの肉体喰らい》は「試作」により3マナ域としてプレイでき、ダメージレースを牽引してくれます。
《燃え立つ空、軋賜》はラクドスやグリクシスに有効な飛行のクロックであり、死亡時に宝物トークンか衝動ドローのおまけがついています。宝物トークンを生成しておけば、墓地を経由せずに《偉大なる統一者、アトラクサ》をプレイできる点を覚えておきましょう。
5色ランプ
5色ランプは《装飾庭園を踏み歩くもの》と《ゼンディカーへの侵攻》から土地を増やし、早期に高マナ域へと到達することを目指すデッキです。有り余るマナから《偉大なる統一者、アトラクサ》や《原初の征服者、エターリ》をプレイし、そのカードパワーでもって決着を狙います。
《ゼンディカーへの侵攻》はランプ戦略が求めていたカードです。4マナと決して軽くないマナコストですが2マナ加速とリターンが大きく、《装飾庭園を踏み歩くもの》に続いてプレイできれば5ターン目に《偉大なる統一者、アトラクサ》まで届きます。
ただのマナ加速ではなく基本土地をサーチできるため、戦場に3種類の基本土地タイプがあれば、これ1枚で「版図」の恩恵を最大限受けられるようになるのです。
序盤のボードコントロールには《骨化》と《力線の束縛》が採用されており、《群れの渡り》を絡めて基本土地タイプをそろえながら延命を図ります。土地が5~7枚まで伸びればいよいよ5色ランプの時間。多少不利なボードでも《太陽降下》や《怒りの大天使》を使い切り返していきます。
《太陽降下》はよくあるセットの特色にそった全体除去ですが、なぜか「培養」のおまけ付き。リセット後は一転して攻めてに回れる仕様となっています。破壊ではなく追放であるため《死体鑑定士》や《墓地の侵入者》を気にせずにプレイできます。
アゾリウス兵士
アゾリウス兵士は1マナ域からクリーチャーを展開し続ける由緒正しき白系アグロ。《徴兵士官》や《毅然たる援軍》から始まる軽量ビートダウンを《雄々しい古参兵》や《先兵の飛行士、ハービン》でバックアップしていきます。《徴兵士官》《天空射の士官》のおかげで中盤以降も手札が途切れる心配はありません。
軽いカードでまとめられたテンポ面に特化した構築であり、メインボードで3マナ以上のカードは《天空射の士官》と《放浪皇》のみとなっています。軽さによるパワー不足が気になりますが、単体のカードパワー不足をデッキ全体のシナジーにより補っています。
軽いクリーチャーを展開しライフを攻めていきますが、単体のスペックではほかのミッドレンジ劣ります。このデッキでは横に並べたクリーチャーを補助するカードが必要になります。
《雄々しい古参兵》は横に並んだ小粒の兵士をまとめて強化し、一気に打点を伸ばします。起動型能力により除去された際の打点の低下もケアしています。《先兵の飛行士、ハービン》は条件は厳しいものの、飛行まで付与してくれるフィニッシャー。仮に頭数がそろわなくても自身が飛行をもっており、単体でクロックとして機能します。
《天空射の士官》は《徴兵士官》と並ぶリソース補充役であり、このデッキでは毎ターン追加ドローを見込めます。デッキ全体が軽く構築されているため相性が良く、引いたばかりの兵士を展開することでさらなるドローが可能です。
打ち消し呪文とセットで採用されている妨害カードが《ゴバカーンへの侵攻》。「バトル」を「変身」させるには守備カウンターを減らす必要がありますが、このデッキは飛行クリーチャーや《離反ダニ、スクレルヴ》などダメージを通す手段が多く、噛み合っています。
表面の《ゴバカーンへの侵攻》は《精鋭呪文縛り》に似た妨害効果であり、全体除去をはじめ《黙示録、シェオルドレッド》や《燃え立つ空、軋賜》など厄介なクリーチャーを対処してくれます。手札を確認できるためその後のプラン構築にも役立ちます。
裏面の《光盾の陣列》へ「変身」すれば《雄々しい古参兵》もびっくりなバフカードに。攻撃するたびに+1/+1カウンターが配置されるため、ダメージレースで負けることはほとんどありません。生贄に捧げることで1ターン限定で呪禁と破壊不能を得られるため、保護カードとしても優秀です。ただし、万能ではなくサイズが上がる前の《ぎらつく氾濫》《太陽降下》や《告別》などの追放には注意しましょう。
そのほかの大会結果
5/6(土):Standard Challenge
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Arianne | ラクドスブリーチ |
準優勝 | tarkanmag | グリクシスミッドレンジ |
トップ4 | bless_von | ラクドスブリーチ |
トップ4 | medvedev | 赤単アグロ |
トップ8 | Promidnightz | ラクドスブリーチ |
トップ8 | Graciasportanto | ラクドスブリーチ |
トップ8 | milikin | 青単テンポ |
トップ8 | _against_ | 赤単アグロ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
5/6(土)に開催された『Standard Challenge』はラクドスブリーチが制しています。トップ8には《ファルケンラスの闘技士》と《タルキールへの侵攻》が特徴的な赤単が2名入賞しています。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
ラクドスブリーチ | 11 | 6 |
ラクドスミッドレンジ | 4 | 1 |
エスパーレジェンズ | 3 | 3 |
グリクシスミッドレンジ | 3 | 2 |
赤単アグロ | 3 | 2 |
白単ミッドレンジ | 2 | 0 |
その他 | 6 | 2 |
合計 | 32 | 16 |
プロツアー効果は不明ですが、ミッドレンジを狙ったラクドスブリーチが大量発生しています。
トップ8デッキリストはこちら。
5/7(日):Standard Challenge
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Kritik | 5色ランプ |
準優勝 | Mah_Quintanilha | エスパーレジェンズ |
トップ4 | beraldi | ラクドスブリーチ |
トップ4 | Bullwinkkle6705 | ラクドスミッドレンジ |
トップ8 | malekz | ラクドスブリーチ |
トップ8 | duduzin | ラクドスミッドレンジ |
トップ8 | Folero | オルゾフミッドレンジ |
トップ8 | Clockwork Dean | ラクドスブリーチ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
5/7(日)に開催された『Standard Challenge』は5色ランプが優勝を飾りました。前日のメタゲームからランプデッキ有利なフィールドと読んでの選択です。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
5色ランプ | 8 | 2 |
ラクドスミッドレンジ | 6 | 4 |
ラクドスブリーチ | 6 | 4 |
グリクシスミッドレンジ | 4 | 2 |
オルゾフミッドレンジ | 3 | 2 |
その他 | 5 | 2 |
合計 | 32 | 16 |
前日の結果を受けてラクドスブリーチ、ミッドレンジを狙った5色ランプが大量発生。しかし、トップ16以上に進んだのはわずか2名のみとなっています。
トップ8デッキリストはこちら。
5/7(日):Standard Qualifier
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Talisker | ラクドスブリーチ |
準優勝 | duduzin | ラクドスミッドレンジ |
トップ4 | Fink64 | アゾリウス兵士 |
トップ4 | trukanshii | ラクドスブリーチ |
トップ8 | canepis16 | グリクシスミッドレンジ |
トップ8 | otakkun | エスパーレジェンズ |
トップ8 | solomonwolf | ラクドスブリーチ |
トップ8 | MarioBBrega | 5色ランプ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
5/7(日)に開催された『Standard Qualifier』はラクドスブリーチを使用したTalisker選手が制しています。《税血の収穫者》の代わりに《兄弟仲の終焉》を採用しており、兵士や赤単などのアグロを意識したボードコントロール力高めの構築となっています。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ16 | トップ8 |
---|---|---|
ラクドスブリーチ | 4 | 3 |
アゾリウス兵士 | 3 | 1 |
グリクシスミッドレンジ | 3 | 1 |
ラクドスミッドレンジ | 2 | 1 |
5色ランプ | 2 | 1 |
その他 | 2 | 1 |
合計 | 16 | 8 |
トップ8デッキリストはこちら。
おわりに
今回は『プロツアー・機械兵団の進軍』の振り返りと題して、好成績を残したデッキをお届けしてきました。ラクドスは複数の構築で入賞しており、今後どのような変遷をたどるのか気になるところです。願わくば三者三様であり続けてほしいものです。
下記のページでは、本稿で紹介した以外にも優秀な成績を残したデッキを紹介しています。ぜひご覧ください。
- 2023/05/06
- 『プロツアー・機械兵団の進軍』カバレージ
- 晴れる屋メディアチーム
再来週末には『第23期スタンダード神挑戦者決定戦』の開催が控えています。しばらくの間はスタンダードの最前線から目が離せませんね。
次回もスタンダートの情報をお届けしたいと思います。それではまた。