はじめに
『指輪物語:中つ国の伝承』よりモダンへと産み落とされた秘宝《一つの指輪》。色を問わずどんなデッキや戦略にもフィットする伝説のアーティファクトはほんの少しのライフを犠牲に、多大なカードアドバンテージをもたらす。しかもアドバンテージを稼ぐために生じる隙を、本来であればアグロ戦略が刺し込む瞬間も、プロテクションが無効化している。
守りも完備されたカードアドバンテージエンジンは発売間もなく、モダンのフィールドを席巻した。一時はラクドス想起という対抗馬の出現により数を減らすも、『プロツアー・指輪物語』ではたびたび配信へと写り、このアーティファクトが世界大会をジャックしかけているかのようだった。
現在のモダンのメタゲームは指輪とともにある。「指輪 vs. 指輪」「指輪 vs. アンチ指輪」が織りなす永劫の輪廻に答えはあるのだろうか。ここでは数多の選択肢の中から最良の指輪デッキを探していく。
採用枚数
今回のプロツアーで採用されていた《一つの指輪》の総枚数は450枚にのぼり、内415枚がメインボードに採用されていた。これはデッキ単位でみた場合120個に該当し、プロツアーへ持ち込まれたデッキの内の約44%にあたる。「オーコの冬」と呼ばれたミシックチャンピオンシップ・リッチモンド19には及ばないものの、そこかしこで繰り広げられた《一つの指輪》デッキ同士のマッチアップを見るにいたり、「プロツアー《一つの指輪》」と呼んでも過言ではないだろう。
事前のMOの大会結果から《一つの指輪》はありとあらゆるデッキに採用され、一時は多様性を尊ぶモダンを指輪一色へと染め上げてしまった。4色オムナスにはじまり緑単トロン、 各種コントロールがこぞって採用するにいたり、爆発的に広まっていった。色特性上アドバンテージ獲得手段に長けている青ですら、自前のカードに頼るよりもこのアーティファクトを選択したほどだったのだ。
注目のデッキリスト
では、今大会では《一つの指輪》はどんなデッキに採用されていたのか。具体的に見てみよう。
緑単トロン
ハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezとサイモン・ニールセン/Simon Nielsenが2大会連続でトップ8入りし、名実ともに世界最強チームであることを証明してみせたTeam Handshake。今大会、彼らが持ち込み台風の目となったのが緑単トロンであった。
通常のトロンよりもウルザ地形を揃えるためのサーチ手段やキャントリップを減らし、代名詞であった《解放された者、カーン》も霞み程度しか採用されていない。本来高マナ域のプレインズウォーカーであったゴールは別のカードへと置き換えらえている。
ウルザ地形に依存したランプ戦略からの脱却こそが彼らのトロンの意図であり、結果的にマナ加速を内包したコントロールデッキのように立ち回れる。新たなゴールは《大いなる創造者、カーン》と、《一つの指輪》である。
《一つの指輪》はドローを進めて特定のカード同士を結びつける潤滑油の意味合いが強かったはずだが、デッキがスリム化したことで無尽蔵に脅威を供給し続けるアドバンテージエンジンへと変貌した。《一つの指輪》はハブを挟まずに《忘却石》や《ワームとぐろエンジン》と、さまざまな脅威を届けてくれる。もちろんその過程でウルザ地形が揃えば、爆発的なマナ加速により複数行動が可能となる。
このデッキにおける《一つの指輪》はリソース補充よりもゴールとしての意味合いが強く、このカードを軸にしてウルザ地形や《大いなる創造者、カーン》《ワームとぐろエンジン》へと繋ぐ波状攻撃へと繋げる。
4色オムナス
最初に《一つの指輪》デッキとして世に出たのが4色オムナスだ。《喜ぶハーフリング》に守られた《時を解す者、テフェリー》でゲームを強制的にコントロールし、相手の行動に制限をかけながら《創造の座、オムナス》や《復活した精霊信者、ニッサ》でリソースを伸ばしていく。「想起」クリーチャーに《力線の束縛》《虹色の終焉》とボードコントロール要素は厚く、平場では隙がない。
ボードコントロール要素はあるものの、対ラクドス想起では《悲嘆》や《思考囲い》がそれを許さない。手札破壊の後では自身の「想起」コストも重くのしかかり、盤面へ強烈なクロックを突きつけられてしまいがちだが、そこで役に立つのが《一つの指輪》だ。
失った手札をリカバリーして4色オムナスを本来の土俵へと引き戻してくれるのがこのデッキにおける指輪の役割だ。「想起」コストを補充しながら、マナとライフを供給する《創造の座、オムナス》という最高のパートナーが待ち構えている。
その他
ほかにはアミュレットタイタンやスケープシフトといったドローソースの薄い土地コンボ、《湖に潜む者、エムリー》との相性に目をつけたジェスカイブリーチやソプターコンボ、防御的な黒単コントロール、多色コントロールといったデッキに採用されていた。
- 2023/7/30
- モダン 成績優秀デッキリスト
- 晴れる屋メディアチーム
アンチ指輪
このように多くのデッキに採用されていた《一つの指輪》だが、対抗策はないのだろうか。《一つの指輪》の隆盛を見込み、強豪たちはどんなデッキやカードを選択したのか見ていこう。
未然に防ぐ
《思考囲い》や《否定の力》に代表される手札破壊と打ち消し呪文。ボード以外の領域へ干渉する呪文は高コストカードに対する有効札となる。だが、ここから一歩進めた選択肢があった。
カスケードクラッシュのサイドボードにみられる《徴用》は《一つの指輪》に対する最高の解答である。本来相手が得るはずだったプロテクションを無効化することでライフをつめ、代替コストで失ったリソースを速やかに回収してくれる。用途は狭いものの、ハマればダメ押しとなる1枚だ。
機能停止
緑単トロンの定番プレインズウォーカーといえば《大いなる創造者、カーン》だ。手札のごとくサイドボードからカードを手繰り寄せるアドバンテージ能力、《液鋼の塗膜》とのロックなど魅力たっぷりであるが、忘れてはならないのがその常在型能力。
「対戦相手がコントロールしているアーティファクトの起動型能力は起動できない」とあり、端的にいえば相手のみ《無のロッド》状態。《一つの指輪》は機能停止せざるを得ず、その上に置かれたカウンターはまさに重荷としてのかかってくる。相手の手を止めつつ自身はサイドボードカードを手にできる攻防一体のカードであり、指輪ゲーに対する最高の解答でもあるのだ。
地味ではあるが起動型能力を封じる《真髄の針》も同じように機能する。
リスクを取らせる
とはいってもドローの巡り合わせによっては、干渉手段をかいくぐって《一つの指輪》が着地してしまうこともある。《大いなる創造者、カーン》があればいいものの採用できるのは限られたデッキであり、損を承知で《力線の束縛》や《虹色の終焉》をプレイするしかないのだろうか。
直接的な対処手段ではないが、ドローに制約を課すのはどうだろう。《オークの弓使い》と《黙示録、シェオルドレッド》は《一つの指輪》のドロー自体に制限をかけ、真綿で首を締めるがごとくライフを詰めていく。アップキープの誘発型能力と合わせれば、流す血の量は決して無視できるものではない。
プレイバック
最後に今大会における指輪デッキの対戦をお届けしよう。《一つの指輪》がもたらすカードアドバンテージ、繋いだターン、そのリスクが一目でわかるようになっている。