スタンダード情報局 vol.130 -『機械兵団の進軍』期のスタンダード総括-

富澤 洋平

はじめに

みなさん、こんにちは。富澤です。

早いもので新セットの足音が聞こえる時期となりました。8月16日より9月に発売される『エルドレインの森』のプレビューがはじまります。毎日公開される新カードが楽しみですね。

気持ちはすでに『エルドレインの森』へと旅立ちつつありますが、しばしお待ちを。もう少しだけ現スタンダードにお付き合いください。今回は『機械兵団の進軍』期のスタンダード総括をお届けします。

『機械兵団の進軍』期の振り返り

『機械兵団の進軍』期のスタンダードは禁止改定があり、その前後で環境が大きく変化しました。

禁止前

鏡割りの寓話キキジキの鏡像

禁止改定前は、スタンダードのベストカードと言われ続けてきた《鏡割りの寓話》中心の環境。最良の使用法を求めて、日夜研究がなされました。

特にラクドス、グリクシスの両ミッドレンジは、登場初期から《鏡割りの寓話》とともに環境を牽引し続けたデッキでした。《鏡割りの寓話》は攻防の起点となり、相手に合わせて手札を入れ替え、さらにはフィニッシャーまでこなします。単体のカードパワー、汎用性の高さは群を抜いており、この英雄譚を使用したいがために赤を足したデッキもあったほど。

勢団の銀行破り絶望招来

同じく後に禁止カードに指定された《勢団の銀行破り》《絶望招来》と組み合わせることで、ラクドスとグリクシスの両ミッドレンジは最強の名を欲しいままに環境を独走しました。

スレイベンの守護者、サリア婚礼の発表

ミッドレンジを攻略すべくテンポに寄せたり、《婚礼の発表》によるボード構築戦略が対抗馬となりましたが、最後までミッドレンジの牙城が崩れることはありませんでした。

禁止後

鏡割りの寓話勢団の銀行破り絶望招来

しかし、ラクドスの栄華は唐突に終焉を迎えます。5月29日付けの告知で3枚のカードが禁止指定されたのです。ラクドスベースのミッドレンジはその屋台骨であった英雄譚、ドローソース、処理能力の高いフィニッシャーを失ったことで瓦解。一転してスタンダードは群雄割拠の時代となります。

僧院の速槍策謀の予見者、ラフィーン太陽降下

禁止改定後の環境はテンポデッキと2色ミッドレンジ、少量のコントロールを中心にスタート。禁止カードによって抑圧されていたカードがメインボードへ採用され始めます。特に《絶望招来》が去ったことで、今まで敬遠されていた5マナ以上のプレインズウォーカーの採用が目立つようになります。

永遠の放浪者時間の旅人、テフェリーヴェールのリリアナ裏切りの棘、ヴラスカ
漆月魁渡不笑のソリン放浪皇レンと七番

プレインズウォーカーが定着しやすくなったことで、ミッドレンジとコントロールにはさまざまな選択肢が生まれます。環境にこれほどたくさんのプレインズウォーカーがいたのかと驚かれたのではないでしょうか。

黙示録、シェオルドレッド喉首狙いヴェールのリリアナ

アグロ・ミッドレンジ・コントロールとメタゲームが回る中で、黒単ミッドレンジが一歩抜け出します。《絶望招来》を失ってなおデッキパワーを保ち、《ヴェールのリリアナ》の援護もあって、あらゆるゲームレンジに対応可能です。

神聖なる憑依偉大なる統一者、アトラクサ放浪皇かき消し

現行のスタンダードは、対黒単ミッドレンジ勢力が火花を散らす環境となっています。単体除去に強い「セレズニアエンチャント」やスケールを活かした「ランプ」、防御に寄せた「エスパーコントロール」と、ギアを入れ替えて青をタッチした「ディミーアミッドレンジ」がしのぎを削ります。包囲網が狭まりつつあるなかで、黒単ミッドレンジは打ち消し呪文に活路を見出し、《かき消し》などを手に入れることでディミーアミッドレンジへと姿を変えていたのです。

続いては代表的なデッキを振り返っていきましょう。

代表的なデッキ紹介

環境初期

『機械兵団の進軍』リリース直後はグリクシスミッドレンジをトップに、エスパーレジェンズと白系コントロールが追うかたちでメタゲームが形成されました。既存のデッキに変化は少なかったものの、《原初の征服者、エターリ》《碑出告と開璃》をフィーチャーしたデッキが登場しました。

グリクシスミッドレンジ

鏡割りの寓話死体鑑定士かき消し

グリクシスミッドレンジは単体除去や火力、打ち消し呪文でボードを平らにしていく「捌き」に重きをおいたアーキタイプです。相手の脅威をテンポよく捌き、《鏡割りの寓話》《死体鑑定士》でゲームの主導権を握ります。特定のカードに依存していないため構築の自由度が高く、メタゲームに合わせたカードチョイスが可能です。

エスパーレジェンズ

離反ダニ、スクレルヴスレイベンの守護者、サリア策謀の予見者、ラフィーン

エスパーレジェンズはエスパーミッドレンジの中でもクリーチャーに寄せており、伝説クリーチャーを多用することで「魂力」土地などの恩恵を受けられるように構築されています。また《英雄の公有地》+ファストランドのマナベースにより、3色デッキながら非常に安定した展開を実現しています。《離反ダニ、スクレルヴ》《スレイベンの守護者、サリア》に守られたクリーチャー陣を《策謀の予見者、ラフィーン》で強化するビートダウンデッキです。

新鋭

《原初の征服者、エターリ》は白系ミッドレンジの新たなフィニッシャーとして採用されました。マナコストは重いものの、着地した瞬間にカードとテンポでアドバンテージをもたらす攻撃力の高さが魅力でした。そして《碑出告と開璃》は、比較的早い段階で《爆発的特異性》とのコンボが発見されました。

碑出告と開璃爆発的特異性

《碑出告と開璃》シュートは《碑出告と開璃》《爆発的特異性》をキーカードにしたコンボデッキ。戦場に出たとき効果でライブラリートップへ《爆発的特異性》を積み込み、死亡することで10点+10点の一撃必殺となります。ベースがグリクシスミッドレンジなのでコンボデッキでありながらコントロール力が高く、一直線にコンボを狙うだけでなく、ミッドレンジプランを絡めながら隙を見てコンボを仕掛ける柔軟性を持ち合わせています。

野心的な農場労働者鏡割りの寓話ギラプールの守護者セラの模範

ボロスミッドレンジは《野心的な農場労働者》《鏡割りの寓話》のようなアドバンテージのとれるパーマネントを軸に構築されたデッキです。単体のサイズは小さくとも、1枚で複数のクリーチャー・トークンを生成したり、手札を供給するカードが多いため、単体除去で損をしにくく、時間をかけて強固なボードを築いていきます。パーマネントがデッキの軸であるため、《ギラプールの守護者》《セラの模範》で再利用してアドバンテージを稼ぎ、リソース差による決着を目指します。

『プロツアー・機械兵団の進軍』

プロツアー・ラクドスと読み替えても過言ではないでしょう。トップ8に5つのラクドスカラーのデッキが残り、そのうち4つは同一リストだったのです。グリクシスミッドレンジから青を抜き、序盤の安定性を上げた構築は今大会を制したことで一躍有名になりました。

ラクドスミッドレンジ

ラクドスミッドレンジは、単体除去や火力でボードを平らにしていく捌きに重きをおいたアーキタイプ。2マナ以下の軽量インスタントを多用しており、テンポ良く対処しながら《税血の収穫者》《鏡割りの寓話》へ繋げてボードを切り返していきます。4枚の《勢団の銀行破り》が特徴的な構築であり、積極的にドローを進めながら同時にボードを処理していきます。《切り崩し》も3枚とやや多めに採用されており、奇数ターンにもマナを上手く使えるように構築されています。

大勝ち多元宇宙の突破ギックスの残虐偉大なる統一者、アトラクサ

今大会ではさまざまなラクドスカラーのデッキが見られました。ミッドレンジのほかに《大勝ち》からブーストして《多元宇宙の突破》へとつなぐラクドスブリーチや、《ギックスの残虐》+巨大クリーチャーによるリアニメイト戦略など多種多様なゴールが用意されていたのです。

禁止改定後

《鏡割りの寓話》などを失ったことで既存のミッドレンジ戦略は大きくパワーダウン。単色アグロやエスパーレジェンズは新環境に対応し、スタートダッシュに成功します。その後は、ボードコントロールを得意とする黒単ミッドレンジがアグロを締め出します。

赤単アグロ

赤単アグロは、序盤からクリーチャーでライフを攻めていく攻撃的なアーキタイプ。《僧院の速槍》《フェニックスの雛》などの速攻付きのクリーチャーと直接ダメージ呪文の組み合わせにより、ほかのアグロと比べてもダメージ効率の優れたデッキです。《火遊び》《稲妻の一撃》は除去でありながら、最後の数点のライフを削る役割も持ちます。

僧院の速槍ナヒリの戦争術タルキールへの侵攻

2種類の新火力を携えて舞い戻った赤単アグロ。《ナヒリの戦争術》《黙示録、シェオルドレッド》対策ですが、対象次第ではアドバンテージを取れる火力へと早変わり。ソーサリーであることは残念ですが、自身のバトルを変身させたりと使い道の多いカードです。

エスパーレジェンズ

スレイベンの守護者、サリア侵攻の伝令、ローナ策謀の予見者、ラフィーン

エスパーレジェンズは非クリーチャー呪文を極力採用せず、代わりにデッキの大半が伝説のクリーチャーで構成されたデッキです。3色かつ初動の早いデッキですが、《英雄の公有地》とファストランドのおかげで序盤から安定した展開が可能です。《スレイベンの守護者、サリア》で相手の呪文をワンテンポ遅らせ、自身はシステムクリーチャーと「魂力」土地を使うことでゲームを有利に進めていきます。

黒単ミッドレンジ

しつこい負け犬黙示録、シェオルドレッドヴェールのリリアナ

黒単ミッドレンジは単体除去で脅威へ対処し、同時にスタッツの優れたクリーチャーを使うことでボードの制圧を目指す中速デッキ。《進化した潜伏工作員》《しつこい負け犬》は序盤のマナカーブを埋めながら、中盤以降はアドバンテージ源となる賞味期限の長いカードです。

対コントロールに特化した《ヴェールのリリアナ》、不動のフィニッシャーである《黙示録、シェオルドレッド》パワーカードのオンパレードとなります。

セレズニアエンチャント

樹海の自然主義者神聖なる憑依気前のいい訪問者

セレズニアエンチャントは、エンチャントとシナジーを形成するクリーチャーからなるミッドレンジタイプのデッキ。《樹海の自然主義者》でエンチャント呪文のマナコストを引き下げて速やかに《神聖なる憑依》をプレイし、その後はエンチャントを連打してボードをトークンで埋め尽くします。

リソースを伸ばすものから除去にいたるまで、デッキ内のほとんどがエンチャントでまとめられており、土地以外のどこを引いてもほかのカードとシナジーを形成するように構築されています。1、2マナと軽いカードが多いもののシナジーが強く、粘り強く戦えるデッキです。

エスパーコントロール

黒単ミッドレンジを駆逐せんとセレズニアエンチャントと白系ミッドレンジが増加し過ぎました。ボード以外への干渉手段をもたない両デッキに対し、《告別》を持つ青系コントロールやスケールで攻めるランプは有利な立ち位置となりました。

記憶の氾濫放浪皇

エスパーコントロールは打ち消しと除去呪文で脅威へ対処し、ドロー呪文やプレインズウォーカーでアドバンテージを稼いでいく防御的な戦略です。デッキの大半がインスタント呪文で構築されているため相手の動きに応じた最適解をプレイしやすく、動かなければ《記憶の氾濫》でドローを進めたり、《放浪皇》でトークンを並べるといった風に臨機応変なプレイが可能です。

太陽降下告別

単体除去に加えて《太陽降下》《告別》という2種類の追放型全体除去を採用しています。前者はリセット効果に加えて戦況次第ではフィニッシャーまで得られる優れものであり、後者はセレズニアエンチャントに効果的なカードです。

多色ランプ

原初の征服者、エターリゼンディカーへの侵攻偉大なる統一者、アトラクサ

多色ランプはマナ加速呪文を使って土地を増やし、早期に高コスト呪文へと辿り着くことを目的としています。《装飾庭園を踏み歩くもの》《ゼンディカーへの侵攻》で7マナを目指し、《偉大なる統一者、アトラクサ》《原初の征服者、エターリ》のカードパワーをもって相手を圧倒します。マナコストの差から生まれるカードパワーの差を利用してゲームを進めるため、打ち消し呪文を持たないミッドレンジなどの中速デッキを得意としています。

ディミーアミッドレンジ

ディミーアミッドレンジは黒単ミッドレンジの派生形のデッキであり、苦手としていたランプ戦略などに対応した構築となります。相手の高コスト呪文を打ち消し呪文で対処し、ビートダウンの完遂を目指します。

フェアリーの黒幕かき消し漆月魁渡

軽量クリーチャーから《ヨーグモスの法務官、ギックス》《漆月魁渡》へと展開してアドバンテージを稼いでいく攻撃的なミッドレンジです。3マナ域のアドバンテージエンジンを最大限に活かすべく、1~2マナ域のクリーチャーを展開し、除去や打ち消し呪文を使って攻撃をサポートしていきます。

おわりに

今回は『機械兵団の進軍』期のスタンダード総括をお届けしました。

今期のスタンダードはプロツアーや禁止改定といったイベントが多く、全体的に見ればメタゲームの変化が大きかったシーズンでした。一時は《鏡割りの寓話》などのカードに支配されたかもしれませんが、振り返ってみれば多くの魅力的なデッキに出会えた環境でした。

そして『エルドレインの森』の情報が待ち遠しいですね。次回もスタンダードの情報をお届けしたいと思います。それでは!

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富澤 洋平 晴れる屋メディアチームスタッフです。最近は《黙示録、シェオルドレッド》に夢中な日々です。 富澤 洋平の記事はこちら

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