By Atsushi Ito
スイスラウンド1位: 青赤パイロマンサー
Hareruya Hopes所属、ベルギーのPascal Vierenは兄弟であるPeter Vierenとともに、デッキテクにとられるほどの斬新なデッキを持ち込み、スイスラウンドを無敗で駆け抜けた。それがこの青赤パイロマンサーだ。
記事でも触れられているように、このデッキの最大のポイントは様々な「擬態」にある。知っての通り、モダンにおける青赤コントロールは、《血染めの月》の有無やフィニッシュ手段を何にするかによって、
「ブルームーン (《殴打頭蓋》)」
「マッドキャップムーン (《向こう見ずな実験》+《白金の帝像》)」
「青赤キキジキ (《詐欺師の総督》+《鏡割りのキキジキ》)」
「青赤ブリーチ (《裂け目の突破》+《引き裂かれし永劫、エムラクール》)」
などに細かく分類されるが、そのいずれも既知のデッキであり、モダンに精通したプレイヤーなら対戦していてもある程度サイドプランなどが固まっているマッチアップとなる。
だが、このデッキは「
最も大きな「擬態」は、《血染めの月》が全く入っていないという点だ。《沸騰する小湖》から《島》を2枚並べて《血清の幻視》や《選択》を打つデッキがいたら、普通の人は「メインかサイドからは《血染めの月》が置かれるだろうな」と想像し、なるべく基本地形を優先してフェッチしようとしたり、サイドから《自然の要求》などのエンチャント対策をサイドインしたりする。
だがその実この「青赤パイロマンサー」は《血染めの月》を全く採用していない。それどころか《廃墟の地》を採用しているため、基本地形が少ないデッキが序盤に基本地形を戦場に並べ尽くしてしまうと、《廃墟の地》を起動されたときにサーチする基本地形がなくなってしまうのだ。
また、「擬態」要素は他にもある。何気なく入っている冠雪地形は、明らかに最初の数ターンの間に「ストーム」と誤認させるためのものだ。もちろんターンが経てばすぐ見破られるだろうが、特に相手が2ターン目に《翻弄する魔道士》を出さざるをえない際に《けちな贈り物》などの全く的外れな指定をする可能性が生じるのは、細かいが重要な違いと言えるだろう。
フィニッシャーに《若き紅蓮術士》と《氷の中の存在》の2種類の2マナクリーチャーを選んでいることにより、2つの恩恵が受けられている点も特筆すべきだろう。1点目はどちらも2マナと軽いため、通常の青赤コントロールと比べて土地を22枚と少なめに抑えられている点。
そして2点目はこれらが単体では機能しないコンボパーツと違い、それぞれが対戦相手にとって捌かなければいけない (=リソース交換を強要できる) 脅威であるため、その能力も合わせて《祖先の幻視》の採用を後押ししているという点だ。
2枚とメインから多めに積まれた《焙り焼き》で《死の影》やエルドラージトロン、4/4以上に育った《教区の勇者》に備えている点からも調整を感じる。リストが公開されて「擬態」の威力が半減したとはいえ、スイスラウンドを無敗で通過したポテンシャルは申し分なく、また厄介な青赤コントロールのバリエーションの一つとして今後定着していくことになるだろう。
スイスラウンド2位: ランタンコントロール
4 《コジレックの審問》
3 《思考囲い》
1 《突然の衰微》
4 《発明品の唸り》
4 《ミシュラのガラクタ》
4 《オパールのモックス》
4 《写本裁断機》
4 《洞察のランタン》
2 《伏魔殿のピュクシス》
2 《真髄の針》
1 《黄鉄の呪文爆弾》
1 《墓掘りの檻》
3 《罠の橋》
1 《魔女封じの宝珠》
-呪文(42)-
Hareruya Pros・Luis Salvattoが選択したのはランタンコントロール。それも『カラデシュ』『霊気紛争』を経て誕生したブルーランタンと呼ばれる型だ。
このタイプのメリットはコンボパーツの圧倒的な揃えやすさにある。ランタンコントロールは《洞察のランタン》/《写本裁断機》などのミルカード/《罠の橋》という3種類のパーマネントを戦場に揃えることでハーフロック状態に持ち込むことが基本的な勝利条件となるが、従来の黒緑型では《古きものの活性》と《冥府の教示者》くらいしかサーチカードがなく、《グール呼びの鈴》などのミルカードの枚数も増やし、替えが効かない《洞察のランタン》と《罠の橋》は4枚ずつ搭載することで、墓地から《写本裁断機》や《アカデミーの廃墟》で拾うパターンも含めて3種類が揃う確率を高めていた。
だが《発明品の唸り》は「即席」により実質たったの3マナでそれら3種のパーツ全ての代替となる。これによりハーフロックの成立速度が飛躍的に上がったほか、1枚差しの《墓掘りの檻》と《魔女封じの宝珠》でストームとバーンをメインからメタれるようになったのが非常に大きい。
トップ8進出の要因としては、親和と違って初動の手札破壊で《古えの遺恨》以外のアーティファクト対策はキープされても手札から叩き落すことができるので、親和への意識が強かったであろう今大会では相対的にマークが薄かったものと思われる。また、苦手なトロンをうまくかわし続けた幸運もあったのかもしれない。
スイスラウンド3位: 黒赤ディスカード
1 《沼》
3 《血の墓所》
1 《踏み鳴らされる地》
4 《血染めのぬかるみ》
2 《樹木茂る山麓》
1 《乾燥台地》
1 《沸騰する小湖》
3 《黒割れの崖》
-土地(18)- 4 《炎刃の達人》
4 《恐血鬼》
4 《炎跡のフェニックス》
4 《通りの悪霊》
4 《虚ろな者》
1 《黄金牙、タシグル》
3 《グルマグのアンコウ》
-クリーチャー(24)-
Magic Online発祥の黒赤ディスカードは『破滅の刻』の発売以降コンスタントに結果を残してきたが、《燃え立つ調査》や《ゴブリンの知識》といったランダムな効果を味方に付ける必要があるため、プロが好むようなデッキではないように思われていた。
だが、チーム武蔵の面々はこうしたランダム要素をデッキ構築によって緩和することで他のチームと差を付けることに成功した。具体的には、「マッドネス」や《復讐蔦》などの手札に残って困るカードはそもそもデッキに入れないようにすることで、ランダムディスカードの下ブレを減らし、「探査」や《虚ろな者》、《恐血鬼》《炎跡のフェニックス》があるので捨て得というように、ぶん回りの恩恵だけを享受しているのだ。
さらにサイドボードには《渋面の溶岩使い》を3枚も採用している点が特徴的である。メタゲームブレークダウンを見てもわかるようにトップメタが5色人間だったことを考えると、メタゲームの的中が今回の躍進を後押ししたであろうことは想像に難くない。
スイスラウンド4位: マルドゥパイロマンサー
プロツアー『アモンケット』チャンピオンのGerry Thompsonが選択したのは、Magic Onlineのモダン競技リーグで最も多くの全勝トロフィーを獲得したプレイヤーの愛用デッキ、マルドゥパイロマンサーだった。
デッキの解説は津村 健志やグジェゴジュ先生の記事に任せるとして、マルドゥパイロマンサーというデッキ自体の勝率はそこまで高くないにもかかわらずトップ8に進出できた背景には、トップメタだった5色人間に対する相性の良さがあるだろう。
スイスラウンド5位: 5色人間
4 《手付かずの領土》
4 《魂の洞窟》
4 《古代の聖塔》
4 《地平線の梢》
2 《金属海の沿岸》
-土地(19)- 4 《教区の勇者》
4 《貴族の教主》
4 《スレイベンの守護者、サリア》
4 《翻弄する魔道士》
4 《帆凧の掠め盗り》
4 《サリアの副官》
4 《幻影の像》
4 《反射魔道士》
4 《カマキリの乗り手》
1 《ケッシグの不満分子》
-クリーチャー(37)-
2 《罪の収集者》
2 《配分の領事、カンバール》
2 《ザスリッドの屍術師》
2 《四肢切断》
1 《戦争の報い、禍汰奇》
1 《オーリオックのチャンピオン》
1 《ヴィティアの背教者》
1 《ミラディンの十字軍》
1 《墓掘りの檻》
-サイドボード(15)-
世界選手権をラムナプレッドで準優勝したHareruya Pros・Javier Dominguezは王道、5色人間を選択した。
メインボードはMagic Onlineのテンプレートなのでほぼ解説する部分はないが、サイドはいくつかメタゲームに合わせたカードが採用されている。《オーリオックのチャンピオン》は《死の影》とバーン・ドレッジを同時に対策できる数少ないカード。《配分の領事、カンバール》はストームやランタンコントロールに対して効果的と言える。《ミラディンの十字軍》はアブザンやBGジャンクに対する切り札となりうる1枚だ。
《古代の聖塔》のせいでクリーチャーか極端に軽いスペルしかサイドに積めない関係上、複数のデッキに対して効果的なクリーチャーは貴重となる。各マッチでサイドインできるカードは、サイドカードがケアできている範囲の重なり合わせの枚数によって決まってしまうからだ。
逆に言えば守備範囲が広いカードは誰が使ってもサイドに積まれることになるため、フィールドへの意識はこうした1枚差しのカードにこそよく表れていると言っていいだろう。
スイスラウンド6位: アブザン
2 《沼》
2 《草むした墓》
1 《神無き祭殿》
1 《寺院の庭》
4 《湿地の干潟》
4 《新緑の地下墓地》
1 《吹きさらしの荒野》
2 《花盛りの湿地》
1 《黄昏のぬかるみ》
2 《樹上の村》
1 《乱脈な気孔》
-土地(23)- 4 《タルモゴイフ》
4 《闇の腹心》
2 《漁る軟泥》
2 《残忍な剥ぎ取り》
1 《不屈の追跡者》
-クリーチャー(13)-
4 《コジレックの審問》
2 《思考囲い》
2 《突然の衰微》
3 《未練ある魂》
2 《大渦の脈動》
2 《虚無の呪文爆弾》
4 《ヴェールのリリアナ》
1 《最後の望み、リリアナ》
-呪文(24)-
ジャンドの名手・Reid Dukeが選択したアブザンは、しかし一般的に「アブザン」と聞いて想像するようなものとは大分異なっている。白いカードは《未練ある魂》とサイドの《石のような静寂》くらいで、《流刑への道》も《包囲サイ》も入っていないのだ。《樹上の村》が入っているのを見てもわかるように、その実態はBGジャンクと言って差し支えないだろう。
ベースはこちらのデッキと思われるが、ひとまず腐ることがない《虚無の呪文爆弾》をメインに移し、サイドのスロットを空けているのがテクニカルだ。
そうして空いたサイドのスロットには、バーンをケアした《集団的蛮行》の3枚積みに加え、トロン許すまじと言わんばかりの《大爆発の魔道士》と《石のような静寂》の3枚積み。デッキの種類が多種多様と言われるモダン環境でここまではっきりとした意思表示が見られるのはかなり珍しいが、実際にトロンは一大勢力だったしフィーチャーマッチで藤田 剛史のトロンを倒していたようなので、見事なメタ読みというほかないだろう。
スイスラウンド7位: 5色死の影
1 《沼》
2 《草むした墓》
1 《血の墓所》
1 《湿った墓》
4 《新緑の地下墓地》
3 《血染めのぬかるみ》
3 《汚染された三角州》
2 《湿地の干潟》
-土地(18)- 4 《死の影》
4 《タルモゴイフ》
1 《残忍な剥ぎ取り》
1 《瞬唱の魔道士》
4 《通りの悪霊》
-クリーチャー(14)-
4 《思考囲い》
3 《ウルヴェンワルド横断》
3 《致命的な一押し》
3 《頑固な否認》
2 《ティムールの激闘》
2 《突然の衰微》
1 《四肢切断》
4 《ミシュラのガラクタ》
2 《ヴェールのリリアナ》
-呪文(28)-
3 《未練ある魂》
2 《古えの遺恨》
1 《人質取り》
1 《致命的な一押し》
1 《ティムールの激闘》
1 《コジレックの帰還》
1 《大渦の脈動》
1 《最後の望み、リリアナ》
1 《神無き祭殿》
-サイドボード(15)-
グランプリ・ワルシャワ2017王者が選択したのは5色死の影。もともとはジャンド死の影からの派生であるグリクシスシャドウのデッキ構成からフィードバックを得ることで、ジャンド死の影に足りない部分を色を足して補ったデッキだ。
今ではグリクシスシャドウでも当たり前となった《頑固な否認》と《ティムールの激闘》の共存に加え、サイドからは《未練ある魂》まで登場する。とはいえ実際は、運用するのはほぼ常に4色までというのが通例となっているようだ。
スイスラウンド8位: 5色人間
4 《魂の洞窟》
4 《手付かずの領土》
4 《古代の聖塔》
4 《地平線の梢》
2 《金属海の沿岸》
-土地(19)- 4 《教区の勇者》
4 《貴族の教主》
1 《アクロスの英雄、キテオン》
4 《翻弄する魔道士》
4 《帆凧の掠め盗り》
4 《スレイベンの守護者、サリア》
4 《サリアの副官》
4 《幻影の像》
4 《反射魔道士》
4 《カマキリの乗り手》
-クリーチャー(37)-
2 《オーリオックのチャンピオン》
2 《イゼットの静電術師》
2 《罪の収集者》
2 《はらわた撃ち》
2 《墓掘りの檻》
1 《無私の霊魂》
1 《ザスリッドの屍術師》
1 《四肢切断》
-サイドボード(15)-
トップ8で唯一アーキタイプが被ったのが5色人間で、デッキパワーの高さが窺える。
こちらのレシピでは《はらわた撃ち》《戦争の報い、禍汰奇》が2枚ずつ搭載されているのが目を引く。5色人間は親和との相性が良くはないので、アーティファクト対策として《ヴィティアの背教者》を、飛行対策として《未練ある魂》対策を兼ねた《イゼットの静電術師》をサイドに積むのが通例だが、どちらも3マナでしかもクリティカルなカードではない点で勝率の改善は望めなかった。
しかし《戦争の報い、禍汰奇》は狭いメタに見合った甚大な被害を親和側に与えることができるし、《はらわた撃ち》は3本目の先手2ターン目《鋼の監視者》のイージーウィンを防ぐことができる。親和に勝ちたいと思うなら、このスロットは是が非でも確保しておきたいところだ。
他方でその分《罠の橋》に触れなくなってしまっているものの、ランタンコントロールと当たる確率を考えればあまり問題にはならない範囲だろう。