Translated by Atsushi Ito
(掲載日 2018/02/08)
プロツアー『イクサランの相克』という、俺にとってはこれ以上なく思い出深い結果となったイベントが終わりを告げた。プロツアートップ8入賞は俺が長年にわたって追い求めてきた目標であり、ついにそこに到達した (※) と思うと深い感慨がこみ上げてくる。
だがまずは、きちんと始まりから話すことにしよう。
※訳注: ハビエルはプロツアー『戦乱のゼンディカー』とプロツアー『破滅の刻』で2度の9位を経験している。
プロツアーに向けた調整
今回、俺のプロツアー調整は普段よりも早い時期にスタートした。フォーマットがモダンということは各方面に影響を与えていたが、少なくとも一つ言えるのは、『イクサランの相克』の発売を待たずともできることがたくさんあるということだった。
12月頭のワールド・マジック・カップ2017が終わってからすぐに、俺は自分自身がプロツアー本番でわずかでもプレイする可能性がありそうなありとあらゆるデッキについて、Magic Onlineでそれぞれ複数回のリーグ参加をこなした。仮に自分で使う気にはならなかったとしても、それぞれのデッキがどんな風に動くのかを知っておくことは、思考や発想のための良い源泉となる。特に、これだけ色々な種類のデッキがあるフォーマットにおいてはな。
次のプロセスとして、俺は自分自身が使う可能性があると思うアーキタイプをリストアップし、それらをおおよそ10~15個くらいまで減らしてから、デッキを一つ一つ候補から除外していくという過程を踏むことにした。だが、この工程によって『イクサランの相克』の発売までに使用候補を2~3個まで絞ることを目標にしていたのだけれども、実際にやってみるとデッキを絞るのが極めて難しいことが明らかになった……どのデッキも、(A) すこぶる相性が良いマッチがあるだけでなく明らかに相性が悪いマッチも抱えているか、もしくはその反対に、(B) あらゆるデッキに対してどこまでいってもそこそこの相性差しかないかという、そのいずれかだったからだ。
数えきれないほどの回数のリーグに参加して出た結論としては、《死の影》、ストーム、アグロ系デッキの3つがおそらく最良の選択肢だろうということで、そしてそれこそが俺にとって一番の悩みの種でもあった。それらはどれも対戦相手に対処を迫るタイプのデッキだけに、プロツアー参加者の多くが選択することになりそうだったからな。
最終的に俺は、持てる対戦データを分析してそれら3種類以外のデッキタイプについての感触を確かめた末に、黒緑ジャンクもしくはアブザンを使うという決断を下した。そして、どちらも似たような弱点と強みがあったので、プロツアー前に設けた調整日程における終盤の数日間のうちのほとんどを、黒緑/アブザンの様々なバージョンを試すことに費やした。『イクサランの相克』が発売する頃には俺は自分の調整にすっかり満足し、あとはひたすらドラフトをやり続けるだけだな、なんてことを考えていた。
だがご存知の通り、プロツアーで俺が使用したのは黒緑系のデッキではなかった。俺が使ったのは5色人間で、上記のデッキ選別プロセスにおいては最終段階にすら到達していなかったはずの選択肢だった。1月最終週のグランプリ・ロンドン2017の後で、俺たちのチームはプロツアーの開催地であるビルバオでいつものように調整のための家を借りて滞在していたわけだが、そこでの出来事が、黒緑系のデッキを使う気でいた俺の考えを変えてしまったのだ。
事の顛末はこうだ。調整の初日、俺は滞在場所に到着するのがひどく遅れてしまったせいで数ゲームしかプレイできなかったけれども、その数回は《未練ある魂》といったカードのおかげで、親和をメタメタにやっつけることができた。だが、それがこのデッキを使っての最初で最後の小さな勝利になるなんて、一体誰が予想できただろう? 到着翌日の火曜になると、俺は自分が積極的にはメタっていなかったありとあらゆるアーキタイプたちにボコボコにされるようになっていた。
ここで最も重要かつ注意すべきポイントは、俺が「少なくともそのデッキのあるバージョンに対しては相性がかなり良い」と思っていたデッキたちに対してさえ、それぞれ敗北を重ねていたという点だ。俺自身が黒緑系のデッキをうまく回せていなかったというのも間違いなくあったのだが、しかし慎重に分析してみるとそれ以上に、チームメイトたちがこちらのデッキのカードに対して実にうまく立ち回った結果として際どいゲームを落としがちになっているということに気づいたのだ。
黒緑系のデッキは古くからモダン環境に存在しており、そのおかげで俺自身も初めからたくさんの経験値があったところでもある。しかしそのせいで思いも寄らなかった問題点が浮上することとなった。対戦相手にとっても同様に古くから相手をし続けてきたデッキタイプであるために、モダンに慣れているプレイヤーならば、黒緑というデッキタイプを既に熟知してしまっているのである。
俺が思うに、こうなるとデッキの経験によって回し方の知識が得られているなどの利点が台無しになってしまう。数か月前よりも《死の影》デッキのパフォーマンスが落ちているのも、おそらくそういった要素が原因の一つにあるのだろう。ともあれ一つだけ言えることは、対戦相手がこちらのデッキに対するより良い立ち回り方を知っているということは明確に不利益をもたらすということだ。
だが、それでも俺は黒緑系のデッキを使うことに固執していた。そういった要素は、俺がうまく立ち回れば解消するものだと思われたからだ。俺はうまく回せない強力なデッキを使うよりも、そこそこのデッキパワーのデッキを完璧に使いこなした方がうまくいくはずだと考えていた。水曜日になっても俺はデータ上の数字を軽視し、別のデッキを使うべきだとチームメイトのほとんどが俺に言う中でもなお、黒緑を使おうという決心を固めていた。
以下に載せるのが俺がレジストしようとしていたデッキであり、Alberto Galiciaが実際に使用して7勝2敗1分の成績を残したものだ。《残忍な剥ぎ取り》に満足したことは一度たりともないのだが、対処を迫る側に回らなければならないマッチアップも存在する。また、4枚目の《コジレックの審問》も採用したいのは山々だが、7枚目の手札破壊が必要にしても《集団的蛮行》の方が大抵のデッキに対して優れている。
だがプロツアー前の時系列においてはまだ、このデッキは俺たちの調整チームのメタゲームにおいて一日中1勝9敗と2勝8敗を繰り返すだけのデッキだった。
はたして、あまりの勝てなさにパニックに陥った俺は、レジスト前日の水曜日の夜になってようやく、チームメイトにシンプルに相談することにした……「なあ、俺は何を使うべきなんだろうな?」
返ってきた答えもまたシンプルだった……「5色人間さ。」
この時点で俺は黒緑以外のカードを一切持ってきていなかったので、デッキの実物を一日で用意する必要があったのだが、幸いなことに今回のプロツアーの開催地は地元スペインであり、人間のカードを一揃い所有はしていたので、ガールフレンドとSergio Ferrerの両名の力を借りて、どうにか人間デッキの実物を手元に揃えることができたってわけだ。
さてそんなわけで、こちらが俺のプロツアー『イクサランの相克』での使用デッキだ。
4 《魂の洞窟》
4 《手付かずの領土》
4 《古代の聖塔》
4 《地平線の梢》
2 《金属海の沿岸》
-土地(19)- 4 《教区の勇者》
4 《貴族の教主》
4 《スレイベンの守護者、サリア》
4 《サリアの副官》
4 《帆凧の掠め盗り》
4 《翻弄する魔道士》
4 《幻影の像》
4 《カマキリの乗り手》
4 《反射魔道士》
1 《ケッシグの不満分子》
-クリーチャー(37)-
2 《罪の収集者》
2 《配分の領事、カンバール》
2 《ザスリッドの屍術師》
2 《四肢切断》
1 《戦争の報い、禍汰奇》
1 《オーリオックのチャンピオン》
1 《ヴィティアの背教者》
1 《ミラディンの十字軍》
1 《墓掘りの檻》
-サイドボード(15)-
木曜日はデッキの実物を揃えることのほか、とにかくデッキの基本的なコンセプトの理解に費やした。最初のゲームで《古代の聖塔》から《霊気の薬瓶》を出そうとしたのはツイていたと言えるだろう。おかげでAndrea Mengucciに止めてもらえた上に、気を付けるべき諸々の細かなポイントを教えてもらえたからな。
たとえば、《幻影の像》のためにマナをしっかり確保すべきってことなどだ。どういうことかというと、もし既に《カマキリの乗り手》が出せるマナベースを用意できているなら、《魂の洞窟》は《幻影の像》を引いたときのために「イリュージョン」を宣言すべきだろうって話さ。もちろん俺もこのデッキを回したことは数回あったんだが、そのときは《幻影の像》が入るという改良がなされる前だったもんで、実際危ないところだったわけで言われて少し肝が冷えたな。
モダンの勝敗を左右するものについて、「モダンで勝ちたいなら自分のデッキを完璧に理解し、あらゆるデッキに対する適切なサイドボードを理解すればいい」と言う人もいれば、「モダンはメタ上のポジションで勝敗が決まる。相性差が極めて重要であり、実際のプレイの仕方を知っていることは、相性の良い側に立てるかどうかということに比べれば、さして重要ではない」という人もいる。俺に言わせれば、要はそれら2つの要素のバランスの問題でしかないと思う。あらゆる例に漏れず、バランスという考え方こそが重要だ。自分自身のデッキを知り尽くしていることは確かに大きなアドバンテージとなるだろう、だがその優位は相手もこちらのデッキを知っているとなれば小さくなってしまう。他方で、マッチアップ相性はどんなに上手なプレイヤーに対しても抗しうる最良の方法だ。
俺たちは仮想敵としてバーン、ストーム、それと《思考囲い》ベースのデッキなどが最もポピュラーになると想定していたが、5色人間はそのどれとも相性が良かった。また、もし俺たちがメタゲームの予想を全く外したとして、たとえばもし黒緑系のデッキを選択してプロツアーがトロンの海だったならその時点で我々は御陀仏になってしまうのに対し、人間を選んだならメタがどう転んでも悪くない選択になるだろうと読んでいた。結論として、人間デッキは人間デッキそのものが圧倒的にメタられていない限りうまくやれると踏んだわけだな。
チームメイトたちの多くは1枚差しの《アクロスの英雄、キテオン》を気に入っていたけれども、俺自身は木曜日にチームメイトたちとプレイした数ゲームで全く良い感触を得られなかったので、《ケッシグの不満分子》に差し替えることにした結果、この週末を通して大活躍してくれた。その他の59枚については全く異論はないがね。
俺はサイドボードも自分が使いやすいように組み替えてしまったので、チームメイトたちとは異なる構成になっている。たとえば《はらわた撃ち》のようなカードはあまり効果的に思えなかったので俺は入れたくなかった。もちろん0マナインスタントが多大なテンポを稼ぎうることは承知しているが、同時に後半トップデッキしても全然ありがたくないというような噛み合わせの悪さも孕んでいる。
サイドボードにはもう少しインパクトの大きいカードを入れたかったし、《罠の橋》を置かれて立ち往生したくもなかったこともあって、《ヴィティアの背教者》を1枚忍ばせることにした……が、これはおそらく間違いだっただろう、《戦争の報い、禍汰奇》の方がより強力そうだったからな。その他にも俺とチームメイトたちとではメタゲームの捉え方に関して色々と違いがあって、俺はバーンとストームがもっと多いと思っていた。
結果として、メインボードの最後の1枚については俺の方が正しい選択をしたと思っている一方で、サイドボードについてはチームメイトたちの方が断然優れていたと思う。俺は俺自身がモダンをプレイし始めたばかりの頃に何度も何度も出されて死にまくったという理由だけで《オーリオックのチャンピオン》の1枚を《ミラディンの十字軍》に差し替えたりしていた。俺も出す側に回ってみたいという思いを抑えきれなかったんだよ!
ちなみに、Andreaがプレイしたのがこちらの形だ。
4 《魂の洞窟》
4 《手付かずの領土》
4 《古代の聖塔》
4 《地平線の梢》
2 《金属海の沿岸》
-土地(19)- 4 《教区の勇者》
4 《貴族の教主》
1 《アクロスの英雄、キテオン》
4 《スレイベンの守護者、サリア》
4 《サリアの副官》
4 《帆凧の掠め盗り》
4 《翻弄する魔道士》
4 《幻影の像》
4 《カマキリの乗り手》
4 《反射魔道士》
-クリーチャー(37)-
2 《オーリオックのチャンピオン》
2 《イゼットの静電術師》
2 《罪の収集者》
2 《はらわた撃ち》
2 《墓掘りの檻》
1 《無私の霊魂》
1 《ザスリッドの屍術師》
1 《四肢切断》
-サイドボード(15)-
最後に、リミテッドの準備については、いつものプロツアーと同様にたくさんドラフトをした後でセット全体についてのディスカッションをみんなで行うというものだった。ドラフトをした回数自体はここ2~3個のセットよりも少なかったが、それでもこの環境については十分理解していた。なるべく色を手広く受けたいということもあって、緑や黒をやりたがるようになっていった。
ちなみに数値に基づくデータによれば、「《原初の死、テジマク》を開けること」が最良の戦略だぜ!
プロツアー本戦
ファーストドラフトは初手《束縛の司教》で始まったもののそれ以降全く白のカードが流れてこなかった結果、黒緑に《束縛の司教》と”チキン”こと《太陽冠のプテロドン》、それと《従者の献身》をタッチしたデッキになった。MVPは既に黒をやる方針が決まりかけていたところで2パック目の初手でうまく引き当てることができた《貪欲なチュパカブラ》で、数時間の後には俺は3-0することに成功していた。
初日のモダンラウンドは4-1で、かなりの好ポジションで2日目に進出することができた。当たりは親和が2回、エルドラージトロン、白黒、それと人間同型。この日のハイライトは、4回戦目の対戦相手に対して2ゲーム目と3ゲーム目の両方で2ターン目《戦争の報い、禍汰奇》を決めたことだな。
《戦争の報い、禍汰奇》は人間ではなくスピリットということで一見奇妙に見えるかもしれないが、こいつがいかに大きなインパクトをもたらすかについては俺も正直過小評価していたと言わざるをえないな。
ともあれ、その夜は2日目を楽しみにしつつぐっすりと眠りにつくことができた。興奮こそすれ、ナーバスになることは全くなかった。それまでの数か月の間に、どうすれば大会中に精神状態を整えることができるかについて様々な試みを行ってきていたので、その努力が報われるシチュエーションが訪れてむしろハッピーだったね。
さて2日目、セカンドドラフトについてはこちらでリプレイを見ることができる。上上家が初手で《不敬の行進》を公開した時点で、俺はその情報に対する振る舞いがこのドラフトの趨勢を左右すると思った。俺自身はプレミアイベントのような大舞台で両面カードの情報がドラフトに影響を与えるのは正直好ましくないと考えているけれども、郷に入ってはなんとやらだ。
ドラフト自体は、大満足の赤緑恐竜を組み上げることができた。サイドボードカードもたくさん取れたので、当たりうるどんなアーキタイプにも対応できるプランが用意できていた。だが残念なことに、《帝国の先駆け》と《万猛竜》のコンボを実現する機会は訪れなかった。2-0で迎えた11回戦目でJon Sternのマーフォークに敗れ、2-1でモダンラウンドへと折り返すこととなった。
9勝2敗の成績で残る構築5回戦に突入ということで、トップ8に向けて非常に良い位置に付けていた。これまで何度トップ8を寸前で逃してきたかといったことを考えるようなことはせず、ただただ目前の1マッチにのみ集中してベストを尽くそうという心理状態になることができていた。続く4回戦の当たりは人間同型が2回、親和、ランタンコントロールというもので、見ればわかるように俺の対戦相手たちは大体無色かもしくはミラーマッチばかりだった。ということはつまり、サイドボードのうち数枚は全く出番がなかったわけだな。
結果は、お互い勝てばトップ8というマッチでチームメイトのAndrea Mengucchiを倒して、最終ラウンドはPascal VierenとIDすることができた。そう、ようやく夢が現実になるときが来たのだ。俺は、ついにプロツアートップ8に入賞した。そのときの気持ちは感無量とでも言えばいいのか、とにかく激烈な幸福感に包まれていた。
しかもこの日は最後にもう一つ嬉しい出来事があった。8位タイブレーカーでチームメイトのAndrea Mengucchiの名が呼ばれたのだ!2人ともが残れるなんて、なんて素晴らしいことだろう!
残念ながら俺は準々決勝であえなく敗退となったが、完璧にプレイできたとは言えないし、マッチアップ相性も悪かった上に対戦相手は素晴らしいプレイヤーだった。Gerry Thompsonは対戦していて非常に紳士的なプレイヤーで、準々決勝の対戦を心ゆくまで楽しむことができた。
そうそう、Luis Salvattoが優勝したのも俺にとっては喜ばしいことだ。彼はプロツアー常連の中でも俺の大好きなプレイヤーの一人であり、彼のようなプレイヤーがトロフィーを獲得したことを心の底から祝福したい。今や世界中の誰もが、彼もまた素晴らしいプレイヤーであると知ることとなったわけだ。
終わりに
俺が思うに、今のモダンは多様性とゲーム性の観点からかなり優れたフォーマットと言える。近ごろ、モダンはプロツアーフォーマットとして相応しいかそうでないかといった議論があったところだが、俺の見解はプロツアーフォーマットとしてそう悪くはないというものだ。ただし、やはりスタンダードの方が好きではあるがね。
このように言う理由は、やはりモダンがどこまで行っても相性差が前面に出てしまうだけに振れ幅が大きくなってしまうからだ。ここまで多様な環境だと、練習に費やすコストもかなりのものになってしまう。グランプリのフォーマットとしてのモダンは実のところ大好きなのだが、しかしことプロツアーとなると、かかっているものが大きすぎる試合ということもあってスタンダードの方が好ましいと考えている。同時に、もし毎年モダンのプロツアーを開催するとしたなら、世界選手権の後でかつ新セットのリリースとともに行うのが良いのではないかと思う。
さておき、プロツアートップ8はかけがえのない体験だった。「勝てばプロツアートップ8」という場面で俺は長らく勝利を逃し続けてきただけに、この瞬間を何よりも待ちわびていたからだ。ここにたどり着くまでの長い長い (本当に、な) 道のりで俺を支え、助けてくれた人たち全員に感謝の気持ちを送りたい。もちろん、応援してくれた人たちにも。そして言うまでもなくチームメイトたちとガールフレンドにも、ありがとう。君たちの支えは何物にも代えがたかった。
最後に一言、マジックは素晴らしいゲームだ。どこかの大会で会えることを楽しみに待っているよ。
ハビエル・ドミンゲス