Translated by Kenji Tsumura
(掲載日 2018/02/09)
みなさん、こんにちは!私はピーター・フィーレン/Peter Vieren。ベルギー出身のゴールドレベルプロです。これが晴れる屋に寄稿する最初の記事になります。
先週末にビルバオでプロツアー『イクサランの相克』が開催され、私の弟 (パスカル・フィーレン) は予選ラウンドを負けなしで通過した後に3位という信じられないような好成績を収めました。この結果をとても嬉しく思いますし、弟を誇りに思います。彼は自身の経験を別途記事にしてみなさんにお伝えすると思いますので、私は我々がプロツアーで使用した「青赤パイロマンサー」に焦点を当てていきたいと思います。
この記事では、このデッキができた経緯、そしてこのリストに至った理由を説明したいと思います。その後は、これからこのデッキを試してみようというプレイヤーに役立つであろうサイドボードガイドをお届けします。
私は《裂け目の突破》/《引き裂かれし永劫、エムラクール》、《やっかい児》/《鏡割りのキキジキ》、《向こう見ずな実験》/《白金の帝像》のコンボいずれかを内包した青赤やジェスカイ (青白赤) ベースのデッキから調整を開始しました。モダンにはいくつもの異なる多角的な攻め手が存在するため、受動的なカードだけでなく能動的なゲームプランを持つ必要があります。したがって、コントロールのゲームプランにコンボを組み込むことはとても魅力的に映りました。様々なコンボデッキを調整するうちに、いくつかの事柄を学びました。
1) 《選択》は素晴らしいカードです。私は《選択》4枚、《血清の幻視》4枚、《瞬唱の魔道士》4枚という構築が大好きです。正しい干渉手段を探すことはモダンにおいて非常に重要ですし、ドロー呪文の多いデッキはそれに長けているのです。
2) どのコンボも脆く、それらは妨害するのがとても簡単でした。それに加え、全てのコンボはかなり重たい呪文を解決することを要求します。これはコンボを開始するに伴い、それを唱えるだけの十分な数の土地をも必要とすることを意味します。要するに、コンボを集めるためにはたくさんの時間とリソースが必要で、コンボカードが手札で無駄カードになるリスクを背負ってしまいます。そしてしばしばコンボを “ぶっぱする” しかなくなり、対戦相手が解決策を持っていないことを祈るのみといった事態に陥りやすいのです。なぜならば、そういった状況はえてして凄まじく劣勢だからです。
3) 《やっかい児》のテンポの側面は好みでした。《稲妻》/《瞬唱の魔道士》/《稲妻》と動けるデッキにおいて、ビートダウンプランがあるのは素晴らしいことです。とはいえ、《やっかい児》自体はそれほど素晴らしいカードというわけではありませんでした。序盤は良いのですが後半では何かを1ターンタップする効果は非常に弱いものですし、2/1の飛行クリーチャーに3マナというコストは最高とは言えません。
実際にはコンボがほとんど決まることがないというのも問題でしたし、 “フェッチランド” で《島》を探すことの多いこのデッキにおいて、《鏡割りのキキジキ》はマナベースに大きな負担をかけます。
私の下した結論は、能動的なプランとしてコンボを採用するのではなく、軽量クリーチャーを起用して《稲妻》・《瞬唱の魔道士》とともにビートダウンプランを採用する方が良いというものでした。軽量クリーチャーでマナコスト以上のサイズを誇り、単体でも脅威として機能するカードと言えば《タルモゴイフ》を連想することでしょう。というわけで、続いては青赤に《タルモゴイフ》や数枚の《不屈の追跡者》のために緑をタッチしたデッキを作りました。このデッキからは下記のことを学びました。
1) 《不屈の追跡者》は良いカードでした。真にカードアドバンテージを獲得できる手段を持つことは、デッキに長期戦に必要な力を授けてくれます。最終的なリストでは、《祖先の幻視》がこの役割を担いました。
2) 《タルモゴイフ》を軽い脅威として扱うプランは上手く機能しました。しかしながらひとつの問題点として、人々が《瞬唱の魔道士》を使っているデッキと当たった際にサイドインしてくる《大祖始の遺産》に対して明らかにデッキが弱くなってしまったのです。《瞬唱の魔道士》だけならば《大祖始の遺産》を警戒してプレイすることはさほど難しいことではありませんでしたが、《タルモゴイフ》は《大祖始の遺産》の前に無力と化してしまう可能性があり、突如として《大祖始の遺産》は打ち倒すことが難しいカードに変貌してしまいました。
したがって別の脅威を探すことになったのですが、そこでこれまでにいくつもの素晴らしい経験を持つ《氷の中の存在》を見つけたのです。試してみると《氷の中の存在》は《タルモゴイフ》を容易に凌ぐカードでした。3色目を要求することもありませんし、それでいてクリーチャーを基調としたデッキに信じられないほど強力で、他のデッキに対してもしっかりとクロックとして機能します。また、《氷の中の存在》はこれまでは1本目を勝ちえなかった「ドレッジ」や「《ぬめるボーグル》」に対しても勝機をもたらしてくれます。
今ではこのデッキの名前にもなっているふたつめの脅威 (デッキ名が『青赤存在』では聞こえが悪いですよね) は、実際には最後にデッキに加わったカードです。
《氷の中の存在》 と同じく序盤にキャストすることができる脅威であり、対処されなければあっという間にトークンで戦場を埋め尽くしてしまいます。《若き紅蓮術士》は《氷の中の存在》の「変身」のような信じられないテンポアドバンテージをもたらしてくれるわけではありませんが、《氷の中の存在》の弱点を補ってくれます。例えば《ヴェールのリリアナ》、序盤のクリーチャーの大群、軽くてパワーが4を超える脅威あたりがそうですね。
《氷の中の存在》が「変身」すると《若き紅蓮術士》が生み出した全ての《エレメンタル・トークン》が消えてしまうため、初見ではこの2種類にシナジーがないように見えるかもしれませんが、実際にはそうではありません。もしも「変身」によって大量の《エレメンタル・トークン》を失うような場面であれば、あなたはどの道勝利するはずだからです。また、その際には両者の誘発型能力を正しくスタックに乗せることで、1体の《エレメンタル・トークン》を残せることにご注意ください。
最後に言及するのは、デッキに入ることのなかった《血染めの月》についてです。最初は2枚をメインボードに入れて調整を開始しましたが、すぐに1枚はサイドボードに移りました。これは多くの調整過程に基づく結論です。このカードは決して悪いものではありませんでしたが、一人前の仕事をこなすわけでもなかったのです。責務のひとつであるはずの、ビッグマナ系のデッキに対してもそれは同様でした。
「ウルザトロン」の《忘却石》はしばしば通ってしまいます。そして《忘却石》はただ単に《血染めの月》を破壊してしまうだけでなく、プレッシャーをかけるためのクリーチャーを設置することも妨げてしまうのです。《忘却石》に対して1対1の交換を行うことは気にする必要はありませんが、2対1を取られてしまうのは良くないことです。
また、「《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》」デッキも「ウルザトロン」デッキもサイドボード後にエンチャント破壊を用意している結果、こちらが十分な術を持ちあわせていない呪文に対して打ち消し呪文を打たなければいけなくなってしまうのです。《儀礼的拒否》、《軽蔑的な一撃》、《マナ漏出》に《差し戻し》といったカードは、いずれも《自然の要求》に対してとても弱いカードです。
そして一度《血染めの月》が取り払われてしまったのならば、《血染めの月》の効果は何も残ることはなく、対戦相手の「トロンランド」や《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》はそのままあなたを打ち倒してしまいます。
一方で、《廃墟の地》は素晴らしいパフォーマンスを披露してくれました。これは人々が思っているよりもずっと優れたカードです。このカードを特殊地形対策として採用すれば、《血染めの月》とは違ってその効果は永続的ですし、インスタントタイミングで起動できるため打ち消し呪文とも噛み合います。さらには呪文のスロットを圧迫することもないのです。
《若き紅蓮術士》を採用してからというもの、デッキ内のインスタント・ソーサリー呪文の枚数を最大化するために《血染めの月》を完全に抜いてしまいました。調整過程において、対戦相手はいずれにせよ《血染めの月》を警戒してプレイするだろうということがすぐに分かりました。「ウルザトロン」プレイヤーは使い道のない《自然の要求》を手札に抱えることになり、こちら側が2枚の《島》を並べるのを見れば「グリクシス・シャドウ」のような3色のデッキはすぐに “フェッチランド” で基本地形を導いてくるでしょうが、すると《廃墟の地》の威力が増すのです!
サイドボードガイド
サイドボードは様々なアーキタイプに対してサイドインできる、用途の広いカードの数々で構成されています。この手のデッキにおいては、特定のデッキに刺さる “ガンメタカード” がたくさん必要だとは思いません。そのカードを使う機会がないことだってありえますし、他のデッキに対しては弱いカードをデッキに入れていることになるからです。その代わりに、自身の脅威、除去、打ち消し呪文を最適化することに全てを費やします。受動的なデッキは、ほとんどのデッキに対してサイドボード後にさらに有利になります。
ここでは、私がサイドボードを作るにあたって考慮したマッチアップを記載します。これがモダン環境の全てのデッキというわけではありませんが、それでも膨大な量です。これらはプロツアー前のプランなので、完璧ではないかもしれません。ですが各マッチにおいて何をすべきかを把握する助けとなるでしょう。いつもながら、サイドボーディングはその場その場で対戦相手のデッキの特色に合わせて最適化しなければいけません。また、先手・後手においても変化するものの、扱いやすいようにあくまで基本的なプランをお伝えいたします。
グリクシス・シャドウ
これは有利・不利が行ったり来たりするマッチアップですが、クリーチャーを残すことができたプレイヤーが大きなアドバンテージを得ます。《頑固な否認》こそがいつも心に留めておくべき最も重要なカードです。
対 グリクシス・シャドウ
In
青赤ストーム
もしも1本目が後手だった場合には、自身の手札の内容が長期戦で彼らのコンボを止めるに十分かどうかを判断する必要があります。もし止められないだろうと判断したのであれば即座に脅威を展開し、コンボがスタートしないことを祈りつつ、ゲームが終わるまで妨害し続けましょう。サイドボード後は「青赤ストーム」側がしたいことを食い止めるだけの干渉手段が手に入るため、このマッチは相性が良いと考えています。
対 青赤ストーム
ジェスカイ・テンポ (対ジェスカイ・コントロールに関しては、続く青白コントロールを参照ください)
対 ジェスカイ・テンポ
対戦相手のデッキに《聖トラフトの霊》が入っていると分かっているのであれば《神々の憤怒》をサイドインしても構いませんが、《聖トラフトの霊》を盤面から遠ざけたり、《瞬唱の魔道士》と交換するのは基本的にそれほど難しいわけではありません。
青白コントロール
対「青白コントロール」は概して相性が良いものの、我々がプロツアーに持ち込みかけた《約束された終末、エムラクール》入りのバージョンは問題となりえます。
対 青白コントロール
緑系ウルザトロン各種
序盤から《廃墟の地》や打ち消し呪文をもってして相手のマナを妨害することができます。いくつかのゲームにおいては、ゲーム途中でマナ関連の呪文を打ち消すのをやめる判断を下さねばならず、その場合は対戦相手にマナを自由にさせる代わりに重要な呪文を打ち消していくことになります。他のゲームは完全に「ウルザトロン」をシャットアウトすることになるでしょう (これは基本的にダメージクロックがある場合に取るプランですね) 。
このマッチは相性が良く、とりわけサイドボード後はそれが顕著です。
対 緑系ウルザトロン各種
《難題の予見者》が入ってくると予想するのであれば、《焙り焼き》は残すようにしましょう。
人間
打ち消し呪文の使い道がないため、1本目は少し厳しい戦いを強いられます。しかし、サイドボード後はかなり相性が良いと感じるマッチアップです。
対 人間
エルドラージ・トロン
「エルドラージ・トロン」はほとんど勝機のないマッチアップのひとつです。
対 エルドラージ・トロン
バーン
接戦のマッチアップで、軽い干渉手段が重要となります。
対 バーン
親和
これもまた、サイドボーディングすることによって大きく改善するマッチアップです (受け身のデッキなのでそれで何の問題もありません)。よって、全体的にみれば私はこのマッチアップが好きです。
対 親和
ドレッジ
かなり相性が悪いですが、少なくとも《氷の中の存在》が1本目で勝つためのチャンスをもたらしてくれます。
対 ドレッジ
アブザン
私が思うに、黒緑系のデッキは概して少し相性が悪いです。鍵となるのは《祖先の幻視》で、《氷の中の存在》を《ヴェールのリリアナ》に突っ込ませないように気を付けましょう。
対 アブザン
ジャンド/黒緑
他の黒緑系のデッキと同じです。
対 ジャンド/黒緑
ジャンド・シャドウ
全ての黒緑系のデッキと同じくこのマッチも相性が良いとは言えませんが、決して勝てないというほどではありません。
対 ジャンド・シャドウ
マルドゥ・パイロマンサー
長い消耗戦に落ち着きます。このマッチは五分五分です。
対 マルドゥ・パイロマンサー
青赤《裂け目の突破》
私は他の「青赤」系デッキとのマッチアップのほとんどを好んでいます。彼らが《氷の中の存在》を殺すのは大変ですし、《氷の中の存在》を使ってコンボを妨害することだってできるんです。
対 青赤《裂け目の突破》
ランタン・コントロール
たくさんの軽い打ち消し呪文が入るので、サイドボード後はとても相性が良いマッチアップだと考えています。
対 ランタン・コントロール
赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》
相手の脅威を打ち消すことはとても簡単です。彼らが普通に《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》を引いた際には、単に《廃墟の地》を見つければいいだけです。
対 赤緑《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》
赤緑土地破壊
他のランプデッキと極めて似通ったマッチアップですが、《稲妻》が有用であることのみ他とは異なります。
対 赤緑土地破壊
青単《死せる生》
大部分はコントロールデッキのミラーマッチになるものの、少し相性の悪いマッチアップです。対戦相手の方が《祖先の幻視》の枚数が多く、3マナで解決すればゲームに勝利してしまうカードがあるからです。
対 青単《死せる生》
アブザン・カウンターカンパニー
相手のコンボクリーチャーは貧弱なため、このマッチはかなり容易なものです。《集合した中隊》だけは解決させないようにしましょう。
対 アブザン・カウンターカンパニー
白緑カンパニー
対戦相手の価値を生み出すクリーチャー全てを盤面から遠ざけておく必要があるため、コンボベースの「アブザン・カウンターカンパニー」よりは苦しいマッチアップとなります。
対 アブザン・カウンターカンパニー
エルドラージ・タックス
小型のクリーチャーデッキは概して相性が良いマッチアップです。 “フェッチランド” を先に使うようにして、《レオニンの裁き人》で被害を被らないように注意しましょう。
対 エルドラージ・タックス
アドグレイス
サイドボード後は負けるのが非常に難しいと感じるマッチアップです。
対 アドグレイス
赤黒《虚ろな者》
まだあまり経験のないマッチアップですが、今後ポピュラーになるであろうアーキタイプです。
対 赤黒《虚ろな者》
おわりに
多くのプロプレイヤーはモダンのプロツアーが復活したことに悲観的でしたが、私も最初はその中の1人でした。私が最後にモダンをプレイしたのは、ワールド・マジック・カップ2016で、そこで我々は成功を収めたのにも関わらず、当時の私は環境が健全で楽しいものだとは感じられなかったのです。環境の主要デッキは目に見えて強すぎましたからね。しかしそこから環境は変化していき、干渉手段が豊富なデッキが強化されました。
もしも相手に干渉するゲームがお好きであれば、直近のモダンフォーマットに存在する選択肢の中で「青赤パイロマンサー」はそれを実行できるデッキのうちのひとつです。このデッキをプレイしていて、ほぼ全ての状況でたくさんの選択肢に満ち溢れた興味深いゲームがいくつもありました。このデッキをプレイすることでモダンの良さが分かりましたし、モダン環境が今のまま健全であってくれることを願います。
あなたにとって「青赤パイロマンサー」がプレイを楽しめるスタイルのデッキであるならば、ぜひとも上記リストをお試しください。このデッキを学ぶことは、やりがいがあってそれだけの価値があるものです。そして、弟のパスカルはこのデッキの力を世界中に知らしめてくれました。
ピーター・フィーレン