By Yuya Hosokawa
厳しい戦いを勝ち抜いたたった一人の挑戦者と神が織り成す戦い、神決定戦。
第10回目を迎えた神決定戦。この積み重ねた歴史の中で、二つの共通認識が生まれつつある。
まず一つは、「神有利」という認識だ。
今回で永世神がかかっているレガシー神・川北 史朗。そして最古の神、ヴィンテージ神・森田 侑。この二柱は、初代神に就任して以来、すべての挑戦者を退けている。
スタンダード神・岡井 俊樹に前回敗れた和田 寛也も長きに渡ってその座を守っていたし、そして松田 幸雄も、3期に渡ってモダン神を防衛しているのだ。
そして二つ目の共通認識。
「モダン神は、防衛が難しい」
これには、いくつかの理由がある。
モダンにはデッキの種類が沢山あり、そのどれもが強力である。それゆえに対戦相手のデッキを読み切ることが非常に難しい。
さらにそこに、禁止改定が絡み合うため、メタゲームが一新されたり、突如として新たなデッキが生まれるのだ。
そう、今回の《精神を刻む者、ジェイス》と《血編み髪のエルフ》の解禁のように。
「《血編み髪のエルフ》でジャンド、《精神を刻む者、ジェイス》で青白が増えるから、それらに強いデッキが良かったんですよ」
そう語る松田が、神決定戦で相棒に選んだのはタイタンシフト。第9期モダン神決定戦で瀬尾 健太を打ち倒したデッキを、松田は再び手に取ったのだ。
が、この選択は松田にとって、厳しいものとなった。
挑戦者・渡邉 真木。
リビングエンドで見事権利を勝ち取った渡邉がこの大一番で持ち込んだデッキは、なんと白緑オーラ。
白緑オーラを選択した渡邉の思考は、やはりというべきか、松田と同じだった。《血編み髪のエルフ》と《精神を刻む者、ジェイス》の解禁によって恩恵を受けるフェアデッキに強いデッキにしようという意志。
加えて。
「格上の松田さんを運ゲーの土俵に引きずり込みたい」
神への畏敬が、渡邉の手に白緑オーラを掴ませたのだった。
タイタンシフト対白緑オーラ。
タイタンシフトにとっては絶望的な、白緑オーラにとっては最高の相手。
それでも、勝負はわからない。
渡邉が相手にするのは「モダン神」であり、ここは「神決定戦」なのだから。
神を決める戦いが、今始まる。
Game 1
値千金の先手を得た渡邉だが、オープニングハンドで長考する。7枚でスタートすることに決めたのだが、《新緑の地下墓地》を置くのみで、松田にターンを返す。
置かれたフェッチランドからある程度デッキが予測できるモダン環境。松田ほどの熟練者ともなれば既に何択かに絞っているだろう。《新緑の地下墓地》に眉を動かしながらも、やるべき行動はただ一つ。《明日への探索》を「待機」してまずは一歩前進する。
だが渡邉が《寺院の庭》をサーチすると、思わず松田は「緑白?」とつぶやき、続けて現れた《コーの精霊の踊り手》で、表情をはっきりと歪めた。
そして帰ってきたターンで、松田が起こした行動は《遥か見》のみ。
白緑オーラデッキの中で唯一触ることのできるクリーチャーである《コーの精霊の踊り手》に、松田は触れなかったのだ。
こうなってしまうと、《コーの精霊の踊り手》はすさまじい勢いで成長を始める。《グリフの加護》、《怨恨》、《怨恨》と連続で唱えていき、あっという間にパワーは11に。
一瞬で、松田はラストターンを迎えることになる。
5枚目の土地を置いた松田は、手札と戦場を見比べ、真剣な表情でこのターンの動きを計算するも。
破顔一笑。並べていた土地を片付けたのだった。
松田 0-1 渡邉
松田「相性がひどい!」
渡邉「先手取れたのも大きかったですね」
見事に初陣を勝利で飾った渡邉。有利なマッチアップとはいえ、緊張の色が見える。
一方、絶望的な戦いの松田は笑顔を見せる。
対照的な二人。
Gamge 2
このゲームは打って変わって、松田が7枚に対して熟考することとなった。
結局、1ゲーム目の渡邉と同じように、悩ましい手札をそのままキープすることに。
最初にアクションを起こしたのは渡邉。キープの決断が速かったのは、勿論手札にキーカードである呪禁クリーチャーがあったからだ。《林間隠れの斥候》を唱え、早々に《グリフの加護》と《蜘蛛の陰影》で強化を始める。
相手のデッキがはっきりとわかっているこのゲームも、松田が目指すべきゴールは同じだ。とにかく土地を並べること。
そして松田のゴールが土地を並べることにあるように、渡邉のすべきことは、ひたすらオーラを付けて、ライフを削り切ること。《ひるまぬ勇気》に《グリフの加護》を重ねてひたすら攻撃を行う。
2度のアタックでライフは26となり、その間に松田は土地を伸ばし続ける。
違うゴールを目指して突き進む、挑戦者と神。
そしてこのゲームで先んじたのは、神だった。
最後のターン。松田はドローしたカードを見て、動きを止める。
まず今引いた《遥か見》をキャスト。ライブラリーの《山》の枚数を何度か確認したあとに、力強くセットランドする。8枚目の土地を。
間もなくして、《風景の変容》が36点のダメージを叩き出した。
松田 1-1 渡邉
神が星を取り戻し、ここからはサイドボード戦に。
松田は《強情なベイロス》と《神々の憤怒》、《渋面の溶岩使い》、《再利用の賢者》と、苦しいサイドボーディング。
一方の渡邉は、必殺の《神聖の力線》と《ガドック・ティーグ》。
メインボードでの相性差は、サイド後も覆ることはない。
Game 3
1ターン目、既に渡邉の場には3枚のパーマネントが並んでいる。土地と《ぬめるボーグル》、そして《神聖の力線》。
《神聖の力線》を置かれた場合、タイタンシフト側は通常、エンチャント破壊で対処するか、それが難しい場合、プランBへと移行する。それは本体を《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》で焼くことを諦めて、盤面を一掃する。そして《原始のタイタン》などのクリーチャーで殴り勝つのだ。
しかし、クリーチャーが呪禁で守られている白緑オーラ相手にはそれは通用しない。
それが、白緑オーラの《神聖の力線》がタイタンシフト相手に必殺たる理由だ。
渡邉は2ターン目に《天上の鎧》で《ぬめるボーグル》を強化すると、《林間隠れの斥候》を追加する。《神聖の力線》で自らを守りながらも、松田のライフを速やかに削り切れるという、理想的展開。
松田にとっては絶体絶命。
だが、ここでモダン神がその矜持を見せつける。
《遥か見》経由で3ターン目に《強情なベイロス》を着地させ、《ぬめるボーグル》に対してブロッカーを立てる。そして追加のオーラを引かなかった渡邉は、《強情なベイロス》に対して攻撃できない。
逆に《強情なベイロス》で渡邉のライフを落とすと、松田はデッキに1枚の《再利用の賢者》をプレイ。対象はもちろん、《神聖の力線》。
次のターン、6枚目の土地を置いた松田は、2枚のカードを公開する。
松田 2-1 渡邉
最悪のマッチで、まさかの王手を賭けた神は、真剣な表情で次のゲームに臨む。
有利なマッチアップで追い詰められた挑戦者は、一貫して真剣な表情を貫いている。
対照的だった二人の表情はいつしか同じになっていた。
Gamge 4
後がなくなってしまった挑戦者、渡邉。力強くオープニングハンドをキープする。
一方、相性最悪のマッチアップで王手を賭けた松田は、マリガン後の手札で熟考。《明日への探索》と5枚の土地という手札で頭を悩ませるも、新鮮な5枚に望みを託す。
そしてこの占術が《渋面の溶岩使い》だったことで、さらに松田を悩ませる材料となった。
相手が《ぬめるボーグル》キープだった場合には意味がないが、《コーの精霊の踊り手》には非常に強い《渋面の溶岩使い》。
悩む松田。そして手札の少なさを考慮し、《ぬめるボーグル》による裏目を嫌った松田は、《渋面の溶岩使い》をライブラリーのボトムに送り込む。
この選択が、第4ゲームの勝敗を分かつことになった。
渡邉は1ターン目を、セットランドだけで終える。そのたった一つの行動で、松田はすべてを察した。
7枚キープ。《神聖の力線》も1マナの呪禁クリーチャーもいない。
ということは、《コーの精霊の踊り手》なのだ。
《渋面の溶岩使い》があれば。だがそれはもう後の祭り。
2ターン目に出てきた《コーの精霊の踊り手》に、次々とエンチャントが付いていき、あっという間にそのサイズは松田のライフを2回の攻撃で沈められるほどへと膨れ上がる。
さらに渡邉が手札から追加したクリーチャーは、《ガドック・ティーグ》。これによって《風景の変容》による勝利も封じ込められてしまう。
この《ガドック・ティーグ》にも、《渋面の溶岩使い》さえあれば。松田の脳裏にはまだゲーム開始時の占術が焼き付いているだろう。
それでも松田は諦めない。
マナブーストで土地を伸ばし、《原始のタイタン》を唱えて《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》をサーチし、《ガドック・ティーグ》をセットランドで除去できる状態にしておきながら、《風景の変容》のトップデッキに備える。
裏目を引いてしまい、盤面は追い詰められた状況。ここで冷静に立ち回るその胆力こそ、神なのだ。
そして、モダン神の神通力は、現実のものとなった。
松田のライフは8。《コーの精霊の踊り手》のパワーは17。手札には《ひるまぬ勇気》。《コーの精霊の踊り手》のパワーは21になり、トランプルが付く。
渡邉は手札の《ひるまぬ勇気》を《コーの精霊の踊り手》にエンチャントすれば、このゲームに勝利できる。
だが、神の力は渡邉を攻撃ではなく、守りに向かわせた。
《コーの精霊の踊り手》は《原始のタイタン》がチャンプブロック。
そしてその後、渡邉が唱えたのは《神聖の力線》! そう、《ガドック・ティーグ》が戦場にいる状態では唱えることのできない《神聖の力線》!!
当然、《神聖の力線》は唱える前の状態に巻き戻る。手札に返り、使用した4マナは戻る。
だが、戦闘フェイズは戻らない。《ひるまぬ勇気》を付けて攻撃すれば勝利できた十数秒前の過去には戻れない。
思わず声を上げる渡邉。力なく、ターンを返す。
本来は訪れなかったはずの、松田の最後のターン。
《風景の変容》を引けば勝利し、今回もモダン神を防衛できる。
ゆっくりと、ライブラリーのトップに手をかける。そしてめくれた緑のカードを――
唱えることなく、投了したのだった。
松田 2-2 渡邉
渡邉「ミスったー。やっちゃいました。やっちゃった」
松田「《ガドック・ティーグ》はお互いですからねー」
渡邉「相手だけだったら強すぎますね。やっちゃった。でも逆に厄落としできた気がします」
松田「はは」
終始緊張の色を見せながら神決定戦に臨んでいた渡邉が、軽口を飛ばす。どうやら第4ゲームのミスで吹っ切れたようだ。
気付けば二人の表情は、同じだった。真剣な表情で、考えるのはただ一つ。
最後のゲームのことのみ。
Gamge 5
とうとう、第10期モダン神決定戦は最終ゲームまでもつれ込んだ。
そしてモダン神・松田は即座にキープを宣言。
渡邉は、悩む。口元に手を当てて、最後の戦いに臨む手札を吟味する。
間もなくしてキープの声が聞こえ、そしてモダン神を決める最後の戦いが、始まった。
今回も、お互いにファーストアクションはない。2ターン目に《遥か見》を唱えた松田に対し、渡邉は《コーの精霊の踊り手》。
ここまですべてのゲームで松田を打ち倒してきた恐ろしいクリーチャー。だが、今回は備えがきちんとあり、松田は《コーの精霊の踊り手》に《稲妻》を浴びせた。
これには渡邉、苦悶の声を漏らす。
これで一瞬は松田有利に見えたがしかし、渡邉は《ぬめるボーグル》を引き込むと、エンチャントを付け始める。
《神々の憤怒》を持つ松田を後目に、瞬く間に《ぬめるボーグル》は4/4へと成長して除去圏外に飛び、続くターンには、ブロッカーとして立てた《強情なベイロス》を超えるサイズとなる。
そしてここに来て、松田は《風景の変容》を引かない。
手札にあるのは《稲妻》と《神々の憤怒》。この状況では何の意味もないカードたち。
さらに渡邉から、ダメ押しの《神聖の力線》。
安堵の息を吐く、挑戦者・渡邉。
絶望の息を吐く、モダン神・松田。
最後のカードを、松田は引く。
最後のエンチャントを、渡邉は唱える。
今この瞬間まで神だった男は、一気に表情を崩し、新たに生まれた神へと手を差し出した。
新たな神は、激闘を制した感動で目頭を熱くさせながら、差し出された手を握り返した。
神が受け継がれる。これはその儀式。
松田 2-3 渡邉
渡邉 真木、第10期モダン神に就任!
おめでとう!!