第9期スタンダード神決定戦: 和田 寛也(東京) vs. 岡井 俊樹(東京)

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 マジック:ザ・ギャザリングの大きな魅力の一つは、誰とでも対戦することができる点にある。

 デッキを手にすれば、性別や年齢はもちろん、これまでの戦歴も問わずに対戦ができる。初めて大会に参加したプレイヤーが、いきなりプロツアーチャンピオンと対戦することも、あり得ない話ではないのだ。国籍や話す言語が違っていても構わない。そして、どのようなを信仰していようとも。

 その上で、限られたプレイヤーにのみ参加が認められる”ハイレベルな戦い”も存在する。

 プロツアーはその代表であろうし、来月開催される世界選手権などは世界でも24名のプレイヤーにしか参加権利が与えられない。

 そして、このスタンダード神決定戦の席に座れる者は、わずか2名

 和田 寛也が神の座に就いたのは、2016年1月に開催された第5期スタンダード神決定戦のことである。そこから防衛を重ね、気づけば今回で第9期。これまで神決定戦で使用してきたデッキも、「白緑大変異」「グリクシスコントロール」「ティムールビートダウン」「ティムール《霊気池の驚異》」と多岐にわたる。

 実力の高さは、ローテーションにより環境の変化が大きく、「防衛が難しい」と言われるスタンダード神決定戦で連続防衛を果たしてきたことが示している。第7期のインタビューで引退を告げてからも、その実力を活かして勝利を重ねる古豪だ。

 対する岡井 俊樹を紹介するのに相応な言葉は、”若き精鋭”であろうか。挑戦者インタビューでも語っているが、マジックを始めて2年。この1年で頭角を現しPWC Championship 2017で優勝を果たし、プロツアー『破滅の刻』地域予選in東京を突破。初のプロツアーであるプロツアー『破滅の刻』でも、世界の強豪を相手に見事な戦いを繰り広げた。

 岡井がその実力を磨いているPWCは、第6期ミスターPWCの称号を持つ神・和田にとっても思い出の場所だ。否が応でも「先輩・後輩」という言葉が脳裏に浮かぶ。一方はマジックの世界に引退を告げ、また一方はマジックの世界にその名を轟かせ始めている。

 その二人が、今、対面する。経歴は関係ない。積み重ねてきた実績も、何ら影響を与えない。この場への慣れに差はあるだろうが、神にも挑戦者にもハンデは与えられない。ルールはシンプルだ。両者のライフは20点。3本先取。フォーマットはスタンダード。

 そして、「勝ったものが、スタンダード神である」ということだ。

Game 1

 和田がダブルマリガンを選択し、岡井の《霊気拠点》、和田の《隠れた茂み》から、神へと至る一戦が開始される。

 岡井は2ターン目に《キランの真意号》を戦場へ送り出し、和田の唱えた《牙長獣の仔》《致命的な一押し》で除去する。和田は《霊気との調和》《沼》とエネルギーを確保。

 続く岡井のターン。土地をすべて倒して、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が唱えられる。

ゼンディカーの同盟者、ギデオン

 『イクサラン』が発売されると、スタンダードには久方ぶりのローテーションがやってくる。「使えなくなるカードの中で、思い出の1枚は?」とプレイヤーに問えば、このカードを選ぶものが多いだろう。それくらい、このカードは多くのプレイヤーに勝利をもたらし、苦杯を嘗めさせてきた

 環境最終盤の一戦でも、このプレインズウォーカーの強さを目の当たりにすることになった。

 《キランの真意号》《削剥》によって失うが、次のターンから《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と、彼が生み出した騎士・同盟者トークンが攻撃を仕掛け、そこへ《屑鉄場のたかり屋》も加わる。

 和田は《スカラベの神》を出して抵抗を試みるが、《無許可の分解》に襲われる。エンドフェイズには手札に戻り、次のターンには再び戦場に舞い戻るが、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を従える岡井にとって、時間は1ターンで十分。全軍で攻撃を仕掛け、勝利を掴み取った。

 これまで何度も呟かれ、数多のカバレージにも記されてきたであろう言葉を、ここで綴っておきたい。

 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、強し

和田 0-1 岡井

 サイドボードを使用するのは3ゲーム目からであるため、ここで両者が行うのはシャッフルのみ。その間、一切会話はなく、カードと空調の音のみが室内に響き渡る。

 プロツアー『破滅の刻』における「ラムナプレッド」の勝利から始まった今環境も最終盤を迎えている。そして、現在のスタンダードで活躍を果たしているデッキは、とにかく多い。

 アグロからコントロール、さらにはコンボまで、ありとあらゆるデッキが環境に存在し、結果を残している。この戦いを見つめ、解説を担当しているHareruya Prosの津村 健志をして、「今まで見たことがないくらい」とのことだ。

 その最終盤で激突する、和田の「4色エネルギー」と、岡井の「マルドゥ機体」神と挑戦者の読み合いを見る限り互いの予想自体は外れたようだが、互角の戦いといったところであろうか。

 1ゲーム目は、岡井の「マルドゥ機体」が《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を活かし、強さを見せた。さて、2ゲーム目に強さを見せるのは……?

Game 2

 和田は《植物の聖域》から《霊気との調和》を唱え、次のターンには《牙長獣の仔》を戦場へ。これは《致命的な一押し》で除去されてしまうが、《ならず者の精製屋》を続けて送り出す。岡井は《歩行バリスタ》をX=1で唱えるのみ。手札の呪文を使うために必要な、赤マナが用意できない。

 《ならず者の精製屋》で攻撃を加えた和田は、《つむじ風の巨匠》を唱えて戦力を増強。エネルギーは7となり、土地も順調に確保できている。

 岡井は待望の赤マナ源である、《感動的な眺望所》をタップイン。そのままターンを終えようとすると、《つむじ風の巨匠》が飛行機械トークンを1体生成した。

 飛行機械トークン、《つむじ風の巨匠》《ならず者の精製屋》という3体で攻撃を加えて、ダメージは6点。メモに相手のライフを記したスタンダード神・和田は、神を戦場へと送り出す。1ゲーム目ではわずかな時間しか盤面に居座れなかった《スカラベの神》だ。

スカラベの神

 2柱の神が居座る戦場。岡井は《霊気拠点》をプレイして、土地が5枚。そして、それらを一切使用することなく、こう告げた。

岡井「終わりです」

 それを聞いた和田は、身を乗り出しながら尋ねた。

和田「終わり?」

 岡井が頷くのを確認すると、和田は盤面を見つめてから、一度宙を仰ぐ。エネルギーを使用して《つむじ風の巨匠》でトークンを生成すべきか否か、じっくりと考え、悩む。ここでは生成しないことを選択したが、ターンを受けてからもその悩みは終わらない。何度もクリーチャーを並べかえ、最適な攻撃を探る。その悩みの種を、思わず和田は口にした。

和田「アヴァシンあるから……」

大天使アヴァシン

 「マルドゥ機体」が5マナを立たせていれば、当然警戒すべき1枚、《大天使アヴァシン》。和田は先ほどから、「《大天使アヴァシン》が出てくる」という想定で、思考を巡らせている。

 ひとまず和田は、《スカラベの神》《牙長獣の仔》をゾンビに。そして、飛行機械トークン、《ならず者の精製屋》《つむじ風のならず者》《スカラベの神》で攻撃を仕掛けた。

 岡井は一度座り直して、土地を倒す。予想どおり、《大天使アヴァシン》が盤面に降臨し、《歩行バリスタ》と共に《スカラベの神》のブロックへ。《スカラベの神》は一旦墓地に眠ることになったが、即座に手札に舞い戻る。

 そして、《歩行バリスタ》が和田にダメージを与えて自壊すると、《大天使アヴァシン》が変身を遂げた。盤面に残ったのは、《浄化の天使、アヴァシン》と、ゾンビとなった《牙長獣の仔》のみ。

 手札もマナも潤沢である岡井は、《難題の予見者》で手札を暴く。追放できる手札は……《スカラベの神》《反逆の先導者、チャンドラ》のどちらか。ここでは《反逆の先導者、チャンドラ》を選んだ。

 岡井の従えた《浄化の天使、アヴァシン》による攻撃は痛烈だが、変身を遂げたことで警戒を失っている。攻撃を通しやすくなった和田は、《牙長獣の仔》で攻撃を仕掛け、《難題の予見者》が立ちはだかるのを確認すると、エネルギーを注ぎ込んで討ち果たす。ドローした《つむじ風の巨匠》をそのまま唱え、さらに《放浪する森林》も戦場へ送り込み、ターンを返す。

 岡井は表情を変えることなく盤面を見つめ、一度大きく息を吐き出した。その視線は、カウンターを4つ乗せた《放浪する森林》に向けられている。《浄化の天使、アヴァシン》が、止まった。ここでは何もせずにターンエンド。

 飛行機械トークンを2体生成してから、和田がターンを受ける。手を動かしながら、何度もクリーチャーを並べ変えて、最適な攻撃プランを練り上げていく。ここで導き出した答えは、《放浪する森林》《つむじ風の巨匠》、飛行機械トークン1体、そして《牙長獣の仔》による攻撃であった。

 《牙長獣の仔》は《浄化の天使、アヴァシン》でブロックし、《無許可の分解》《放浪する森林》を除去したものの、ライフを大きく削られた岡井。再び《スカラベの神》が降臨するのを見届け、ゲームカウントを1-1にすることを選んだ。

和田 1-1 岡井

 盤面を片付けた両者の手が、デッキケースに伸びた。3ゲーム目からは、サイドボードが投入される。2ゲームを終え、お互いのデッキが判明した上で、新たなゲームの始まりである。

 両者、じっくりとサイドボードを確認。前のめりになってデッキを見つめる岡井に対し、和田は背もたれに体を預け、手早くカードを選び抜いていく。

つむじ風の巨匠スカラベの神ならず者の精製屋

 和田が選択した「4色エネルギー」には、最強ではなく最良という言葉が似合う。「ティムールエネルギー」に黒をタッチすることで、《スカラベの神》の使用と、《放浪する森林》を最大サイズで唱えることを可能としている。数多くのデッキが存在する中で、あらゆるデッキに五分の戦いを繰り広げられることが大きな利点だ。神決定戦という場に慣れている和田が、読み合いの末に選択した結果としては非常に興味深い。

 一足先にサイドボードを片付けシャッフルも終えた岡井はデッキを差し出し、静かに3ゲーム目の開始を待った。和田がシャッフルを終え、互いのデッキを交換しながら、岡井は静かに告げた。

岡井「先手貰います」

Game 3

 3ゲーム目は、先手の岡井が主導権を握り、《歩行バリスタ》《ピア・ナラー》と土地を伸ばしながら展開を始める。対する和田は2枚の《霊気との調和》を唱えて土地とエネルギーを確保し、《つむじ風の巨匠》へ繋げていく。

 迎えた4ターン目。岡井は迷うことなく、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を唱えた。

ゼンディカーの同盟者、ギデオン

 再び君臨したプレインズウォーカーをこのまま盤面に居座らせれば、劣勢になるのは必定。どうにかして《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を倒してしまいたい和田は、《つむじ風の巨匠》に飛行機械トークンを2体生成させて、攻撃を仕掛けた。

 岡井、熟考。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》は確かに守るべき存在ではあるが、余剰なブロックは戦力の低下に繋がる。プレインズウォーカーを守る余り、自身が劣勢となっては本末転倒だ。飛行機械トークンは飛行機械トークンで相打ちに、《つむじ風の巨匠》《ピア・ナラー》と騎士・同盟者トークンでブロックし、忠誠度を1減らすに留めた。

 和田は《霊気圏の収集艇》を唱え、次なる攻撃の機会を伺う。岡井は忠誠度を回復しながら、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》による攻撃を仕掛け、《模範的な造り手》を送り出してターンを終える。

 《霊気圏の収集艇》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を攻撃。これを岡井はスルーして、忠誠度は1。そこへ《反逆の先導者、チャンドラ》が追い打ちをかけ、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》は墓地へと沈んだ。

 この展開を岡井は読み切っていたようで、静かにターンを受けて全軍で攻撃を仕掛け、《反逆の先導者、チャンドラ》を墓地に沈めた。

 岡井が打点を増やすために《歩行バリスタ》の能力を起動したところで、和田の《栄光の刻》。岡井は怯むことなく、もう1体の《歩行バリスタ》を戦場に送り込んだ。クリーチャーを用意したい和田は《放浪する森林》を戦場に送り出す。しかし、これには《無許可の分解》《蓄霊稲妻》《歩行バリスタ》は除去しておく。

 慌ただしいやり取りが終わって、和田の残りライフは5。岡井が《ラムナプの遺跡》を起動し、攻撃を仕掛ければ、ぴったりと削りきれるライフであった。

和田 1-2 岡井

 ”最良”な「4色エネルギー」に対して、1ゲーム目と3ゲーム目に岡井が見せた、「先手、4ターン目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》」は、“最強”を思わせる働きであった。

ゼンディカーの同盟者、ギデオン

 「ラムナプレッド」や「黒単ゾンビ」の影響で採用していないリストも存在するが、それでもこのプレインズウォーカーの強さは健在だ。「一枚で勝てる」と称されるように、盤面に居座らせれば、あっという間に勝利を掴み取ってくれる。

 勝利し、神の座へ一歩近づいた岡井と、それを追う和田。先手後手が入れ替わるため、今回も二人のサイドボーディングは慎重に行われている。

Game 4

 両者、7枚の手札をキープ。和田は1ターン目の《霊気との調和》を皮切りに、《牙長獣の仔》《ならず者の精製屋》と理想的な動き出し。対する岡井は《屑鉄場のたかり屋》《ピア・ナラー》と動いてターンを返す。

 相手に除去はない。そう判断した和田は、まず《霊気との調和》で土地とエネルギーを補充。そして《削剥》《ピア・ナラー》を除去し、《ならず者の精製屋》《牙長獣の仔》で攻撃を加える。《牙長獣の仔》を飛行機械トークンがブロックし、最初の攻撃は終了。

 ブロッカーを担えない《屑鉄場のたかり屋》で攻撃してから、岡井は2枚目の《ピア・ナラー》を戦場へ。

 和田は《木端+微塵》《ピア・ナラー》を再び除去。さらに《つむじ風の巨匠》を追加して、エネルギーは9。ここでも《ならず者の精製屋》《牙長獣の仔》で攻撃を仕掛けた。岡井はターンを受け、《スレイベンの検査官》《霊気圏の収集艇》と唱えてターンを終えた。

 指で机を叩きながら、打点を計算する。相手のライフを大きく削り、エネルギーも潤沢だ。そのエネルギーを《牙長獣の仔》に注ぎ込むべきか、それとも《つむじ風の巨匠》のトークン生成に注ぎ込むべきか。手札には《反逆の先導者、チャンドラ》もある。室内には、和田がカードを並べ替える音のみが響き渡っている。

 長考の結果は、2体のトークンを生成すること。次の攻撃ではライフを削りきれず、目前に迫った勝利を掴むためには、あと一歩が足りない。その一歩を踏み込むために力を貯める、と判断したようだ。

 しかし、この判断は、良い意味で裏切られる。”あと一歩”を飛び越える手段が、手札に引き込まれた。

 ドローは、《栄光をもたらすもの》

栄光をもたらすもの

 勢い良く戦場へ送り出し、総攻撃。《栄光をもたらすもの》の「督励」による炎が、第5ゲームの訪れを告げた。

和田 2-2 岡井

 ゲームカウントは、上記のとおり2-2。どちらかが神となるまで、あと1ゲームとなった。

 この1ゲームは、実に重い。勝者は神として、敗者は人間として、この場を去ることになる。

 その重さを、和田も岡井も理解している。

 理解しているから、二人は対戦前に再び挨拶を交わしたのだ。室内に響くはっきりとした声で、

「よろしくお願いします」

 と。

Game 5

 岡井は《スレイベンの検査官》《屑鉄場のたかり屋》とクリーチャーを並べていく。和田は《霊気との調和》《導路の召使い》と動き出してマナを伸ばそうと試みるが、《木端+微塵》《導路の召使い》が除去される。

 再び和田が《霊気との調和》を唱えてターンを終えると、岡井は2体目の《スレイベンの検査官》《屑鉄場のたかり屋》を送り出す。4体のクリーチャーを並べて、戦力は十分だ。

 相手の戦場に並んだ4体のクリーチャーを眺めた和田は、《つむじ風の巨匠》を送り出した。ここまで確保してきたエネルギーを使用して、戦力確保を狙う。

 2体の《屑鉄場のたかり屋》による攻撃に対しては、飛行機械トークンを2体生成してブロック。片方の《屑鉄場のたかり屋》を沈める。

 ターンを受けた岡井。手札にある数多くの選択肢の中から、《難題の予見者》を唱えることを選んだ。

難題の予見者

 そして、これがスタンダード神決定戦を締めくくる”難題”の始まりとなった。

 公開された手札は、《ならず者の精製屋》《反逆の先導者、チャンドラ》《栄光をもたらすもの》《スカラベの神》

ならず者の精製屋反逆の先導者、チャンドラ栄光をもたらすものスカラベの神

 岡井は大きく身を乗り出し、公開された手札、自分の手札、そして盤面を見つめる。

 この戦いでが最も長い静寂が訪れる。時間を掛けて思考を巡らす。どれを追放すべきか――どれを追放すれば、神になれるのか

 岡井の場には、《スレイベンの検査官》《屑鉄場のたかり屋》が2体ずつ。そして、《難題の予見者》。対する和田は《つむじ風の巨匠》を従えて、土地が4枚

栄光をもたらすもの

 次の和田のドローが土地ならば、《栄光をもたらすもの》が戦場へと降り立つ。ひとたび攻撃が始まれば、戦線は崩壊。これを止める術が、岡井にはない。確実な手段は、今この瞬間に追放してしまうことだ。

反逆の先導者、チャンドラ

 《反逆の先導者、チャンドラ》を唱えるだけのマナは、すでに用意されている。《難題の予見者》が「-3」能力で除去され、後詰めが続く展開もある。除去に手間取り居座られれば、《スカラベの神》が降臨する可能性も高い。

 《木端+微塵》が墓地にあるため、あと幾ばくかのライフを削りさえすれば勝利できる。それでも、その勝利が遠のく可能性もある。追放できるカードは1枚。何度も盤面に並んだクリーチャーを並べ替え、思考を巡らせる。そして、岡井は決断し、神に対して、こう告げた。

岡井《反逆の先導者、チャンドラ》で」

 ターンを受けた神・和田。ゆっくりとドローを確認して一言。

和田「引けない……」

 土地を引けなかった和田は、ひとまず《ならず者の精製屋》を唱えて手札とエネルギーを補充。《植物の聖域》をドローするが、これはタップイン。

 エネルギーは5。飛行機械トークンを1体生成できる。盤面の《つむじ風の巨匠》《ならず者の精製屋》をブロッカーにすれば、次の攻撃を凌げそうではある。

 ここで岡井が唱えたのは、《ピア・ナラー》

ピア・ナラー

 《スレイベンの検査官》が「調査」していた手がかりトークンを利用し、《つむじ風の巨匠》《ならず者の精製屋》をブロック不可能とさせ、総攻撃!

 ここからの数分。会場は、これまでにないくらい静かになった。

 ドローを確認し、静かに盤面を見つめる和田。

 戦いは終わった。和田の手札に、逆転勝利を掴む手段はない。このターンを終えれば、岡井が墓地から《木端+微塵》を唱えて、敗北が決まる。それは、和田も分かっている。

 それでも神は、思考と戦いを止めない。

 《栄光をもたらすもの》を唱え、「督励」。《難題の予見者》を除去し、ドローを確認。

 和田が、ターンを終える。神が、最後のターンを。

 その在位期間、616日

 ローテーションによって環境が激変するため、神決定戦の中でも最も防衛が難しいと言われるスタンダードにおいて3期連続で防衛を果たし、我々の前に神として君臨し続けた和田 寛也

 彼は、神決定戦の度に熱戦を繰り広げ、勝利のために思考を働かせてきた。

 神として、様々なインタビューに答え、言葉を届けてきた。

 その和田が発した――そう、スタンダード神が発した最期の言葉は、

 祝福、であった。

和田「おめでとう」

和田 2-3 岡井


 神の重さは、神になったものにしか分からない。さらに言えば、第5期から第8期にスタンダード神が味わった重さは、和田にしか分からない。これから先、誰かが連続防衛を果たしたとしても、同じ重圧を味わうことは不可能だ。

 だから、この場を去ろうとする和田に対して、スタッフが投げかけたのは、

「お疲れ様でした」

 という言葉であった。私も、そう投げかけた一人である。そこに万感の感謝も込めて。

 スタンダード神・和田の在位は終わった。ここからは、新たな神の世界である。

 新たな神には、新たな重圧がのしかかる。しかし、その重圧に新たな神は打ち勝ってくれると、私は信仰する。

 打ち勝つ方法が、直接和田から伝授されたわけではない。「神になると、こういうことが起きるよ」というアドバイスもない。あったのは、一言の祝福と握手のみ

 だが、それで十分伝わっているはずだ。神であった和田は、マジック愛に溢れている人物だ。マジックを愛し、マジックを楽しむことを常に忘れない。その和田から祝福を受けた新たな神もまた、マジック愛に溢れている。その証拠に、神の座に就いた感想を筆者が問うと、彼は「嬉しいです」と笑顔で述べたあとに、こう告げたのだ。そしてこれが、神の第一声である。

岡井「楽しいゲームができて、本当に良かったです」

 新たな神の前途に、幸多からんことを。

第9期スタンダード神決定戦、勝者は岡井 俊樹!

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