By Kazuki Watanabe
今回のプロツアー『イクサラン』で、初めて顔を合わせるHareruya Prosが何人かいる。
既にインタビューを掲載したカルロス・ロマオやグジェゴジュ・コヴァルスキもそうだ。
そして、もう一人。スタンダードのデッキについて、どうしても話を伺っておきたかったプレイヤーがいる。
マルク・トビアシュだ。
デッキビルダーとしても有名な彼は、『イクサラン』発売に合わせて2つのお気に入り -『イクサラン』は、このデッキから始めよう-という記事を書いてくれた。そこに掲載されているグリクシスコントロールを参考にしたプレイヤーも少なくないはずだ。
彼と会場で顔を合わせ、一通りの自己紹介や雑談を交わしたあとに、私は「今回使用するデッキは?」と質問を投げかけた。
すると彼は、2枚のカード名を伝えてくれた。
アルバカーキの片隅で、私の頭上に「?」が何個も浮かんだことは想像に難くないだろう。
辛うじて「ど、どういうこと?」と彼に伝えると、彼は笑顔でこう言った。
マルク「じゃあ、少しずつ紹介するよ。今回の使用デッキ、ドレイクグロウンだ」
それでは、始めよう。稀代のデッキビルダー、マルク・トビアシュによる「ドレイクグロウン」のDeck Techである。
■ ティムールの手薄な場所
マルク「まずはこのデッキを作る前提から話していこうかな。ティムールエネルギーがトップメタになる、と誰もが思っていた。それは僕も一緒で、『さて、どうやって勝とうかな』と考えたんだ。そして、『ティムールの弱点はどこだろう?』とね」
――「なるほど。結果、どこか弱点は見つかりました?」
マルク「結論から言うと、ほとんどなかったよ。残念ながらね。エネルギーデッキは確かに万能なデッキで、リストが研ぎ澄まされて対処がさらに難しくなった。だけど、比較的手薄な部分もある。それが空さ」
――「飛行機械トークンが厄介なイメージですが、弱点ではなく”手薄”なんですね」
マルク「もちろん、”比較的”だよ。《つむじ風の巨匠》や《栄光をもたらすもの》がいるからね。だけど、《牙長獣の仔》《ならず者の精製屋》《逆毛ハイドラ》が踏みしめている地上で戦闘を挑むよりは、望みがあると思ったんだ」
――「たしかに、彼らが並んでいる地上よりは攻めやすそうです」
マルク「そうだよね。空が手薄なのは赤単も一緒だから、この環境の飛行クリーチャーは想像以上に働いてくれるんだ。そして、もう一つ勝つ手段がある。それは一撃必殺さ。相手の戦力が整う前、もしくは一瞬のスキを突いて勝ってしまえばいい。そしてたどり着いたのが、この2枚なんだ」
――「《奇怪なドレイク》と《謎変化》……まさかこのカードをプロツアーで見るとは思いませんでした」
マルク「そうだろうね。このデッキを使用しているのは、会場では僕一人だと思うよ」
《奇怪なドレイク》
――「では1枚ずつご紹介していただけますか?」
マルク「まずは《奇怪なドレイク》だね。先ほど言った、比較的手薄な空を攻める戦力だ。タフネス4、というスペックが非常に重要で、《ショック》《稲妻の一撃》と言った環境に存在する軽い呪文1枚では除去されないんだ」
――「火力で除去しようと思ったら、2枚を使わなければなりませんね」
マルク「もちろん《致命的な一押し》や《蓄霊稲妻》、《ヴラスカの侮辱》には耐えられないけど、この1枚を除去するために相手がリソースを割いてくれるなら大歓迎さ。2枚目の《奇怪なドレイク》もいるし、こちらの《牙長獣の仔》が生き残ってくれるわけだからね」
――「なるほど。その差が活きてくるわけですね」
マルク「そういうことだね。そして、それらを避ける手段も入っている。《顕在的防御》だ。膨大なマナやエネルギーを注いだり、『紛争』を達成するために何かを生け贄にしたり……としてくれたところで《顕在的防御》を唱えたら、相手は絶望すると思うよ。1マナで弾いた上に、《奇怪なドレイク》のパワーが+1されるわけだから」
――「《顕在的防御》の能力が、さらに強力になっている……」
《謎変化》
マルク「そして《謎変化》。これも3/3、飛行という十分なスペックを持ったスフィンクスになってくれる。最初はエンチャント、というのも優秀なんだ。僕の土地を見て『《牙長獣の仔》か《導路の召使い》なら《本質の散乱》で打ち消してやる』と構えているところでプレイしたら、相手は戸惑うはずさ」
――「そして戦場に出てしまえば、各種呪文に反応して、攻撃を始めてくれるわけですね」
マルク「そう、《奇怪なドレイク》と《謎変化》が戦場にある状態だと、すべての呪文に付加価値が生まれるんだ。以前に記事で紹介したとおり、僕は《選択》という呪文が大好きなんだけど、この呪文がさらに強くなっている。唱えたらクロックが上がるんだ。《航路の作成》を唱えれば《奇怪なドレイク》のパワーは+2されるかもしれない。そして、《突破》なんていうリミテッドでしか見たことがないようなカードだって、プロツアーで活躍するのさ」
――「《突破》! こんなカードまで入ってるんですね」
マルク「何回も聞かれたよ。『どんな能力か、確認しても良いか?』と。さっきは『わかった。トランプルとドローだね』と言われたから、『いや、《奇怪なドレイク》のパワーは+1されて、《謎変化》が動き出すよ』と伝えたら相手は頭を抱えていたよ」
■ ブロックを躊躇すれば、一撃必殺
――「その上、ドローもできるとなれば、破格の呪文ですね。先ほど仰っていた”一撃必殺”についても教えて貰えますか?」
マルク「《奇怪なドレイク》は、思わぬ打点になるんだ。《稲妻の一撃》と《顕在的防御》を唱えると、3点火力に加えて《奇怪なドレイク》のパワーが+4される。あらかじめ《選択》と《航路の作成》を唱えてあったら、その時点で最低でも6/4。一気に9点ものダメージを叩き込むことができるんだ」
――「安易にスルーしたら、《奇怪なドレイク》によってとてつもないダメージを貰ってしまうわけですね」
マルク「そういうことだね。最大でパワー18まで育ったことがあるよ。『ドレイクグロウン』という名前は、かつての《サイカトグ》を超巨大なサイズに育て上げる『グロウン』というデッキから貰ったんだ。《サイカトグ》のように《奇怪なドレイク》が育っていくからね。大好きなデッキなんだよ」
――「その他に注目のポイントはありますか?」
マルク「デッキのベースはティムールだから、見慣れたカードが多いかもしれないね。《牙長獣の仔》は、このデッキでも強力だよ。土地が少なく見えるかもしれないけど、1マナのスペルが多いから綺麗に回ってくれるはず。あと、サイドボードかな。赤単相手には《焼けつく双陽》をサイドインするんだけど、このダメージでも《奇怪なドレイク》は生き残る。《謎変化》は、変化させなければ良いだけさ」
■ デッキビルダーの挑戦は続く
――「とてもおもしろいデッキですね。その他のデッキも色々と試したのですか?」
マルク「もちろんだよ。例えば、《秘儀司祭の杯》っていうカードがあるよね」
――「《秘儀司祭の杯》……『イクサラン』のカードですね。あまり見たことはありませんが」
マルク「このカードがとても気になって、《街の鍵》《策謀家テゼレット》《鼓舞する彫像》なんてカードを駆使して、《秘儀司祭の杯》のダメージで勝つ、なんていうデッキも考えたんだ。これはまだまだ調整が必要だけど、いつか紹介できるかもしれないね」
■ 目指す姿は、偉大なる先輩たちのような……
――「凄いですね……どうやったら、こういうアイディアが思い浮かぶのですか?」
マルク「カードリストを見て、デッキにするとしたら、どんな形になるかな? と考えるのが好きなんだ。特に誰にも使われていなくて、『弱い』とされているカードをどうにかして有効活用できないかを考える……これが楽しいんだよ」
――「なるほど。今回のデッキも、そういったところから生まれたのですね」
マルク「もちろん限界はあるけれど、使い方次第で輝くカードは必ずある。《奇怪なドレイク》や《謎変化》、そして《突破》なんて、捨てられてしまうようなカードだよね。だけど、彼らが《スカラベの神》の上を飛び越えて、勝利を掴んでくれることもあるんだ」
マルクは笑顔でカードを手にすると、
「そしてこれは、僕の目指すべき姿の一つなんだ」
と続けた。
マルク「プロプレイヤーとして勝利を掴むこと、これはもちろん重要だ。だけど、マジックの楽しさを伝えることも、プロプレイヤーの仕事だと思うんだ。僕も昔は『こんなコンボがあるのか』とか『このデッキ面白そうだな』と偉大なる先輩たちの記事を読んで、デッキを組んでいた。その内、自分でデッキを考えるようになったんだ。僕が憧れていたプレイヤーのように、デッキを作ることで『楽しさや驚き、そして感動を伝えられるプレイヤー』でありたいね」
私が「この記事を読んで、驚き、感動してくれる人は必ずいると思いますよ」と伝えると、彼は笑顔で言った。
マルク「ありがとう。そうであって欲しいね。日本のみんなによろしく。次の記事も楽しみにしててね」
2 《森》 1 《島》 1 《山》 4 《霊気拠点》 4 《植物の聖域》 4 《尖塔断の運河》 1 《根縛りの岩山》 -土地 (17)- 4 《牙長獣の仔》 4 《奇怪なドレイク》 4 《ならず者の精製屋》 -クリーチャー (12)- |
4 《選択》 4 《霊気との調和》 2 《顕在的防御》 2 《突破》 2 《ショック》 4 《蓄霊稲妻》 4 《稲妻の一撃》 3 《航路の作成》 4 《謎変化》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文 (31)- |
3 《否認》 2 《多面相の侍臣》 2 《呪文貫き》 2 《チャンドラの敗北》 2 《削剥》 2 《焼けつく双陽》 1 《至高の意志》 1 《慮外な押収》 -サイドボード (15)- |
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