ドラフトを繰り広げることで、環境理解が進んでいく晴れるーむ合宿。
カード1枚1枚の、そして『霊気紛争』の評価も徐々に変化し、“この環境ならでは”のデッキが登場し始めている。
「この環境で勝つためには?」と問われたとき、プラチナ・レベルの八十岡 翔太と高橋 優太は、【アドバンテージを活かして勝つ方法】を模索した。「コントロール寄り」という選択には工夫が必要なようだが、アドバンテージを得る方法は『霊気紛争』にも多数存在する。
■ 齋藤「活かし方次第」
齋藤 友晴に、『霊気紛争』のカードの印象を聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。
齋藤「『カラデシュ』よりもシナジーが強いという印象だね」
【前回の晴れるーむ合宿】の結果、「『カラデシュ』はかなりのシナジー環境」と分析がされていた。そうなると、『霊気紛争』も同様なのか? という疑問が湧いてくるが……。
齋藤「シナジーという意味では同じだけど、『霊気紛争』のシナジーは重要度がかなり違うと思うよ。『カラデシュ』よりもシナジーを“活かさなきゃいけない”という感じかな」
『カラデシュ』のドラフトでは、サイズの良好なクリーチャーが多数並び、あっという間に戦線が膠着していた。その膠着した戦線を突破するための鍵がシナジーであり、それ故に“『カラデシュ』はシナジー環境”という結論が出されていた。この場合のシナジーは、「100点を150点に伸ばすもの」であったと言える。
対して、『霊気紛争』のクリーチャーは軒並みサイズが落ち着き気味である。その上で必要なシナジーとは……「30点を80点に伸ばすもの」と言えよう。同じ”50点を稼ぐシナジー”でも、大きく意味が異なっている。シナジーがなければ30点の盤面しか構築できないのだから。
いずれにせよ、『カラデシュ』と『霊気紛争』が大きく違っていることは確かだ。その点は、齋藤も認めることである。
齋藤「『カラデシュ』とは、やっぱり違うんだよね。最初はそれが分からなくて、『カラデシュ』の感覚のままだった。だから、最初はカードを上手く活かしきれていなかったんだよ」
この合宿では、各ラウンドの終了後に使用したデッキをスマートフォンで撮影し、記録として残している。その”上手く活かしきれていなかった頃”のデッキを眺めながら、齋藤は環境の見通しを語ってくれた。
齋藤「『カードの力が足りてないのかな?』と最初は話していたんだけど、そんなに簡単ではなさそうだよ。組み合わせ次第で、かなり面白くなる。単純なカードの力じゃなくて、活かし方次第だね」
■ 研ぎ澄まされる、プロプレイヤーの思考
ここでもう一度、この合宿の意味について語った、【まつがんの言葉】を思い出そう。
- 2017/01/21
- インタビュー: まつがんが語る、『霊気紛争』ドラフトと晴れるーむ合宿
- 渡辺 和樹
「環境初期のドラフトというのは、回数を重ねるごとにアーキタイプが洗練されていく」
「環境初期にプレイヤーが作るデッキは、まだ環境が不明だから、『マナカーブに基づくだけ』といったピック、そして構築になることがほとんど」
「この合宿で行われているのは、環境の理想形を把握するための戦いなんだ」
合宿が始まったのは発売直後。環境初期の「シンプルなドラフト」に基づいた構築とカード評価では「カード単体の力不足」が際立っていた。
そこから実戦を積み重ねて、合宿も終盤。プロプレイヤーが“環境の理想形”に近づくに連れて、『霊気紛争』の評価は変わりつつある。
齋藤の言葉を借りるならば、「活かし方次第」。これまでの膨大な経験に『霊気紛争』環境の理解が加わったことで、プロプレイヤーの思考は研ぎ澄まされている。
■ 原根「もっと、突き詰めてみたい」
原根「僕の理解が追いついていないですね」
少し悔しそうな表情を浮かべながら、原根 健太は『霊気紛争』ドラフトについて感想を述べた。その悔しさの根源は、やはり“『カラデシュ』と『霊気紛争』の違い”にあるようだ。
原根「『カラデシュ』のドラフトとは、まったく世界が違いますね。数日前まで通用していたセオリーが、とにかく通用しないんです」
机上に並べたデッキを見つめて、原根ははっきりとした口調で続けた。
原根「一から学び直す必要がありますね。少なくとも、”『カラデシュ』のセオリーを『霊気紛争』に当てはめる”という方式は通用しません。それは、この合宿で痛感したことです」
この合宿を通して、プロが繰り広げるドラフトは10回戦以上。ピック、構築、対戦、そして意見交換。長時間の休憩を挟むことなく、ひたすらドラフトが、環境を理解するための戦いが続けられている。その時間の中で、原根は情報収集をしながら分析を続けているようだ。この合宿以外で行われているドラフトも、その情報源、分析対象である。
原根「今回の合宿、そしてSNSでの情報をみると“青緑”の成績が比較的良いんですよ。そして、この組み合わせは『カラデシュ』にかなり近い動きができる印象があります。前環境で培った知識を活かせる、という意味でも”この環境の正解”なのかもしれませんが、『この環境の最適解を出せていない』のかもしれませんよね」
原根は、部屋に掲示された成績表を見つめる。
原根「もっと、突き詰めてみたい。これが、今の正直な感想です」
そう続けた原根の表情は、新環境を解明できていない悔しさと同時に、「この環境を解明してみたい」という強い知的欲求に溢れているようだった。
以前の【ブログ】で、原根は「吸収効率を上げること」の重要性を述べながら、今年のテーマを「情熱」と綴っていた。
その目に宿る情熱を、そして、対戦終了後も積極的に意見を交換する姿を、筆者はこの2日間見続けた。この環境を突き詰めた先で原根が出す解答に期待したい。
■ 津村「明確なシグナル」
環境の完全なる解答ではないが、そこに至るまでの“1つの手がかり”をしっかりと掴んだ者も居る。
津村「『カラデシュ』以上のシナジー環境ですね、『霊気紛争』は」
と述べた津村 健志は、その一人だ。津村はこれまでのドラフトで得た”1つの手がかり”を「この環境のドラフトで気をつけるべきことはあるか?」という筆者の問いに対して返してくれた。
津村「青の《霊気急襲者》、黒の《霊気毒殺者》、そして赤の《霊気追跡者》は、見逃してはダメですね。これらは明確なシグナルです」
「この色は、空いているのか」を判別する上で重要な鍵となるシグナル。青、黒、赤に関しては、この3枚がシグナルだ、と津村は述べる。どれほど明確か、と言うと、
津村「逃したら、その色を主張するのは難しいですね。諦めなきゃいけません」
というレベルのようだ。
自分が2色目に迷っているときに《霊気急襲者》が流れてきたら「青を使うことも視野に入れる」という契機となる。このシグナルを読み取れるかどうかで、デッキの精度は大きく変わってくるため、環境を理解するためには、「この環境のシグナルは何か?」を把握しておく必要がある。その1つが、これら2マナの工匠シリーズだ、と津村は判断したようだ。
また、ドラフトを重ねることで、各色に対する認識も改められてきている。合宿の序盤は赤を選択する人が多かったのだが、徐々に減少傾向にある。これも「色とシグナルに対する理解が深まったから」と津村は説明する。
津村「最初は、『《ショック》が流れてきたから、赤を選べる』と判断していた人も多かったと思います。ですが、合宿が進むに連れて《ショック》では力不足の場面が多くなり、『《ショック》は赤の鍵、つまり、シグナルではない』と判断する人も増えてきて、結果として色の判断も変わってきましたね」
そして、改めて『霊気紛争』における2マナの工匠たちが重要であることを述べた。
津村「《改革派の結集者》《巻きつき蛇》といった多色のアンコモンと工匠が流れてきたときに多色を取ったならば、工匠の色はできない、と判断するくらいの覚悟が必要ですね」
もちろん、これは環境の解答に向かう、1つの手がかり。それは津村も理解しており、今後の課題も把握している。
津村「白と緑の工匠は、シグナルになるほどの強さじゃないんです。なので、この2色に参入できるかをどうやって判断するかが課題ですね。2マナの工匠によるシグナルも『今の段階では』というものですし……プロツアーに向けて練習を重ねなければいけません」
合宿も終盤を迎えて、津村は次を見つめている。この合宿は、環境の理想形を見つけるためのものだが、それも“1つの手がかり”だ。その手がかりの先にあるもの……そう、プロツアー『霊気紛争』だ。
この合宿が終わって夜が明ければ、プロツアーのスタンダードに大きな影響を与える【SCGO Columbus】の結果が出揃っているだろう。そうなれば、プロツアーへの戦いが一気に加速する。その速度に取り残されないためにも、ここでドラフトの感覚を掴んでおくことは非常に重要なのだ。
合宿でのドラフトも、残すところ数回戦。参加者の環境理解が進んだ中で、津村は次の手がかりを手に入れるに違いない。
「『霊気紛争』のドラフトとは?」という疑問に対し、
「『カラデシュ』以上のシナジー環境」
「カードパワーは控えめ」
「その中でも、明確なシグナルはある」
といった貴重な言葉を得ることができた。これらは、驚異的な速度で実戦と意見交換を繰り返した、プロプレイヤー独自の“感覚”である。
晴れるーむ合宿カバレージとしてお届けできる内容には限りがあるが、別の形で”感覚”をお届けしていこう。
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする