神インタビュー: 松田 幸雄 ~神を魅了する、知的欲求~

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 「人は何故、文章を読むのだろう?」

 少し漠然とし過ぎている。これは、モダン神決定戦のためのインタビューだ。もう少し、具体的な文言に変えてみよう。

 「人は何故、マジック関連の記事を読むのだろう?」

 様々な答えは考えられるが、もっとも大きいのは「読んでみたいから」という知的欲求だ。なぜ読みたいのかと言えば「読みたいと思う情報が掲載されているから」ということになる。この記事をクリックして序文を読み始めた読者諸賢は、「この記事を読んでみたい」と思ってくれたと筆者は信じている。

 では、どうして「読んでみたい」という知的欲求を持って貰えたのか。

 それはきっと、この記事のタイトルに記されている神の名前に惹かれたからに違いない。これもまた、筆者の信ずるところだ。

 モダン神、松田 幸雄。

 第6回モダン神決定戦でTeam Cygames所属の市川 ユウキを破って神の座を手にし、第7回はランタンコントロールの名手、大池 倫正を見事に打ち倒し、初防衛に成功した。

 その独特な発想や言動は、我々を魅了してやまない。

 さて、彼の持つ無類の強さが、この神決定戦という場、そしてモダンというフォーマットに留まらないことを、読者諸賢はご存知だろうか?

 スタンダードのグランプリ・静岡2017春では、お手製の黒単を持ち込み好成績を残した。その思考は、デッキテクでも発揮されている。

 かと思えば、ヴィンテージで使用したデッキが、まつがんこと伊藤 敦の目に留まり、週刊デッキウォッチングで紹介された。

 さらに、フロンティア杯の常連となり、デッキリストを晴れる屋のデッキ検索に残している。

 モダンのみならず、ありとあらゆるフォーマットで名を残している松田。その強さの根源は、どこにあるのだろう?

 彼の発言は、たしかに独特だ。「言語化が難しい」と言ってしまえばそれまでである。しかし、ここで言語化を諦めることは、敗北にほかならない

 この長くなった序文を締めくくり、ほんの少しではあるが彼の思考を引き出して言語化したインタビューの冒頭に置かれるのは、そんな松田に対する知的欲求に基づく、素朴な疑問である。

「松田さん、あなたはどうしてそんなに強いんですか?」

■ モダン神、松田 幸雄にインタビュー

松田「いやいや、そんなに強くないですよ。ただ楽しみながらやっているだけなので。何か理由、ありますかねぇ……うーん、やはり中野で遊んでいた頃の蓄積と経験が大きいんですよね。当時、中野のマジックプレイヤーはTier1を使わずに、“Tier1を倒すデッキ”を使う傾向にあったんですよ。トップメタを倒すために、Tier1.5のデッキを使うようなプレイヤーが多かったんですよね」

――「なるほど。現環境のスタンダードで言えば、マルドゥ機体やサヒーリコンボを使わずに、それらを倒すデッキを使うわけですか」

松田「そうですね。今回、グランプリ静岡2017春で使用した黒単も、トップメタに勝てる、という理由で選びました。この考え方、つまりTier1.5で1を食いに行く、という考え方が自分の思考に合っているんですよね。中野で過ごしたから、そういう考え方になったという面もあるのかもしれませんが」

――「そういった面も含めて、松田さんにとってぴったりの場所だったわけですね」

松田「ぴったりでしたね。Tier1を倒そうと思っている1.5同士が大会で戦うので、混沌としていましたけど。その頃から、環境を読み解いて使用するデッキを選択するという考え方は変わっていません。環境初期に色々なカードの組み合わせを考えることは好きなのですが、大抵はとんでもないデッキになってしまい、結果は残せないんですよね」

――「逆に、トップメタが固まってきた環境後期は得意、ということですね」

豪華の王、ゴンティ

松田「そうですね。ただ面白いデッキを使おうと考えているわけじゃないんですよ? 当たり前かもしれませんが、Tier1すべてに勝てるデッキが組めれば、結果を残せるのはある意味当然なんです。そして、世間の目がTier1で使われるカードばかりに目が行っているから、私が選ぶデッキは”面白く見える”んだと思います。例えば、《豪華の王、ゴンティ》は決して弱いわけではありません。ただ、みんなが強さに気付いてない、気付いていても流行っていないから使ってないだけ、なんだと思います」

――「なるほど。そういったTier1すべてに勝てるデッキを見つけるコツ、のようなものはありますか?」

松田「これも中野の遺産、と言いましょうか、統率者戦……私の慣れた言い方ならば、EDHのおかげなんです

■ 松田「日本のEDHのレベルを上げてやる」

――「中野と言えばEDH、というのは有名な話ですが、それがどのように影響を与えたのですか?」

松田「EDHは、マジックの中でも特殊なフォーマットで、カジュアルに友人同士でワイワイと楽しむ、という人も多いかと思います。ですが私を含む”中野のEDHプレイヤー”は楽しみながら、本気で勝ちに行くためにEDHをやっていました。当時の活動は私にとって本当に有意義で、本にもまとめましたからね」

――「晴れる屋の本棚にも置いてある、あの伝説の本ですね」

松田「まあ、半ば伝説みたいになっていますね。実際のところは分かりませんが、『日本のEDHのレベルを1つ、いや2つ上げてやる!』 と思いながら作っていたんですよ」

――「今読んでも、考察の深さには驚きます。レベルを上げていると言っても過言ではないかと」

松田「ありがとうございます。話を戻して、先ほどの『勝てるデッキを見つけるコツ』という意味では、EDHでは同じカードを複数枚採用できないので、カード1枚の強さに気付くことができるかが大事なんです。当時は友人たちとEDHのことを研究していたのですが、『これって強いんじゃない?』と言えるかどうか。そして、『強くないよ』と言われずに、みんなを納得させることができるか。そもそもカードを知っているかどうか、が重要だったので、その名残かな、と思います。あと、カードを知っているかという意味では、当時壮大な計画というか、目標があったんですよね」

――「目標……それはどんな?」

松田「当時、マジックに存在する全カードのテキストを覚えようとしていたんです

■ 全カードのテキストを覚えたい、という神の知的欲求

――「ぜ、全カード!? どうしてそんな計画を……」

松田「EDHって、1ゲームに結構時間かかるんですよね。なので知らないカードが出てきたときに都度確認していたら時間がもったいないな、と思ったことがきっかけです。もちろん、マジックが大好きなので、単純な知的欲求と言うか、『覚えてみようかな』と思っていたのも事実ですけどね」

――「は、はぁ……でもマジックのカードって、数え切れないくらいありますよね。EDHで使われるものも使われないものも含めて、すべて覚えるっていうのは非現実的なような……」

松田「いや、そこまで非現実的ではなかったんですよね。当時出ていたカードは、大半覚えていたと思います。今は忘れてしまったものが多いのですが、カード名を聞いたり、能力を聞いたら大抵のものは『ああ、あのカードね』となりますからね」

――「すごいですね……たしかに知識量というのは、マジックで勝つ上でも重要ですよね」

松田「そうだと思います。そういう意味では、今回の挑戦者である細川さんは強敵でしょうね」

■ 松田「挑戦者は、強いデッキを強く使う」

――「では、今回の挑戦者である細川 侑也さんについてお聞かせください」

松田「かなり昔、私がまだマジック初心者だった頃に、大会に参加している姿を拝見したことが最初かもしれません。昔からマジックをやられていて、ライターとしての活躍も目にしていますし、マジックの知識量、そして環境理解は本当に凄いと思いますね」

――「第8期モダン神挑戦者決定戦でも見事な勝利を重ねていましたよね。どのようなプレイヤーだとお考えですか?」

松田強いデッキを強く使う、といったところでしょうか。『ドレッジ』に対するこだわりのようなものも感じますけど、当時の『ドレッジ』は間違いなく強いデッキでしたから。環境の最適解を読み解き、最適解を強く使うような印象です。紛うことなきTier1というか、カードパワー高めのデッキを使っている姿が想像できますね。それを読めれば……といってもモダンには様々なデッキがあるので、読み切れなさそうですけどね。特に、神決定戦は特殊ですから」

――「松田さんにとっては慣れたかもしれませんが、神決定戦は“一発勝負”という特殊な場ですよね。」

松田「まだまだ慣れませんね……前回もそうでしたけど、とても胃が痛いです。だけど、楽しみなんですよ、とにかく。また楽しい時間が来るな、という思いが強いですね」

■ 松田「楽しい瞬間は、やはり勝利したとき」

――「では、その楽しい時間である本戦に向けて、抱負を教えていただけますか?」

松田「抱負、という意味では弱いかもしれませんが、とにかく楽しみたいと思っています。どんなフォーマットであっても、マジックを楽しむという気持ちは忘れたくないんですよ。そして、マジックで楽しい瞬間は、やはり勝利したときですからね。勝利するためにしっかりと準備をして、これまでの経験を活かしてデッキを練り、当日も良いプレイをして、楽しんでいたいです。ここで防衛できれば、きっと今まで以上にマジックを楽しめると思うんです。それに……」

 「楽しみたい」と何度も繰り返す松田。そして、笑顔で続けられた言葉は、間違いなく松田だけが、つまりモダン神だけが発せられる言葉であった。

松田神としてモダンをプレイできるのは、私だけですからね


 「神としてモダンをプレイし、楽しみたい」

 神決定戦という緊迫の場でも、楽しむことを忘れたくない。そして楽しい瞬間は、勝利する瞬間と述べる松田。

 果たして松田は、神として楽しみを享受することができるのか。そして、「連続防衛を果たした際の楽しみとはどんなものなのか」という知的欲求を満たすことができるのか。今から楽しみにしていよう。

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