モダン神・市川 ユウキ。
言わずと知れたゴールドレベル・プロであり、前回の【第5期モダン神決定戦】から今日までの間にも【グランプリ・メルボルン2016】トップ8、【グランプリ・東京2016】9位といった輝かしい戦績を重ねてきた日本の誇るスタープレイヤーと呼んでも過言ではないだろう。
【ニコニコ生放送の配信者】としても有名で、持ち前のユーモラスな話術と明るい人柄から多くのマジックプレイヤーから愛されているエンターテイナーでもある。
そんな気質からか、これまで神決定戦の直前には毎回”うっかりデッキの情報を自身のツイッターアカウントで公開してしまう”通称予告先発と呼ばれるジョークが恒例化していた。ちなみに今回の予告先発では……
市川のTwitterアカウントのアイコンが株式会社SONYが開発したペットロボット、『AIBO』になっている!? 2014年にカスタマーサポートが終了してしまったせいか、ところどころ文字がバグっているものの、アイコンと文章から推測するに「ロボッツ=親和」を使用するとのことだ。
とはいえ【前回】は「呪禁オーラ」を予告しながら「青赤双子」を使用していたので、はたしてどうなることか……
相対するは「中野の最終兵器」の異名をとる挑戦者・松田 幸雄。
どこかで名前を見たことがあるような? という方もいらっしゃるかもしれない。それもそのはず、松田は【第3期スタンダード神挑戦者決定戦】を制した経験もある実力者だ。
第3期スタンダード神挑戦者決定戦、第6期モダン神挑戦者決定戦ともに参加者260名超という大規模なトーナメントであり、これらで優勝して挑戦権を勝ち取るのは容易なことではない。それを2度も成し遂げていることは、松田の実力がたしかである証左と言えるだろう。
ちなみにアーケードゲーム『三国志大戦』の界隈で有名(?)だという「松田V幸雄」とは別人だそうだ(松田幸雄氏本人の高校時代の親友とのことである)。【直前インタビュー】でも語られているので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。
【第6期モダン神挑戦者決定戦】では見事に”対エルドラージ用”のチューンナップが施された親和デッキを乗りこなし、並み居る強豪を見事に打倒してきた。今回、中野の友人たちと調整してきたというデッキを持ち込み気合十分だ。
プロシーンでマジックをプレイする市川と、カジュアルにマジックをプレイする松田。それは一見、対照的な存在にも思える。だが、この場にこの2人が揃ったことは単なる偶然とは思えない。
マジックが好きだ。マジックを楽しみたい。
マジックをプレイし続け、誰よりも楽しんできた2人だからこそ、今ここに相見えることとなったのだろう。
今日、この瞬間に至るまでに蓄積されてきた互いの思惑が、権謀が、そしてマジックへの情熱が交錯する――
Game 1
先攻は市川。《ダークスティールの城塞》から《大霊堂のスカージ》をプレイする立ち上がり……
ん……? これってもしかして……
し、「親和」だ~~~!!!!
まさかの予告先発通りのデッキ選択。予告通りである以上、裏切られたという表現は適切ではないかもしれないが、こういうパターンもあるのかと目から鱗が落ちた気分だ。
そうこうしているターンは松田に移り、《山》から《裂け目の稲妻》が「待機」される。
松田が選択したのは「バーン」。第1ターンから互いのデッキ選択が明らかとなる立ち上がりとなった。【読み合い】では互いに読みを外したが、そのうえでバーン(松田)と親和(市川)の相性は親和側の市川有利か。
だが市川はいまいち引きが芳しくなく、親和持ち前の展開力を発揮することができない。2ターン目に《電結の荒廃者》をプレイするが、松田はこれに「待機」の明けた《裂け目の稲妻》を打ち込み、《大霊堂のスカージ》には《焼尽の猛火》を合わせる。
続くターンにプレイされた《エーテリウムの達人》(《ダークスティールの城塞》×2で3/3)に《稲妻》が突き刺さると、盤面がガラ空きの市川の目の前に《渋面の溶岩使い》が召喚される!
小型クリーチャーの集まりである親和にとって、致命的ともいえるクリーチャーの登場。万事休すかと思われたが、市川も《大霊堂のスカージ》と《電結の荒廃者》を並べて巻き返しを図る。
ここまではバーン側・松田がきれいに盤面を捌いてきたが、この状況での《電結の荒廃者》は脅威だ。1ターンに5秒もかかっていないような素早い攻防が続いていたが、ついに松田が小考する時間を取る。火力のほとんどをクリーチャーに対してプレイしてきたことから、市川のライフは14も残されておりまだまだ射程圏外だ。
《渋面の溶岩使い》の能力は起動できるが、《電結の荒廃者》がいる以上どちらを焼いた場合でも裏目がある。じっくりと手札と戦場を見比べ、《ゴブリンの先達》をプレイして戦闘に入る。
市川はこれを《電結の荒廃者》でブロックし、サイズを4/4まで育てる。松田は《渋面の溶岩使い》の能力と《ゴブリンの先達》の戦闘ダメージによって《電結の荒廃者》に対抗し、《大霊堂のスカージ》が「接合」によって5/5となる。
市川のターン、5/5になった《大霊堂のスカージ》が攻撃を仕掛け、絆魂によって市川にライフを与える。バーンにとっては悪夢のような光景だが、松田も《僧院の速槍》をプレイし市川を攻め立てながら《欠片の飛来》と《渋面の溶岩使い》の合わせ技で焼き切る。
再び窮地に立たされた市川は《信号の邪魔者》をプレイしてターンを返すが、松田は《僧院の速槍》でダメージを蓄積させ、《渋面の溶岩使い》で《信号の邪魔者》を破壊。ここまでの消耗戦で《渋面の溶岩使い》の燃料、墓地のカードは尽きる様子がない。
さらに松田が第2メインにプレイしたのは《大歓楽の幻霊》! 盤面が更地になってしまった市川を一挙に追い込んでいく。
市川も《エーテリウムの達人》を戦線に追加するが、戦場にアーティファクトはなし。《墨蛾の生息地》でかろうじて2/2になることはできるが、《渋面の溶岩使い》に睨まれているため戦力としては心もとない。
松田は勝機を見誤ることなく《大歓楽の幻霊》と《僧院の速槍》で攻撃。さらに《ボロスの魔除け》で市川のライフを6まで削り、リーチをかける。
市川は《墨蛾の生息地》をプレイし、《エーテリウムの達人》(最大で3/3)で反撃するも、松田は冷静に市川の手札の枚数を確認し、ここから負ける場合を想定する。
松田「《感電破》だと負けるか……」
じっくり悩んだ末に、松田は《渋面の溶岩使い》をブロックに向かわせる。市川は頭を抱えながら《墨蛾の生息地》を起動させるが、松田はそれにスタックで《渋面の溶岩使い》の能力を起動することで市川の2枚目の《墨蛾の生息地》をクリーチャー化させ、タップアウトへと追い込んだ。
これによって《渋面の溶岩使い》と《エーテリウムの達人》が相打ちになり、松田のクリーチャーたちの行く手を阻むものはなくなった。続くターンの総攻撃に《頭蓋割り》が加わり、市川のライフが削り取られた。
市川 0-1 松田
今回の第6期神決定戦では【プロツアー『イニストラードを覆う影』】のプレイオフで行われた変則的な3本先取ルール(※最初の2ゲームの間はサイドボードを使用しない。詳しくは【こちら】[リンク先は英語])が用いられている。
コンボ、アグロ、ミッドレンジ、コントロール……様々なアーキタイプが跋扈し、且つレガシーと異なり《意志の力》のような受けの広い万能カードが存在しないこのモダンというフォーマットにおいて、サイドボードが使用できないという変則ルールがもたらすインパクトは非常に大きく、メインボードでのデッキ相性差がそのままマッチの結果へと結びつく可能性さえあるのだ。
【グランプリ・シンガポール2015】の覇者、人見 将亮(東京)は【モダンの達人 vol.5 -親和-】にて、親和側の対バーン相性についてこう語った。
人見「相性はこちらが6割以上で有利なマッチになります。」
また、同様に【モダンの達人 vol.2 -バーン-】に登場した光安 祐樹(東京)も「バーンで一番やりたくないマッチですね。」とバーン目線での親和への印象を語っていた。
そんな絶望的な相性差を跳ね除けるかのように除去の嵐を浴びせて市川のクリーチャー群を駆逐し、《渋面の溶岩使い》と《大歓楽の幻霊》で盤面に蓋をする見事なプレイングで1ゲーム目を先取した松田。
バーンというデッキ自体は神・市川の伝家の宝刀であるジャンドを想定して選択したデッキだというが、そもそも松田は【第6期モダン神挑戦者決定戦】でも親和を用いて優勝を収めているのだ。親和側の強みも弱みもしっかりと理解しており、タイトなダメージレースの中でも負け筋を見誤らず堂に入ったプレイングを見せつけてくれた。
このまま第2ゲームも勢いに乗ることができるのか? メインボード60枚のまま、第2ゲームが開始された。
Game 2
攻め手に欠ける初手を神妙な面持ちでマリガンする市川。対する松田の初手は除去こそ薄いものの1マナクリーチャーが多く、素早いゲームを展開できそうな好ハンドだ。
先攻の市川は《墨蛾の生息地》をプレイすると《バネ葉の太鼓》、《羽ばたき飛行機械》、《メムナイト》、《信号の邪魔者》と手札を一挙に5枚ダンプする。
後手の松田は《ゴブリンの先達》からスタート。その誘発型能力によって市川に《空僻地》を与えることになるも、まずは2点のダメージを与えることに成功する。
しかし、市川のトップデッキは《鋼の監視者》! さすがにこれを生かしてターンを返すわけにいかない松田は虎の子の除去である《焼尽の猛火》でこれを対処する。
返すターン、市川は戦場に《信号の邪魔者》を追加したあと、一瞬手を止める。《墨蛾の生息地》も合わせてアタックに向かうかどうかを悩んでいる様子だが、10秒弱ほど考えたところでここは一旦我慢して3点クロックを刻むことを選択する。
松田は3枚目の土地をプレイすると《僧院の速槍》と2枚目の《ゴブリンの先達》をプレイ。一挙に増えたクロックを前に、市川もさすがに《墨蛾の生息地》を起動して《ゴブリンの先達》をチャンプブロックしてライフを守るが、松田は《欠片の飛来》を市川のライフに打ち込み、一気に追い詰めていく。
返す市川。手札は《島》と先ほど《ゴブリンの先達》によって見えていた《大霊堂のスカージ》のみで、ライフレースは俄然松田が優位。迂闊に攻めれば返しに敗北しかねない。ましてや直前のターン、松田が《欠片の飛来》をプレイヤーに撃ち込む強気なプレイを見せてきたこともあってじっくりと考え込む。
悩みぬいた末に《ゴブリンの先達》のうち1体は「感染」によりサイズを縮めているので、松田のクロックはギリギリ受け切れると判断。《信号の邪魔者》×2と《メムナイト》で攻撃を仕掛け、第2メインに《大霊堂のスカージ》を戦線に追加してターンを返す。ここまでの攻防で市川のライフは6、松田のライフは8だ。
さて、市川の盤面にはアンタップ状態のクリーチャーが2枚(《羽ばたき飛行機械》と《大霊堂のスカージ》)。ライフレースでは松田が勝っているものの、返しに市川が《頭蓋囲い》や《感電破》を引けば一瞬で捲られる可能性も大いにある。今度は松田が逡巡する番となった。手札と盤面を交互に見比べ、互いのライフを確認する。
松田の熟考する姿を受け、市川はわずかに安堵した様子を見せる。このターン中に決めきるプランがあるならばすでに実行に移しているはず。悩むということは、市川は次のターンを迎えることができるはずだ。
しばらく頭を抱えていた松田だったが、「とりあえずコンバットいくか」と《僧院の速槍》と2/2の《ゴブリンの先達》をレッドゾーンに送り込む。市川のデッキトップは《鋼の監視者》。
「いらねえ……」即効性のないカードを引いている余裕がない市川から言葉が零れる。今度は市川が頭を抱えながら《僧院の速槍》を《羽ばたき飛行機械》でブロック。そのわきを《ゴブリンの先達》のダメージが通り抜け、市川のライフは4へと落ち込んだ。
返す市川は《信号の邪魔者》×2と《メムナイト》、《大霊堂のスカージ》でアタック。「喊声」が2回誘発し、《大霊堂のスカージ》が3/1へと膨れ上がるも、松田の手に潜んでいた《頭蓋割り》が刺さる!
これで市川のライフは回復せず、4→1へ。《メムナイト》は1/1の《ゴブリンの先達》によってブロックされて相打ちになり、松田のライフも8→3へと落ち込んだ。
市川は第2メインに《鋼の監視者》を追加し、盤面に2体のブロッカーを用意すると、あとは返しの松田のドローが火力でないことを祈るのみとなった。
松田のラストターン。ドローしたカードは……
念願の火力呪文。しかし、松田は「まじかー、ここでこれ引くか……」と悔しげに漏らす。その土地を見ると……《山》が3枚。
松田「フェッチで白マナ持ってきてりゃよかった……」
タイトなダメージレースの果てに、フェッチランドを置くタイミングを誤るという手痛いミスが発覚した松田が投了した。
市川 1-1 松田
ゲームカウントはこれで1-1。第3ゲーム以降はサイドボードの使用が可能となる。
ここまでシビアに数字のやり取りを繰り返してきた2人。その間を満たしていた張りつめた空気が、サイドボーディングという作業のおかげか若干ゆるんだようで、笑顔で言葉を交わす様子が見られた。
市川「サイドボード後は相手が親和を意識していたかによる、勝率が(笑)」
松田「いやー、ジャンドかと思ってたのに親和かよぉ~。キツいなぁ、全然練習してない(笑)」
市川は対人で親和を回した経験はほとんどないと言う。言われてみれば、たしかに市川が親和を回している姿はニコニコ生放送やこれまでの大会でも見かけたことがないように思える。
だが、ここまでの市川のゲームプレイは見事なもので、とても初めて対人で親和を回すプレイヤーとは思えない。わずかな思考時間で最適解を見出すその鮮やかなプレイングからは、圧倒的な経験値に裏打ちされたマジックの基礎力の高さを感ぜられた。
このまま市川が神の貫録を見せつける勝利を収めてくれるのか――?
Game 3
先攻の松田は1ターン目に《樹木茂る山麓》から《踏み鳴らされる地》をサーチし、《渋面の溶岩使い》をプレイしてターンを終了する。第1ゲームでも市川を苦しめた凶悪カードだ。
市川はこれを除去できる《急送》、《感電破》を持つが、色マナがない。松田がフェッチからスタートしていることもあって、迂闊にクリーチャーを展開すると《渋面の溶岩使い》に完封されてしまいかねないが……
「行くしかないか」とぽそりと呟き、《大霊堂のスカージ》と《羽ばたき飛行機械》をプレイする。バーン相手に色マナを引くまで悠長なゲームをするわけにもいかず、《渋面の溶岩使い》の能力も無制限に起動できるものではないため、より見込みのある短期決戦を挑む構えだ。
返す松田のターン。《乾燥台地》を起動し、第2ゲームの苦々しい記憶を拭い去るかのように今度はしっかりと《聖なる鋳造所》をサーチして色マナを確保。
松田「《大霊堂のスカージ》は……まぁ、退場かな」
《渋面の溶岩使い》の能力を起動し、破壊。さらに残った1マナを使って《裂け目の稲妻》を「待機」して市川の出方を窺う。
市川はプランを崩すことなく、《鋼の監視者》と《メムナイト》をプレイしてターンを返す。松田はノータイムで「待機」の明けた《裂け目の稲妻》を《鋼の監視者》に撃ち込むと、《大歓楽の幻霊》をプレイし第1ゲームを彷彿とさせる盤面を構築する。
市川にとっては厳しい展開だが、《電結の荒廃者》をトップデッキし早速プレイしたことで風向きが変化する。ここまでで市川の盤面のアーティファクトは《電結の荒廃者》を除いて3枚(このターンはタップアウトしているが《ちらつき蛾の生息地》も含めれば4枚)。
これで《渋面の溶岩使い》も《大歓楽の幻霊》も痺れてくれればよいが、続くターンに松田は《大歓楽の幻霊》のみで攻撃してくる。市川はこれをスルーし、残りライフ16→14。そして第2メインには《電結の荒廃者》に《焼尽の猛火》を撃ち込んだ!
これに対しては市川も悩みつつ《メムナイト》を生け贄に捧げたあと《電結の荒廃者》自身を生け贄に捧げ、《羽ばたき飛行機械》に「接合」。依然として苦しい展開だが、市川の《羽ばたき飛行機械》は2/4とかろうじて《渋面の溶岩使い》の射程圏外のサイズへと膨れ上がる。
とにかく《渋面の溶岩使い》が盤面にいる限り後続のクリーチャーも次々に焼かれてしまうため、《羽ばたき飛行機械》でアタックするのみでターンを返す市川。ここまで松田自身もフェッチ+ギルドランドによってライフを消耗しているので、プレッシャーを与え続ければ市川にも勝ち目はまだまだ残される。
しかし、松田の手札はその淡い目論見を打ち破る強固なものだった。まずは市川の終了ステップに《渋面の溶岩使い》を起動しライフを11→9へ削ると、自身のターンに《大歓楽の幻霊》をアタックに向かわせる。
市川はこれを《ちらつき蛾の生息地》でブロックし、自身を強化することで相打ちを狙いに行くが、松田が待っていたのはこのタップアウトだった。
松田の手札から放たれたのは2枚の《ボロスの魔除け》。これらが解決されると、《渋面の溶岩使い》が市川のライフを削り切った!
市川 1-2 松田
第3ゲームでは最後まで色マナを引くことができず、あらゆる対抗策が除去の嵐によって封じ込められ、最後には一挙に10点のライフが奪い去られるという不運に見舞われた市川。苦々しい笑みを浮かべながら、思わず「ハンド強すぎw」と漏らす。
ここまで親和の本領である“手の付けられないブン回り”ができていない。何しろこの第3ゲームまで《オパールのモックス》や《頭蓋囲い》を引けてすらいないのだ。
さすがの市川もフラストレーションが溜まっているだろうが、それでもなおにこやかにゲームをプレイしている姿は、まさしく全てのマジックプレイヤーが模範とすべき人物像を体現しているかのようだった。彼のカリスマ性の根源はマジックの巧拙や軽妙洒脱な話術以上に、1人の人間としての魅力からきているのだと実感した。
一方、神の座へ王手をかけた松田。さきほどまでは非常に緊張した面持ちだったが、サイドボード後の第3ゲームを制したことでメンタル面に余裕が出てきたのか、シャッフルも軽妙になり、まるで憑き物が落ちたような様子だ。
今回、松田の使用していた基本土地はすべて「グルランド」になっていた。試合前に【ビデオデッキテク】を撮影する際、そのことについて聞いてみると「友達に渡されたんですよ、大勢に観られるんだから基本土地にもこだわれって言われて」と笑いながら答えてくれた。
中野勢に託されたカードと、その想いのこもった75枚を手に、「中野の最終兵器」は神・市川に肉薄する。
Game 4
先攻の市川は《ダークスティールの城塞》、《バネ葉の太鼓》、《メムナイト》、《バネ葉の太鼓》と順番にカードを並べていく。先ほどは終始色マナが出ず手札の2枚が死に札になってしまっていた市川だったが、今回はその心配はなさそうだ。手札には《感電破》や《電結の荒廃者》もあり、満点とはいかないまでも本来優位にゲームを進められるはずのバーン相手ならば十分な初手だ。
対する松田は1ターン目に《渋面の溶岩使い》からスタート。しかし、今回はフェッチランドを経由していない。2ターン目に《渋面の溶岩使い》を起動することを想定しているならば通常はフェッチランド→《山》(もしくはギルドランド)→《渋面の溶岩使い》の動きが自然だ。
それができていないことから手札にフェッチランドはなく、《渋面の溶岩使い》はしばらくただの1/1のはず。つまり、このゲームで勝敗に直結するカードにはなりにくいだろう。
市川は土地から2マナを出して《電結の荒廃者》をプレイ。さらにその《電結の荒廃者》と《メムナイト》を《バネ葉の太鼓》のコストに充て、《電結の荒廃者》おかわり。
「2匹目か……2匹!? いっぱいいるな、迂闊に処理できん(笑)」松田から失笑が漏れる。市川も口の端をニヒルに釣り上げる。
松田は1体目の《電結の荒廃者》に《稲妻》を撃ち込むが、市川は松田の盤面を一瞥して戦場に2枚目の《山》がないことを確認すると《電結の荒廃者》で対象に取られた方の《電結の荒廃者》を生け贄に捧げる。
「接合」と起動型能力の解決によって、残された《電結の荒廃者》は3/3だ(先のターンの《バネ葉の太鼓》によってタップ状態)。
松田「とりあえず即死はなさそうだけど……あの2枚目の処理はきついな」
松田は《踏み鳴らされる地》から《ゴブリンの先達》をプレイし、《渋面の溶岩使い》もアタックに加わり、市川のライフを3点削る。誘発でめくれたカードは《墨蛾の生息地》。普段なら頼りになる《ゴブリンの先達》だが、相手が先んじて動いているこの状況でリソース1枚を与えてしまったのは松田にとって痛い。
市川の猛進は止まらない。《頭蓋囲い》を引いた市川はさっそくこれをプレイ。《電結の荒廃者》に装備し、9/3でアタックする。タップアウトの松田はこれによりライフが18→9へと落ち込み、もはや猶予はなくなってしまう。さらに第2メインには《感電破》で厄介な《渋面の溶岩使い》を退場させ、戦場を掌握する。
松田は追加で2体の《ゴブリンの先達》を戦場に並べ、攻撃はせずにターンを終了する。ターンの返ってきた市川はまず《メムナイト》を追加で1体プレイし、じっくりと松田を殺し切る算段を立てる。松田の手札は2枚で、土地も起きている。《墨蛾の生息地》に《頭蓋囲い》を装備すれば早期決着も可能だが……
熟考の末、《メムナイト》と《墨蛾の生息地》と《電結の荒廃者》をアタックに向かわせる市川。《ゴブリンの先達》が《電結の荒廃者》と《メムナイト》をブロックするのを見て、《頭蓋囲い》を《メムナイト》に付け替えて《ゴブリンの先達》と交換する。
返す松田のターン。ドローし、メインフェイズに入ると颯爽とフェッチを起動し4枚の土地をタップ!!
松田の手札からプレイされたのは……
ではなく、《ピア・ナラーとキラン・ナラー》。
市川「……ッ!!!びっくりしたぁ、《粉砕の嵐》かと思ったwwww」
市川も思わず息が止まってしまっていたようだった。飛行機械トークン2体と2/2が登場したことでチャンプブロックによって時間を稼がれてしまうが、最悪のケースは回避された。
市川は《電結の荒廃者》と《頭蓋囲い》を装備した《メムナイト》でアタックし、《ゴブリンの先達》1体と飛行機械トークンを打ち倒す。
続けて第2メインに《頭蓋囲い》の2枚目をプレイ。松田は最後となるドローを確認し、投了。
市川 2-2 松田
ゲームカウントが2-2に戻り、勝負は最終戦へともつれ込む。
これまで行われていたサイドボード中の歓談も今回は一切なく、静謐なその空間にはシャッフル音だけが響いていた。
泣いても笑っても最後の勝負。第6期モダン神の栄冠は、果たしてどちらの手に――?
Game 5
松田が悩みながらキープした初手は《ボロスの魔除け》、《頭蓋割り》、《稲妻》、《欠片の飛来》、《山》×2、《乾燥台地》。除去は2枚あるが、継続的なクロックがない手札。悩みどころだが、マリガンして事故する可能性を鑑みればキープできる手札だろう。
対する市川はマナソースのない手札を無言でライブラリーに戻し、6枚になった手札をキープする。爆発的な展開力こそないものの、《電結の荒廃者》や《エーテリウムの達人》といったフィニッシャーに加えて《感電破》のような飛び道具もあり、《バネ葉の太鼓》から色マナも出せそうだ。
《乾燥台地》を置くのみでターンを返す松田と、《バネ葉の太鼓》をプレイするのみでターンを終える市川。両者の一瞬視線が交錯する。どちらの初手も100点満点ではない。あとはプレイングとトップデッキでどこまで差を生み出すことができるか否かが勝負の分かれ目になりそうだ。
松田は手札に控える《ボロスの魔除け》のために《聖なる鋳造所》をサーチし、続くターンも《山》を置くのみでエンド。
ここまでの松田の動きで除去キープは透けているが、クロックを展開しないことには自分もゲームを開始できない。市川は《電結の荒廃者》を戦場に送り込む。
松田「むずいなぁ」
市川「むずいでしょ笑」
《電結の荒廃者》をさっさと除去するかどうか思案するが、松田もまた、最大効率で市川のライフにプレッシャーをかけるべく《ボロスの魔除け》を本体に撃ち込む。
続くターンに《山》を置き、《電結の荒廃者》に《稲妻》。これに対応して市川は《バネ葉の太鼓》でマナを生み出して《墨蛾の生息地》を起動し、《稲妻》が解決される。
市川は《電結の荒廃者》の「接合」の対象として《墨蛾の生息地》を選択するが、ここで松田は《墨蛾の生息地》に対して《欠片の飛来》をプレイ。市川のクリーチャーを一挙に奪い去る。
ここから互いに動きを見せずに睨み合う。市川は引き込んだ《島》をプレイし《エーテリウムの達人》(最大で4/4)を戦場に着地させた。火力による除去は難しい巨大なフィニッシャーの登場に苦しい表情を浮かべつつも、冷静に《頭蓋割り》で市川のライフを少しずつ奪っていく。
さらに市川は3枚目の《バネ葉の太鼓》をプレイすると《ちらつき蛾の生息地》と《エーテリウムの達人》(5/5)でクロックを刻む。見た目7点の猛打……!
しかし、松田は市川のタップアウトとアタックをずっと待っていた。手札からプレイされたカードは……
《跳ね返す掌》!!!
これによって《エーテリウムの達人》のダメージを跳ね返し、市川のライフを7に。市川も思わず「やられた!」と声を上げる。さらに返す松田のターン、《ゴブリンの先達》をプレイして速攻で攻撃。
市川にターンが戻ると《流刑への道》で《エーテリウムの達人》を処理し、一気にペースを掴み取る。
松田の猛攻はまだ止まらない。《僧院の速槍》と《ゴブリンの先達》でアタックし、市川に対して《稲妻》を打ち込む。果敢が誘発し、市川のライフがぴったり削り取られるか……というところで、《僧院の速槍》に《感電破》を撃ち込み、《ゴブリンの先達》の攻撃は《墨蛾の生息地》でチャンプブロックすることで残りライフ2で耐える。
返す市川が《鋼の監視者》をプレイすると、これには「上陸」無しの《焼尽の猛火》が撃ち込まれ市川は1に。松田の手札は《流刑への道》が1枚残されており、ライフは16も残されている。あとはデッキトップの火力を待つのみとなった。
もはや誰の目にも明らかに勝負はついていた。だが、市川は最後まで勝負を捨てるようなことはしなかった。
《ちらつき蛾の生息地》と引き込んだ《メムナイト》で松田のライフを1点ずつ削り、《ゴブリンの先達》のアタックは《ちらつき蛾の生息地》でブロックし、《僧院の速槍》のアタックには《感電破》で除去し、最後までモダン神として、毅然と戦っていた。
そして、ついにその瞬間が訪れると――松田が引き当てた《粉々》が《バネ葉の太鼓》を砕くと、市川はその右手を差し出した。
市川 2-3 松田
試合が終わり、松田が固く握りしめた両手の拳を高く振り上げる。
仲間たちと切磋琢磨して上り詰めた頂点。神へと至る松田の2度目の挑戦はここに成就した。
トッププレイヤーとの真っ向勝負で、緊張に押しつぶされそうになりながらも、ぶつかり合って削り合ってついに収めた勝利の喜びに、その両手は打ち震えていた。
松田「キツかったw親和は想定外でしたよ。ずっと対ジャンド向けの練習をしていたので」
市川「無駄にさせちゃいましたね。いや、ジャンドもメタられちゃうと厳しくてw」
全てを出し尽くした2人が、笑いを交えつつ軽やかに互いにこれまでの思惑を吐露し合う。
だが、誰もが最後の《粉々》に目を奪われていたその瞬間。
市川が一瞬、唇を噛みしめた姿を見た者は、きっと誰もいないだろう。
豪放磊落な彼の人物像とは俄かには結び付かない、悔しさのにじむその表情を見た者は、誰もいないのだ。
野暮でも敢えて私は書き残したい。
市川 ユウキが神の座を明け渡すこととなった、その瞬間のことを。
滲み出る悔しさを飲み込み、笑顔で勝者を称えた1人のマジックプレイヤーの姿を。
神決定戦というイベントを最も楽しんでいたのは、きっと市川だったから。
そして、市川 ユウキが守ってきたそのタイトルは今――
松田 幸雄へと受け継がれた。
第6期モダン神決定戦、松田 幸雄が市川 ユウキを下しモダン神の座を奪取!
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