Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/10/07)
はじめに
みなさんも同じだと思いますが、とうとう『エルドレインの王権』の新カードで遊べることに本当にワクワクしています。世間では、ローテーション後のベストデッキは何なのかという話題や憶測が飛び交っているようです。この時期は誰しもが想像力を発揮し、新たなアイディアがほぼ1時間おきに出てきます。デッキビルダーの楽園に生きていると言っても良いでしょう。
新環境の最も魅力的な点は、みなさんのアイディアあふれるオリジナルデッキの是非を誰も判断できないことにあります。証拠もなければ、統計データもなく、大規模な大会の結果も出ていないからです。数多くのデッキが存在しており、その多くが3ゲーム中1ゲームしか機能しないためになかなか勝てない状況だとしても、誰もそのデッキの真の良し悪しがわからないのです。
歴史を振り返ってみると、赤単のように無駄のない攻撃的な戦術がローテーション後の第1週を席巻する傾向にありました。その理由は単純で、適切な構成で真価を発揮する受動的なデッキやコントロール戦略は具体的なメタゲームを脳内で想定して構築されますが、第1週はメタゲームが存在しない、あるいは少なくともどのようなものになるか見当がつかないのです。メタゲームが進展していけばこのようなデッキたちの活躍が期待できますが、能動的で攻撃的なゲームプランを有するデッキは非常に安定しているため、環境当初において悲惨な選択になることはありえないでしょう。
ところが、『エルドレインの王権』の新カードを採用し、将来性を感じさせるデッキの多くはあまり攻撃的ではなく、むしろ《王冠泥棒、オーコ》をフィーチャーしたミッドレンジや緑のランプとなっているのです。
新たなスタンダード環境が動き始め、すでに具体的なメタゲームが徐々に姿を現しつつあります。ここからご紹介する5つのデッキは、私にとって特にパフォーマンスが高かったものであり、新環境の数週間に渡って活躍が見込めるデッキたちです。
シミックフラッシュ
『エルドレインの王権』が発売される前、シミックフラッシュはローテーション後の最強デッキになるだろうと予想されていました。『エルドレインの王権』以外の新環境のカードプールで遊べた、MTGアリーナの「スタンダード2020」において非常にパフォーマンスが高かったデッキのひとつでしたので、理にかなった予想でした。そして新エキスパンションには《むかしむかし》、《僻境生まれの保護者》、それから言わずもがなの《厚かましい借り手》が収録されていたのです。
シミックフラッシュは4ターン目に(青)(青)(緑)(緑)が必ず欲しいデッキであり、2色のデッキにしては色拘束が厳しいデッキなので、《寓話の小道》が特に適合するアーキタイプです。《繁殖池》と《神秘の神殿》に加え、マナ基盤の安定のためにタップイン土地を2枚追加するのは悪くない選択肢でした。しかし今や《寓話の小道》が存在するため、必要な色マナを供給しつつ、4ターン目の《夜群れの伏兵》や《エリマキ神秘家》に必要なアンタップイン土地を確保できるようになったのです。
長所:
– カード間のシナジーが多く、極めてデッキパワーが高い
– 先手で初手が強いと、大抵は一方的に勝てる
– 優れたゲームプランを有しており、使う側は簡単で、使われる側は対応が難しい
短所:
– 後手で大きく弱体化し、序盤から脅威を並べてくるデッキに対して特にこの傾向は顕著になる
– 緑を含むデッキは《夏の帳》や《変容するケラトプス》といったシミックフラッシュに非常に効果的な対策を用いてくる
《朱地洞の族長、トーブラン》赤単
4 《エンバレス城》
-土地 (20)- 4 《熱烈な勇者》
4 《脚光の悪鬼》
4 《焦がし吐き》
4 《チャンドラの吐火》
4 《朱地洞の族長、トーブラン》
-クリーチャー (20)-
これは配信者イベントで構築したものであり、私が惚れ惚れしたデッキです。あまり期待はしていなかったのですが、4ターン目に勝つのはスタンダードではオーバーパワーであり、それが実現したゲーム数は私の予想をはるかに上回るものでした。今現在《災厄の行進》をそこまで見かけませんが、このデッキの爆発力は過小評価されています。《チャンドラの吐火》や《朱地洞の族長、トーブラン》と《災厄の行進》が組み合わされば、20点以上の致死量を与えることも少なくありません。このデッキは基本的にコンボデッキであり、コンボパーツが揃わなくとも勝てるため安定性も備わっています。
長所:
– 非常に安定していながら、4ターン目に勝ち得る爆発力がある
– クリーチャー除去がインスタントタイミングからソーサリータイミングへと若干移行している
– 相手の不意を突いて一気にライフを削ることができる
– 経済的であり、サイドボードを含めても神話レアが必要ない
短所:
– 単体で弱いカードが多い
– 赤単のゲームプランに対して適切に対応された場合、弱いトップデッキが多い状況に陥る
エスパースタックス (by カルロス・ロマオ/Carlos Romao)
こちらも感銘を受けたデッキの1つです。基本的にコントロールデッキであり、キャントリップとマナフィルター機能が付いたアーティファクト、《予言された壊滅》、勝利条件となる《屋敷の踊り》が軸となっています。上記のアーティファクト群は、ライブラリー内のキーカードを掘り当てるだけでなく、《予言された壊滅》の生け贄要員になります。そして膨大なマナによる《屋敷の踊り》で繰り返しアドバンテージを獲得するのです。私の経験では、《屋敷の踊り》を唱えた瞬間に相手がこちらの狙いを察して投了します。最初は取るに足らないオリジナルデッキのひとつだろうと思っていましたが、このデッキを使用したアンドリュー・クネオ/Andrew Cuneoやマルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoに驚くべき方法で負けたときに考えを改めました。
シミックミッドレンジ (by ブラッド・ネルソン/Brad Nelson)
4 《島》
4 《繁殖池》
4 《神秘の神殿》
3 《ギャレンブリグ城》
-土地 (25)- 4 《金のガチョウ》
4 《ハイドロイド混成体》
4 《枝葉族のドルイド》
4 《楽園のドルイド》
4 《大食のハイドラ》
3 《厚かましい借り手》
4 《意地悪な狼》
-クリーチャー (27)-
私がいつの時代も愛しているのはミッドレンジであり、シミックミッドレンジは『エルドレインの王権』で私がベストカードだと思っている《王冠泥棒、オーコ》を使用できます。加えて、単体で勝利をもたらしてくれる《世界を揺るがす者、ニッサ》も採用可能です。
《王冠泥棒、オーコ》は《金のガチョウ》と《意地悪な狼》と抜群の相性です。また、《大食のハイドラ》、《ハイドロイド混成体》、《世界を揺るがす者、ニッサ》がクリーチャー化した土地とのシナジーもあります。というのも、《王冠泥棒、オーコ》の[+1]能力は+1/+1カウンターが置かれたクリーチャーをさらにサイズアップさせるからです。ただし、[+1]能力の効果を適用されたクリーチャーは速攻、トランプル、飛行といった能力を全て失うので注意が必要です。
私が《王冠泥棒、オーコ》をセット内で最強のカードと評価するようになったのは、相手のクリーチャーさえも[+1]能力の対象にできると気付いたからでした。ただ忠誠度を上げるだけで、盤面をせき止めているクリーチャーを3/3にしたり、クリーチャーの能力を奪ったりします。《王冠泥棒、オーコ》は忠誠度の高い3マナのプレインズウォーカーとして序盤から相手に多大なプレッシャーをかけつつ、相手のクリーチャーに介入できるのです。それから奥義があることもお忘れなく。
最大の課題は、《王冠泥棒、オーコ》にとって最善のデッキを見つけることです。純正のシミックでも使用できますが、《時を解す者、テフェリー》のために白をタッチしたものや、4色にしたものさえ存在しています。私としては《ゴルガリの女王、ヴラスカ》やサイドボードのカードのために黒をタッチしたものを好んでいますが、ここではシンプルなバージョンを提示させていただきました。メタゲームは日に日に変化しており、ベストな形はメタゲーム次第だと思われるからです。
長所:
– 《王冠泥棒、オーコ》や《世界を揺るがす者、ニッサ》を上手く使えるデッキである
– 攻撃的なゲームを展開できる初手がありながら、守備的な立ち回りに巧みに切り替えられる
– 序盤、中盤、終盤で戦える力がある
ゴロスランプ (by ブライアン・ゴットリーブ/Brian Gottlieb)
2 《島》
1 《平地》
2 《繁殖池》
2 《神聖なる泉》
2 《寺院の庭》
2 《寓話の小道》
1 《ボロスのギルド門》
1 《ゴルガリのギルド門》
1 《イゼットのギルド門》
1 《セレズニアのギルド門》
1 《シミックのギルド門》
1 《花咲く砂地》
1 《平穏な入り江》
1 《疾病の神殿》
1 《神秘の神殿》
1 《ヴァントレス城》
4 《死者の原野》
1 《調和の公有地》
-土地 (28)- 4 《樹上の草食獣》
4 《ハイドロイド混成体》
4 《不屈の巡礼者、ゴロス》
4 《王国まといの巨人》
-クリーチャー (16)-
前環境からゴロスランプはベストデッキのひとつでした。そして現在もその立ち位置は変わっておらず、この流れが途絶える理由はなさそうです。ローテーションにより失ったのは《エルフの再生者》だけであり、これは容易に替えが利くカードでしょう。
ゴロスランプは他のミッドレンジやコントロールよりも終盤の動きが強力であり、《王国まといの巨人》という優れた全体除去も手に入れました。《豆の木の巨人》も素晴らしい強化となるかもしれません。
長所:
– 終盤に強い
– 基本的に弱いトップデッキがない
短所:
– タップインランドが多く、動きが鈍い
– 後手では相手に押し切られる可能性がある
さいごに
今回お見せした5つのデッキ以外は使用に値しないというわけではなく、新たなデッキは毎日発掘されています。ですが、この5つは新環境直後で最も印象的なデッキたちです。新セットはカードパワーが非常に高く、『灯争大戦』のプレインズウォーカーたちに太刀打ちするために必要とされていたものを持ち合わせています。《時を解す者、テフェリー》や《世界を揺るがす者、ニッサ》に完全に支配されたメタゲームにならなくて良かったなという思いです。
現時点では、多様な戦術を可能にしている緑が最も活躍している色かと思います。《探索する獣》を使ったグルールや緑単には一切言及しませんでしたが、ぜひ試してみたいと思っているデッキたちです。
ミシックチャンピオンシップ・ロングビーチ2019(MC V)が目前に迫っており、デッキを決めるまでの時間は多く残されていません。しかし、当日のトップメタとなるデッキの半分近くを我々はまだ目にしたことすらないはずです。スタンダードは劇的に変化していくことでしょうから、ここから数週間は決して目を離さないようにしようと思っています。今回ご紹介したデッキのなかに自分のプレイスタイルと合うものがあったのなら、迷わず試してみましょう。どれをとってもおすすめできるデッキです。