11月3日(木・祝)。東京は、雲一つない秋晴れの空であった。
ここでお届けするのは、第7期スタンダード神決定戦である。
スタンダード神決定戦には、他のフォーマットと大きく異なる点がある。それは、スタンダードであるが故に、“ローテーションの影響”を大きく受ける、ということだ。
【前回】は、『イニストラードを覆う影』発売後に開催され、【前々回】は『ゲートウォッチの誓い』発売直前であった。
今期に関しても【挑戦者決定戦】は『カラデシュ』発売前に行われた。そして現在のスタンダードでは、御存知のとおり『カラデシュ』のカードが活躍を見せている。
神決定戦の醍醐味は、デッキの読み合いだ。相手のデッキを想定した上で自分のデッキを選択するわけだが、スタンダードの場合は、そこに「現環境で最も強いデッキは何か?」という要素が加わってくる。
『カラデシュ』の環境は、まだ動き続けている。現在のメタ外が、来週のトップメタになる可能性も否定できない。
それでも、決めなければならない。そして、我々は見届けなければならない。
スタンダード神を決定する、和田 寛也と梅木 亮の一戦を。
Game 1
挑戦者・梅木は《大草原の川》、神・和田は《山》。ここから長い一戦がスタートする。
梅木は《平地》をプレイし、早速《密輸人の回転翼機》を戦場に出す。
環境は動き続けているが、その中心にこの《密輸人の回転翼機》が存在することは間違いない。その活躍は目覚ましいという表現では語り尽くせないほどだ。
『カラデシュ』からの新戦力は、和田のデッキにも豊富に採用されている。《森》をプレイしてから唱えられた《通電の喧嘩屋》は、その1枚だ。
梅木は《無私の霊魂》を唱えて「搭乗」。《密輸人の回転翼機》が動き出す。和田のライフを削り、《窪み渓谷》をタップインしてからターンを返す。
ドローを確認し、一度天を見つめる和田。対する梅木は盤面を冷静に見つめている。
エネルギーを支払いながら、《通電の喧嘩屋》が攻撃を仕掛ける。そして、《流電砲撃》でひとまず《無私の霊魂》を除去して「搭乗」要員を減らし、ターンエンド。
梅木は《反射魔道士》で《通電の喧嘩屋》を手札に戻す。《密輸人の回転翼機》がいるため、ETB能力を使い終えたあとでも「搭乗」することで勝利に貢献することができる。
盤面を見つめながら、梅木の手札の枚数を確認。手札の《通電の喧嘩屋》を唱えることはできないため、ここでは《尖塔断の運河》をプレイするのみ。
梅木は盤面に現れた和田のカードをメモに記しながら進めている。再び《反射魔道士》が「搭乗」し、ライフを削る。そして、5マナを残してターンエンド。和田はドローを確認して、じっくりと盤面を見つめる。
戦いの場を包む静寂。まだデッキの全貌は把握できていないだろうが、和田は相手の手札に存在するであろうカードを想定する。
梅木の生み出せるマナは、白と青と黒。《無私の霊魂》、そして《反射魔道士》が姿を見せた。ここから想定できる相手のデッキは、現環境のTier1、「青白フラッシュ」だ。
その「青白フラッシュ」を使用しているであろう梅木が、5マナを残してターンを終えている。必然的に、脳裏に2枚のカードが浮かび上がる。
《大天使アヴァシン》と《呪文捕らえ》だ。
どちらも瞬速を持ち、即座に戦場に駆けつける。前者は持ち前のスペックで戦場を無理矢理押さえつけるフィニッシャーであり、後者はわずか3マナで相手のプランを崩しながら、飛行クロックとして十分なパワーとタフネスを兼ね備えている。
《森》をプレイし、《呪文捕らえ》が捕らえきれない5マナの《新緑の機械巨人》を唱える。カウンターを自身に乗せて、ひとまずターンエンド。
そしてエンドフェイズに、梅木は《大天使アヴァシン》を降り立たせる。
再び《反射魔道士》を唱えて《新緑の機械巨人》を手札に戻し、そのまま攻撃に移る。
ターンを受けた和田は、ドローを確認してから盤面を見つめ、一言だけ告げた。
和田「投了で」
和田 0-1 梅木
梅木が持ち込んだのは、もはや説明するまでもない強力なデッキ、「青白フラッシュ」だ。
《スレイベンの検査官》、《反射魔道士》、そして《呪文捕らえ》と、優秀なETB能力持ちが採用されている。ETB能力を持つクリーチャーは、盤面に出たあとに特別な役割を持てないことがほとんどなのだが、《密輸人の回転翼機》が彼らに新たな役割を与えている。
ここ最近のグランプリの結果を見ても、「青白フラッシュ」の強さは明らかだ。現環境で、最も結果を残しているデッキと言っても過言ではない。
梅木は手元のメモに目を落とす。そこに記されているのはライフと、そして、1ゲーム目で盤面に現れた和田のカードだ。
現れたカードは互いに限られているが、「青白フラッシュ」というメジャーなアーキタイプであるが故に、梅木のデッキの情報はほとんど判明したと言えよう。反対に、梅木が得た和田のデッキに関する情報は限られている。
3本先取で行われる神決定戦。2ゲーム目はサイドボードを使用しないまま行われる。2ゲーム目でもある程度の情報を獲得し、その後のサイドボーディングに活かしていきたいところだ。
Game 2
両者マリガン。6枚の手札を見つめて、梅木はダブルマリガンを選択する。
先手の和田は《伐採地の滝》、梅木は《大草原の川》と両者タップインからスタート。
和田は《山》、《森》と順調に土地を伸ばして3色のマナを用意する。
対する梅木は《平地》をプレイ。《無私の霊魂》を唱え、そのまま攻撃を仕掛けていく。
最初に和田が呼び出したクリーチャーは、《逆毛ハイドラ》だ。しかし、ここには《停滞の罠》が瞬速で唱えられる。エネルギーを獲得することは出来たが、盤面に残ることはできなかった。
ダブルマリガン、という不利な状況。限られた手札でひとまず盤面を落ち着かせることができた梅木は《無私の霊魂》で攻撃を続ける。そして、《密輸人の回転翼機》が唱えられたことで、手札の質を向上させる手段も手に入れた。
『カラデシュ』から搭乗した「機体」は、たしかに強力だ。無色のアーティファクトであることを活かして、あらゆる色のデッキに採用されつつあるが、やはり和田のデッキにも採用されているようだ。
《領事の旗艦、スカイソブリン》が戦場に現れ、その砲撃が《無私の霊魂》を撃ち抜く。
《密輸人の回転翼機》に「搭乗」できる要員を失った梅木は、土地を伸ばせずそのままターンを終える。
和田が唱えたのは《新緑の機械巨人》だ。自身にカウンターを乗せ、8/8、トランプル……《領事の旗艦、スカイソブリン》の「搭乗」コストを満たすに余りある巨大さである。早速、巨人が旗艦に乗り込む。
ところが、これも《停滞の罠》が許さない。
クリーチャー化した「機体」を除去しても、「搭乗」要員は被害を免れる。これが「機体」の強さの一つなのだが、現在の盤面はその強さを説明するのに適した例と言えるだろう。《領事の旗艦、スカイソブリン》は除去できたが、盤面には規格外とでも言うべき大きさの機械巨人が残っているのだから。
梅木はようやく《平地》を引き込む。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を唱え、トークンを生みだしてターンを終える。
「もしも、4枚目の土地が間に合って、1ターン早く《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が唱えられていたら……」
この場面を見ながら、誰もが思ったはずだ。梅木は幾ばくかの悔しさ、そして和田は安堵とともに。
たしかに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》は強力だ。しかし、自身にカウンターを乗せた《新緑の機械巨人》の前では盤面に残ることが許されるはずもなく、一撃で葬り去られる。
さらに、2体目の《新緑の機械巨人》が8/8というサイズで降り立った。
梅木は冷静に盤面を見つめたまま、ターンを受ける。
梅木「手札は、2枚ですよね?」
長考しながら問いかける挑戦者に対して、神は頷いて答えた。
2体の《新緑の機械巨人》が並ぶ盤面を、梅木は見つめる。ジャッジも、そして、配信のカメラもその盤面を写し続けている。
筆者も同じく見つめていたのだが、その時、ふと気づいたのだ。
神が、天を見つめながら笑っている。
ほんの数秒ではあったが、この状況で盤面を見つめていなかった者は、世界で1人、いや、スタンダード神1柱だけであろう。この対戦に訪れた何度目かの静寂の中で、笑みを浮かべている。それは、勝負を楽しむものなのか、それとも己の幸運を噛みしめたものなのかは知り得ないが、たしかに笑っていた。
梅木は《密輸人の回転翼機》の能力を用いて、デッキに存在するであろう回答を探す。メインボードに1枚だけ採用されている《石の宣告》さえあれば、並んだ脅威を一瞬で消し去ることができる。ここでは、再び《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に協力を願い、トークンを生み出してターンエンド。
ターンを受けた和田は、ゆっくりと5枚の土地を倒した。唱えられたのは、3体目の巨人だ。
カウンターを2個ずつ振り分け、10/10の《新緑の機械巨人》巨人が2体。
少しでも傷を抑えようとしたトークンに対して、《蓄霊稲妻》が襲いかかったことで、梅木のライフが一撃で消し飛んだ。
和田 1-1 梅木
和田のデッキは、「ティムール・ビートダウン」。『カラデシュ』から登場した様々なカードが豊富に採用されており、その中心となるメカニズムがエネルギーだ。
「青白フラッシュ」ほどの知名度はないかもしれないが、各種大会で結果を残していることは間違いない。
【事前インタビュー】で、「マジックは引退した」と発表した、スタンダード神・和田。たしかにその言葉は衝撃的であったが、勝負から身を引いたわけではないことが、その真剣な表情からうかがえる。”勝負を行う場”として、この神決定戦に挑み、「今までの蓄積、経験に頼るしかありません。過去10年近くのキャリアをすべてぶつけるつもりでいきます」という力強い言葉でインタビューは締めくくられていた。
直近のスタンダードに対する知識では、挑戦者・梅木に軍配があがるかもしれない。しかし、これまでのマジックにおける経験で言えば、和田の蓄積は恐るべきものがある。
そして、神決定戦という場に対する経験も。
ここからサイドボードが加わるため、これまでとは違った展開となることは想像に難くない。デッキを見つめながら、手早く75枚のカードを選別していく両者。その選別の基準は、極めて単純だ。
「神の座に向かう上で、必要なものは何か」
先に終えたのは和田。梅木は最後にもう一度デッキに目をとおしてから、相手に15枚を提示した。
Game 3
梅木は再びダブルマリガン。しかしながら、《大草原の川》、《平地》と続けて《密輸人の回転翼機》と動き出す。まずまずのスタートと言えるだろう。
《伐採地の滝》、《尖塔断の運河》、そして《通電の喧嘩屋》と和田の動き出しも良好、と言いたいところだが、次のターンに梅木の唱えた《反射魔道士》によって、大きく速度を削がれてしまう。3ゲーム目でも《密輸人の回転翼機》を《反射魔道士》が乗りこなす展開のようだ。
そして、ルーター能力によって捨てられたのは、《呪文捕らえ》。
《反射魔道士》によってゲームプランを崩され、《密輸人の回転翼機》によって削りきられた1ゲーム目が、否が応でも脳裏に浮かぶ。しかし、今回はまだ手札に新戦力が存在する。《つむじ風の巨匠》だ。
梅木は《反射魔道士》で「搭乗」し、《密輸人の回転翼機》で攻撃。そのエンドフェイズ、《通電の喧嘩屋》が残したエネルギーも活用して、早速《つむじ風の巨匠》が2体の飛行機械を生成する。
ドローを確認し、手札を見つめる。和田は一度小さく頷いてから、2体の飛行機械・トークンと《つむじ風の巨匠》に手を伸ばした。
盤面に存在する情報を漏らさぬように、和田は盤面を俯瞰しながら思考を巡らせる。その視界の片隅に、梅木の墓地が映る。
墓地に眠る、《呪文捕らえ》。もう1枚、手札にあるのか。悩んだ末に、《つむじ風の巨匠》には攻撃をさせなかった。このアタックを、梅木は静かにスルー。
ダメージをメモに記した和田は、サイドボードから投入された《稲妻織り》を唱える。
梅木は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を唱えてトークンを生み出す。これまで、戦場の空を飛んでいるのは《密輸人の回転翼機》のみであったが、和田の場にも航空戦力が増えてきた。さらに、到達を持ちながらあらゆる呪文に火力を追加させる《稲妻織り》が登場したことで、戦況が変わってきた。攻撃せずにターンエンド。
和田は身を乗り出す。盤面を真上から見下ろすような形だ。手札は7枚。このまま《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が盤面に残り続けると、非常に厳しい展開になる。《密輸人の回転翼機》が存在するため、生み出されるトークンの価値は、非常に高い。
通常、クリーチャーを唱えるのは戦闘フェイズ後であることが多い。戦闘時に”マナが余っている状態”を作ることで、何らかの呪文を唱えることができ、”何らかの呪文を持っている”と相手に思わせることもできる。
そのセオリーに反して、戦闘前に《通電の喧嘩屋》を和田が唱えた。これによって、《つむじ風の巨匠》が飛行機械を生成したことで枯渇していたエネルギーを補充し、《霊気拠点》にエネルギーが供給され、色マナを生産することができるようになった。
そして、飛行機械トークン2体が《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に襲いかかる。
梅木「少し考えます」
セオリーとは異なる、戦闘前に唱えられたクリーチャー。それによって得られたエネルギー。そして、アンタップ状態の《霊気拠点》。いわゆるブラフの可能性もあるが、”何か”が和田の手札に存在し、”何か”が唱えられるのは必定。しかし、その”何か”とは?
梅木はトークンを「搭乗」させて《密輸人の回転翼機》を動かし、ブロックを選択する。
和田は《霊気拠点》をタップ。生み出されたマナは……赤。
《流電砲撃》! そしてそれに呼応した《稲妻織り》によって、《密輸人の回転翼機》を撃墜する。飛行機械トークンは、そのまま《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に攻撃をとおす。
「スルーで良かったのでは?」と思ってしまいそうだが、土地があらゆるマナを生み出せる《霊気拠点》であったことが効いている。《密輸人の回転翼機》が撃墜されることを嫌ってスルーした場合、「生み出されたマナが緑で、《顕在的防御》が唱えられ、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が潰される」という可能性があったのだ。
その可能性を回避し、忠誠度を削られることにはなったが、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》はまだ生きている。梅木への忠誠度を高めながら、クリーチャー化して攻撃を仕掛ける。この攻撃を、和田は悩むことなくスルー。
梅木は《石の宣告》を唱える。対象は、《通電の喧嘩屋》だ。《稲妻織り》かと思ったが、打点の高さを嫌ってのことであろう。
和田は飛行機械トークン2体で攻撃。1体は《無私の霊魂》がブロックする。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の忠誠度は2。なかなか削りきることはできないが、じわじわと和田がアドバンテージを稼ぎながら追い詰めていく。《森の代言者》が2体唱えられたことで、さらに盤面は堅くなった。
忠誠値を高めながら《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が攻撃。再び、和田はスルーを選択。
ここでゲームが大きく動く。梅木がもう1体の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を唱えて、トークンを生み出した。
対する和田は、もう1体の《稲妻織り》を唱えた上で、《流電砲撃》を唱える。梅木の盤面を、火力が複雑に組み合わさりながら襲う。
盤面が崩壊しかけた梅木は、ここで投了を告げる。
和田 2-1 梅木
和田の残りライフは、4点。あと一歩ではあったが、その一歩が遠かった。
両者、サイドボードに手を伸ばす。梅木はじっくりとカードを見つめ、ゲームプランを練り直す。
和田のプランは定まっているようだ。手早くサイドボーディングを終えてシャッフルを済ませると、深呼吸。ゲームの開始を待つ。
和田が神の座を維持するのか。それとも、梅木が勝利し、ゲームをふりだしに戻すのか。
Game 4
梅木はキープ。和田はマリガン。
マリガン後の手札を見つめる和田……土地が、1枚しかない。
《通電の喧嘩屋》《つむじ風の巨匠》《つむじ風の巨匠》《蓄霊稲妻》《領事の旗艦、スカイソブリン》、そして《伐採地の滝》。
赤マナを出すことができるようになれば、大きく動き出すことができる。出すことができなければ、一切動くことなく、5ゲーム目が始まる可能性もある。
《霊気との調和》を引いたとしても、唱えられるのは2ターン目。《霊気拠点》ならば? それでも、継続的な展開は難しくなる。
深くため息をついて、和田は、キープを選んだ。
梅木の《窪み渓谷》からゲームが開始される。手札には《港町》《平地》とあるため、順調に土地を伸ばしていけるだろう。
対する神・和田のファーストドローは……《山》! 紛うことなき、最高のドローである。《伐採地の滝》をプレイし、ターンエンド。
ターンを受けた梅木は《港町》。次のターンに和田が出した《通電の喧嘩屋》に対しては、《平地》を追加し、《反射魔道士》によって手札に戻していく。
続くドローは《島》。即座にプレイし、《つむじ風の巨匠》が唱えられる。
4ターン目。梅木は4枚目の土地をプレイする。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を唱えて、トークンを生みだす。順調な展開だ。
梅木のエンドフェイズ。《つむじ風の巨匠》で飛行機械トークンを生成してから和田がターンを受ける。ドローを確認し……こちらも4枚目の土地、《山》をプレイ! 土地1枚からのスタートとは到底思えない。《通電の喧嘩屋》でエネルギーを追加し、さらに《蓄霊稲妻》を唱えて《反射魔道士》を除去する。
《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の攻撃を、和田はスルー。《密輸人の回転翼機》をプレイし、さらに《反射魔道士》で《通電の喧嘩屋》をバウンス。梅木が再び攻撃の手はずを整えた。エンドフェイズに和田は《つむじ風の巨匠》で飛行機械を生成し、そのままターンを受ける。追加の《つむじ風の巨匠》を唱えて、エネルギーは4。
梅木は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》で再び攻撃。そして、2体目の《密輸人の回転翼機》、そして《反射魔道士》が飛行機械トークンを除去しながら盤面に現れる。
梅木の盤面に並ぶのは、《反射魔道士》2体、2/2のトークンが1体、《密輸人の回転翼機》が2体。
和田の残りライフは10。対する梅木はライフを失っていないという大きなアドバンテージを有するが、盤面が難解であることは変わりない。動き方一つ、そして応手一つを間違えれば、敗北の二文字が目前にまで迫ってくる。
和田が動く。《通電の喧嘩屋》をプレイしてエネルギーを獲得。そして、飛行機械トークン2体と《つむじ風の巨匠》2体で、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に攻撃を仕掛ける。
冷静に盤面を見つめながら梅木が弾き出した答えは、トークンを「搭乗」させた《密輸人の回転翼機》が飛行機械トークン1体を、2体の《反射魔道士》が2体の《つむじ風の巨匠》をブロックする、というものだ。
この答えに対し、和田は《蓄霊稲妻》で《密輸人の回転翼機》を除去し、クリーチャーを一体も失うことなくターンを終えた。
ターンを受けた梅木は、《通電の喧嘩屋》に対して、《空鯨捕りの一撃》を放つ。和田の盤面からブロッカーが姿を消した。
トークンが「搭乗」した《密輸人の回転翼機》、2体の《反射魔道士》、そして《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が攻撃を仕掛ける。パワーの合計値は、12点!
《つむじ風の巨匠》が最後のエネルギーを使い切り、飛行機械トークンを生成。巨匠の作品は、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の攻撃を受けて、塵と化した。
和田のライフは、残り3。一切の余裕がなくなった。
それでも、和田は焦らない。
ドローしたのは5枚目の土地、《霊気拠点》。そして《新緑の機械巨人》が唱えられる!
《つむじ風の巨匠》に1つ、飛行機械トークンに3つのカウンターを乗せて、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をようやく打ち倒すことに成功する。
盤面を長時間支えたプレインズウォーカーを墓地に眠らせた梅木は、6枚の土地を立たせたまま、何もせずにターンエンド。
和田は初手から温存してきた《領事の旗艦、スカイソブリン》を唱えて、《反射魔道士》を除去。戦力を補強し、盤面を制圧する準備が整った。
《新緑の機械巨人》と《つむじ風の巨匠》を、一度盤面中央へと動かし、2体をタップさせる。そのまま攻撃クリーチャーを指定をする……と思われたが、そこで和田が停まった。
指先が震えている。プロプレイヤーとして、そして神として幾度も死地を乗り越えてきた和田。その感覚は、引退を宣言した今でも衰えていない。和田は、ゆっくりと《つむじ風の巨匠》を戻し、《新緑の機械巨人》のみを攻撃させる。
和田の感覚は正しかった。正しかったのだが、逃れられない。この盤面における最高の脅威を、梅木が降り立たせた。
《大天使アヴァシン》。
和田、万事休す。
残りライフは3点。梅木の場には、《大天使アヴァシン》と《密輸人の回転翼機》という航空戦力が並ぶ。さらに、天使以外のクリーチャーを墓地に落としてしまうと、《大天使アヴァシン》が変身して、そのライフが消し飛ぶことになる。
《新緑の機械巨人》が《大天使アヴァシン》の餌食となり、和田はターンを終える。
梅木のライフは、いまだ20。《密輸人の回転翼機》の攻撃を一度でもとおせば、第5ゲームを始めることができる。和田は飛行機械トークンにブロックさせ、命を繋ぐ。
安易な攻撃は敗北に繋がる。地道な除去も許されない。慎重になりすぎれば、相手に攻め切られる。
まずは、《領事の旗艦、スカイソブリン》で攻撃。砲撃の標的にできるのは、《大天使アヴァシン》のみ。梅木は動じることなく、そのままブロックさせ、《大天使アヴァシン》を墓地に置いた。
「《大天使アヴァシン》でブロック?」と疑問に思ったものも多いはずだ。どうやらそれは、和田も同じだったらしい。そしてエンドフェイズ、苦笑いを浮かべながら、その意図を理解する。
さらに降り立つ、《大天使アヴァシン》。除去できたと思った脅威が、再び現れたのだ。
勝利を目前に捉えた梅木。ドローした《スレイベンの検査官》を唱えて、《密輸人の回転翼機》に「搭乗」。すぐさま攻撃を仕掛けていく。
その攻撃をスルーすることも、ブロックで打ち取ることもできない和田は、《つむじ風の巨匠》が生み出した飛行機械トークンでチャンプブロックさせることしかできない。
そして、そのためのエネルギーも、枯渇してしまった。
誰にでも、記憶に残る印象的な出来事というものが存在する。
その出来事が”劇的”であればあるほど、それは強く人々の脳裏に残る。それが、”喜劇的”でも、”悲劇的”でも。そして、当人たちのみならず、様々な形式で語り継がれ、伝承となっていく。
「誰かが喜べば、誰かが悲しむ」……この世界を創造したものが、そういう機構を埋め込んだらしい。
”成功”の裏には”失敗”があり、”勝者”の裏には”敗者”がいる。
そして、“スタンダード神”の裏には、“スタンダード神になれなかった人間”が存在する。
ドローを確認した瞬間を、和田は一生忘れないであろう。
そして、この瞬間が語り継がれていくように、人々に記憶されるように、記録としてしっかりと記しておくことこそが、筆者の使命であると確信している。
この盤面に対する最高の1枚。サイドボードを含む75枚の中、たった1枚だけ採用された《垂直落下》!
《大天使アヴァシン》が落ちていく。目前に捉えた、勝利と共に。
天空から盤面を見下ろし、死を勝利に変える天使が消えた。もはや何も遮るものはない。
この日、東京では雲一つない青空が広がっていた。その青空の片隅が、和田の視界にまで伸びてくる。
視界良好。《領事の旗艦、スカイソブリン》のエンジンが、再び動き出す!
埋めがたいライフ差は存在する。梅木が再び《密輸人の回転翼機》を唱えたことで、航空戦力を温存する必要が出てきた。それでも、除去すら許されなかった状況と比べれば、かなり動きやすくなったことに違いはない。《領事の旗艦、スカイソブリン》と「搭乗」要員、そして飛行機械トークンを残しながら、《つむじ風の巨匠》を始めとする地上戦力が、梅木のライフを削り始める。
《垂直落下》のドローから、流れが変わった。いや、たった1枚しか土地がない手札をキープし、土地を次々とドローしていった流れから考えれば当然なのかもしれない。
流れが変わったのはいつだ? 3ゲーム目、残りライフを4まで削られながらもサイドインした《稲妻織り》が活躍をしたところから? 2ゲーム目、《新緑の機械巨人》が3体ならび、20点のダメージを見舞ったところから? 1ゲーム目、動きを封殺されながらも相手のデッキを把握したことから? 「引退した」とインタビューで告げながら、これまでとは違ったマジックとの付き合いを我々に語ったところから?
そもそも、流れなど、何一つ変わっていないのかもしれない。
現在の事象を語るには、それまでの経緯すべてを語らねばならない。誰かの現在を語るためには、その人がこれまで歩んできた人生を語る必要がある。和田がマジックと出会い、楽しみ、プロとして活躍し、神となり、そして今、新たな一歩を踏み出そうとしている。そのすべてを語らねば、この瞬間を説明しきれないのだ。
エネルギーは残り1つ。《つむじ風の巨匠》が生成できない状態だが、ドローした《霊気との調和》でエネルギーを獲得し、飛行機械を追加できるようにする。
梅木が2体の《密輸人の回転翼機》を起動し、ルーター能力によって手札の質を向上させようとすれば、直前にドローした、これも75枚の中で1枚しか採用していない《自然のままに》を唱えて除去していく。
冷静に盤面を見つめ、勝利に向かう和田。梅木のライフを5まで削った今も、一切の可能性を考慮して、最適解を探し続ける。
梅木は、《密輸人の回転翼機》によるドローを確認する。そして、そこに勝利への可能性がないことを悟ると、静かに投了を告げて、デッキを片付けた。
和田 3-1 梅木
新たな挑戦者を待つ身となった和田は、生放送への出演を終えて、控室へと戻る。
するとそこで、一つの邂逅が待っていた。
松田「おめでとう! デッキ、強かったでしょ?」
モダン神、松田 幸雄である。
和田がマジックを引退したことは既に述べたとおりだが、今回のデッキは、松田から借り受けたものであった。無論、そこに和田独自の調整が加えられていることは記しておくべきであろうが、「神から神へ」デッキが渡されたことは紛れもない事実である。
松田への【事前インタビュー】によれば、大会参加費無料という”神の権利”を活用し、晴れる屋の大会へ積極的に参加して腕を磨いているらしい。そして、今回のデッキは、【『カラデシュ』ゲームデー】で松田が優勝した際のレシピが基になっている。
松田が神でなかったら、きっと今回のデッキを和田が使用することはなかったであろう。そして、まったく違った結果が残っていた可能性も否定できない。やはり、現在の事象を語るには、それまでの経緯すべてを語らねばならない。
にこやかに会話を交わす、2柱の神。会話の終わり、戦いの場へ向かう階段へ足をかけた松田に、和田は一言だけ告げた。
和田「頑張ってね」
「神から神へ」、エールが贈られた瞬間である。
しかし、ここには明確な差がある。
一方は、防衛を遂げた。もう一方は、これから神として挑戦者と戦う。
和田のエールを受けた松田の戦いも、ここでお届けした戦いのように、きっと劇的な戦いになるだろう。神決定戦には、必ずと言っていいほど、ドラマが溢れているのだから。
とはいえ、それを記すのは筆者の役目ではない。筆者の務めは、この”スタンダード神”の戦いを綴ること。そしてその務めを果たすために必要なことが、あと一つだけある。そう、神の名を呼ぶことだ。
第7期スタンダード神決定戦、勝者は和田 寛也(東京)!
「スタンダード神」防衛成功おめでとう!!