再び、このときがやってきた。
6度目の防衛戦。
それに臨むのは、2014年7月……レガシーの「神決定戦」が始まってから2年、ただの一度も負けることなく不敗の神として頂点に君臨し、もはやこの「神決定戦」を象徴する存在にまでなった男。
川北 史朗だ。
【10期連続防衛を目標に掲げる】川北にとって、この第7期はあくまで目標までの長い道のりの途中にある通過点の一つに過ぎない。
これまでのレガシー神決定戦は、すべて5本目、フルセットにまでもつれこんでいる。しかも経験と技術がモノを言うレガシーというフォーマットにおいて、挑戦者決定戦で優勝し挑戦権を獲得するにまで至ったプレイヤーがフロック (まぐれ) であるなどということは考えられない。しかしそれでも最終的に川北が競り勝つことができていたのは、川北が挑戦者の思考とデッキ選択を徹底的に読み、最適なデッキを選択し続けてきたからだ。
神決定戦は3本先取で行われる上に、挑戦者ただ一人に勝てばいいという特殊なフォーマットだ。普通の大会であれば、たった一人のためにデッキを選択することなどありえない。しかしここにおいては、外の世界のメタゲームも、様々なデッキ相手に安定して勝てるかどうかも関係ない。挑戦者を、1対1で上回るしかないのだ。
そんな特殊なルールでの戦いを、川北は既に5度も経験している。挑戦者の立場では得ることができない、その圧倒的な経験値がもたらす勝敗を左右する力は、この神決定戦という舞台においては、おそらくこの上なく大きい。
「デッキの選択でも論理的に思考して、結論を出せたプレイヤーが勝利する」 ……川北はそう言った。
そして神は、論理を過たない。
ならば神の勝利は必然。試合前のインタビューを終えた川北は悠然と、もはや見慣れた対戦席に着いた。
一方、高鳥 航平/入江 隼/斉藤 伸夫/土屋 洋紀/加茂 里樹に続く6人目の「挑戦者」として神に挑むのは、ANTやリアニメイト、《実物提示教育》といった、レガシーに存在する数々のコンボデッキに精通したコンボマスター。
平木 孝佳。
「『圧勝するか、完敗するか』で良い」「相手がカウンター呪文や対策カードを持っているかどうかは、目線や所作で分かる」「裏付けのないコンボは、揃わない」……【挑戦者インタビュー】で語られた平木の言葉の端々からは、コンボに捧げられた時間の厚みが否が応にも窺い知れる。弛まず研鑽を続けてきた者だけが持ちうる自負と誇りが哲学となり、論理を超えた直観を平木に宿らせているのだ。
だが平木にとって川北は、レガシープレイヤーとして超えるべき目標の一つではあるが、同じレガシーというフォーマットを中心にプレイしている5~6年来の旧知の間柄でもある。そしてそれゆえにこの神決定戦は、何よりも難しい戦いとなってしまった。
何せ平木の側はこれまで、「コンボ」と書かれた名刺を額に貼り付けて歩くかのごとき強烈なコンボキャラを貫いてきたのである。
そして川北も当然そのことを知っている。ということは、1対1のこの神決定戦でコンボを持ち込むのは一見自殺行為に等しい。ただえさえ3本先取でサイドボード後の戦いが通常より多く、コンボデッキに不利なルールなのだからなおさらだ。
自分は最大限の力を発揮できるがメタられることも予想されるコンボか、多少のプレイング的不利を甘んじて受け入れた上で相手の裏をかけるフェアか。応援してくれる仲間たちの期待もある中で、平木はさぞジレンマに悩まされたことだろう。
それでも。
「絶対に勝ちたい」……平木はそう言った。
答えは、直観が示してくれた。
やれるだけのことはやったのだ。川北が対面に坐したのを見届けた平木は、シャッフルのためにライブラリーに手を伸ばした。
川北と平木。
いま、この2人の勝負が始まろうとしている。
はたして、どちらの思考が上回ったのか。どちらの想像が先を行くのか。
そして。
どちらが、神に相応しいのか。
答え合わせの時は来た。
論理の正しさを証明するために。直観が示した未来を掴み取るために。
第7期、最後の勝負が始まった。
Game 1
神決定戦において最も緊張が走るのは、互いのデッキが明らかになる瞬間だ。
先手をとった川北が《霧深い雨林》でエンドし、自らのデッキを明かす機会を譲ると、対する平木は早速その権利を行使する。
《Tropical Island》に続けて送り出したのは……《秘密を掘り下げる者》!
これを見て、無言で固まる川北。
「(挑戦者の平木が) 自分を捨てて来たら恐ろしい」……インタビューで語っていたその危惧は、いま現実のものとなった。
コンボ使いが、コンボを捨てた。
しかも代わりに選んだのはフェア中のフェア、デルバーデッキ。それは選んだ平木以外、川北だけでなくこの試合を生放送で見ていた誰もが驚くほどに、あまりにも意外すぎる選択だったのだ。
だが、初めて挑戦者のデッキを読み違えたショックからか、忙しなく手札を繰りながらもたっぷり5秒ほどアクションがなかった川北も、やがて腹を括るしかないと判断したのか、2ターン目のドローに手を伸ばす。
勝機があるとすれば、運良く先手がとれていたというその1点。それを生かすために、フェッチ2枚から《Underground Sea》《Tropical Island》をサーチした川北は《タルモゴイフ》を送り出し、平木の《目くらまし》を《目くらまし》で返してこれを着地させる。
黒青緑カラーで《タルモゴイフ》が入ったデッキというと、【第5期レガシー神挑戦者決定戦】で土屋 洋紀が使っていた「BUGデルバー」が想起される。しかし平木は既にこの段階で、川北のデッキは《秘密を掘り下げる者》の入っていない「ミッドレンジ」であろうと当たりをつけていた。
そして「黒青緑カラーのミッドレンジ」の弱点は明白だ。除去が《稲妻》ではなく《突然の衰微》であること。それは平木が使っているようなデルバーデッキに対しては、致命的な隙となる。たとえば後手番の場合などは、《死儀礼のシャーマン》に《稲妻》が合わされ、《不毛の大地》もモロに食らうことを考えると、2マナの除去スペルでは大幅にプレイが遅れてしまう可能性があるからだ。
今回は平木の側が後手番となったものの、それでも1マナのクリーチャーである《秘密を掘り下げる者》に対して《突然の衰微》を合わせるというのは、1マナのクリーチャーに対して2マナの除去を当てなければならないという意味で、交換した時点で1マナのテンポロスになることに変わりはない。
いずれにせよこの段階で平木の側に有利なマッチアップであることが明らかになったわけだが、さらに早くも後手2ターン目に《秘密を掘り下げる者》がナチュラルに《意志の力》をめくりながら「変身」&3点アタックし、なおも平木が2枚目の《秘密を掘り下げる者》を送り出すと、テンポの差は歴然だ。
やむなく返すターンに《突然の衰微》で片方を撃ち落とし、ダメージレースを挑む川北だが、返しで2体目こそ「変身」しなかったものの、平木は川北の《Underground Sea》を《不毛の大地》しつつ、3体目の《秘密を掘り下げる者》をプレイ、川北を追い詰めていく。
しかし。
このような逆境において「持っている」のが川北という男なのだ。
ターンが回った川北はまず2枚目の《突然の衰微》で2枚目の《秘密を掘り下げる者》を処理すると、返すターン、3枚目の《秘密を掘り下げる者》は変身せず《思案》を撃っただけでターンを返した平木に対し、《Tropical Island》を《不毛の大地》してターンを返す。
さらに平木が前のターンに《思案》で積んだ《稲妻》を公開しながら3枚目の《秘密を掘り下げる者》を「変身」させ、フェッチせずにそのまま《稲妻》を手札に加えたところで、3枚目の《突然の衰微》をプレイ!
これにより全てのクロックを失い、《目くらまし》と《不毛の大地》で後退した平木のマナはここでようやく2マナ目。しかもアクションがなく、4/5の《タルモゴイフ》が、平木のライフを6点まで落とし込む。
それでも、返すターンに3マナ目にたどり着いた平木が2枚のフェッチを起動しながら《真の名の宿敵》をプレイすると、川北の《目くらまし》も《意志の力》で弾き、対応しての川北の《渦まく知識》も空振りしたことで、残りライフ3点というところで《タルモゴイフ》のクロックを止めることに成功する。
だが、その平木の抵抗はあまりにも遅く、そして失ったライフはあまりにも大きすぎた。
平木の残り手札1枚、見えている《稲妻》を《思考囲い》で叩き落した川北は、残り3点の平木にとっては致命的なクロックとなりかねない《悪意の大梟》を送り出すと、さらに《闇の腹心》も追加する。
手札の尽きた平木に、ライフを守り切る術はもはやないのだった。
川北 1-0 平木
川北「まじかー、そのデッキかー!きついなー。いやー、正解!」
平木「予想してなかった?」
川北「予想してなかったー」
平木のデッキは、4色デルバー。
《秘密を掘り下げる者》と《死儀礼のシャーマン》、青黒ベースの1マナ域から《グルマグのアンコウ》、《稲妻》、《突然の衰微》という4色の強力なスペルを繰り出しながらも、《不毛の大地》で相手のマナ域を攻める、レガシーにおけるクロックパーミッションの一つの究極形だ。
エルドラージのようなハメパターンがあるデッキならまだしも、平木がクリーチャーによる真っ当なダメージレースを主体にしたデッキを選んでくるとは予想だにしていなかった川北は、メインボードに除去呪文を《突然の衰微》4枚しかとっていない。代わりに4枚の《トーラックへの賛歌》に加えて《思考囲い》まで採用するなど、対コンボを想定したカードが余り気味になってしまった格好だ。
1ゲーム目はたまたま《突然の衰微》を3枚引いたものの、メイン戦は川北にとっては相性的にかなり厳しい戦いになることは間違いない。そして神決定戦はプロツアーと同様、3本先取で2ゲーム目まではメインボードのままで行われるのだ。
平木「まあ予想できたやつはあまりいない気がする。でも結局負けたら意味ない……まあいいや、こっから勝てば」
1ゲーム目とは異なり、互いのデッキがほぼ明らかになった上でのメイン戦が始まる。
Game 2
1ゲーム目とは違って、1ターン目《思案》シャッフル→2ターン目セットフェッチから《渦まく知識》という穏やかな動きの平木。返す川北は《トーラックへの賛歌》を打ち込みにいくが、これは《目くらまし》でカウンター。そして平木は3ターン目も《渦まく知識》をプレイ、だが今度はフェッチランドがなく、タップ状態の《Tropical Island》と、《目くらまし》で戻した《Underground Sea》を置き直してアンタップした状態でターンを返す。
既に《グルマグのアンコウ》を出せるだけの墓地が溜まっているが、川北の《目くらまし》を警戒して1ターン遅らせることを選択したようだ。
ここで川北は《不毛の大地》をセットしながら《タルモゴイフ》をプレイ。これが通るとエンドし、
それはレガシーに慣れた者であればあるほど体に染みついている動きだ。平木の場に《Underground Sea》が立っている以上、《もみ消し》をケアするならばアップキープに《不毛の大地》を起動するのが最善となる。
しかし。今回はその判断が、裏目に出てしまう。
対応して平木がプレイしたのは《突然の衰微》!
天を仰ぐ川北。
《もみ消し》が入っている4色デルバーのレシピもあるため、一概にミスプレイとは言いがたい。しかしどうあれ、失った《タルモゴイフ》は、フラッド気味の手札をキープした川北にとって、引き込めていた唯一のクロックだったのだ。
川北「負けたー。ミスったー、《突然の衰微》入ってるよねそういえば」
緩手の代償か、川北はクリーチャーをレッドゾーンに送り込むことはおろか、ドロースペルで手札を整えることすらできない。2枚目の《不毛の大地》で平木のパーマネントをゼロにまで追い込んだにもかかわらず、だ。
一方、やがてフェッチランドを引き込んだ平木が《Underground Sea》から満を持して《グルマグのアンコウ》を送り出すと、土地ドローが続く川北は手札にプレイできない《突然の衰微》を抱えながら、5点、また5点とライフを減らしていく。
それでも、あと2ターンというところでようやく《渦まく知識》にたどり着いた川北は、そこから《悪意の大梟》へとつなげると、《意志の力》を構えながらプレイ。これは平木の《意志の力》2枚に阻まれて通せなかったものの、代わりに同時に引き込んでいた《死儀礼のシャーマン》が着地。さらに次のターンには《思案》をトップし、度重なるフェッチランドの起動でライフを1としつつも、《悪意の大梟》で《グルマグのアンコウ》を止めることに成功する。
だが。
通ってしまった1体のクリーチャーにライフの大半を削られつつも、紙一重で踏みとどまる……そのシチュエーションはちょうど、1ゲーム目と対照的な展開だった。
ならば、この先に待ち受けているものもまた。
川北「……《稲妻》ですか?」
引き込んだ《汚染された三角州》を起動しようとした平木に、川北が問いかける。答えは聞くまでもなかった。
平木「《稲妻》で」
はぁー、という川北の深いため息とともに、メイン戦が終わりを告げた。
川北 1-1 平木
川北「ミスったなぁ。いやー、ミスった」
平木「いや、でも俺もミスってるからね……《グルマグのアンコウ》もう1ターン早く出せたなぁ」
「4色デルバー」というデッキ選択だけなら川北の思考を上回った平木だが、やはり普段使わないアーキタイプだからか。《渦まく知識》で戻すカードの判断などから、若干不慣れな様子が垣間見える。コンボマスターの直観で補ってはいるものの、その綻びは、ゲームが長く続けば続くほどに致命傷になりかねない。
狙うは短期決戦。後半に強い川北がギアを上げるその前に、平木は一点突破を試みる。
◆ 川北のサイドボード
In
2 《見栄え損ない》
1 《グルマグのアンコウ》
1 《四肢切断》
1 《毒の濁流》
1 《死の投下》
Out
3 《意志の力》
2 《思考囲い》
1 《トーラックへの賛歌》
◆ 平木のサイドボード
In
2 《苦い真理》
1 《悪魔の布告》
1 《四肢切断》
Out
4 《意志の力》
In
2 《見栄え損ない》
1 《グルマグのアンコウ》
1 《四肢切断》
1 《毒の濁流》
1 《死の投下》
Out
3 《意志の力》
2 《思考囲い》
1 《トーラックへの賛歌》
◆ 平木のサイドボード
In
2 《苦い真理》
1 《悪魔の布告》
1 《四肢切断》
Out
4 《意志の力》
Game 3
川北の《思案》に対し、平木は《Underground Sea》から《死儀礼のシャーマン》スタート。互いに《不毛の大地》《目くらまし》を擁することが明らかになったこの対決においては、「行動に不自由ないマナを確保すること」は土俵にあがるための最低条件となる。それは互いの共通了解だ。
だから裏を返せば、「対戦相手のマナを縛り、行動を不自由にすること」は最序盤の作戦目標となる。2ターン目、《Underground Sea》《Bayou》と並べた川北が2マナをタップ。
平木「《タルモゴイフ》?」
川北「《突然の衰微》で」
平木「しゃーなし」
川北「おしまい」
マナ域のジャンプアップを妨害された平木は、お返しとばかりに《不毛の大地》で川北の《Underground Sea》を割ると、2体目の《死儀礼のシャーマン》を送り出す。
すると続く川北のプレイは《タルモゴイフ》。これに《目くらまし》を当てることもできた平木だが、2枚目の土地を引ければ《目くらまし》構えで《真の名の宿敵》が出せることを踏まえて、動かない。
サイド後とはいえ、このマッチアップでの《真の名の宿敵》は通れば勝敗を決定づける力がある。『圧勝か完敗か』を信条とする平木にとって、狙う価値は十分ある選択肢と言えた。
平木 孝佳 |
だが、平木は2枚目の土地を引き込めなかった。やむなく3枚目の《死儀礼のシャーマン》をプレイしてターンを返すしかない。
これを見た川北は《不毛の大地》をセット、《目くらまし》をケアした《悪意の大梟》をプレイしつつ、《不毛の大地》で平木の唯一の土地である《Underground Sea》を破壊する。
平木「しまったな」
そして平木は、なおも2枚目の土地を引けない。
さらに続くターン、《死儀礼のシャーマン》に《見栄え損ない》を打ち込まれると、これには対応で《突然の衰微》を《タルモゴイフ》に打ち込んだ平木だが、川北に《死儀礼のシャーマン》を追加されると、残った《死儀礼のシャーマン》も牽制を予告され、いよいよ後がない。
それでも《思案》から《Underground Sea》を引き込み、《不毛の大地》されないようセットせずに抱える平木だが、《渦まく知識》をプレイした川北はお構いなしに2枚目の《見栄え損ない》で平木のパーマネントをゼロ枚にまで追い込む。
ここでようやく抱えていた《Underground Sea》をセットし、《グルマグのアンコウ》を送り出す平木だが、《悪意の大梟》が行く手を阻んでいる上に、《死儀礼のシャーマン》2体が平木のライフを射程圏に捉えている。
平木「どう見ても負けてんなー」
やがて2枚目の《悪意の大梟》も追加され、もはや川北が「どう勝つか」を悩む段になっているのを見てとった平木は、次のアクションを待たずにカードを畳んだ。
川北 2-1 平木
平木「先手側の有利感が半端ないな。後手で《不毛の大地》食らうとやばい」
3本先取の神決定戦においては、「3ゲーム目の勝敗」は実は何よりも重い。仮に4ゲーム目を取り返したとしても、最後の5ゲーム目が後手スタートとなってしまうからだ。
川北「今回も“3勝2敗”にもつれこみそうだねー」
平木「いや、今回は“2勝3敗”にしてあげますよ」
だが追い詰められてもなお、平木の闘志は衰える気配がない。後がないというプレッシャーを跳ねのけるように、言霊の力で自らの勝利を呼び込もうとする。
Game 4
その言霊に応えるかのように。平木の「4色デルバー」が、ここでついにそのポテンシャルを発揮する。
《秘密を掘り下げる者》を《死儀礼のシャーマン》で迎え撃つ川北に対し、平木は《稲妻》でこれを即排除。続けて2体目の《秘密を掘り下げる者》を送り出す。
さらに川北が《闇の腹心》をプレイした返しで、2体の《秘密を掘り下げる者》が《湿地での被災》を公開しつつ「変身」する。
川北 史朗 |
もちろんそれだけなら、まだ川北にはいくらでも逆転の可能性があった。
だが、3枚目の土地を置いた平木がダメ押しにプレイしたのは、3ゲーム目ではついぞプレイすることがかなわなかった《真の名の宿敵》!
しかも《目くらまし》での撃退を試みる川北に、平木が《目くらまし》を当て返す!
3ターン目にして9点クロック。
《四肢切断》1枚程度では、しのぎきることは到底不可能なのであった。
川北 2-2 平木
◆ 川北のサイドボード
変更なし
◆ 平木のサイドボード
変更なし
変更なし
◆ 平木のサイドボード
変更なし
またしても。
これまで常にフルセットまでもつれこんできたレガシー神決定戦は、これで6回連続となる5ゲーム目を迎えることとなった。
それほどまでにレガシーというフォーマットは圧勝しがたく、ほんのわずかな差によって勝負が決まるということなのだろう。
その埋めがたい差でもって、川北は紙一重で神の座を守り続けてきた。
平木はいま、初めて川北の想像を超えた挑戦者として、その差を埋めにいく。
もはや、2人は言葉を交わさない。
適切な言葉がないからだ。この積み重なった思いを表すのに、言葉はなんと不自由なのだろう。
ただ全身全霊をもって臨み、その上で目の前にいる相手に勝ちたい。その思いを共有していることだけが感じられる。
それでも。否応なしにその時は訪れる。
決着の時。
最終ゲームは、川北の先手で始まった。
Game 5
川北の《死儀礼のシャーマン》に対し、《秘密を掘り下げる者》で応える平木。だが川北が《思案》から《悪意の大梟》を送り出すと、先手の利を生かした展開に追いつけない。
どうにか懸命に《目くらまし》をめくって《昆虫の逸脱者》へと「変身」させつつ、《悪魔の布告》をプレイして《死儀礼のシャーマン》を生け贄に捧げさせることに成功する。
しかし。それは川北の注文通りの展開だった。
返すターン、《不毛の大地》のみで《目くらまし》が打てない平木に《トーラックへの賛歌》が突き刺さる!
だがこれにより土地2枚を失った平木も、負けじと《不毛の大地》2枚を起動して川北をもマナスクリューの土俵に引きずり込む。
すると返しに川北が《死儀礼のシャーマン》、続いて平木も《死儀礼のシャーマン》をプレイし、互いに《目くらまし》を消費しつつどちらも着地するという、一進一退の攻防を見せる。
盤面は完全に五分。
そしてこの均衡を崩すことに成功したのは、川北だった。
平木「……通る」
決定的な差がついてしまう前にと《思案》で《稲妻》を探しにいく平木だったが、《苦い真理》しか見つからず、アドバンテージ勝負を見据えてこれを引き込むことを選択する。
しかし、ここで《闇の腹心》がもたらしたのは《四肢切断》!これが《死儀礼のシャーマン》に打ち込まれると、《闇の腹心》のアタックに対し、ゲームを加速させたくない平木は《昆虫の逸脱者》との交換を受け入れざるを得ない。
さらに戦闘後に川北は2体目の《死儀礼のシャーマン》を送り出し、盤面の支配権を確固たるものにすると、3マナ目に到達した平木が通した《真の名の宿敵》に対しても、《毒の濁流》で的確に対処。川北の場の《死儀礼のシャーマン》は一切被害を受けることなく、平木のクロックだけが無為に死亡する。
その間にも、川北の《死儀礼のシャーマン》は2点ずつ平木のライフを削り始めている。3体目の《死儀礼のシャーマン》も送り出し、じわじわと平木を追い詰めていく。
それでも。平木は《四肢切断》と《突然の衰微》で《死儀礼のシャーマン》2体を処理して食い下がる。
しかも川北が2枚目の《闇の腹心》を送り出したのに対し、《思案》、《渦まく知識》と連打し、どうにかたどり着いた《稲妻》を、残った「《死儀礼のシャーマン》に」打ち込む。
この局面。わずかに勝てる可能性があるとすれば、《闇の腹心》が「探査」カードをめくっての「ボブ死」だ。尽きそうなリソースを前にしても、平木はまだ諦めていない。
しかし、川北の《闇の腹心》がめくったのは《タルモゴイフ》。猶予はあと1ターンあるかないか。平木は最後のブロッカーとして、《秘密を掘り下げる者》を送り出す。
その《秘密を掘り下げる者》にも《見栄え損ない》が飛び。
そしてアップキープ。
川北が《闇の腹心》の誘発にスタックでプレイしたのは、《渦まく知識》。
「ボブ死」を回避した川北が《タルモゴイフ》をレッドゾーンに送り込むと、これまでどんな苦しい状況でもポーカーフェイスを崩さなかった平木が、ついに崩れ落ちたのだった。
川北 3-2 平木
川北「いやー、いい戦いだった!」
5本目が終わった瞬間、席を立ってガッツポーズを決める。川北のそんな様子はもはや見慣れた光景ではあったが、実際のところ、内心では最後の最後までヒヤヒヤしっ放しだったに違いない。
なぜなら負けはしたものの、平木のデッキ選択は、【第4期の斉藤 伸夫】と同等かそれ以上に、川北を打ち破れる可能性が高いものだったからだ。
平木「みんなに手伝ってもらったのに、情けない。もう一回来れるように頑張ろうかな」
コンボマスターという、己の半身を捨ててまで勝利にこだわった平木の刃は、確かに神の喉元、あと一歩というところにまで迫っていた。
ただそれが届かなかったのは、フェアデッキにおける《渦まく知識》や《目くらまし》《思案》といったカードの使い方において、川北の経験が勝っていたからだろう。
コンボ、ビート、ミッドレンジにコントロール。ありとあらゆるデッキタイプを使い分けることができる無数の引き出しを持ちつつ、レガシーの奥深さと同じくらい深い思考で最適なデッキ選択とプレイを選び続けることができる。
そんな川北は、まさしくレガシーというフォーマットの化身、「神」と言って差し支えない。
第7期レガシー神決定戦、勝者は川北 史朗(東京)!
防衛おめでとう!
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