神インタビュー: 川北 史朗 ~私のことを、あまり意識しないほうがいい~

晴れる屋

By Kazuki Watanabe


 「もう話せることがないかもしれませんね」

 対面に座り、いつもの笑顔を見せながら呟いた。

 ”いつもの”と書いたが、筆者が彼とゆっくりと会話をするのは今回が初めてだ。しかし、この笑顔は知っている。




 そう、レガシー神のトロフィーを掲げたときに見せる“あの笑顔”だ。



 川北 史朗(東京)。




 第1期から連続防衛を続ける川北は、レガシー神として数多くのインタビューに答えてきた。その内容は【勝利の秘訣】【勝ちへの嗅覚】【練習の重要性】【行動のパターン化】など、レガシーの奥深さと魅力を表すと同時に、「なぜ川北は勝ち続けるのか」という疑問に対する答えとして余りある説得力を持っている。



 自身の思考をつまびらかにし、多くを語ってきた川北。話せることはもうないのだろうか?



 いや、まだあるはずだ。川北にしか話せないことが。

 ”レガシー神の座”から世界を眺め、それを我らに告げることができるのは、この現世に川北だけなのだから。



相手の思考を読む

――「レガシー神決定戦では、『川北さんが何を使うか』という点が見どころの一つですよね。どのようにデッキを選択しているのでしょうか?」




川北「まず挑戦者は、当然ですが、私を見据えて挑んできますよね。”川北が使うであろうデッキ”を想定して、デッキを選択してくると思うのですが、その想定をある程度読むことはできます

――「相手のデッキではなく、相手が想定している”川北さんが使用するデッキ”を読む、ということですか?」

川北「そのとおりです。もちろん、誰もが読んでいるとは思いますが、『川北が使うデッキは”あれ”だろう。だから自分は”これ”』で終わってしまっている印象がありますね。私はその何段階も先まで読んでいます。前回の神決定戦を例に説明しましょうか?」

――「ぜひ、お願いします」



神は、いかにして勝利を掴んだか

川北【第6期レガシー神決定戦】では、”【第5期】と同じ『リアニメイト』をもう一回使っている!”という驚きもあったようですが、相手の思考を読んだ上で選択しています。賭けでも奇策でもありません」



【第6期レガシー神決定戦】より


――「前回の挑戦者は、『バーン』を持ち込んだ加茂 里樹さんでしたね。どのような読みがあったのでしょうか?」

川北「加茂さんは、【挑戦者決定戦】で『エルドラージ』を使われました。新たに『ゲートウォッチの誓い』からレガシーに登場したカードも多く、鮮烈な印象が残りましたよね。その印象は、加茂さん自身にも残っていたはずです。”川北は、自分が『エルドラージ』を使う可能性を考慮してデッキを選択するだろう”と加茂さんが考えることは想像に難くありません」

――「そうですね。実際に使うかどうかはともかく、『川北さんの頭に浮かんでいるだろうな』とは考えそうです」

川北「すると、『エルドラージ』に強い《悪意の大梟》が入っている『BUG』系のデッキ、という”想像上の私”が使うデッキが仮定されます。ならば、それに対して強いデッキや、《発展の代価》が入っているデッキを使おう、と考えますよね。すると、『ジャンド』『スニークショー』、そして『URバーン』または純粋な『バーン』という選択肢が脳裏に浮かびます。そして、一度『勝てる!』と意識したデッキは、なかなか選択肢から消えてくれないんです

――「『エルドラージ』に勝てるデッキを選んでいる”想像上の川北さん”に勝てるデッキという意識が強く残った、と」

川北「そういうことですね。しかし、これはあくまでも”想像上の私”です。私はさらに一歩進んで、『勝てる!』と思ったデッキに捕らわれずに『さて、これらに対して有利なのは?』と考えていました」

――「そして導き出した結論が、『リアニメイト』だったわけですか」


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川北「この結論を裏付ける、もう1つ重要な要素があります。それは、第6期神決定戦という限定的なメタゲームで最も強いデッキが『リアニメイト』だったということです。”普段の”レガシーでは、トップメタである『奇跡』と『グリクシスデルバー』に弱いので、この2つに遭遇しやすいトーナメントでは『リアニメイト』は活躍しづらいんですよ」

――「その2つを挑戦者が選択してくるという可能性もありそうですが……」

川北「レガシーに慣れているプレイヤーが挑戦者なら、考慮する必要があったでしょうね。というのも、『リアニメイト』が苦手とするこの2つのデッキは、レガシーの数あるアーキタイプの中でも、とにかく使いこなすのが難しいんです《陰謀団式療法》を使うためにはレガシーで使われる主要なカードに対する知識が必要ですし、慣れない状態で『奇跡』のマッチアップを私に挑んでくるとは考えにくいですよね」




――「なるほど。挑戦者はレガシーに慣れていないから、選択肢に入らない、と」

川北「そして、“この2つのデッキが存在しないメタゲーム”ならば、『リアニメイト』は非常に有利な立場にあるんです。通常のトーナメントではあらゆるデッキとの相性を考慮する必要がありますが、一発勝負である神決定戦では事情が変わってきます。たった一つのデッキに勝てば良いわけですからね」

――「賭けに出たのでも、奇策でもなく、対戦相手の思考と神決定戦の対戦形式に基づいて、『リアニメイト』という答えが出てくるわけですね」

川北「そういうことですね。自分の知識や練習量ももちろん大事ですけど、神決定戦で勝利するためには、さらにもう一つ鍵があります。そして、その鍵は”相手の思考”にあります」

――「そうなると、今回の挑戦者である平木 孝佳さんは……」

川北コンボという鍵がありますね」



平木さんは、コンボのすべてを理解している

川北「初めてお会いしたときも『ドレッジ』を使っていて、カードを日本語のFoilで揃えていたのが印象に残っていますね。『奇跡』や『デルバー』のような一瞬でゲームを決められないデッキは使わない、生粋の”コンボ使い”というイメージです」

――「【のぶおの部屋】で『ドレッジ』の解説もされていますよね。やはり”平木さんがコンボを使う”という選択肢は、当然川北さんの想定にもあるわけですね」

川北平木さんは、コンボのすべてを理解しています。デッキ同士の有利不利などの情報は、当然頭に入っているでしょう。その上で平木さんがコンボを選ぶかどうか、そしてどのように私が想定するかが重要ですね」

――「得意のコンボなのか、それとも、『川北さんに読まれているから』と外してくるのか、悩ましいですね」

川北「平木さん自身も悩んでいると思いますね。やはり『コンボを使いたい』とは考えているでしょうし、周囲の期待や視線もあるでしょうから。その上で、自分のキャラを曲げて……少し強い言葉を用いるなら、自分を捨てて来たら恐ろしいですね。『神 vs. 挑戦者』という構図を意識しすぎると、それに引っ張られてしまう部分もありますから」

――「『神 vs. 挑戦者』という構図、ですか」


私のことを、あまり意識しないほうがいい

川北「冒頭で述べたとおり、挑戦者は私を見据えて”川北が使うであろうデッキ”を想定しますよね。私は、どの挑戦者よりもデッキ選択の段階で『相手の思考を読む』ということに力を注ぎ、その読みは常に相手を上回ってきた、と自負しています。その上で、一番の強敵だったのは、やはり斉藤 伸夫さんなんですね。プレイングの上手さはもちろんなのですが、何よりも私のデッキに対してではなく、単純に強いデッキで挑んできましたから」



【第4期レガシー神決定戦】の様子


――「【第4期】ですね」

川北「私は『グリクシスデルバー』で、相手は『グリクシスコントロール』。当時のレガシー最強デッキ同士の戦いでした。私の使うデッキを読んだ部分ももちろんあると思いますが、結果として純粋に強いデッキで挑戦してきたわけです。本当に嫌な相手でしたね。私を意識した上で想定されるメタゲームは読むことができるのですが、やはり『強いデッキ』で挑まれると厳しいな、と」

――「つまり、神を攻略する鍵は……」

川北私のことを、あまり意識しないほうがいいんですよ。強いデッキを練習した人が勝てる、とも言えますが」

――「強いデッキを、強く使う、ということですか」

川北「そうですね。読み合いになって、裏の裏、さらにその裏を読む、というのは”運の要素”も強くなってくるので言及する意味はあまりないかもしれませんが、少なくとも今までは”私が相手の裏を読む”という形になって勝利してきました。私は、『マジックは論理的思考ができるかどうか』というゲームだと思っています。プレイングの選択ももちろんですが、デッキの選択でも論理的に思考して、結論を出せたプレイヤーが勝利すると思っています。神決定戦では、なおさらですね」



人間として、そして神として

――「論理的思考に基づいて思考を読むわけですね。……あ、でもその大事な勝利の鍵を話してしまって大丈夫ですか?」

川北「大丈夫ですよ。もう第7期なので、そろそろこの読みで勝つのも限界かもしれない、と思っているところが実はあります。今まではデッキ選択の段階で有利になっているセオリーのようなものがあったのですが、それも知られつつあるので」




 「でも……」と言葉を繋げて、川北は”あの笑顔”を向けながら、こう語った。

川北「知られたところで、負けるつもりはありません。”レガシープレイヤーの私”を知っている人は多いと思います。”青を好む。コントロールを使う。きっと『奇跡』を選ぶだろう”といったように。ですが、“神決定戦の私”というのは、まだまだ知られていないと思っていますから」

――「『もう話せることがないかも』という一言で今回は始まりましたが、まだまだ語れることはありそうですね」

川北「そうですね。語りきれないくらい、考えています。この思考を積み重ねて、これからも戦いたいと思います」



 「これからも戦いたい」



 この一言こそ、”神決定戦の川北”の言葉だろう。神の座を受け渡す気持ちなど、微塵も感じられない力強さだ。その証拠に、「改めて意気込みを」という問いに対して、彼はこう答えたのだ。



川北10期防衛の通過点にしたいですね。平木さんはたしかに強敵ですが、気負うことなく、10期防衛という目標に向かって、乗り越えたいと思っています。私の思考は広く知られるようになってきましたが、だからこそ、新たな自分を見せられるようにしたいと思います





 人間・川北は、神として戦うための序章として、思考を積み重ねている。今この瞬間も、その序章が綴られていることだろう。

 試合当日に彼が魅せる物語を、今から楽しみにしていよう。