神インタビュー: 川北 史朗 ~絶対に負けられない戦い~

晴れる屋

By Atsushi Ito


 2014年6月1日、【第1期スタンダード神決定戦】から始まったこの【神決定戦】も、気が付けば3年目に突入した。

 積み重ねられたシーズンは既に6期目。その間に幾人もの神が交代し、また【ヴィンテージで新たな神が誕生】したりもした。

 だが、3年目になっても唯一変わらないものがある。それは、この男が「レガシー神」である、ということだ。


 川北 史朗(東京)。


 これまで【高鳥 航平】【入江 隼】【斉藤 伸夫】【土屋 洋紀】という、いずれも2~300人規模のレガシー大会において優勝できる実力を持った挑戦者たちをすべて退けてきた、最古にして最強の神だ。

 だが立場は変わらなくても、人の考えは移ろいゆくものである。

 はたしてレガシーの最先端に立つ男がまさに今、見据えているものとは何なのか?

 それを知るべく、もはやこの神決定戦における象徴的な存在として神の座に君臨し続けている川北に、【第1期】【第3期】【第4期】【第5期】に続いて通算5度目となるインタビューを試みた。






勝ち上がってきている相手に腰の引けた選択はしてはいけない


--「これまでのインタビューでは『勝ちへの嗅覚』『デッキ構築』『サイドインアウト』と様々なテーマでレガシーにおいて上達するための方法論を披露していただいたわけですが、さすがにそろそろネタ切れじゃないですか?」

川北「かもしれません(笑) あ、でもほかに『ここが人と違うかも』と最近意識しているテーマとしては『マリガン』がありますね」

--「『マリガン』……ですか。マジックの基本ではありますが、複雑すぎてなかなか議論されない部分でもありますね。それで、川北さんは『マリガン』に関してどのように他の人と違う判断をするのでしょうか?」

川北「たとえば先手で『土地が基本地形かフェッチ1枚のみで、他は《渦まく知識》《精神を刻む者、ジェイス》などの重いカード、だけど土地1枚引いたら戦える』というような手札をもらったとしましょう。どうします?」


溢れかえる岸辺渦まく知識精神を刻む者、ジェイス


--「先手土地1枚だと、《渦まく知識》があっても怖くてマリガンしちゃいそうですね。トップ3枚に土地がなかったらお通夜になっちゃいますし」

川北「ところが僕はこの手札をよくキープするんです。といっても条件があって、デッキ相性が不利なマッチの場合に限りますけどね」

--「手札の内容だけでなく、シチュエーションによってもマリガン基準は変わるということですか?」

川北「そうです。たとえば平日大会ならマリガンした方が無難ですが、大きな大会の4-0ラインで苦手なデッキと当たってしまった場合などにおいては、相性が不利なマッチでマリガンするよりも、多少のリスクはあえて受け入れて、より大きなリターンを取りにいく選択肢が正当化されやすいと思います。何より勝ち上がってきている相手に腰の引けた選択はしてはいけないと考えますね」

--「でも《渦まく知識》をカウンターされる可能性もあるわけで、確率が大事だと仰る川北さんらしくない言葉ですね」

川北「もちろん《渦まく知識》をカウンターするような相手だったらキープはしないので、相手をよく見て判断することが重要です。ですが、確かにあまり理論的ではないかもしれませんね。このあたりはロジックではなく嗅覚によって判断する部分なので」



より強いレガシープレイヤーになるために


--「川北さんの今の弱点というか、ここを克服したら強くなるだろう、みたいな課題は何かありますか?」

川北「とにかくゲーム中に落ち着くことですね。私の場合、負けから勝ちへとひっくり返すような手を迷いなく選択できるのが自分の強みだと思っていますが、変なところで誰でもミスだとわかるようなミスをよくして窮地に自分を追い込んでしまうので、相手が何をしてきてもブレずに冷静沈着でいて、常に100%のパフォーマンスを発揮できるようになることが今の目標です」

--「そういったプレイヤーになるためには、どうすればいいんでしょうか?」

川北「やはり強いプレイヤーとの『練習』が必要ですね。といってもここでいう『練習』とは盲目的にフリープレイをするというのではなく、一つ一つ『なぜ勝ったのか』『なぜ負けたのか』を考えて次に生かすことと、行動をどんどんパターン化していくという目的意識が必要です」




--「行動のパターン化……ですか」

川北「余計なことを考えているからミスが起きるわけです。考えるべきタイミング、シチュエーションにおいてしっかりと集中して考えるためには、ゲーム中のほとんどの時間を考える必要がないシチュエーションにしていく必要があります」

--「【勝ちたいなら勝ちたいって言ってよ! vol.4】にも通じる話ですね」

川北「まさしく、練習は本番で考える必要をなくすためにやっていることだと思います。『レガシーでは1つのアーキタイプを長く使って極めた方がいい』とはよく言われますが、そうすることでそのデッキにおける考える必要がない瞬間、すなわちセオリーの蓄積を作り上げることができるからです」

--「確かに川北さんや斉藤(伸夫)さんが《師範の占い独楽》を起動してトップを並び替えるスピードなどは、セオリーを知らないとなかなかその速度には達しないだろうなと思います」

川北「ただ私は、1つのデッキでセオリーを身に着けた後は、他のアーキタイプも使ってみた方が良いと思います。他のアーキタイプのセオリーを身に着けると、新しい視点を獲得したことで、元々使っていたデッキのセオリーが変わっていくこともありうる。たとえばエルフマスターとして知られる高野(成樹)さんなんかは、最近ではミラクル使いに転向して【日本レガシー選手権2016 Spring】で優勝したりしていますが、きっとエルフのセオリーを極めた上でミラクルのセオリーも学んだからこそ、プレイヤーとしてさらにもう一段階強くなったことだろうと思います」



これからのレガシーに必要なコンテンツとは


--「話は変わりますが、川北さんがもしレガシーで好きなコンテンツを自由に1つ作れるとしたら、どういったものを作りますか?」

川北「なんでしょうねぇ……プロプレイヤーとレガシーの強豪が戦う!みたいなリーグ戦があったら面白いかもしれませんね。昨年の【The Last Sun 2015】【決勝戦】みたいな対戦がたくさん見られたらいいなと思います」

--「ヴィンテージですが、英語公式の方でやっている【Vintage Super League】みたいなイメージですかね」

川北「英語だと既にそういうものが存在しているんですね。日本語でもぜひやって欲しいです。スタンダードで忙しいプロにレガシーもプレイしてもらうのはハードルが高いかもしれませんが、レガシーが盛り上がることはマジックにとって大きなプラスになりうると思うので」




--「どういった点でプラスになるとお考えでしょうか?」

川北「中学生や高校生でマジックを始めてスタンダードをやっていたプレイヤーも、大学生や社会人になればそんなに時間をかけられなくなったりするので、もちろんそこで全力でやるという人もいるとは思いますが、前者のような人たちには、レガシーが非常に良い選択肢になるんですよね。環境の変化は緩やかですし、禁止カードも少なく練習による経験の蓄積がいつまでも無駄にならないので、レガシーは忙しい時期もある社会人にもっとも向いているフォーマットだと思います。一度大人買いしちゃえば追加投資もそこまで必要ありませんしね」



レガシープレイヤーとしては負けたくない、負けられない戦いになりそうです


--「今回は【第6期レガシー神挑戦者決定戦】でエルドラージを使って優勝した加茂 里樹さんとの対戦となりますが、どういった勝負になるとお考えでしょうか?」

川北「これまでの挑戦者たちはみんなレガシーの大会で一度ならず対戦したことがあるプレイヤーばかりで、いわば『川北はこういうプレイヤーだろう』というそれぞれの川北像を持って臨んできてくれた、そしてそれだからこそその裏をかいたデッキ選択で有利な土俵に引きずり込めたというのがありますが、加茂さんに関してはそれがないので、ある意味これまでで一番やりにくい相手という感触です」

--「珍しく弱気ですね」

川北「今までデッキ選択とデッキ構築で勝ってきましたからね。それにエルドラージというデッキも最近のデッキでまだ対戦経験が少ないですが、《罠の橋》《血染めの月》など専用サイドを要求するデッキなので、エルドラージを使ってくる可能性があるとなるとサイドスロットが狭められてしまうのが厳しいです」




--「そうなると川北さんとしてはデッキ選択は完全に運任せで、プレイ勝負ということになるんでしょうか?」

川北「いえ、デッキ選択がキーであることに変わりはないと考えています。特に今回はプロツアー決勝のルール変更に合わせてメイン戦が2ゲームありますから、これまでよりメイン戦の重要度が上がっているので、その要素も踏まえた読み合いで加茂さんの上を行くことができれば、大きなアドバンテージを得ることができますから」

--「なるほど。最後に、神決定戦に向けての意気込みなどお聞かせいただければ」

川北レガシープレイヤーとしては負けたくない、負けられない戦いになりそうです。いちプレイヤーとしても、やはりレガシーの『神』の座はレガシープレイヤーに持っていてもらいたいという思いもあるので、勝算とは別に、気持ちとしてはこれまでで一番前のめりですね。とにかく絶対に勝ちたい。今まで戦ってきた挑戦者のためにも、ほかのレガシープレイヤーのためにも、意地を見せつけたいと思います」

--「ありがとうございました」





 最も読みづらい挑戦者を前に、『神』が燃えている。

 そう、川北の強みは逆境においてもリスクのある選択肢をあえてとることで、敗北から勝利へと己の運命を塗り替えられる点にあるのだ。

 はたして今回、加茂を相手に川北の『勝ちへの嗅覚』はどのように勝機を見出すのか?『神』のデッキ選択に注目だ。