第6期レガシー神決定戦: 川北 史朗(東京) vs. 加茂 里樹(東京)

晴れる屋

By Atsushi Ito


 5度目の戦いが、始まろうとしている。

 神と挑戦者が目まぐるしく入れ替わるこの【神決定戦】というイベントにおいて、立ち上げ当初から変わらずに神の座を守り続ける唯一の存在となったレガシー神、川北 史朗にとって、これが5回目の防衛戦となる。

 【高鳥 航平】【入江 隼】【斉藤 伸夫】【土屋 洋紀】……レガシーを主戦場とする数々の強豪たちを退け、今日まで守ってきた「レガシー神」の地位。

 その地位が、しかしいま再び脅かされようとしているのだ。

 さらに今回の挑戦者は、川北にとって最も難敵と言えるかもしれない。何せ過去の挑戦者たちのケースとは明確に異なる、とある特別な事情がある。

 第6期の挑戦者、加茂 里樹。彼はレガシーの【挑戦者決定戦】を優勝して挑戦権を勝ち取ったにもかかわらず、「レガシープレイヤーではない」のだ。


 【インタビュー】にもあるとおり、加茂はレベルプロを目指す競技プレイヤーである。それゆえにレガシーを嗜むのはレガシーの国内グランプリがあるときくらいとなる。レガシーに不慣れという一点だけを見れば、川北にとっては朗報だ。

 だが加茂はプロを目指しているのである。しかも得意分野はリミテッド。マジックの地力は、相当に高い。

 そして地力が高いということは、不慣れなフォーマットでも少しの練習で適応できてしまうということを意味する。

 さらにこの「加茂がレガシープレイヤーではない」という事実によって、川北は神決定戦における最大の武器を封じられていた。

 それは「人読み」、「人メタ」である。

 川北ほどのキャリアを持つレガシープレイヤーであれば、挑戦者決定戦で優勝するほどの実力を持ったプレイヤーとは一度ならず対戦経験があることが多い。そしてこれまでの神決定戦で川北は、その過去の対戦経験から挑戦者の傾向を分析し、常に最適なデッキを選択してきた。

 「《紅蓮破》を入れてくるだろう」と読んでの白黒タッチ青。「《窒息》を入れてくるだろう」と読んでのBUG。「青いコントロールで来るだろう」と読んでのデルバー。「墓地対策は薄いだろう」と読んでのリアニメイト。その的確な選択が、プレイング的な「やらかし」が多い川北の窮地を幾度となく救ってきたのだ。

 つまり川北の神決定戦の多くは、そもそも多少ミスっても問題ないくらい、デッキ選択の段階で相性差がついていたのである。

 だが、今回に限ってはその的確なデッキ選択が封じられている。何せ川北はレガシーをプレイしない加茂というプレイヤーのことを、ほぼ何も知らないに等しい。

 誰もが永久に勝ち続けるのではないかと予想していたモダン神・【市川 ユウキですらも陥落】した。盛者必衰、「最古の神」といえど今回はさすがに危ういのではないか。そんな風にも思われた。

 しかし。

 会場に現れた川北は、そんな心配は杞憂だと示すかのように、全くもっていつも通りの余裕な態度を見せていた。今回のデッキ選択に、よほどの自信があるようだ。



川北 史朗



川北「いやー、緊張するー。相手が何を使ってくるのか?っていうこの瞬間が良いんですよね。加茂さんはやっぱり大きな大会に慣れていて、こういう場でも緊張しないんですか?」

加茂「いや、PTQみたいな大会とは違って、また独特な緊張感がありますね」

 対する加茂はスタジオで自分たちだけが試合をし、生放送で中継されるという、この特異なシチュエーションに緊張を隠せない様子だ。この点では、既に何度も神決定戦という舞台を経験している川北の側にアドバンテージがある。

 加茂の視点からすると、この状況に至ってもなお、なんとも奇異な心持ちだろう。実はもともと加茂には「レガシー神」に挑戦するつもりはあまりなかったというのだ。どちらかといえばスタンダードやモダンでの挑戦権獲得を目指していたらしい。

 だが【第6期モダン神挑戦者決定戦】の準々決勝で【挑戦者・松田 幸雄に敗れ】、どちらかといえば楽しむつもりで出場した【レガシーでの挑戦権獲得】。マジックの神は……ここでいう「神」とは概念的な上位存在を指すが……とかく悪戯好きのようだ。

 しかも対戦相手となった「レガシー神」が、読みにくいことこの上ない。コントロール、ビートダウン、コンボを器用に使い分け、挑戦者を翻弄してくる。これまで数々の挑戦者たちが「読み合い」において手玉にとられてきたのを見ると、もはやデッキを読みにいくことの方が愚策とすら思えてくるほどだ。

 それでも、川北とて神である前に一人の人間なのである。

 付け入る隙は必ずある。【インタビュー】で語っていた、「裏をかくデッキ選択」が刺さるかどうか。



加茂 里樹



 そう、つまるところ。

 結局、まずは互いのデッキ次第なのだ。もし不利なマッチアップであれば、プレイングでその不利を補う必要が出てくる。

 はたして川北は、加茂は、何を選択したのか。

 やがてシャッフルとダイスロール、マリガンチェックが終わる。


 人とは、それぞれの内にある「高み」を目指して生きるものだ。

 そして今この瞬間、2人の「高み」は一致している。

 すなわち、「神」。

 4つ目のフォーマット、「レガシー神」の座をめぐる最後の戦いが、幕を開けた。






Game 1


 先手は加茂。1ターン目のアクションで、早速デッキが明らかになる。

 すなわち、セット《山》から《ゴブリンの先達》をプレイしたのだ。


ゴブリンの先達


 赤バーン!

 あまりにも大胆すぎる選択。

 というのもモダンのおけるそれとは違い、レガシーにおけるバーンというのは良く見積もってもTier3か4、かなりのマイナーデッキなのである。《相殺》《実物提示教育》がある環境で4キルの火力単がトップメタになる道理はない。

 とはいえ、ことこの神決定戦という場においては、特に川北 史朗という男を相手にする限りにおいては、確かにそれは悪い選択とは必ずしも言えなかった。すなわち川北のデッキ選択傾向からして、《発展の代価》が刺さる確率はかなり高いからだ。それはかつて川北自身も【第3期レガシー神決定戦の後に述べていた】ことでもある。

 もし川北がBUGやグリクシスなど3色のミッドレンジ系デッキを持ち込んでいたならば、それだけでメイン2本が半ば自動的にとれる。そんな目論見だったのかもしれない。

 だが、そんな加茂の甘い考えは一瞬にして崩れ去ることになる。

 攻撃に向かわせた《ゴブリンの先達》の能力でめくれた川北のライブラリトップは、《入念な研究》


入念な研究


加茂「『ドレッジ』かー……」

 加茂の声が落胆に沈む。コンボデッキである『ドレッジ(発掘)』を相手にするとなれば、厳しい戦いが予想されるからだ。

 しかし川北のデッキ選択は、さらに加茂の遥か上を行っていた。

 フェッチから《Underground Sea》をサーチし、『ドレッジ』の可能性を否定した川北は、続く《入念な研究》プレイから、何と《グリセルブランド》をディスカードしたのだ!





 【第5期神決定戦】に続き、まさかの2連続でリアニメイト

 そう、川北は確かに加茂のバーンという選択までは読めなかった。

 それでも、唯一のヒントである挑戦者決定戦での加茂のエルドラージから、「川北はエルドラージに強いデッキを使うだろう」と考えるであろう加茂の思考を先取りし、エルドラージに強いBUGを選ぶと想定した場合、《発展の代価》が飛んでくる可能性があるというところまで読んでいたのだ。

 そこで川北はこの読みを回避すべく、誰しもが予想しなかった2回連続リアニメイトという選択に打ってでたのである。

 その戦略は見事にハマった。かくしてリアニメイト対バーンという、相性差8 : 2レベルのマッチアップが実現することとなったのだ。

 もはや加茂に勝ち目はない。放送を見ていた誰しもがそう思ったことだろう。

 だがしかし。デッキ選択があまりにハマりすぎて動揺したのか、川北も痛恨のミスをしてしまう。

 《入念な研究》の2ドロー解決後の段階で《Underground Sea》《再活性》《渦まく知識》《思案》《意志の力》《実物提示教育》《グリセルブランド》《納墓》と持っていた川北は、《グリセルブランド》とともに《納墓》もディスカードしてしまったのだ。

 《納墓》を手元に持っていれば、返しの先手2ターン目の火力のうち1枚は《意志の力》で打ち消せるため、加茂が1マナ3点火力2枚と《火炎破》を持っていない限り、後手2ターン目に《エメリアの盾、イオナ》が釣れたはずのところである。あるいは、《納墓》を捨てるにしても後手3ターン目《実物提示教育》から《グリセルブランド》のプランをとるならばまだよかったかもしれない。

 ところがバーンのプレッシャーに押されたか、《グリセルブランド》《納墓》を捨てた川北は、返しに《稲妻の連鎖》を打ち込まれ、後手2ターン目に《再活性》《グリセルブランド》《意志の力》構えのプランをとるしかなくなってしまう。こうなると自ら8点のライフを失った結果、川北のライフは4点。しかも《エメリアの盾、イオナ》の場合と違って、加茂の行動は何ら封じられていないのだ。

 《再活性》を解決しつつライフメモにその数字を書きながら、川北は既にこのゲームの結末を悟っていた。

川北「間違えたね……1ターン待ってよかった。《実物提示教育》だったら死ななかったな」

 エンド前に《稲妻》を本体に打ち込まれた川北は、これを通すと《意志の力》が機能しなくなるため、打ち消さざるを得ない。1点の支払いでライフは3。

 やがて3ターン目のメインに入った加茂が《発展の代価》をプレイすると、川北は悔しそうにカードを片付けた。


川北 0-1 加茂


川北「ミスったー、今のミスった!すごいミスりました……これだからダメだ俺……練習してない、下手すぎるー!しかもなー、赤単だから《発展の代価》入ってるわけで1ターン目は《島》持ってくればよかったし!」

 加茂の予想を裏切る完璧なデッキ選択でリアニメイト対バーンという極めて良い相性のマッチアップを実現したにもかかわらず、自身のミスプレイで星を落としてしまった川北は動揺が隠せない。

 しかし【インタビュー】でも言っていたように、レガシープレイヤーとしての誇りにかけて、これは「絶対に負けられない戦い」なのである。

 落ち着いてプレイすれば勝てるマッチアップだ。心の中でそう自分に言い聞かせたのか、川北の眼光に改めて真剣さが宿る。





 対して運良く1本目を拾えた加茂だが、表情は優れない。何せリアニメイト対バーンというのは、ここから一瞬で3タテもありうるほどの相性差なのだ。

 まして次の2ゲーム目は……

加茂「後手……!」



Game 2


 はたして、加茂の不安は現実となった。

 川北は先手ワンマリガンながらも1ターン目に《入念な研究》をプレイすると、《エメリアの盾、イオナ》を墓地に送り込む。

 そして加茂が《裂け目の稲妻》「待機」でターンを終えたのを見届けると、2ターン目に《再活性》


再活性エメリアの盾、イオナ


加茂「負けました」

 あまりの瞬殺劇に、次の瞬間にはどちらからともなく笑いが漏れる有様。

 かくして1ゲーム目のプレイミスも何のその、『相性差8 : 2』がもたらす必然の結果として、川北が一瞬にしてゲームカウントをイーブンに戻したのだった。


川北 1-1 加茂


加茂「さすがにwwww大丈夫かこれwwww 1本目は結構運がよかったなー……」

川北「ていうかこのデッキ予想してました?してなかったよね?」

加茂「(首を横に振る) サイドも嗜み程度しかない……」

 そう、ここからはサイド戦。加茂にこの絶望的な相性差を覆す術はあるのか。





Game 3


 先手の加茂が《ゴブリンの先達》をプレイすると、川北は少考ののちこれをスルー。返すターンに《思案》でトップに土地を積み込んでアドバンテージ獲得を狙いにいく。一方土地1枚でキープしていた加茂は2枚目の土地を置くことができず、クロックとして《僧院の速槍》を追加して川北のライフを14点まで落とすにとどまる。

 川北の2ターン目はフェッチを置きつつ《思案》。手札が1枚増えているため、《大修道士、エリシュ・ノーン》をディスカードしてターンを終える。返すターン、なおも土地が引けない加茂は3点アタックののち《裂け目の稲妻》を待機してエンド。《ゴブリンの先達》の能力誘発に対応して川北がフェッチを起動したため、残りライフは10点。

 だが後手3ターン目、ついに川北が《実物提示教育》をプレイし、戦場に《グリセルブランド》が降臨する。対し加茂の側は何も提示することができない。





 7/7飛行絆魂。バーンが相手をするにはあまりに無慈悲すぎる能力。これにより《ゴブリンの先達》《僧院の速槍》は攻撃に向かうことができず、《裂け目の稲妻》は本体に打ち込んで川北のライフを7としたものの、なおも土地を引けなかった加茂は再び《裂け目の稲妻》を待機してターンを返すのみ。

 そして《グリセルブランド》が攻撃に向かい、川北のライフを一気に14まで引き戻す。しかも加茂は土地が1枚しかない上に、川北は《意志の力》をも手札に抱えているのだ。

 誰の目から見ても盤石。そう思われた。

 しかし。思えばリアニメイト対バーンというマッチアップは、観念的にリアニメイト側が相性が良いことは誰の目から見てもわかるだけに、サイドまで含めた練習や実戦は、いかに神といえど経験したことがなかったのだろう。

 ライフ14点の《意志の力》構えとはいえ、「待機」されている《裂け目の稲妻》《ゴブリンの先達》《僧院の速槍》を合わせれば、見えているだけで7点分の打点がある。加えてもし返しで土地を引かれれば、1マナ3点+1マナ3点+《火炎破》《意志の力》の上から本体を焼ききられてしまう可能性もある。

 そう考えた川北は、このターンに《思案》で見つけた《グリセルブランド》を第2メインの《実物提示教育》でブロッカーとして送り出すことを選択した。

 だが、その判断が裏目に出てしまう。

 前のターンは何も提示できなかった加茂だが、このターンにはとある1枚のカードを引き込んでいた。

 そのカードとは、《罠の橋》


罠の橋


 川北の表情が凍り付く。これにより《グリセルブランド》は攻撃に向かうことができなくなってしまう。

 川北は《突然の衰微》をサイドインしていない。つまりこの状況を打開するには、《潮吹きの暴君》を送り出して《罠の橋》を手札に返すか、《エメリアの盾、イオナ》を釣りあげて強制的に加茂の手札を7枚の状態に維持し、《大修道士、エリシュ・ノーン》などで殴り切るしかない。それも、加茂が川北を焼き尽くすより早く。





 一転して窮地に追い込まれた川北……だが、《裂け目の稲妻》《溶岩の撃ち込み》《稲妻の連鎖》と毎ターン着実に叩き込まれて残りライフを4としつつも、ようやく《渦まく知識》を引き込んだことで一縷の光明を見出す。

 すなわち、《納墓》《エメリアの盾、イオナ》を墓地に送り込んでからの《死体発掘》。これが通れば加茂の手札は遠からず7枚から減らせなくなるため、事実上川北の勝ちだ。

 しかも手札には《意志の力》を抱えており、もはや《外科的摘出》があろうとも防ぐことはできない。危うい場面もあったが、今度こそ川北の勝利が確定……

 しなかった。

加茂「(《死体発掘》は) ターゲットとるんですか?」

川北「……とりませんね」

 加茂の発言は何らかの対応手段があることを示唆している。そう、「サイドも嗜み程度しかない」ということは「嗜み程度はある」のだ。

 すわ《外科的摘出》か?と川北が《意志の力》を握る手の力を強めたそのとき。加茂は初手からずっと握っていた「そのカード」を公開した。


フェアリーの忌み者


 《意志の力》をもすり抜ける《フェアリーの忌み者》

 かくして発掘するべき死体を失った川北は、返すターンにさらなる《稲妻の連鎖》を受けて《意志の力》をも無力化されると、やがて2枚目の土地を引き込んだ加茂の《火炎破》で、ほとんど勝っていたはずの3本目を逆に落とすこととなってしまった。


川北 1-2 加茂


川北「プレイミスですかねー?」

加茂「2回目の《実物提示教育》ですか?」

川北《罠の橋》を読んでなかったってのもあるんですけど、前のターン持ってなかったからなー……」

加茂「そうそう。1ターン遅せー、と思ったらもう1回打たれて、おっ?ってなったw」

川北「ミスじゃないと思うんだけどなー……」

 加茂が先手土地1枚でキープしていたことも考えると、それが実は《フェアリーの忌み者》キープであることを知らない川北の視点からは、トップデッキ土地からの1マナ3点+1マナ3点+《火炎破》というベストムーブを警戒してしまうのも無理からぬところだ。

 だがミスにせよそうでなかったにせよ。先に追い詰められてしまった事実に変わりはない。

 気持ちを切り替えていくしかない川北は、今度こそ《罠の橋》をも考慮に入れたサイドボーディングプランで4ゲーム目に臨む。





Game 4


 《Underground Sea》を立ててターンを返す川北に対し、愚直に攻めるしかない加茂は《ゴブリンの先達》をプレイしてアタックするが、これには川北が能力誘発スタックで《渦まく知識》を合わせ、確定したライブラリトップの土地をもらいにいく。

 そして川北、そのまま自ターンのアップキープに《納墓》《グリセルブランド》を墓地に送り込むと。

川北「(《フェアリーの忌み者》が) あるっぽいけどしょうがないよねー」

 《水蓮の花びら》《死体発掘》

 これに対し、一呼吸を置いた加茂は……力なく頷くのみ。かくして18点ものライフを残した状態で、《グリセルブランド》が戦場に降臨する。

 返す加茂は遅きに失した《大祖始の遺産》を設置。《グリセルブランド》の攻撃を受けつつもエンド前に墓地を全追放しながらドローに変換して3枚目の土地にたどり着き、《罠の橋》をプレイするのだが。

 川北が《突然の衰微》を公開すると、潔くカードを畳んだ。


川北 2-2 加茂


 信じがたいことにレガシー神決定戦は、これまですべて5本目までもつれこみ、そして最終的に神・川北が勝利している。

 だがいくら川北とて、墓地対策が入ったサイド後で最終ゲームが後手というのは、いかに相性差があるとはいっても苦しいに違いない。

 「最古の神」がついに陥落するのか。それとも5連勝でレガシープレイヤーとしての矜持を守るのか。

 川北と加茂、2人の命運を分かつ最終5ゲーム目が始まる。



Game 5


 《僧院の速槍》スタートから《大祖始の遺産》へとつなげる加茂に対し、川北は《大祖始の遺産》に対応して《渦まく知識》をプレイ。《意志の力》は見つからず、いきなり川北の墓地活用が封じられる立ち上がり。

 3ターン目には《稲妻の連鎖》を本体に打ち込み、果敢を誘発させてのアタックで、フェッチランドの起動と合わせて川北のライフを11点まで追い詰める。





 だが、後手3ターン目に川北は《実物提示教育》をプレイ。《大修道士、エリシュ・ノーン》を出そうとする川北に対し、手札に出せるパーマネントがない加茂は仕方なく墓地への縛めを解き、対応して《大祖始の遺産》を起動してドローへと変換する……

 と、そのドローが《硫黄の渦》


大修道士、エリシュ・ノーン硫黄の渦



 ライフは11対19。《僧院の速槍》は失ったが、加茂には火力がある。勝負はまだわからない。

 そして返すターン、加茂は「魔巧」していない《極上の炎技》を本体に打ち込むと、《目くらまし》を持っていた川北はなんとこれを打ち消さずにスルー!

 スタンダードのカードを知らない川北が、よもやカードの効果を勘違いしたのか?

 否。この時点で、既に川北には勝利へのプランが見えていた。

 アップキープにライフを5とした川北は、《納墓》《エメリアの盾、イオナ》を墓地に落とすと《死体発掘》をプレイしたのだ。

 対応して代替コストで《火炎破》をプレイする加茂だが、今度はきっちり《目くらまし》

 土地が《山》1枚となってしまった加茂が最後のカードをドローし……





 もはや呪文がプレイできなくなってしまった手札を、力なく戦場に晒したのだった。


川北 3-2 加茂



 結果としてリアニメイト対バーンという絶望的な相性のマッチアップとなってしまったが、それでも加茂がここまで神を追い詰めると誰が予想しただろうか。

 実は加茂は九州にいた頃から「バーン使い」として名を馳せていたというのであり、今回のデッキ選択も、自分の得意なデッキでかつ川北が予想の埒外に置いているという算段があってのことだった。

 実際、今回の加茂の姿を見て、レガシーにおけるバーンの意外な強さに驚いた人は少なくないはずだ。敗れはしたものの、観客を魅せるという点において、加茂のプロプレイヤーとしての才能は間違いなく示されたと言っていい。

 きっとまた挑戦者決定戦で、あるいはグランプリやプロツアーで、より強く成長した加茂の姿が見られるはずだ。


 そして川北。最後の《極上の炎技》スルーについて問われた川北は、次のように語った。

川北《外科的摘出》をケアしたかったんですよ」

 確かに加茂が《極上の炎技》をプレイした段階で、既に返しのターンの《エメリアの盾、イオナ》《死体発掘》は確定していたため、ライフが11から7になろうとも先に殴り切れる計算となる。

 むしろ加茂の残りの手札に《外科的摘出》《罠の橋》といったカードがあった場合の方が問題だ。

 ミスもあれど、こういった極限状況での勝敗を分かつケアの技術は、さすがレガシー神と言うべきだろう。

川北「ここまで来たら、1024分の1……10期連続防衛、目指しますよ」

 そんな非常識な確率も、本当に現実にしかねないのが川北の恐ろしいところだ。この男を止められるという猛者は、ぜひとも挑戦者決定戦に出場して挑戦権をつかみ取って欲しい。


 人の「高み」を目指す戦いに終わりはない。

 川北も、加茂も、明日からしばらくはまた別の「高み」へと至るための戦いに身を投じてゆくのだろう。

 ただ今だけは。

 素晴らしい戦いを見せてくれた2人に、そして何より最終的に「神」の座を守り抜いたこの男に、祝福の言葉を送りたい。





 第6期レガシー神決定戦、勝者は川北 史朗(東京)!

 「レガシー神」防衛成功おめでとう!!



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