決勝: 高橋 優太 vs. 菅沼 貴之

晴れる屋

By Atsushi Ito

(スマートフォンの方は【こちら】)


 PWCCの決勝戦は、いつもドラマティックだ。

 私がカバレージを担当したものだけに限っても、【2011年】【2014年】【2015年】と、毎年必ず何らかのドラマがあった。

 そして、今年も。

 これから決勝戦に臨む2人は、それぞれの理由、それぞれの物語を携えてここまで勝ち上がってきた。


 高橋 優太。

 高みを目指す姿勢を常に忘れないシルバーレベル・プロプレイヤーは、【世界最強プレイヤー・Owen TurtenwaldのGP優勝レシピとプレイ動画を見直し】、己自身を「最強の《先祖の結集》使い」へと限りなく近付けてきた。

 翌週には『タルキール覇王譚』『運命再編』入りのスタンダード環境の締めくくりとなる、【グランプリ・パリ2016】に参加する予定ということもあり、ここでの勝利は《先祖の結集》というデッキをマスターしたと確信するにあたって大きな弾みとなる。


 菅沼 貴之。

 モダンの【グランプリ・横浜12】で26位に入賞したことがあるほかは目立った成績はないとのことだが、MTGのニコニコ生放送に精を出していた時期もあり、その方面での知名度は高いようだ。【Team Cygames】所属のプロプレイヤー・市川 ユウキと同時期にマジックを再開した復帰組ということもあって、同じニコニコ生放送の実況者出身でもあり尊敬する市川のリアルでの活躍ぶりを見ながら、「自分もグランプリやプロツアーで活躍してみたい」と思っていたという。

 だが、グランプリで勝つためにはプロプレイヤーとの戦いは避けられない。その意味で、相手が市川と同じくプロツアーという舞台で戦うプロプレイヤー・高橋ということもあり、この戦いは菅沼にとって、【グランプリトップ8という自身の目標】を達成できるかどうかの試金石になるだろう。


 【準決勝の超熱戦】を制した直後にすぐさま決勝戦に臨む高橋に、菅沼が気遣う言葉をかける。

菅沼 「連戦、大丈夫ですか?」

高橋 「大丈夫です、むしろすごくテンションが高い。戦えば戦うほど元気になる(笑)」

 と、どこかの戦闘民族のような言葉を返す高橋。常日頃から「強いプレイヤーと戦いたい」と語っている高橋だけに、およそ「決勝戦」と名のつくものならば、どんなに疲れていたとしても精気を取り戻す。

 そして疲れを見せないのは菅沼も同様だ。これから活躍するプレイヤーの登竜門としての側面も併せ持つPWCという大会で、対戦相手は高橋 優太。使用しているデッキは、実況者コミュニティで共同調整したエスパードラゴン。このシチュエーション、上を目指すプレイヤーならば奮わぬはずがない。

 プロプレイヤー・高橋が世界レベルの壁の高さを見せつけるか。ニコ生実況者世代の菅沼が最後の試練を乗り越え、躍進のきっかけとするか。

 PWCC2016、決勝戦。

 PWCの歴史の節目となる一戦が、いま幕を開けた。





 なお、閉場時間の関係で、決勝戦のみ【ゲームスペース柏木】に場所を移して行われた。

 快く場所を提供してくださった【ゲームスペース柏木】の皆様には、心より感謝を。



Game 1


 先手の高橋が《エルフの幻想家》を送り出すと、菅沼も《ヴリンの神童、ジェイス》で追いかける。

《地下墓地の選別者》の返しで《精神背信》で、

《ズーラポートの殺し屋》
《ナントゥーコの鞘虫》
《不気味な腸卜師》
《集合した中隊》
土地

 というひととおり揃った手札内容から《集合した中隊》を抜き去るが、高橋の盤面には既に4点クロックができており、ここに《ナントゥーコの鞘虫》までも追加されると、あまり猶予はなさそうだ。

 それでも《ズーラポートの殺し屋》《不気味な腸卜師》とプレイされたところで《不気味な腸卜師》《シルムガルの嘲笑》し、さらに《ナントゥーコの鞘虫》をブロックしつつ《ヴリンの神童、ジェイス》を変身させた菅沼。

 後手5ターン目に《命運の核心》


命運の核心


高橋 「……はい。5点ドレインと、占術4。まあ、(返しで)《先祖の結集》を引くかどうかですね」

菅沼 「ですね」

 そう同意しつつも、続けて「……引かないんだよなぁ普通は……」とポツリと漏らす菅沼。

 だが、そんなフラグを立てる発言をしてしまったからには当然。


先祖の結集


 高橋が占術で見たトップは1枚目からして既に《先祖の結集》なのだった。


高橋 1-0 菅沼



Game 2


 先手の菅沼がマリガンするも、《エルフの幻想家》からの《ナントゥーコの鞘虫》《闇の掌握》、さらに《異端の癒し手、リリアナ》《絹包み》と完璧な受け。

 そして《エルフの幻想家》《ナントゥーコの鞘虫》と並べられた返しで早くも6ターン目に《龍王オジュタイ》を降臨させる。

 返すターン、《強迫》《苦い真理》《時を越えた探索》というわずか2枚の手札から《時を越えた探索》を抜いた高橋は、《エルフの幻想家》《エルフの幻想家》《ナントゥーコの鞘虫》でアタック。《エルフの幻想家》がブロックされたところで2体とも《ナントゥーコの鞘虫》に捧げるが、《先祖の結集》を公開したところで、X=2で打つか3で打つか、思案に暮れる。



高橋 優太


 X=3で打つと《ナントゥーコの鞘虫》まで帰ってきて打点が2点増えるため、このターンで菅沼のライフを3まで追い詰められる。《龍王オジュタイ》の攻撃は素通しとなるものの、菅沼の手札は《苦い真理》のみであり、「収斂」の数を2までに制限できる。

 だが高橋の手札には《残忍な切断》もあり、《先祖の結集》をX=2で打つことで、菅沼のライフは5点残るものの、代わりに《残忍な切断》を構えることができる。次のターン、菅沼が通常ドローと《苦い真理》でカウンターを引かれなければ、アタックに来た《龍王オジュタイ》を処理してそのまま勝てそうなプランだ。





 どちらが正着か。悩みぬいた末に、高橋は後者のプランを選択する。

 残りライフ5点の菅沼は、まずは《龍王オジュタイ》でアタック。ここに高橋の《残忍な切断》が飛ぶ。


残忍な切断シルムガルの嘲笑


 しかし、菅沼が返しで引きこんでいたのは、《シルムガルの嘲笑》

高橋 「引いてるw」

 それでも《ナントゥーコの鞘虫》がアクティブな状況。高橋は残り5点の菅沼のライフを詰めるべく《ズーラポートの殺し屋》をプレイするが、ここにも《シルムガルの嘲笑》が飛び、菅沼がまるでGame 1の意趣返しをするかのように完璧な応手を見せる。

 やむなく《ヴリンの神童、ジェイス》を送り出す高橋だが、生け贄に捧げても1点足りないため、このターンは2点アタックにとどまる。

高橋 「これミスったなー、《ヴリンの神童、ジェイス》から行ってたらカウンターしてくれたから勝ってたかも。いや、そんなことはないか?」

菅沼 《ヴリンの神童、ジェイス》ならカウンターせず通しそうですね」

 ゲーム中にもかかわらずプレイング談義を始める2人だが、その間にもゲームの終局は迫っている。



菅沼 貴之


 菅沼の《龍王オジュタイ》が止まらないのだ。攻撃を通すほどに有利になっていくこのカードが2度、攻撃を通している。さらに《時を越えた探索》までもプレイし、《命運の核心》を放って高橋の盤面を更地にする菅沼。

高橋 「これはもう本当にラストチャンス……!」

 Game 1同様に劇的な《先祖の結集》トップデッキを夢見る高橋だが、今回のドローは《地下墓地の選別者》で。

 決着は、3ゲーム目に持ち越された。


高橋 1-1 菅沼



Game 3


 お互いマリガンから高橋の2ターン目《強迫》で、

《命運の核心》
《強迫》
《時を越えた探索》
土地3枚

 という6枚ながらも必要十分な手札から、《集合した中隊》を守るために《強迫》が抜かれる立ち上がり。だがそのまま《ナントゥーコの鞘虫》を送り出す高橋だったが、続くターンに4枚目の土地が引けず、せっかく守った《集合した中隊》を構えることができない。

 1ターン遅れでどうにか引き込むものの、菅沼のエンド前にプレイした《集合した中隊》はこちらも引き込まれていた《シルムガルの嘲笑》に阻まれ、さらに唯一のクロックである《ナントゥーコの鞘虫》も菅沼のライフ9点を残して《闇の掌握》されてしまい、クロックをかけ続けたい高橋は仕方なく《反射魔道士》を出すしかない。

 そして、高橋の戦線が限りなく貧弱な状態で、菅沼の《龍王オジュタイ》が降臨する。

 さらに《ナントゥーコの鞘虫》が送り出された続くターン、《強迫》《先祖の結集》2枚のうちの1枚を抜きつつ安全を確認した菅沼は、龍王による一撃で有効牌を引き入れにいく。





 《ズーラポートの殺し屋》プレイにはスタックで《闇の掌握》《ナントゥーコの鞘虫》に。

 そうしてさらに1度、2度、と《龍王オジュタイ》がレッドゾーンに送られてしまうと。

 もはや高橋に、抗う術は残されていないのだった。


高橋 1-2 菅沼



 オンラインを主戦場にしていたプレイヤーがリアルの大会に出るのにはハードルがある。おそらく菅沼も、初めてPWCに参加したときにはかなりの勇気を要したはずだ。

 だがそんな菅沼も、今ではPWCに足繁く通うようになった。もちろん【賞品が多い】こともその理由の一つなのだろうが、決して言葉にはしないものの、何よりPWCが育んだコミュニティの存在が大きいのだろうと思う。

 一年のほとんど毎週末、大会という場で顔を合わせるならば、自然とよく話す相手やライバル、そして友人もできる。それはこれほどに大会の開催頻度が高いPWCでしかなしえないことだ。

 どのような経緯でマジックを始めた人も、どのようなレベルのプレイヤーも、分け隔てなく受け入れ、誰でも楽しめる草の根大会。

 そんな【Planes Walker’s Cup】だからこそ、菅沼ものびのびとプレイし、ときに常連の強豪プレイヤーたちと切磋琢磨しつつ、プロと対等以上に戦えるほどに成長することができたのだろう。





 PWC Championship 2016、優勝は菅沼 貴之!


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