渡辺 雄也が、待っている。
ワールド・マジック・カップ。2012年、2013年、2014年と、3年連続で日本は初日で敗退している。その3回とも、リーダーは渡辺 雄也だった。そして、今年も。
そのプレッシャーたるや。渡辺は決して表には出さないが、なかなか結果を出せないことに苦しんでいるに違いないのだ。
だから戸塚はここにいる。
2007年の東京都選手権。その優勝者でもある戸塚は、関東でマジックをしていた折、渡辺とは気の置けない間柄だった。
その渡辺が、助けを欲している。ならば友人として、応えないわけにはいかない。
トーナメントが始まったときには、そんなことは戸塚の中でただの背景に過ぎなかったかもしれない。
戸塚はただ、【大好きな《遺産のドルイド》を使いたかった】だけ。【モダンで強いエルフが組めた】から、どこまで行けるか試してみたかっただけだったのだろう。現に戸塚がモダンの大会に出るのはこれがまだ2回目とのことである。
だがそれでも戸塚は、【準々決勝】と【準決勝】ともにメイン戦を落としながらも決して集中を切らさず、逆境となったサイド後の2本をきっちり取り返してここまで勝ち上がってきた。
そのボルテージは、今や最高潮といっても過言ではない。
対戦相手、楊のデッキはアミュレットブルーム。自分より一段も二段も早いコンボである以上、エルフにとっては最悪の相手だ。
相性差は『3 : 7』……いや『2 : 8』というくらいに不利かもしれない。
それでも、戸塚には負けられない理由がある。
一方の楊にとっては、渡辺は「プロプレイヤー」という遠い存在だ。
自分がワールド・マジック・カップの日本代表になるかもしれない、ということについても、この決勝戦に至るまで全く実感がなかったことだろう。
だが、それは決して楊が代表にふさわしくないということを意味しない。
確かに楊には目立った実績はない。しかし、ことアミュレットブルームというデッキに関してならば、楊は1年以上もこのデッキを使い続けている達人なのだ。
そのことは楊のプレイ速度を見ていればわかる。土地を置く順番。「占術」の判断。残すマナの色と数。《原始のタイタン》でサーチする土地の種類。バウンスランドを置くか置かないか。
今できることとできないことを瞬時に把握しつつ、3ターン以上先の未来の盤面を予測しながらプレイするというのは、アミュレットブルーム使いに必須のスキルだ。そして楊はそれを備えている。きっと初めからできたわけではない。弛まぬ努力によって獲得したのだ。
その点において、楊は少なくとも1つ、渡辺との共通点がある。
目的のために全力で努力ができるというのは、それだけでも才能だからだ。
そんな楊にようやく巡ってきたチャンス。それがこのWMCQの決勝戦だ。代表うんぬんは、今この瞬間はどうでもいい。ただ証明したいのだ。己の存在を。楊というプレイヤーの生き様を。
だから、楊にはどうしても勝ちたい理由がある。
だが、どうあれ勝者は1人。そして敗者もまた1人なのだ。
戸塚と楊。
日本代表の座をかけた最後の戦いが、今始まった。
Game 1
後手ながら《宝石鉱山》、バウンスランド、《精力の護符》、《召喚士の契約》。《花盛りの夏》か《迷える探求者、梓》を引けばという手札をキープした楊のファーストドローは、《花盛りの夏》だった。
2ターン目に降臨し、速攻で攻撃する《原始のタイタン》。メインボードに除去がない戸塚には、抗う術がない。
それでも《エルフの神秘家》から《群れのシャーマン》と展開していた戸塚は、先手3ターン目を《遺産のドルイド》プレイで終えると、返しの《原始のタイタン》のアタックをスルーし残りライフを4点としつつも、第2メインの《トレイリア西部》の「変成」にスタックして《集合した中隊》をプレイ。《エルフの大ドルイド》《背教の主導者、エズーリ》を送り出す。
一方これをさすがに放置できない楊は《否定の契約》のつもりだった「変成」先の予定を変更、《殺戮の契約》で《背教の主導者、エズーリ》を処理せざるをえない。
そして先手4ターン目。戸塚のライフは4点。楊は18点。ターンを返せば2体目の《原始のタイタン》が走ってくるかもしれない。
ここしかない。
戸塚は《エルフの幻想家》《ラノワールのエルフ》《永遠の証人》と展開し、回収した《集合した中隊》を即プレイする。
手札には《召喚の調べ》があった。《群れのシャーマン》ともう1体何らかのエルフがめくれれば、《群れのシャーマン》のETB能力にスタックして《召喚の調べ》をプレイしてもう1体の《群れのシャーマン》をサーチすることで、9点×2でぴったり18点削りきることが可能だった。ライブラリの中に《群れのシャーマン》は残り3枚。だがこのシチュエーション。引くしかない。引ける!
6枚。
見た。
《群れのシャーマン》は、いなかった。
そして楊がプレイした2体目の《原始のタイタン》に速攻がつき。
戸塚は静かに「負けました」と宣言した。
戸塚 0-1 楊
Game 2
「15で」
そうライフを宣言した戸塚の初動は《思考囲い》。
《血清の幻視》
《仕組まれた爆薬》
《精力の護符》
《古きものの活性》
《森》
《軍の要塞、サンホーム》
《処刑者の要塞》
ここから《古きものの活性》を落とす戸塚。だが楊も《マナの合流点》を引き込んで《血清の幻視》を撃ち手札を整えると、続くターンには《花盛りの夏》から土地3枚を素置きし、《精力の護符》まで置いてトップデッキ待ちの状態にしてターンを返す。
対して3枚目の土地が引けない戸塚はそれでも《ドゥイネンの精鋭》を連打から《召喚の調べ》をプレイ。《再利用の賢者》を持ってきて《精力の護符》を叩き割ると、《仕組まれた爆薬》でクロックを捌かれつつも、《トレイリア西部》でサーチされた《召喚士の契約》を《永遠の証人》からの《思考囲い》でピンポイントで叩き落とし、楊のビッグアクションを許さない。
何も引くな!何も……
そんな戸塚の願いは、楊の前では無力だった。
楊 「引けばいいんだろ」
そう呟きながらドローしたカードは、《龍王アタルカ》!!
更地と化した戸塚の盤面。龍王本体は《殺戮の契約》で処理し、《集合した中隊》から再展開を図るが、楊はなおも《炎渦竜巻》で戸塚のエルフたちを薙ぎ払う。
だが戸塚もさるもの、《召喚の調べ》「X=2」から《エルフの幻想家》、さらに《遺産のドルイド》《ラノワールのエルフ》とつなげてみたびの再展開。
それでも2枚目の《炎渦竜巻》で薙ぎ払われたときには、戸塚もさすがに苦笑が漏れた。
やがて結末が訪れる。お互いの死力を尽くした消耗戦、その果てに降臨せしは。
楊の《原始のタイタン》!!
戸塚 0-2 楊
ワールド・マジック・カップ2015 東京予選、優勝は楊 塑予(東京)!日本代表おめでとう!!