瀬尾 「こういう舞台でプロプレイヤーの方とやるの、初めてなんですよ」
「スタンダード神」、瀬尾 健太。だが実績という点でいえば、瀬尾はむしろこれからが楽しみなプレイヤーだ。先日の【WMCQ2015東京予選】でも、6回戦まで6-0でトップ8まであと一歩というラインまで勝ち上がっていた。
高橋 「ちなみにプロツアーに出ようとかは、思わないんですか?」
瀬尾 「やっぱり出てみたいですね。この前晴れる屋のPPTQで【友達が抜けた】ので、僕も頑張ってPPTQをぜひ抜けたいと思ってます」
だからプロツアーに当たり前のように出場しているプロプレイヤー・高橋 優太から見れば、「神」とはいっても瀬尾は畏敬の対象には映らないかもしれない。
しかしそれでも、この場においては少なくとも「神」は瀬尾であり、挑戦者は高橋である。
【第2期神決定戦】で「神」・木原 惇希を倒し、【第3期神決定戦】で挑戦者・松田 幸雄をも退けたディフェンディングチャンピオンが瀬尾なのだ。
そんな瀬尾が、対戦が始まる前に高橋がいない場所でこう言っていた。
瀬尾 「今回の神決定戦、本当に楽しみだったんですよ。【前回】の挑戦者の松田さんにサイドボードの意見をもらったりして、しっかり準備してきたので」
そう、「神」にはこれまで戦ってきた対戦相手から受け継いだものがある。「神」として培ってきたものがある。
たとえ相手がプロであっても、負けるわけにはいかない。
そして負けるわけにいかないのは、高橋も同様である。
「プロ」とは強さと勝利の象徴であるべき存在だ。高い勝率とトロフィーを掲げる姿があってこそその姿は光り輝く。なればこそ、競技を生業にする「プロ」がそうでない者に負けるなどというのは、本来あってはならないのだ。
もちろんその「競技」が運の要素も絡むマジックである以上、絶対の勝利などというものはありえない。しかしそれでも高橋には勝って当然という、期待を超えた責任のようなものを背負うことになる。それが「プロ」の証であり、逃れられない宿命だ。
瀬尾、そして高橋。「神」と「プロ」、敗北の許されない2人の対決が、ついに始まった。
Game 1
ダイスロールで先手となった瀬尾が《華やかな宮殿》《疾病の神殿》と置いた返しで、高橋が《砂草原の城塞》から《思考囲い》をプレイ。
《悪魔の契約》
《英雄の破滅》
《棲み家の防御者》
の3枚のほかはスゥルタイカラーの土地という手札構成であり、この時点で瀬尾のデッキがアブザンをメタったスゥルタイカラーの《悪魔の契約》コントロールであることが発覚する。
一方、これを見た高橋は2枚目の《思考囲い》と合わせて瀬尾の手札のスペルを《英雄の破滅》のみにしつつ、続くターンには《死霧の猛禽》をプレイ。これにより瀬尾にとっても高橋のデッキがこのスタンダード環境で長く使い込んでいる「アブザン大変異」であることが明らかになる。
ここで返すターンに瀬尾も《思考囲い》を引き込むが、高橋の手札は、
《クルフィックスの狩猟者》
《棲み家の防御者》
《死霧の猛禽》
《英雄の破滅》
という濃厚なラインナップ。ここから《棲み家の防御者》を抜くものの、戦線に《クルフィックスの狩猟者》が追加されると、土地はめくれないものの盤面の5点クロックが厳しい。しかも解決策を求めて5マナフルタップで《宝船の巡航》を撃つが、5点アタックの後に2体目の《死霧の猛禽》を追加されてしまう。
それでも瀬尾が《サテュロスの道探し》をプレイすると、《精霊龍の安息地》と《精霊龍、ウギン》が墓地に落ち、《精霊龍、ウギン》による逆転の可能性が見えてくる。とはいえフルアタックは《クルフィックスの狩猟者》への《英雄の破滅》とチャンプブロックでどうにか凌ぎ、残りライフは7点、場には《クルフィックスの狩猟者》のおかわりが追加されて依然として8点クロックと、厳しい状況。
頼む、あと1ターン。藁にもすがる思いで瀬尾は、《分散》を構えつつ《棲み家の防御者》を「変異」で送り出し、《死霧の猛禽》《死霧の猛禽》《クルフィックスの狩猟者》の3体アタックに対して、《死霧の猛禽》の1体をブロック。そして《分散》を撃たずにダメージを解決、ライフを2とする。
アブザン相手にライフを3以下にするのは極めて危険な行為だ。何せあの悪名高い《包囲サイ》がある。しかし瀬尾は恐れなかった。
なぜなら高橋のドローは、瀬尾の《思考囲い》直後のワンドローを除いて《クルフィックスの狩猟者》ですべて見えているからだ。
しかも仮に高橋が《包囲サイ》を持っていると仮定した場合、《分散》を使ってライフを守ろうとしても、その後に高橋が公開情報の《アブザンの魔除け》を「+1/+1カウンターを2個」で攻撃の通った《クルフィックスの狩猟者》に撃てばいずれにせよライフは3となり、次のターンには負けてしまう。
だから瀬尾は《包囲サイ》の可能性だけは排除した。何をしても負けるドローは、考慮しても仕方がない。それに繰り返しになるが、高橋が《包囲サイ》を引けたチャンスはたった一度しかないのだ。
引いていない可能性に、瀬尾は賭けた。高橋が《包囲サイ》を引いていなければ、まだゲームになる。そう信じて。
だが高橋は、その一度だけのチャンスをモノにしていた。
ライフ2の瀬尾に対して高橋が第2メインにプレイしたのは、まさにその《包囲サイ》!
瀬尾 0-1 高橋
スタンダードにおける「アブザン」には、3マナ域の生物の選択によって区別される、3種類のアーキタイプがある。
《先頭に立つもの、アナフェンザ》の打撃力を生かすコンセプトにした「アブザンアグロ」。《クルフィックスの狩猟者》でアドバンテージの獲得を主眼に置く「アブザンコントロール」。
最後に高橋が選択した、《死霧の猛禽》をフィーチャーした「アブザン大変異」の3つだ。
そして「アブザン大変異」というデッキは、瀬尾が読んだ「アブザン」というカラーコンビネーションの中でも最もコントロールに対して強い。3ターン目に出てくる《死霧の猛禽》は、《アブザンの魔除け》のような追放除去でもない限りいつかは墓地から0マナで戻ってくるため、普通の除去ではテンポをとることができないカードだからだ。
無論瀬尾とてそれくらいは承知の上でデッキを構築している。だからこそのメイン《悪夢の織り手、アショク》3枚だ。だが少なくとも相性差という意味では、瀬尾の想定からは微妙にズレた対戦となっていた。
Game 2
土地が2枚だが「占術」土地がなく、《宝船の巡航》《衰滅》と重いカードに溢れた手札をマリガンせざるをえない瀬尾。だが続く6枚にも《ヤヴィマヤの沿岸》1枚しか土地がなく、《サテュロスの道探し》とバンクーバー・マリガンの「占術」を加味したとしても厳しいと判断したか、ダブルマリガンとなってしまう。
5枚となった瀬尾の手札は、またしても土地が1枚しかないが、《サテュロスの道探し》と《悪夢の織り手、アショク》があるというものだった。
しかしそこに容赦なく高橋の《思考囲い》が突き刺さる。
《悪夢の織り手、アショク》
《危険な櫃》
《悪魔の契約》
《サテュロスの道探し》
それでもここから《サテュロスの道探し》が落とされた返しで《華やかな宮殿》をトップした瀬尾は、続くドローで《サテュロスの道探し》をも引き込み、土地事故を解消する。
一方瀬尾に立て続けに土地を引き込まれて目論見が外れた格好となった高橋は、慎重にプランを練ると「変異」をプレイ。さらに4枚目の土地を引いた瀬尾が《危険な櫃》から《悪魔の契約》と立て続けに設置するのに対し、「変異」と《サテュロスの道探し》でアタックすると、《サテュロスの道探し》で相打ちブロックをされたところで《ドロモカの命令》!
これによりテンポとカード枚数の両面で大きく得をした高橋。対して瀬尾は「変異」と「+1/+1カウンター」の載った《サテュロスの道探し》に殴られており、《悪夢の織り手、アショク》を出しても《濃霧》にしかならないため、やむなく《スゥルタイの魔除け》をドローモードで打って《悪夢の織り手、アショク》をディスカードしつつ回答を探しにいく。
だが引き込んだ《精霊龍、ウギン》は《棲み家の防御者》で回収された高橋の《思考囲い》で叩き落とされてしまい、頼みの綱は盤面の《危険な櫃》のみ。《棲み家の防御者》を《胆汁病》して少しでも起動しなくてもいいターンを延ばそうとするが、さらなる「変異」を追加されると、さすがに起動せざるをえない。
とはいえ、これまでの攻防で高橋はほとんど手札を使っていないのだ。すぐさま《サテュロスの道探し》と「変異」が追加でプレイされると、ライフ8の瀬尾に残された時間は少ない。
どうにか《サテュロスの道探し》プレイから《精霊龍の安息地》を構え、次のターンのドローがアンタップインの土地なら《精霊龍、ウギン》で逆転か、という状況に持ち込んだ瀬尾だったが。
高橋が冷静に《英雄の破滅》を《サテュロスの道探し》に打ちこみ、3点アタック後にさらに「変異」をプレイすると、仮に瀬尾が《精霊龍、ウギン》を回収→プレイしたとしても「-X」能力は2体の「変異」の前では役に立たないし、「+2」能力を「変異」に打ちこんだとしても「変異」のうち1体は《棲み家の防御者》で墓地の《包囲サイ》を回収できるので、盤面は完全に詰んでしまっていたのだった。
瀬尾 0-2 高橋
瀬尾 「くそー、引きが芳しくない……」
いきなり追い込まれた「神」。己の不運を嘆く瀬尾に対して、高橋は不敵な笑みを浮かべつつ何も語らない。
マジックに土地事故は付きものであって、むしろそのような状況に置かれても冷静・的確に判断できることこそが重要なのだと、プロプレイヤーである高橋にはわかっているからだ。
Game 3
もはや負けられないゲームとなった3戦目もマリガンスタートになると、瀬尾の口からは「どうやらそういう日らしい……」と弱気な発言が漏れる。
だが血気に逸った高橋がこちらもマリガンながら2ターン目に《棲み家の防御者》を表向きでプレイすると、これを《胆汁病》で処理した瀬尾は続けて《死霧の猛禽》も《スゥルタイの魔除け》で破壊。
さらに4マナしかないものの《棲み家の防御者》を「変異」でプレイし、除去を持っていなかった高橋が代わりにプレイした《包囲サイ》は《英雄の破滅》で排除。《棲み家の防御者》のフェイスアップマナを構えるという好調な展開。
高橋もここで《思考囲い》を引き込んで瀬尾の《時を越えた探索》を落とすものの、《棲み家の防御者》に拾われるだけに終わる。逆に瀬尾に《思考囲い》を打ちこまれると、唯一のスペルであった《ドロモカの命令》も落とされ、もはやドローしたカードをそのままプレイするだけの状態になってしまう。
一方瀬尾はこれまでの鬱憤を晴らすかのように《時を越えた探索》から《宝船の巡航》へとつなげると、満を持して《悪夢の織り手、アショク》を降臨させる。
もはや抵抗する術を持たない高橋は、「負けました」と宣言しカードを片付けた。
瀬尾 1-2 高橋
瀬尾 「3タテだけは防いだ……」
【強い「神」になりたい】と語った瀬尾。そのためにも、この戦いには負けられない。だが、ここから瀬尾が勝つにはまだ2ゲーム連取する必要があるのだ。
しかも高橋の側に油断の色は見えない。長年プロツアーに出場し、今でも【プロツアー優勝を目標に戦い続ける】高橋だけに、きっとこの「神決定戦」を「これはプロツアーの決勝戦」と思って戦っていることだろう。
なぜなら、公式戦で「3本先取」を採用しているのは今やプロツアーの決勝戦くらいのものだからだ。
いつか自分が個人戦では初めての、プロツアー決勝の舞台に立ったときのために。
高橋は「神」の座に手を伸ばす。
Game 4
またしてもお互いマリガンスタートとなり、バンクーバー・マリガンによる互いの「占術」でゲームの幕が上がる。
《砂草原の城塞》スタートの高橋に対し、瀬尾の《思考囲い》で明らかになった高橋のキープハンドは、
《森》
《サテュロスの道探し》
《クルフィックスの狩猟者》
《棲み家の防御者》
《アブザンの魔除け》
という、6枚にしてはベストに近いもの。
ここから《サテュロスの道探し》を抜いた瀬尾だが、返しに高橋が引き込んだ《思考囲い》で、《思考囲い》《宝船の巡航》に土地が3枚という手札から頼みの《宝船の巡航》を落とされてしまう。2枚目の《思考囲い》で《棲み家の防御者》は落とすものの、手札内容の差は歴然だ。
だが高橋が《サテュロスの道探し》を引き込んで3枚目の土地にアクセスした返しのターン、瀬尾がトップデッキしたのは《悪夢の織り手、アショク》!
しかも「+2」能力で追放されたのが《クルフィックスの狩猟者》と《包囲サイ》。《サテュロスの道探し》の1点アタックだけでは《悪夢の織り手、アショク》を維持されたまま《クルフィックスの狩猟者》を「-X」能力で出されてしまう。
決断を迫られた高橋は、除去による裏目を承知の上で意を決して《アブザンの魔除け》を《サテュロスの道探し》にプレイし、最速で忠誠値を削りにいく。
はたして瀬尾の手札に除去は……
なかった!
《サテュロスの道探し》をプレイしてチャンプブロック、忠誠値4の《悪夢の織り手、アショク》を守りにいく瀬尾だが、高橋に《クルフィックスの狩猟者》を戦線に追加され、しかもライブラリトップには《ドロモカの命令》が見えている。
1ターン前と打って変わって、もはや「-X」能力で《クルフィックスの狩猟者》を出しても大損させられることが確定している状況だ。
やむなく《スゥルタイの魔除け》で《クルフィックスの狩猟者》をメインで除去しつつ、「-4」で《悪夢の織り手、アショク》を使い切って《包囲サイ》を自陣に呼び出す瀬尾。
だが、それこそが高橋の待ち望んでいた行動だった。
《悪夢の織り手、アショク》を犠牲にしてまで降臨させた《包囲サイ》。その瀬尾の最後の頼みの綱を前に高橋がプレイしたのは、《黄金牙、タシグル》!
すぐさま《ドロモカの命令》をもプレイし、「+1/+1カウンター」と「格闘」で瀬尾の《包囲サイ》を突破した高橋は、3/3の《サテュロスの道探し》と合わせての8点クロックで速やかにライフを詰めにかかり。
やがて「神」瀬尾は、土地ばかりの手札を公開しつつ手を差し出した。
瀬尾 1-3 高橋
高橋とてミスはする。3ゲーム目、先手3ターン目《悪夢の織り手、アショク》を恐れるあまり後手2ターン目に《棲み家の防御者》をプレイしてしまったことはミスだったと述べている。
だが高橋の強さはその学習能力にこそある。幾多のミス、幾多の敗北から学び、その都度同じミスをするなと心の内で叱咤しながら己を高みへと導いてきた。それゆえに今の高橋がある。
そしてそんな高橋だからこそ、この「神決定戦」でも勝利できたのだろう。
【強いプレイヤーと戦うと大きく成長できる】と言っていた高橋のことだから、今回の瀬尾との対戦でまた一回り大きく成長したに違いない。第5期以降の挑戦者には気の毒だが、高橋は戦闘民族サイヤ人なので、戦えば戦うほど強くなる。
しかも「神」になっても高橋の挑戦はまだまだ続く。次の神決定戦までにはもしかしたら、「プロツアー優勝」が戦績に加わっているかもしれない。そんな恐ろしい男が、このタイトルを手にしてしまったのだ。
高橋の成長は、止まらない。
第4期スタンダード神決定戦、勝者は高橋 優太(東京)!
「スタンダード神」就任おめでとう!!