Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2018/10/20)
はじめに
みなさんどうも。Hareruya Prosに仲間入りできたことをとても嬉しく思います。もしかしたらみなさんのなかには、僕のことを既に知っている人もいるかもしれないですね。おそらくMagic OnlineやTwitchの配信で知っていただけたのでしょう。
配信をしていると質問をいただくことが多々あるのですが、そのなかでもみなさんと共有したいものがありますので、今回はそれをご紹介します。僕自身も昔に悩んだことです。それは「相手に対応するカード」をサイドボードから入れたがるプレイヤーが多いということです。そういったやり方がさも当然のようになってしまっていることも少なくありません。たとえば、対戦相手が《帰化》の効果の対象になるカードを入れていたから、《帰化》の効果を持つカードをサイドインしよう、というのが典型的な例ですね。
サイドボードをどういったものとして見るかですが、一番シンプルなのは「優秀ではあるけれども、役割が限られているカードの束」という見方です。こういった見方があるからこそ「えっと、この相手に対してサイドインするカードはわかるんだけど、何を抜けばいいのかわからない」なんていうセリフを耳にしますし、もしかしたらみなさんも言っているのかもしれないですね。そうですね、この考え方自体が完全に的外れだというわけではないのですが、氷山の一角にすぎないのです。
そこで今回は「勝率をできるだけ高めたいのであれば、こういった表面的なレベルでのサイドボーディングが最善ではない可能性がある」という理由を精一杯ご説明していきたいと思います。こういった表面的なサイドボーディングの問題は、ローテーションをしないフォーマットで起こりやすく、焦点になりやすい問題であると思います。そのようなフォーマットでは、アーキタイプは研究され、リストは洗練されていき、プレイヤーも自身のしっかりとしたプランを育む時間だってあるのです。モダンは僕の庭なので、本日はモダンを例にご説明しましょう。
機会費用の重要性
最初にご説明する鉄則は「サイドボード後でも60枚のデッキにまとまりをもたせ、デッキ全体としてしっかりとした戦術を維持したままにしておくこと」です。
マジックで上達したいのであれば、忘れてはいけない重要な概念があります。それは機会費用です。デッキに何らかのカードを入れた場合、「そのカードを入れていなければ入っていたカードがある」という意味で必ず機会費用が発生します。少しややこしい言い方だったかもしれませんね。一般的なデッキ構築というマクロの視点ではなく、ゲーム中のサイドボーディングという視点で考えてみると、もっと理解しやすくなると思います。
すると、サイドボーディングとはなんなのかが見えてきます。サイドボーディングとは、デッキ構築なのです。ただカードプールが非常に狭く、相手が何を使っているのかがわかるという点が通常のデッキ構築と違うだけなのです。つまるところ、サイドボードのカードを入れるたび、メインデッキに入らなかったカードが出てくるため、機会費用が生じるのです。もちろん、この考え方は難解なパズルを解こうとするようなものではあります。しかし、過去の経験やその経験からの学びを活かせばこのパズルも解けるのです。
たとえば、席に着き、モダンの2本目のゲームに向けて準備をしているとしましょう。サイドインするカードの選択肢を思い浮かべ、答えを出す場面です。「《虚ろな者》に対処するために《再利用の賢者》を入れようか?」「《むかつき》デッキに対して《神聖の力線》を入れる価値はあるだろうか?」「青赤ストームに対して墓地対策のカードをたくさん入れるべきだろうか?」「この相手に対して《集団的蛮行》が1:1交換はできるのは間違いないけど、「増呪」しても効果的でないなら、本当にサイドインする価値はあるんだろうか?」
そうですね、いろいろと例をあげてみましたが、答えは「状況による」としかいえません。
マジックのゲームで勝てるかどうかは「有効牌の数」にかかっていると言っても過言ではありません。ゲームを振り返ってみればわかると思いますが、結局は不要牌を多く抱えた方が敗者になるのです。相手よりも有効牌を増やす方法としては、一方的に押し切ってしまう、相手の有利になるようなカードの使わせ方はさせない、1:1交換を繰り返す、文字通り2:1交換を繰り返す、勝負が決するまで相手に効果的にカードを使わせないなどが考えられます。
少しおおざっぱで漠然としているお話だったかもしれませんが、ここで僕が言いたいことは「負けるまでに使えなかったカードはマリガンしているのと同じであり、相手よりも少ないリソースで戦っていることになっている」ということなのです。したがって、役割が狭く、受動的なカードは必然的に機会費用が大きくなる傾向にあります。
少なくとも、マナさえあれば《溶岩の撃ち込み》は唱えられますし、クリーチャーだって唱えられるので腐ることありません。他方、「相手に対応するカード」は手札で腐る可能性があるのです。ここまでの話をまとめると、「間違った脅威というものは存在しないが、間違った対応は存在する」というマジックの世界で古くから言われているフレーズに行きつきます。
直線的なデッキを例に “機会費用” をひも解く
少々わかりづらい言い方になってしまいましたが、「サイドボード後でも60枚のデッキにまとまりをもたせ、デッキ全体としてしっかりとした戦術を維持したままにしておくこと」が大切なのです。戦術が明確で、自分のやりたいことを押し通すデッキを考えてみればわかりやすいと思いますが、サイドボードからカードを入れる機会費用が大きいことは目に見えて明らかです。たとえば、バーンデッキから《裂け目の稲妻》を抜くたびに、カード1枚当たりのダメージ期待値は下がっていきます。同様に、《クラーク族の鉄工所》デッキ (KCI) から《テラリオン》を抜くたびに、コンボを始動したターンに勝てる確率は下がっていきます。
このような直線的なデッキが過剰にサイドボーディングすべきではないという事実は広く知られていますが、その根拠は「メインのゲームプランに役立たないカードは、相手が格好の的を用意してくれない限り、マリガンしていることと同じ」なのです。ですから、「相手に対応するカード」はなんとかしてうまく使えない限り、実質的に腐っているカードなのだと考えておくとよいでしょう。
除去やカウンターなどは役割が狭く、使い切りの「相手に対応するカード」であり、このリスクをもっとも抱えやすい傾向にあります。同時に、プレイヤーたちが最も惹かれやすいタイプのカードでもあります。「相手に対応するカード」たちを抜群のタイミングで引き、相手を打ち負かす。そんな場面を想像してしまいがちです。しかし実際には、そのサイドカードは本当に効果的か・効率的か・他のカードで代用が効かないか・そのマッチアップでの典型的な展開は何なのかといったことを考えることの方が重要なのです。
参考デッキリスト:KCI
1 《島》
4 《燃え柳の木立ち》
3 《ヤヴィマヤの沿岸》
4 《ダークスティールの城塞》
2 《埋没した廃墟》
2 《発明博覧会》
-土地 (18)- 1 《マイアの回収者》
4 《屑鉄さらい》
-クリーチャー (5)-
4 《オパールのモックス》
3 《仕組まれた爆薬》
1 《ミシュラのガラクタ》
4 《テラリオン》
4 《彩色の星》
3 《彩色の宝球》
1 《黄鉄の呪文爆弾》
4 《精神石》
4 《胆液の水源》
4 《クラーク族の鉄工所》
1 《イシュ・サーの背骨》
-呪文 (37)-
少し話が抽象的になってしまったので、よくある場面を例にあげてみましょう。配信で僕が《クラーク族の鉄工所》デッキを使っていて、赤黒《虚ろな者》デッキとあたったときのことです。リストを見ていただければわかると思いますが、私のデッキには《感電波》が1枚だけ入っています (《稲妻》だけにしてしまうと《翻弄する魔道士》に対して弱くなってしまうので、小さな機会費用でリスクを軽減できます)。そして、配信中に何度も聞かれ続け、この記事を書く理由のひとつにもなったのが「《虚ろな者》を除去するために《感電波》を入れないのか?」という意見です。
《虚ろな者》デッキに対して私が主に使っているプランは、《仕組まれた爆薬》をすべて抜き、《精神石》・《テラリオン》を数枚ずつ抜いて、《虚空の力線》を貼られても戦えるように《自然の要求》と《練達飛行機械職人、サイ》を入れるというものです。ここでの《感電波》は、まさに表面上は効果的に見えるサイドボーディングで、実際には役に立たないカードを入れてしまうという完璧な一例です。
というのも、《虚ろな者》はもともとサイドボードから投入する予定であった《自然の要求》で副次的に対処できますし、《感電波》では結局「探査」クリーチャーに対応できないままです。役割が被る除去を増やすことは、デッキのコンボパーツを抜く機会費用を負ってまでやることではありませんし、サイドボードのカードを手札に抱えたまま負ける典型的なパターンに陥る可能性があります。
繰り返しになりますが、サイドボーディングというのは、相手がシャッフルするためのカードの束をつくることではなく、一貫性のある戦術をもったデッキをつくることなのです。「相手が使ってくるあらゆるカード1枚1枚に対応することは理論上できる」という考えにとらわれてはいけません。「サイドボード後も、使われたら厳しいカードに触れるようにしておく、あるいは触れる手段を増やす『必要』がある。そうじゃないと、実際にそのカードを使われたらどうしようもなくなるから。」という意見をよく耳にします。
これは無力感をできるだけ避けたいという恐れからくるものです。忘れないでいただきたいのは、マジックの大会において勝ち点はマッチの勝利に対して与えられるものだということです。相手に完璧なドローされたうえで勝っても、勝ち点3は勝ち点3なのです。ボコボコにされようが、最後のターンまで戦おうが、負けは勝ち点0なのです。
ブリッジヴァインが《安らかなる眠り》を貼られたらほぼ負けというのは事実でしょう。しかし、すでに貼られた《安らかなる眠り》を対処できたとしても勝率は悲惨なままである可能性も十分考えられます。腐る可能性のある「相手に対応するカード」を入れることでデッキのまとまりがなくなってしまうようなことは避け、「使われたら厳しいカード」を使われなかったゲームや、なんとかそういったカードをかいくぐったゲームでしっかりと勝ち点3をとりましょう。勝率を最大限高めるためには、無力感を避けたい気持ちは捨て、大事なのは勝つことなのだと認識しましょう。
この考えを突き詰めていくと「リスクを抑えたいなら、何もしないこと」になり、これが正しいということは往々にしてあります。正確に計算したわけではないですが、《仕組まれた爆薬》や《集団的蛮行》、《外科的摘出》といった幅広く使えるカードですら過剰に入れてしまうと、確かに2割ぐらいのゲームではうまいやり方になると思いますが、もともとその枠に入っていたシナジーのあるカードが抜けてしまったことで、残りの8割のゲームでは勝率の期待値を下げてしまうと思います。
特定の相手専用の対策カード
「相手に対応するカード」にはもうひとつ上の次元のものがあります。「特定の相手専用の対策カード」です。ここまでの説明を踏まえれば、あまり説明する必要はない部分だと思いますが、少しだけご説明しましょう。「特定の相手専用の対策カード」とは、たとえば《石のような静寂》・《虚空の力線》・《弁論の幻霊》・《ガドック・ティーグ》といったカードを指します。役割も比較的わかりやすく、かつ強力なのですが、「相手を苦しめるためだけ」に使ってしまっているプレイヤーが時折いるのです。確かに、コンボデッキのフィニッシャーを封じることで、コンボパーツを腐らせ、完全シャットアウトする展開はとても魅力的に思えてしまう人も多いでしょう。
この「愉悦に浸る」作戦は、1本目のゲームであれば多少有効なのですが、非常に限定的ですし、サイドボード後には全くと言っていいほど機能しなくなります。たとえば《むかつき》デッキの《稲妻の嵐》対策に《真髄の針》を入れる、《クラーク族の鉄工所》の《黄鉄の呪文爆弾》対策に《神聖の力線》を入れるといった例を考えてみましょう。そうするとあなたはカードを1枚消費し、マナを支払うことになりますが、相手はそのカードに対策できるものをデッキに入れているので、完全にシャットアウトすることは結局できないのです。
こういった事情があるので、コンボデッキにはバウンス呪文であったり、除去呪文が入っていることが普通なのです。「特定の相手専用の対策カード」で勝とうとするプレイヤーは、それを引いたうえでプレイする必要があるのに対し、コンボデッキ側は勝つために必ずしもバウンス呪文や除去呪文を引く必要はないのです。コンボデッキ側はバウンス呪文や除去呪文を入れても、たったの数%の機会費用を払うだけで、シャットアウトしてくるカードを毎回無効化できる有利な立場にあるのです。要するに、コンボデッキを相手にするときは「エンジン」を狙うのです。仮にエンジンでなくフィニッシャーを狙うとしても、しっかりとした根拠をもつべきです。
まとめ
「相手に対応するカード」を入れようとするなら、そうする理由が単なる恐怖からではないのか、思考停止で入れていないかを考えてください。そして「このカードをデッキに入れることで本当に勝率は上がるだろうか」と必ず自分に問うのです。「特定の相手専用の対策カードを入れるために、そのマッチアップでは役立たずのクリーチャーやシナジーをもつカードをデッキから抜いた場合、相手の展開を妨害するよりも実は自分のデッキへの影響の方が大きくないだろうか」と問うのです。
答えが必ずしもはっきりと出るわけではありません。特に最初のうちはそうだと思います。答えが出せるようになるには、経験を重ねること・考えつづけることが必要になるのです。決して自分に問うことをやめてはいけません。自分の行動に意図を持たせるようにしましょう。
ご理解いただけたでしょうか。モダンを愛するプレイヤーとしては、ぜひ理解していただきたい部分です。こんな不満をいつも耳にします。「モダンは相手との当たり運が強くて、サイドボードの枠が足りない」。気をつけてくださいね、サイドボードを過剰にしないことがポイントです。
それではまた次回。