ワタナベガタリ:青単信心

晴れる屋

By Daisuke Kawasaki

 本戦、グランプリ・静岡のフォーマットであり、また、現在サイドイベントであるスーパーサンデーシリーズでも行われているフォーマットであるスタンダード。

 様々なデッキが登場しては消えていくこの環境を「ジャパニーズ・ジャガーノート」渡辺 雄也(神奈川)に語ってもらうという趣旨のこの企画。なお、語ってもらうのはTier 1として選んでもらった以下の4つのデッキだ。

・黒単信心
・青単信心(当記事)
・赤単信心タッチ白
・青白系コントロール

 続いては、プロツアー「テーロス」優勝の青単信心について語ってもらおう。

 なお、記事中に登場するデッキリストに関しては、特に記載がない限りはhappymtg内デッキサーチから選出したものであり、渡辺自身のテストプレイなどとは無関係であることにご留意いただきたい。


■青単信心とはどんなデッキか?



「青単サンプルデッキ」
20 《島》
4 《変わり谷》
1 《ニクスの祭殿、ニクソス》

-土地(25)-

4 《雲ヒレの猛禽》
4 《審判官の使い魔》
4 《凍結燃焼の奇魔》
4 《潮縛りの魔道士》
4 《海の神、タッサ》
4 《夜帷の死霊》
4 《波使い》

-クリーチャー(28)-
2 《急速混成》
1 《サイクロンの裂け目》
2 《タッサの二叉槍》
1 《家畜化》
1 《思考を築く者、ジェイス》

-呪文(7)-
4 《反論》
2 《霊異種》
2 《サイクロンの裂け目》
2 《否認》
2 《家畜化》
1 《急速混成》
1 《タッサの二叉槍》
1 《思考を築く者、ジェイス》

-サイドボード(15)-
hareruya




川崎 「さて、続いてはプロツアーを優勝した青単信心ですね」

渡辺 「青単はデッキレシピが安定しているというか、大きな変化が無いですね。プロツアーの時点で大体完成したデッキではあったので」

川崎 「逆に言えば、プロツアー後の青単信心のレシピの変化を見ていけば、青単をとりまくメタゲームの様子が見えてきそうですね」

家畜化



川崎 「プロツアー後で大きく変わったカードと言うと……《家畜化》の採用ですかね?」

渡辺 「そうですね。プロツアー時にはほとんど採用されていないカードだったと思いますので。最近ではメインでも1~2枚入っていることも多いですね。メインとサイドあわせて3枚っていうのが基本的な構成だと思います」

波使い夜帷の死霊



川崎 「これって、同型相手に《波使い》《夜帷の死霊》を奪いに行くために採用されているという認識でいいんですか?」

渡辺 「そうですが、《夜帷の死霊》はマッチ的に不利な黒単でもメインのカードですからね。黒単相手に効きつつ、同型でも強いカードではあります」

川崎 「なるほど。黒単には不利なんですね」

渡辺 「黒単は、青単信心をかなり意識してカード選択をしていますからね。軽い除去などで信心を貯めることができないと苦しい部分はあると思います」

霊異種



川崎 「あとは……プロツアーでも採用されていたカードですが、《霊異種》の重要性は増しているように感じますね」

渡辺 「そうですね。あの頃に比べると青白系コントロールがメタゲームに増えているので。ただでさえ不利なマッチアップである青白系相手に勝てる可能性を作れる《霊異種》は必ず、は言い過ぎかもしれませんが、ぜひともサイドに用意したいカードではあります」

川崎 「やはり、これは青白系相手に使うカードって認識でいいんですよね?やはり、青単信心は青白系相手は厳しいですか」

渡辺 「結局、信心系のデッキはラス(《至高の評決》)に弱いので、相性は悪いですよね。《至高の評決》などでさばかれる前提として、その後の攻防でなんとか着地させれば勝てる可能性があるカードはサイドに用意したいところです」

記憶の熟達者、ジェイス



川崎 「カードの役割などを考えると、《記憶の熟達者、ジェイス》あたりを採用するレシピもありますよね。このへんの使い分けに関してはどうでしょうか?」

渡辺 「僕は《霊異種》を使うほうが基本的にはいいと思いますね。結局、この枠に求められているのはさっき言ったようにゲームに勝ち切る力なので。《記憶の熟達者、ジェイス》は確かに青白系コントロールなんかに対して単体のカードとしては有効なんですけど、ゲームに勝ち切る力でみれば、《霊異種》には負けると思います」

川崎 「それは対処されやすさ、という意味ですか?」

渡辺《拘留の宝球》されるかされないか、ってだけでも違いますよね。ワンチャンスにかけて通したカードが返しの《拘留の宝球》されてしまうのは、ゲームに勝つという意味では苦しいんじゃないですかね」

川崎 「他にも通して勝てるカードの手数があるのならば《記憶の熟達者、ジェイス》の選択肢もあるかもしれないですが、基本的な構成の青単信心の場合は、そこまで通して勝てるカードに枠を取れないので、決定力が高いカードを採用するべきってことですね」

渡辺 「あと、現在のメタだと勝てるシチュエーション自体が《霊異種》の方が多いです。自分が主導権をとっている時で言えば、そこまで《記憶の熟達者、ジェイス》《霊異種》に差異がないとしても、逆に相手が《ヴィズコーパの血男爵》《テューンの大天使》あたりを着地させた返しの回答、って考えると、これは《霊異種》でなければ巻き返せないですからね」

川崎 「あぁ、なるほど。別に常に自分が主導権をとれているとは限りませんもんね。話を聞いていると、青単信心は黒単と青白コントロールには厳しいとのことですが、赤単タッチ白はどうですか?」

渡辺 「赤単タッチ白には、《岩への繋ぎ止め》があるとはいえ、《波使い》を考えると有利ではありますけど、圧倒的有利とは言い切れないんじゃないですかね」

川崎 「なるほど……Tier 1全体に厳しいのはつらそうですね……」

渡辺 「逆です。青単信心に対して有利がつくからTier 1になれてるんです。Tier 1以外のほとんどのデッキに対しては青単信心はかなり有利なわけです」

川崎 「あぁ、なるほど」


■青単信心を使うメリット・デメリット

川崎 「それじゃあ、青単信心を使用するメリットとデメリットも、Tier 1に対しては厳しいけど、Tier 2以下には有利、って感じですかね?」

渡辺 「極論そうですが。トップメタ以外に強いってのもあるんですけど、青単信心最大のメリットはブン回りが強いってところじゃないでしょうか?」

川崎 「ブン回り、ですか」

渡辺 「これは、黒単の《思考囲い》からの《群れネズミ》にも言えることではあるんですけど。デッキ相性をものともしない、どうやっても返せないようなブン回りのパターンがあるのは、最大のメリットじゃないでしょうかね」

川崎 「なるほど。やはり、《波使い》ですか」

渡辺《波使い》は触れなければゲーム終わっちゃいますからね、やはり。あと、《海の神、タッサ》《タッサの二叉槍》などの後押しもあってデッキ全体の動きが安定しているのも魅力なんじゃないですかね」

川崎 「ブン回りがあって、安定しているって、考えてみると凄いデッキですよね」

渡辺 「少なくとも環境初期だったら最強クラスでしょうね。ただ、これはこのデッキを選ぶ最大のデメリットだとは思うんですけど、初期の最強クラスでありプロツアーでも優勝しちゃっているせいで、仮想敵として標的にされすぎているっていうのがありますね」

川崎 「そもそも、環境トップ4つのうち、黒系と青白と2つが仮想敵にしたことでのし上がってきているわけですもんね」

霧裂きのハイドラ空殴り



渡辺 「その辺のデッキはある程度しかたないとして、本来圧倒的に有利なはずのTier 2以下でも、《霧裂きのハイドラ》《空殴り》みたいなキラーカードがあって、うっかり負けてしまうことがあるのはリスクが大きいですよね」

川崎 「Tier 2以下は緑を使ったデッキも多いですしね。青単信心だと、やはり《霧裂きのハイドラ》は苦しいですか……」

渡辺 「そうとうエグいです」

 プロツアーを制し、栄光を勝ち取ったからこその、ガンメタ。

 とは言え、それ自体は青の持つ信心の力の証左でもある。環境を制するのは、対策に引っからないような構築をした青系信心の可能性も十二分にあるだろう。